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ソローキン反乱
“雪白の司書”
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大陸歴1658年4月1日・公国首都ソントルヴィレ街壁上
緑の瞳に、茶色い長髪。刺繍が特徴的な民族衣装を纏っている長身の女性が、街壁の上から外で行われている戦闘を眺めていた。
手前に見える公国軍の緑の旗が立つ陣地。そして、赤い旗を翻して迫る一団。あれは、帝国軍だ。その先頭を駆って来るのが、大陸中にその名が知れ渡っている帝国軍の重装騎士団だ。
厚い鎧を纏う帝国軍の精鋭。剣や斧でも一撃では致命傷を与えることは難しい。重装騎士団は、分厚い壁のように聳え、敵を圧倒する。
三年前、ブラウグルン共和国を侵略したときも、その威力を十二分に発揮したと聞く。
重装騎士団は、鈍い銀色の鎧を光らせながら、こちらに迫ってくる。
しかし、帝国軍は柵の近くまで進撃してくると、公国軍が仕掛けた落とし穴で、持ち前の機動力を押さえられ、矢とカタパルトによる岩の攻撃に翻弄され始めた。
街壁の内側に配備されたカタパルトから放り投げられる巨大な岩が、すぐ頭の上を通過するのは、迫力があった。その巨大な岩が、帝国軍の中へと容赦なく降り注ぐ。
その岩の下敷きになり犠牲になる者が多数みられた。
帝国軍は矢を防ぐため盾を空に向けて構えていたが、さすがにそれでは岩を遮ることはできなかった。
帝国軍は、動きを止められ被害が拡大する一方だったので、一旦退却を始めた。
それを見た公国軍は、陣の柵を開き追撃を開始した。
公国軍の騎兵が追撃し、逃げ遅れた帝国軍の歩兵を撃ち始めた。
そこに、撤退を続けていた重装騎兵の一部が反転し、公国軍の騎兵に突入した。
さすがは帝国の重装騎士団だ。七、八百程度の騎兵で数千の公国軍を押しとどめた。
その間に残りの帝国軍は体勢を立て直し、再び公国軍に襲い掛かった。今度は公国軍が逃げる番となった。帝国軍はもう一度、陣地に迫っている。
現状では公国軍の方が被害は大きそうだ。
街壁の上の女性はそろそろ私達も加勢する頃かと思い、隣にいる男性に顔を向けた。
その女性の名前は、アグネッタ・ヴィクストレーム。
アグネッタは今回、ヴィット王国の密命を受けテレ・ダ・ズール公国へとやって来た。帝国軍との交戦があるということで、ヴィット王国の加勢に派遣された。
派遣されたのは、フレドリック・リンドバーグ、ニクラス・ニストローム、アグネッタ・ヴィクストレームの三人だ。
ヴィット王国はテレ・ダ・ズール公国の北方に国境を面している。
この王国では、多くの魔術書が王立図書館に集約されており、魔術師のことを“雪白の司書”と呼んでいる。
今回派遣されたのは、たった三人だが、ヴィット王国でも有数の魔術師だ。
公国軍の戦闘を有利に進められるように手助けをする役目を担っている。
公国に入国してから、公国軍の本体と行動を共にしていたので、最初は公国と帝国の国境付近にいた。しかし、その時は出番がなかった。
当初は公国軍が、国境沿いの川まで進み、帝国軍を誘い出しカタパルトの攻撃で被害を与えるということであったが、帝国軍が予想に反して越境して攻撃をしてきたので、公国軍は首都まで後退してきた。
公国軍としては、帝国が越境してくる可能性は、想定はしていたようだが。
帝国軍が眼下の陣に迫り、柵を倒し始めた。
そろそろ、私達の出番だろうとアグネッタは思い、今回指揮を執るフレドリック・リンドバーグの方を向いた。
フレドリックも同様に思ったのだろう、アグネッタとニクラスに向かって言った。
「そろそろ行くぞ。敵の矢と魔術の攻撃には気を付けろ」。
三人は、呪文を唱えると、体が宙に浮いた。念動魔術による空中浮遊だ。念動魔術は物を自由に動かすための魔術だ。対象を自分の体にすると、空中を飛んで移動することができる。
これで空を自由に飛び、相手を攻撃する。
アグネッタはチューリン事件の帝国首都で魔術師チューリンと戦って以来、一年ぶりの実戦に少々心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
雪白の司書の三人は、空中から帝国軍に対し攻撃を開始した。
水操魔術で、稲妻を発生させ、それを対象に向けて撃ちつける。まずは、柵を倒し陣地に侵入してきた重装騎士団から倒していく。
この攻撃で被害が多くなってきた帝国軍が退却を始めたのが見えた。
帝国軍が退却するのを見て、“雪白の司書”の三人は再び街壁上に降り立った。
「みんな怪我は無いな」。
フレドリックは、自分の身の回りを整えながら、他の二人に尋ねた。
「はい」。
ニクラスとアグネッタは同時に答えた。
帝国軍の矢での攻撃はそれほど多くなく、さらに上空では帝国軍の矢の攻撃をかわすことは容易であった。
“雪白の司書”の三人は、戦場を見下ろした。
平原に多数の死者と負傷者、馬が倒れている。公国軍は可能な限り負傷者を収容している。
息のある負傷者も多数いるだろうが、帝国軍が再度攻撃してくる可能性がある中、全員を救出できる状況ではない。
陣の中とすぐ近くで稲妻に撃たれた者、公国軍との戦闘で捕らえられた帝国軍兵士は捕虜として、城内に連れて行かれた。二度の攻撃で捕虜もだいぶ増えてきたようだ。
“雪白の司書”の三人の稲妻による攻撃では、威力を抑え死者は出ないようにしてある。せいぜい失神する程度だ。
ヴィット王国政府は、三人をここに派遣する際、公国軍に加勢はするが、帝国軍兵士を殺すことしないと条件を付けたからだ。
三人の攻撃では犠牲者はいないが、公国軍と帝国軍の戦闘では残念なことに、多数の死者が出ている。
「帝国は、また攻撃してくるでしょうか?」
アグネッタは尋ねた。
「彼らは短時間で二度攻撃を仕掛けてきた。彼らは焦っているような感じを受けます」。
ニクラスはアグネッタに続いて話した。
フレドリックは答える。
「それはそうだろう。公国軍からの情報では、彼らは食料がもう少なくなっている。公国の領土内深くまで進軍してきているが、帝国からの補給は無い」。
それは、前もって伝えられている情報であった。
「当初の予定とは違ったが、これは想定内だ」。
当初は国境沿いで帝国との戦闘が行われるはずだったが、帝国軍が越境してきたので作戦を二案目に移した。公国軍は大きく後退し、それを追ってきた帝国軍は、補給線が伸びる。しかし、帝国軍は補給が受けられない。公国軍の司令官トム・フルニエの想定通りだ。
しかし、此処での帝国軍戦い方を見ると、最初、力押しでの攻撃一辺倒だと聞いていたが、必ずしもそうでないということが分かった。
一度目と二度目の攻撃は作戦を変えて攻撃を仕掛けてきた、次の攻撃もこれまでと違った方法で攻撃を仕掛けて来るだろう。
あらかじめ伝わっている情報では、今回の帝国軍はソローキンかキーシンが率いる二つの旅団から編成されている。
ソローキンが総司令官と聞いているが、意外にも戦術に長けていたのか。もしくは戦術に長けている者を据えているのだろうか。ソローキンでなければ、それは、おそらくキーシンだろう。我々は帝国軍を過小評価していたのかもしれない。
とはいえ、公国軍が敗退する心配はしていない。
フレドリックは二人に言った。
「もう一度攻撃があるかもしれない。それまで、しばらく休もう」
緑の瞳に、茶色い長髪。刺繍が特徴的な民族衣装を纏っている長身の女性が、街壁の上から外で行われている戦闘を眺めていた。
手前に見える公国軍の緑の旗が立つ陣地。そして、赤い旗を翻して迫る一団。あれは、帝国軍だ。その先頭を駆って来るのが、大陸中にその名が知れ渡っている帝国軍の重装騎士団だ。
厚い鎧を纏う帝国軍の精鋭。剣や斧でも一撃では致命傷を与えることは難しい。重装騎士団は、分厚い壁のように聳え、敵を圧倒する。
三年前、ブラウグルン共和国を侵略したときも、その威力を十二分に発揮したと聞く。
重装騎士団は、鈍い銀色の鎧を光らせながら、こちらに迫ってくる。
しかし、帝国軍は柵の近くまで進撃してくると、公国軍が仕掛けた落とし穴で、持ち前の機動力を押さえられ、矢とカタパルトによる岩の攻撃に翻弄され始めた。
街壁の内側に配備されたカタパルトから放り投げられる巨大な岩が、すぐ頭の上を通過するのは、迫力があった。その巨大な岩が、帝国軍の中へと容赦なく降り注ぐ。
その岩の下敷きになり犠牲になる者が多数みられた。
帝国軍は矢を防ぐため盾を空に向けて構えていたが、さすがにそれでは岩を遮ることはできなかった。
帝国軍は、動きを止められ被害が拡大する一方だったので、一旦退却を始めた。
それを見た公国軍は、陣の柵を開き追撃を開始した。
公国軍の騎兵が追撃し、逃げ遅れた帝国軍の歩兵を撃ち始めた。
そこに、撤退を続けていた重装騎兵の一部が反転し、公国軍の騎兵に突入した。
さすがは帝国の重装騎士団だ。七、八百程度の騎兵で数千の公国軍を押しとどめた。
その間に残りの帝国軍は体勢を立て直し、再び公国軍に襲い掛かった。今度は公国軍が逃げる番となった。帝国軍はもう一度、陣地に迫っている。
現状では公国軍の方が被害は大きそうだ。
街壁の上の女性はそろそろ私達も加勢する頃かと思い、隣にいる男性に顔を向けた。
その女性の名前は、アグネッタ・ヴィクストレーム。
アグネッタは今回、ヴィット王国の密命を受けテレ・ダ・ズール公国へとやって来た。帝国軍との交戦があるということで、ヴィット王国の加勢に派遣された。
派遣されたのは、フレドリック・リンドバーグ、ニクラス・ニストローム、アグネッタ・ヴィクストレームの三人だ。
ヴィット王国はテレ・ダ・ズール公国の北方に国境を面している。
この王国では、多くの魔術書が王立図書館に集約されており、魔術師のことを“雪白の司書”と呼んでいる。
今回派遣されたのは、たった三人だが、ヴィット王国でも有数の魔術師だ。
公国軍の戦闘を有利に進められるように手助けをする役目を担っている。
公国に入国してから、公国軍の本体と行動を共にしていたので、最初は公国と帝国の国境付近にいた。しかし、その時は出番がなかった。
当初は公国軍が、国境沿いの川まで進み、帝国軍を誘い出しカタパルトの攻撃で被害を与えるということであったが、帝国軍が予想に反して越境して攻撃をしてきたので、公国軍は首都まで後退してきた。
公国軍としては、帝国が越境してくる可能性は、想定はしていたようだが。
帝国軍が眼下の陣に迫り、柵を倒し始めた。
そろそろ、私達の出番だろうとアグネッタは思い、今回指揮を執るフレドリック・リンドバーグの方を向いた。
フレドリックも同様に思ったのだろう、アグネッタとニクラスに向かって言った。
「そろそろ行くぞ。敵の矢と魔術の攻撃には気を付けろ」。
三人は、呪文を唱えると、体が宙に浮いた。念動魔術による空中浮遊だ。念動魔術は物を自由に動かすための魔術だ。対象を自分の体にすると、空中を飛んで移動することができる。
これで空を自由に飛び、相手を攻撃する。
アグネッタはチューリン事件の帝国首都で魔術師チューリンと戦って以来、一年ぶりの実戦に少々心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
雪白の司書の三人は、空中から帝国軍に対し攻撃を開始した。
水操魔術で、稲妻を発生させ、それを対象に向けて撃ちつける。まずは、柵を倒し陣地に侵入してきた重装騎士団から倒していく。
この攻撃で被害が多くなってきた帝国軍が退却を始めたのが見えた。
帝国軍が退却するのを見て、“雪白の司書”の三人は再び街壁上に降り立った。
「みんな怪我は無いな」。
フレドリックは、自分の身の回りを整えながら、他の二人に尋ねた。
「はい」。
ニクラスとアグネッタは同時に答えた。
帝国軍の矢での攻撃はそれほど多くなく、さらに上空では帝国軍の矢の攻撃をかわすことは容易であった。
“雪白の司書”の三人は、戦場を見下ろした。
平原に多数の死者と負傷者、馬が倒れている。公国軍は可能な限り負傷者を収容している。
息のある負傷者も多数いるだろうが、帝国軍が再度攻撃してくる可能性がある中、全員を救出できる状況ではない。
陣の中とすぐ近くで稲妻に撃たれた者、公国軍との戦闘で捕らえられた帝国軍兵士は捕虜として、城内に連れて行かれた。二度の攻撃で捕虜もだいぶ増えてきたようだ。
“雪白の司書”の三人の稲妻による攻撃では、威力を抑え死者は出ないようにしてある。せいぜい失神する程度だ。
ヴィット王国政府は、三人をここに派遣する際、公国軍に加勢はするが、帝国軍兵士を殺すことしないと条件を付けたからだ。
三人の攻撃では犠牲者はいないが、公国軍と帝国軍の戦闘では残念なことに、多数の死者が出ている。
「帝国は、また攻撃してくるでしょうか?」
アグネッタは尋ねた。
「彼らは短時間で二度攻撃を仕掛けてきた。彼らは焦っているような感じを受けます」。
ニクラスはアグネッタに続いて話した。
フレドリックは答える。
「それはそうだろう。公国軍からの情報では、彼らは食料がもう少なくなっている。公国の領土内深くまで進軍してきているが、帝国からの補給は無い」。
それは、前もって伝えられている情報であった。
「当初の予定とは違ったが、これは想定内だ」。
当初は国境沿いで帝国との戦闘が行われるはずだったが、帝国軍が越境してきたので作戦を二案目に移した。公国軍は大きく後退し、それを追ってきた帝国軍は、補給線が伸びる。しかし、帝国軍は補給が受けられない。公国軍の司令官トム・フルニエの想定通りだ。
しかし、此処での帝国軍戦い方を見ると、最初、力押しでの攻撃一辺倒だと聞いていたが、必ずしもそうでないということが分かった。
一度目と二度目の攻撃は作戦を変えて攻撃を仕掛けてきた、次の攻撃もこれまでと違った方法で攻撃を仕掛けて来るだろう。
あらかじめ伝わっている情報では、今回の帝国軍はソローキンかキーシンが率いる二つの旅団から編成されている。
ソローキンが総司令官と聞いているが、意外にも戦術に長けていたのか。もしくは戦術に長けている者を据えているのだろうか。ソローキンでなければ、それは、おそらくキーシンだろう。我々は帝国軍を過小評価していたのかもしれない。
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