傭兵部隊の任務報告3~漆黒の断絶

谷島修一

文字の大きさ
4 / 14

第3話 航海

しおりを挟む
 翌朝、ダーガリンダ王国へ向けて出発の日、王国へ向かう命令を受けた帝国軍兵士と傭兵部隊の全員が中庭に集合した。 
 帝国軍の兵士は五十名ほどとアリョーナ・ザービンコワ始め軍医と看護師が数名が出動。そして、傭兵部隊は全員の二百名が出動する。
 今回の任務は、救助活動なので、武器は最小限。救助活動に使われる道具や食料などは、先方のダーガリンダ王国で用意されているということで、その他の装備も軽装備となっている。
 一同は中庭で整列している。ソフィアをはじめとする傭兵部隊の女性隊員五名も部隊の後ろの方に整列して出動前の訓示を聞いている。
 まずは帝国軍司令官のルツコイが話し、次に傭兵部隊の隊長クリーガーが話をする。
 クリーガーは大勢の前で話すのはあまり慣れていないのようなので、少々たどたどしい。
 そんな訓示も終わり、まずは港の端にある海軍の桟橋まで行軍することとなる。一行は海軍の船を使う。港を出発した船の目的地は、ダーガリンダ王国北部にある首都で港町のジェーハールセリエ。そこまでは四日間の航海だ。
 ジェーハールセリエで上陸した後は、さらに、ボールック山脈に向かって丸一日ほどかかる距離を移動すると落盤事故があった坑道があるという。
 ソフィア、“深蒼の騎士”であったクリーガー、さらに元賞金稼ぎだった隊員以外で元共和国の兵士だった者の多くは、これまでに落盤事故の救援の任務に就いたことがあるようだ。

 帝国軍と傭兵部隊の一行は三隻の船に分乗した。
 ソフィアの乗る船は、フリゲート艦の “ウンビジーバー号” と言う船名だった。
 航海の間は気候も良く、穏やかな海だった。それでも航海の途中、船酔いをするものが数名いたが、それ以外は何事もなかった。
 途中、ソフィアが甲板で海を眺めていると、声を掛けて来た人物がいた。帝国軍の軍医のザービンコワだ。
「いい天気ね」
「ブランブルン共和国は天気の日が多いんです」
 ソフィアは顔をザービンコワに向けて微笑んだ。
「そのようね。私の生まれ故郷でもある首都アリーグラードは曇りの日が多いのよ。冬は雪がたくさん降るし」
「一度、首都にも行ってみたいですね」
「そう? でも、あなたたちは何か任務がないと難しいでしょうね」
 都市間の移動は旧共和国の人間は許可されていない。それは傭兵部隊と言えども同様だった。

 ソフィアは話題を変えた。
「こちらの生活はどうですか?」
「おかげさまで、もう、だいぶ慣れて来たわ」
「よく、師と出かけているようですけど?」
 ソフィアはちょっといたずらっぽく尋ねてみた。師のクリーガーとザービンコワが休暇を合わせてよく出かけているのは傭兵部隊の中でも有名になっていた。
 ザービンコワは表情を変えずに答えた。
「師? ああ、クリーガー隊長の事? そうね、彼が案内してくれるから、おかげで、街に詳しくなったわ」
 そう言うとザービンコワは、振り返って船内に戻って言った。
 さすがに『付き合っているのか?』とまでは聞けなかった。ソフィアは苦笑した。しかし、普段の状況から見て、二人が付き合っているのは間違いないようだった。
 
 別の日。
 ソフィアがこの日の朝も甲板に上がると、オットー・クラクスが居るのを見つけた。
 ソフィアと同じく最初から傭兵部隊に参加しているオットー・クラクスは、長身で金髪碧眼の男性で二十二歳になる。ズーデハーフェンシュタットの北にある都市モルデンの出身だ。
 彼とは師であるユルゲン・クリーガーの下、一緒に剣の修練をする間柄だ。
とは言え、傭兵部隊以外の普段の生活では、ほとんど交流は無い。
 任務でも同じものが当たることはほとんどなかったが、唯一、一緒の任務を担当したのは、少し前のヴェールテ家連続殺人事件だ。

ソフィアはオットーに声を掛けた
「おはよう」
オットーは海を見つめていたが、振り返って挨拶を返す。
「ああ、ソフィアか、おはよう」。そして、彼は再び海を見つめて言う。「海は良いね。実は船で海に出るのは初めてなんだよ。これまでは、グロースアーテッヒ川の渡し舟に乗ったぐらいだったからね」
「そうなんだ」。ソフィアは話題を変えた。「この前の任務のことだけど」
「ヴェールテ家連続殺人のことかい?」
「ええ」
「思ったより大変な任務だったね」
「でも、やりがいはあったわ。それに、楽しかった」
「そうだね」
 オットーはそう言うと、少し笑ったように見えた。
 彼は、任務で人質として囚われていた女性を救出し、その後、その女性と付き合っていると聞いた。
 ソフィアは『誰も彼も色気付きやがって』、と心の中でつぶやいた。

 四日後、船は予定通り何事もなくジェーハールセリエに到着する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

処理中です...