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終章

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 ダーガリンダ王国の落盤事故の救難活動を終えて、ズーデハーフェンシュタットに帰国して数日経ったある日。
 ソフィアと、師であるクリーガー、それにソフィアと同じく彼の弟子であるクラクスは、街から少し離れた浜辺にやって来ていた。
 押し寄せる波と耳に響く潮騒。海に反射する太陽の光が少々まぶしい。肌を撫でる潮風が気持ち良い。
 今日は快晴。ダーガリンダ王国に行く前は、残暑も少々厳しかった。あれから三週間ほど経ったが、もう暑さもさほど感じることなく過ごすことができる様になっていた。

「どうだ、いい場所だろう?」
 クリーガーはそう言って海の方を見つめた。
「ルツコイ司令官に事情を話して、特別に街を出る許可を得ることができた」
 クリーガーは少々自慢げに言う。
 これまでは、剣の修練は城内の適当な広場で行っていた。そこは少々狭い場所であったので、以前より、クリーガーが城外で他の適当な修練場所を探していて、この浜辺に行きついたというわけだ。ここには誰の訪問者もほとんどいないので邪魔が入らないということだ。
 帝国の占領後、通常は街の外へ出ることは、よほど特別な事情が無いと許可を得ることができない。しかし、クリーガーがその許可を得たということは、司令官からの信頼をかなり得ているということなのだろう。

 ソフィアはダーガリンダ王国の坑道であった出来事がまだ頭から離れずにいた。
 謎の怪物との戦い。あれは何だったのか? 怪物のあの姿を思い起こすたびに恐怖が甦ってくる。
 そして、坑道内でクリーガーと出会ったことについても謎のままだった。あれは本当に酸欠による幻覚や夢の出来事だったのだろうか? クリーガーとのやり取りは、あまりにも鮮明に記憶に残っている。
 ソフィアは帰国後、数日間、そのことを考えてみたが、明確な答えは出なかった。いくら考えても何もわからない。
 釈然としなかったが、そろそろ、あのことは忘れようと思った。
 一方で、ソフィアはあの出来事で、剣の腕前が今一つであったため、怪物には魔術で対抗したことを思い起こす。そして、もっと剣の腕も磨いておかなければと決意していた。

「じゃあ、始めようか」
 クリーガーが声を掛けてきた。
 ソフィアとクラクスは模擬剣を構えて、お互いに向き合う。
 クリーガーは少しアドバイスをしたあと、“初め”の合図を出した。
 激しく剣がぶつかり合うが、その音は潮騒に寄ってかき消されていった。

≪完≫
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