8 / 75
謎めいた指令
巡洋艦スタニスラフ四世号
しおりを挟む
大陸歴1658年3月9日・巡洋艦スタニスラフ四世号艦上
船に乗ると、“チューリン事件”に関連して、レジデンツ島へ向かった時のことを思い出してしまう。あの時は、二隻のフリゲート艦で島に向かっていたが、途中一隻がクラーケンの襲撃で沈没、その乗員の大部分が行方不明となってしまった。
結局、あの航海と島での戦いでは傭兵部隊百名のうち七十名が戦死した。私の旧友たちも多く犠牲となったので、つらい思い出だ。
シュバルツに艦内を一通り案内してもらった後、我々は甲板に出た。
私は甲板の高いところから、隊員達を見た。最近、私は事務方の仕事も多くなっていたので、弟子たちと、ゆっくり話す機会もなくなっていた。二時間の航海の間にちょっと話をしようと思った。
オレガとソフィアが一緒に居るのが目に入った。
滅多に乗れない船に乗れて、ちょっと、はしゃいでいるようだ。オレガは船に乗るのは二度目だったか。一度目は一年前、首都からの旅で渡し舟の乗った以来だろう。いつも無表情で感情をあらわにしない彼女のああいう姿を見るのは珍しい。
私はオレガとソフィアに近づいて話しかけた。
「オレガ、嬉しそうだね」。
「船にはめったに乗れませんから」。
オレガは、普段は無表情だが、今は嬉しそうに少し笑っている。彼女はまだ十六歳だ、たまに子供っぽいところを見せるが、それは仕方ないだろう。
私はソフィアに向き直って尋ねた。
「ソフィア、そういえば、魔術はどれぐらいオレガに教えたんだい?」
オレガには、剣術は私が教えているが、魔術についてはソフィアに教える様にお願いしている。
ソフィアはオレガの肩に手を置いて答えた。
「私が使える物はすべてです。水操魔術、火炎魔術、念動魔術。オレガは物覚えが良いので、教えるのも楽ですね。でも念動魔術で、空を飛ぶには、まだまだ訓練が必要です」。
「そうか。剣術も呑み込みが早い。遠くない将来、私を越えてしまうかもな」。
私はオレガに笑いかけた。
「ソフィアのほうは、新しい魔術を覚えたりしていないのか?」
ソフィアは最近は魔石や魔術書をあさっているようだ。それらを扱う商人と良く会っているというのを耳にしている。
「先月、商人のシュルツが面白い魔術書を持って来たので、一冊買いました」。
「では、また、新しい魔術を使えるようになるのかな?」
「覚えたら、披露しますよ」。
「どんな魔術だい?」
「それは秘密です」。
と、言うとソフィアは、いたずらっぽく笑って見せた。私のことを驚かせようとしているのか、彼女は知らないうちに魔術を覚えたりする。以前も念動魔術で空を飛べることは、実際の戦闘になってから私は知った。
私は、わかったよ、というように両手を広げて、微笑んで見せた。
別のところではオットーとプロブストが会話しているのが見える。彼らは副長に就いてから、よく情報交換をしているようだ。
フリードリヒ・プロブストは、ここズーデハーフェンシュタットの出身の剣士だ。初期のころから傭兵部隊に所属している。黒髪に中肉中背、剣の腕はそこそこに良いし、機転も利く。 “チューリン事件”で、当時の我々“傭兵部隊”がレジデンツ島へ遠征の任務に就いた時、百人の内三十名しか生き残ることができなかったが、彼はその生き残りの一人だ。
どちらかと言うと地味で目立たないタイプだったが、副長としてよく部隊をまとめている。『地位が人を作る』と言ったのは、ルツコイだったか。
「オットー、フリードリヒ」。
私は二人に声を掛けた。オットーが話しかけてきた。
「今回の任務は急ですね。公国が攻めて来ようとしているとか」。
「任務はいつも急だ。しかし、今回の一件も謎が多い」。
「というと」。
「公国の侵攻の理由が不明だ」。
プロブストが割り込んできた。
「最近の帝国の混乱に乗じたのでは?」
「私もそう思ったが、ルツコイは、国内の誰かが手引きしているのではと疑っている」。
「誰か?」
「国内で発生している暴動の首謀者や旧共和国軍の残党などだ」。
「なるほど。それは考えられますね」。
「しかし、私は、その可能性はないと考えている」。
「それは、どうしてですか?」
「私の独自の情報網だよ」。
私は適当にごまかした。プロブストには私が共和国派と繋がりがあることは言っていない。遊撃部隊の中で知っているのは、オットーとソフィアだけだ。
私はプロブストの肩を叩いた。
「最近、私の方は面倒な仕事も増えてしまって、訓練などは任せきりで申し訳ない」。
「隊長が書類の山と戦っているのは、クラクスから聞いております」。プロブストは笑って答えた。「それに、いろいろ任されているので、私は信頼されているのかと思っております」。
「その通り、君らを信頼しているよ」。
私はオットーに近づいて耳打ちした。
「オットー、モルデンではよろしく頼むよ」。
オットーの旧友のリーヌス・シュローダーは、モルデンという都市で共和国派の連絡役を担っている。今回の遠征では途中、モルデンに立ち寄るのでオットーにはリーヌスに会ってもらう予定だ。
二時間ほどして、河の対岸の普段は渡し舟が利用している桟橋に到着した。隊員達は下船を開始した。私はシュバルツに敬礼した。
「ご武運を」。
シュバルツは別れ際にそういった。我々を下ろした後は、彼らは訓練航海でオストハーフェンシュタットまで航海するそうだ。
我々は下船し、隊列を組んで進軍を始めた。
今晩は、宿場町・フルッスシュタットの手前の草原で野営することになる。
船に乗ると、“チューリン事件”に関連して、レジデンツ島へ向かった時のことを思い出してしまう。あの時は、二隻のフリゲート艦で島に向かっていたが、途中一隻がクラーケンの襲撃で沈没、その乗員の大部分が行方不明となってしまった。
結局、あの航海と島での戦いでは傭兵部隊百名のうち七十名が戦死した。私の旧友たちも多く犠牲となったので、つらい思い出だ。
シュバルツに艦内を一通り案内してもらった後、我々は甲板に出た。
私は甲板の高いところから、隊員達を見た。最近、私は事務方の仕事も多くなっていたので、弟子たちと、ゆっくり話す機会もなくなっていた。二時間の航海の間にちょっと話をしようと思った。
オレガとソフィアが一緒に居るのが目に入った。
滅多に乗れない船に乗れて、ちょっと、はしゃいでいるようだ。オレガは船に乗るのは二度目だったか。一度目は一年前、首都からの旅で渡し舟の乗った以来だろう。いつも無表情で感情をあらわにしない彼女のああいう姿を見るのは珍しい。
私はオレガとソフィアに近づいて話しかけた。
「オレガ、嬉しそうだね」。
「船にはめったに乗れませんから」。
オレガは、普段は無表情だが、今は嬉しそうに少し笑っている。彼女はまだ十六歳だ、たまに子供っぽいところを見せるが、それは仕方ないだろう。
私はソフィアに向き直って尋ねた。
「ソフィア、そういえば、魔術はどれぐらいオレガに教えたんだい?」
オレガには、剣術は私が教えているが、魔術についてはソフィアに教える様にお願いしている。
ソフィアはオレガの肩に手を置いて答えた。
「私が使える物はすべてです。水操魔術、火炎魔術、念動魔術。オレガは物覚えが良いので、教えるのも楽ですね。でも念動魔術で、空を飛ぶには、まだまだ訓練が必要です」。
「そうか。剣術も呑み込みが早い。遠くない将来、私を越えてしまうかもな」。
私はオレガに笑いかけた。
「ソフィアのほうは、新しい魔術を覚えたりしていないのか?」
ソフィアは最近は魔石や魔術書をあさっているようだ。それらを扱う商人と良く会っているというのを耳にしている。
「先月、商人のシュルツが面白い魔術書を持って来たので、一冊買いました」。
「では、また、新しい魔術を使えるようになるのかな?」
「覚えたら、披露しますよ」。
「どんな魔術だい?」
「それは秘密です」。
と、言うとソフィアは、いたずらっぽく笑って見せた。私のことを驚かせようとしているのか、彼女は知らないうちに魔術を覚えたりする。以前も念動魔術で空を飛べることは、実際の戦闘になってから私は知った。
私は、わかったよ、というように両手を広げて、微笑んで見せた。
別のところではオットーとプロブストが会話しているのが見える。彼らは副長に就いてから、よく情報交換をしているようだ。
フリードリヒ・プロブストは、ここズーデハーフェンシュタットの出身の剣士だ。初期のころから傭兵部隊に所属している。黒髪に中肉中背、剣の腕はそこそこに良いし、機転も利く。 “チューリン事件”で、当時の我々“傭兵部隊”がレジデンツ島へ遠征の任務に就いた時、百人の内三十名しか生き残ることができなかったが、彼はその生き残りの一人だ。
どちらかと言うと地味で目立たないタイプだったが、副長としてよく部隊をまとめている。『地位が人を作る』と言ったのは、ルツコイだったか。
「オットー、フリードリヒ」。
私は二人に声を掛けた。オットーが話しかけてきた。
「今回の任務は急ですね。公国が攻めて来ようとしているとか」。
「任務はいつも急だ。しかし、今回の一件も謎が多い」。
「というと」。
「公国の侵攻の理由が不明だ」。
プロブストが割り込んできた。
「最近の帝国の混乱に乗じたのでは?」
「私もそう思ったが、ルツコイは、国内の誰かが手引きしているのではと疑っている」。
「誰か?」
「国内で発生している暴動の首謀者や旧共和国軍の残党などだ」。
「なるほど。それは考えられますね」。
「しかし、私は、その可能性はないと考えている」。
「それは、どうしてですか?」
「私の独自の情報網だよ」。
私は適当にごまかした。プロブストには私が共和国派と繋がりがあることは言っていない。遊撃部隊の中で知っているのは、オットーとソフィアだけだ。
私はプロブストの肩を叩いた。
「最近、私の方は面倒な仕事も増えてしまって、訓練などは任せきりで申し訳ない」。
「隊長が書類の山と戦っているのは、クラクスから聞いております」。プロブストは笑って答えた。「それに、いろいろ任されているので、私は信頼されているのかと思っております」。
「その通り、君らを信頼しているよ」。
私はオットーに近づいて耳打ちした。
「オットー、モルデンではよろしく頼むよ」。
オットーの旧友のリーヌス・シュローダーは、モルデンという都市で共和国派の連絡役を担っている。今回の遠征では途中、モルデンに立ち寄るのでオットーにはリーヌスに会ってもらう予定だ。
二時間ほどして、河の対岸の普段は渡し舟が利用している桟橋に到着した。隊員達は下船を開始した。私はシュバルツに敬礼した。
「ご武運を」。
シュバルツは別れ際にそういった。我々を下ろした後は、彼らは訓練航海でオストハーフェンシュタットまで航海するそうだ。
我々は下船し、隊列を組んで進軍を始めた。
今晩は、宿場町・フルッスシュタットの手前の草原で野営することになる。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる