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第3話・生存者
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私とルツコイは執務室を出た後、城の中を進み医務室へ向かった。
医務室に訪れると医師のザービンコワは、我々の姿を見ると挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう」。ルツコイは軽く手を上げて挨拶を返した。「彼女の容態はどうだ?」
「昨晩、気が付きました。その後、少し食事を取りました。今は意識ははっきりしています」
「それは、よかった」
「ここに来た時は、かなり危なかったですが」
ザービンコワはふっと息をついた。
「話をしたのか?」
ルツコイは質問した。
「簡単な単語なら、わかるみたいです。私も少し話しました」
南の大陸“ダクシニー”の言葉は、ここ “色彩の大陸” とは違っていて通常は通訳が必要だ。しかし、彼女はこちらの言葉がわかるらしい。一体、どこで覚えたのだろうか?
「私も話をしてみたいのだが」
「構いませんよ、あまり長くなければ」
そう言うと、ザービンコワは我々を医務室の奥へと案内した。五つ並んでいる一番奥のベッドに少女が横になっていた。
私達が近づくと、横になったまま顔を少し向けた。
ルツコイは挨拶をした。
「おはよう」
「おはようございます」
少女は小声で、返事をした。イントネーションが違うかなり訛りの強い返事であったが。
「体調はどうかな?」
ルツコイは尋ねた
「いいです」
「そうか、それはよかった」
「私の名前はボリス・ルツコイだ。こちらはユルゲン・クリーガー。君の名前は?」
「メリナ」
「メリナ。いい名前だ。よろしくな」
メリナと名乗る少女は、ルツコイのその言葉を聞くと、顔を天井に向け目線だけを少し我々に向けた。
「歳はいくつだ?」
「十六」
「君はなぜあの船に乗っていた?」
「私、セフィード王国からシンドゥ王国へ行く途中」
セフィード王国? それに、シンドゥ王国?
私は首を傾げた、南の大陸の地理について詳しくは知らなかった。
メリナとルツコイは、話を続ける。
「嵐で船が壊れた」
「やはりそうか」
「どれぐらい漂流していた?」
「長く」
「2週間? 3週間?」
「覚えていない。とても長く」
「大人たちは、どうした?」
「嵐の後、小さな船で逃げた」
子供を置き去りにして逃げるなんて、なんという大人達だ。
「なぜ、君だけ奥の部屋にいた?」
メリナはこの質問には、少し考えて答えた。
「わからない」
「セフィード王国からシンドゥ王国へ向かう途中と言ったね。君はセフィード王国の出身ということになるのか?」
「はい」
「なぜ、シンドゥ王国へ向かっていた?」
「私たち、奴隷」
「奴隷?」
私とルツコイは、メリナの答えに驚いて同時に声を発した。
こちらの大陸では奴隷制度はとっくの昔に無くなっていた。ダクシニーではまだ奴隷制が残っているという事か。
メリナは話を続ける。
「シンドゥ王国の奴隷として運ばれていた」。
「そうか」。
私とルツコイは理解した。あの船は奴隷船で、死んでいた子供たちは奴隷として運ばれている途中だったという事か。
そして、逃げだした大人というのは、子供たちを運ぶための奴隷商かその類の人間か。自分たちだけ助かるために、置き去りしたという事だろう。
ルツコイは質問を続ける。
「君は、こちらの言葉をどこで覚えた?」
「家に話せる人がいた」
「その人はこちらに来たことがあるのかな?」
「わからない」
メリナは小さいが明確に言った。
「私、シンドゥ王国に行かないと」
その言葉の私たちは驚いた。
「何を言う。奴隷としてだろう? それより、ここに居た方がいい」。ルツコイは、なだめる様に言った。「少なくとも、ここにいれば奴隷のような扱いはしない」
メリナはその言葉を聞くと、目を閉じた。
その様子を見ていたザービンコワは私たちに声を掛けた。
「まだ、疲れているみたいだから、今日のところは、これで」。
私とルツコイはメリナの傍を離れて、医務室の出口まで進んだ。ザービンコワが改めて私たちに声を掛ける。
「完全に元気になるには、まだ数日掛かるでしょう」
「わかった」
後日、改めて事情を聞く事になるだろう。
我々は医務室を後にした。
数日のうちに私は暇を見つけて、城の中にある資料室で、南の大陸“ダクシニー”について調べた。
“ダクシニー”と呼ばれるその大陸は、ここ“色彩の大陸”の南端にあるアレナ王国から船で三週間かかる距離にり、ダクシニーの大きさは色彩の大陸の四倍近くもあるという。アレナ王国とは貿易船が多数往来しているようだ。“ラーミアイ紅茶”など、その輸入品の一部は“色彩の大陸”の他の地域にも流通している。
そこには複数の国家が存在しているが、シンドゥ王国という国が一番力を持っていて、大陸の半分以上を支配しているという。シンドゥ王国はアレナが奴隷として向かっていた国だ。
そして、アレナが居たセフィード王国は、大陸ダクシニーにあるのではなく、ダクシニーから船で四日ほどかかる大きな島の“セフィード島”にあるらしい。
島と言っても色彩の大陸の三分の一ほどの大きさで、かなり大きな島のようだ。
シンドゥ王国はその軍事力で周辺諸国を従わせ、その国々から奴隷を調達し、使役や兵士として使っているらしい。
シンドゥ王国の軍の情報は、さほど多くはないが、我々の持っている武器や魔術とはだいぶ違うものを使うようだ。さらに、聞いたことの無いような怪物を使うらしい。また、魔術の種類も多彩であるという。
もし、こんな敵と戦うことになれば、相当の苦戦が予想される。
ダクシニーから色彩の大陸までは距離がかなりある上、アレナ王国には少しではあるが、シンドゥ王国の情報が入ってくる。幸いなことに、今のところ、海を遠く越えてまで侵攻してくるような気配は無いそうだ。
医務室に訪れると医師のザービンコワは、我々の姿を見ると挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう」。ルツコイは軽く手を上げて挨拶を返した。「彼女の容態はどうだ?」
「昨晩、気が付きました。その後、少し食事を取りました。今は意識ははっきりしています」
「それは、よかった」
「ここに来た時は、かなり危なかったですが」
ザービンコワはふっと息をついた。
「話をしたのか?」
ルツコイは質問した。
「簡単な単語なら、わかるみたいです。私も少し話しました」
南の大陸“ダクシニー”の言葉は、ここ “色彩の大陸” とは違っていて通常は通訳が必要だ。しかし、彼女はこちらの言葉がわかるらしい。一体、どこで覚えたのだろうか?
「私も話をしてみたいのだが」
「構いませんよ、あまり長くなければ」
そう言うと、ザービンコワは我々を医務室の奥へと案内した。五つ並んでいる一番奥のベッドに少女が横になっていた。
私達が近づくと、横になったまま顔を少し向けた。
ルツコイは挨拶をした。
「おはよう」
「おはようございます」
少女は小声で、返事をした。イントネーションが違うかなり訛りの強い返事であったが。
「体調はどうかな?」
ルツコイは尋ねた
「いいです」
「そうか、それはよかった」
「私の名前はボリス・ルツコイだ。こちらはユルゲン・クリーガー。君の名前は?」
「メリナ」
「メリナ。いい名前だ。よろしくな」
メリナと名乗る少女は、ルツコイのその言葉を聞くと、顔を天井に向け目線だけを少し我々に向けた。
「歳はいくつだ?」
「十六」
「君はなぜあの船に乗っていた?」
「私、セフィード王国からシンドゥ王国へ行く途中」
セフィード王国? それに、シンドゥ王国?
私は首を傾げた、南の大陸の地理について詳しくは知らなかった。
メリナとルツコイは、話を続ける。
「嵐で船が壊れた」
「やはりそうか」
「どれぐらい漂流していた?」
「長く」
「2週間? 3週間?」
「覚えていない。とても長く」
「大人たちは、どうした?」
「嵐の後、小さな船で逃げた」
子供を置き去りにして逃げるなんて、なんという大人達だ。
「なぜ、君だけ奥の部屋にいた?」
メリナはこの質問には、少し考えて答えた。
「わからない」
「セフィード王国からシンドゥ王国へ向かう途中と言ったね。君はセフィード王国の出身ということになるのか?」
「はい」
「なぜ、シンドゥ王国へ向かっていた?」
「私たち、奴隷」
「奴隷?」
私とルツコイは、メリナの答えに驚いて同時に声を発した。
こちらの大陸では奴隷制度はとっくの昔に無くなっていた。ダクシニーではまだ奴隷制が残っているという事か。
メリナは話を続ける。
「シンドゥ王国の奴隷として運ばれていた」。
「そうか」。
私とルツコイは理解した。あの船は奴隷船で、死んでいた子供たちは奴隷として運ばれている途中だったという事か。
そして、逃げだした大人というのは、子供たちを運ぶための奴隷商かその類の人間か。自分たちだけ助かるために、置き去りしたという事だろう。
ルツコイは質問を続ける。
「君は、こちらの言葉をどこで覚えた?」
「家に話せる人がいた」
「その人はこちらに来たことがあるのかな?」
「わからない」
メリナは小さいが明確に言った。
「私、シンドゥ王国に行かないと」
その言葉の私たちは驚いた。
「何を言う。奴隷としてだろう? それより、ここに居た方がいい」。ルツコイは、なだめる様に言った。「少なくとも、ここにいれば奴隷のような扱いはしない」
メリナはその言葉を聞くと、目を閉じた。
その様子を見ていたザービンコワは私たちに声を掛けた。
「まだ、疲れているみたいだから、今日のところは、これで」。
私とルツコイはメリナの傍を離れて、医務室の出口まで進んだ。ザービンコワが改めて私たちに声を掛ける。
「完全に元気になるには、まだ数日掛かるでしょう」
「わかった」
後日、改めて事情を聞く事になるだろう。
我々は医務室を後にした。
数日のうちに私は暇を見つけて、城の中にある資料室で、南の大陸“ダクシニー”について調べた。
“ダクシニー”と呼ばれるその大陸は、ここ“色彩の大陸”の南端にあるアレナ王国から船で三週間かかる距離にり、ダクシニーの大きさは色彩の大陸の四倍近くもあるという。アレナ王国とは貿易船が多数往来しているようだ。“ラーミアイ紅茶”など、その輸入品の一部は“色彩の大陸”の他の地域にも流通している。
そこには複数の国家が存在しているが、シンドゥ王国という国が一番力を持っていて、大陸の半分以上を支配しているという。シンドゥ王国はアレナが奴隷として向かっていた国だ。
そして、アレナが居たセフィード王国は、大陸ダクシニーにあるのではなく、ダクシニーから船で四日ほどかかる大きな島の“セフィード島”にあるらしい。
島と言っても色彩の大陸の三分の一ほどの大きさで、かなり大きな島のようだ。
シンドゥ王国はその軍事力で周辺諸国を従わせ、その国々から奴隷を調達し、使役や兵士として使っているらしい。
シンドゥ王国の軍の情報は、さほど多くはないが、我々の持っている武器や魔術とはだいぶ違うものを使うようだ。さらに、聞いたことの無いような怪物を使うらしい。また、魔術の種類も多彩であるという。
もし、こんな敵と戦うことになれば、相当の苦戦が予想される。
ダクシニーから色彩の大陸までは距離がかなりある上、アレナ王国には少しではあるが、シンドゥ王国の情報が入ってくる。幸いなことに、今のところ、海を遠く越えてまで侵攻してくるような気配は無いそうだ。
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