30 / 38
第30話
しおりを挟む
夜、やや遅い時間。
エレーヌ、ジョアンヌ、トリベールの三人は宿泊する宿屋からさほど遠くない盛り場にやって来た。ここも失業者たちがいる一帯とは別の区域。昼間のノーリモージュの街とは違う雰囲気の世界が目の前に広がる。
窓から明るい光や、通りに設置されている松明が煌々と輝き、酔っ払いたちの騒がしい声が通りまで聞こえる。
何人もの酔っ払いが建物の前で座り込んで、陽気に話をしていた。
三人は、通りでも目に付く比較的大き目の酒場にやって来た。
跳ね扉を開けて中に入る。すると、店の中に一瞬静寂が訪れ、他の男性客の視線が一斉に向けられた。
こんな店に若い女性が来るのは、さすがにかなり目立つようだ。
三人の中で唯一の男性のトリベールは心配そうに言う。
「さすがに女は目立ちますね…、店を出ますか?」
「いや、構わない」
エレーヌはそう言って悠々と店の中に入って行く。
「そうだな、問題ない」
ジョアンヌも大股でエレーヌの後に続く。
そして、トリベールは少し縮こまるように背中を丸めて、二人の後に続いた。
丁度、空いてるテーブルがあったので、そこに座った。
太った中年のウエイトレスがやって来たので注文を頼む。
「食べ物と酒を適当に持ってきてくれ」
ジョアンヌが言う。
「あんたたち、見かけない顔だね…、いや、あんたは見たことあるわ…」
そう言ってウエイトレスはジョアンヌの顔をまじまじと見た。
「ひょっとして、血のジョアンヌかい?」
「そうだ」
ジョアンヌは答えた。
「ええー! あんたに会えるなんて、今日はついてるよ!」
ウエイトレスはそう言って、豪快に笑った。ジョアンヌは尋ねる。
「なぜ私の顔を知っている?」
「戦争が終わったとき、一度この街に来てただろ? あんたの顔を見たくて、駐屯地まで行ったんだよ!」
戦争が休戦になった時、最前線の兵士の大半は、この街にある軍の駐屯地に戻ってきたのだ。そして、ジョアンヌのような臨時に徴兵された者たちは、その場で除隊となった。
ジョアンヌの武勇伝は新聞で有名になっていて、その名はレスクリム王国中に響いていたので、兵士たちが街に戻って来た時、ジョアンヌのことを見ようとした野次馬が結構集まって来ていたのだ。
その野次馬の中にこのウエイトレスも居た、ということのようだ。
ジョアンヌとウエイトレスの会話を聞いていた他の客もジョアンヌたちの座るテーブルに取り囲むように集まって来た。
「あんたがジョアンヌかい?!」
「敵を五十人も斬ったって本当か?!」
「武勇伝を聞かせてくれ!」
「よかったら、酒をおごらせてくれよ!」
男どもは次々と話しかけて来る。
しばらくはジョアンヌは質問に答えていたが、急に立ち上がって大声を上げた。
「すまないが、人を探しているんだ! 貿易商のボワイエって奴をしらないか!?」
男どもは口々に「知らねえな」「聞いたことないな」などと言っている。
しばらくして、少し後ろの方から「知ってるぞ!」という声がした。
その人物が近づいてきた。見ると頭が禿げ上がった、背の低い初老の人物。
「貿易商だったボワイエなら知っているぞ」
「だった?」
「ああ、戦争で商売ができなくなってな」
「それで、どこにいる?」
ジョアンヌは尋ねた。
男は、笑いながら言う。
「酒を一杯奢ってくれないか?」
「いいだろう」
ジョアンヌはすぐに先ほどのウエイトレスを呼びつけて、酒を一杯注文する。
しばらくして、酒が運ばれてくると男はそれを二、三口飲んでから話始めた。
「ボワイエは、今は街のはずれで武器庫の倉庫番をしているよ」
「倉庫番?」
「ああ。今、奴は軍の武器を扱っている。その武器が置いてある倉庫の倉庫番だ」
「その倉庫はどこにある?」
「街のはずれに、軍の駐屯地があるが、そこにある。良かったら地図を書こう」
その男は先ほどのウエイトレスに頼んで、紙をペンを借りてサラサラと地図を書きあげた。徒歩だとここから一時間以上かかるそうだ。
ジョアンヌはその地図を受け取ると礼を言った。
その後もジョアンヌは、男たちに色々と話しかけられてその相手をしている。ジョアンヌたちも運ばれてくる食事を平らげる。その間も男たちに話しかけられたりして、落ち着かない状態が続いた。
しばらくして、三人は食事を終え、肝心のボワイエの情報も手に入れることが出来たので、ここを去り宿屋に戻ることにした。
「大変だったな」酒場を出た後、エレーヌがジョアンヌに話しかけた。「しかし、君が有名人で助かった。必要な情報がすぐに入手できたしな」
「そうだな」
「この先も、君の知名度が役に立ちそうだ」
「さっきみたいに、質問攻めにあうのは勘弁してほしいけどな」
ジョアンヌは、苦笑してため息をついた。
三人は宿屋に戻ると、それぞれの部屋に戻り明日に備えることにした。
エレーヌ、ジョアンヌ、トリベールの三人は宿泊する宿屋からさほど遠くない盛り場にやって来た。ここも失業者たちがいる一帯とは別の区域。昼間のノーリモージュの街とは違う雰囲気の世界が目の前に広がる。
窓から明るい光や、通りに設置されている松明が煌々と輝き、酔っ払いたちの騒がしい声が通りまで聞こえる。
何人もの酔っ払いが建物の前で座り込んで、陽気に話をしていた。
三人は、通りでも目に付く比較的大き目の酒場にやって来た。
跳ね扉を開けて中に入る。すると、店の中に一瞬静寂が訪れ、他の男性客の視線が一斉に向けられた。
こんな店に若い女性が来るのは、さすがにかなり目立つようだ。
三人の中で唯一の男性のトリベールは心配そうに言う。
「さすがに女は目立ちますね…、店を出ますか?」
「いや、構わない」
エレーヌはそう言って悠々と店の中に入って行く。
「そうだな、問題ない」
ジョアンヌも大股でエレーヌの後に続く。
そして、トリベールは少し縮こまるように背中を丸めて、二人の後に続いた。
丁度、空いてるテーブルがあったので、そこに座った。
太った中年のウエイトレスがやって来たので注文を頼む。
「食べ物と酒を適当に持ってきてくれ」
ジョアンヌが言う。
「あんたたち、見かけない顔だね…、いや、あんたは見たことあるわ…」
そう言ってウエイトレスはジョアンヌの顔をまじまじと見た。
「ひょっとして、血のジョアンヌかい?」
「そうだ」
ジョアンヌは答えた。
「ええー! あんたに会えるなんて、今日はついてるよ!」
ウエイトレスはそう言って、豪快に笑った。ジョアンヌは尋ねる。
「なぜ私の顔を知っている?」
「戦争が終わったとき、一度この街に来てただろ? あんたの顔を見たくて、駐屯地まで行ったんだよ!」
戦争が休戦になった時、最前線の兵士の大半は、この街にある軍の駐屯地に戻ってきたのだ。そして、ジョアンヌのような臨時に徴兵された者たちは、その場で除隊となった。
ジョアンヌの武勇伝は新聞で有名になっていて、その名はレスクリム王国中に響いていたので、兵士たちが街に戻って来た時、ジョアンヌのことを見ようとした野次馬が結構集まって来ていたのだ。
その野次馬の中にこのウエイトレスも居た、ということのようだ。
ジョアンヌとウエイトレスの会話を聞いていた他の客もジョアンヌたちの座るテーブルに取り囲むように集まって来た。
「あんたがジョアンヌかい?!」
「敵を五十人も斬ったって本当か?!」
「武勇伝を聞かせてくれ!」
「よかったら、酒をおごらせてくれよ!」
男どもは次々と話しかけて来る。
しばらくはジョアンヌは質問に答えていたが、急に立ち上がって大声を上げた。
「すまないが、人を探しているんだ! 貿易商のボワイエって奴をしらないか!?」
男どもは口々に「知らねえな」「聞いたことないな」などと言っている。
しばらくして、少し後ろの方から「知ってるぞ!」という声がした。
その人物が近づいてきた。見ると頭が禿げ上がった、背の低い初老の人物。
「貿易商だったボワイエなら知っているぞ」
「だった?」
「ああ、戦争で商売ができなくなってな」
「それで、どこにいる?」
ジョアンヌは尋ねた。
男は、笑いながら言う。
「酒を一杯奢ってくれないか?」
「いいだろう」
ジョアンヌはすぐに先ほどのウエイトレスを呼びつけて、酒を一杯注文する。
しばらくして、酒が運ばれてくると男はそれを二、三口飲んでから話始めた。
「ボワイエは、今は街のはずれで武器庫の倉庫番をしているよ」
「倉庫番?」
「ああ。今、奴は軍の武器を扱っている。その武器が置いてある倉庫の倉庫番だ」
「その倉庫はどこにある?」
「街のはずれに、軍の駐屯地があるが、そこにある。良かったら地図を書こう」
その男は先ほどのウエイトレスに頼んで、紙をペンを借りてサラサラと地図を書きあげた。徒歩だとここから一時間以上かかるそうだ。
ジョアンヌはその地図を受け取ると礼を言った。
その後もジョアンヌは、男たちに色々と話しかけられてその相手をしている。ジョアンヌたちも運ばれてくる食事を平らげる。その間も男たちに話しかけられたりして、落ち着かない状態が続いた。
しばらくして、三人は食事を終え、肝心のボワイエの情報も手に入れることが出来たので、ここを去り宿屋に戻ることにした。
「大変だったな」酒場を出た後、エレーヌがジョアンヌに話しかけた。「しかし、君が有名人で助かった。必要な情報がすぐに入手できたしな」
「そうだな」
「この先も、君の知名度が役に立ちそうだ」
「さっきみたいに、質問攻めにあうのは勘弁してほしいけどな」
ジョアンヌは、苦笑してため息をついた。
三人は宿屋に戻ると、それぞれの部屋に戻り明日に備えることにした。
0
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる