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3章
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しおりを挟む残酷だと思った。知らない事を、知りたくないだろう事を、しかも確かめようのない事を、わざわざ告げる必要はないのではないかと。俺達がなにもしなければ、彼はこのまま第二王子として不自由ない生活を送れるかもしれない。
だが、この子はいつか思い出す。そう確信的にそう思った。
知っているのに気付かないふりをしているだけだと思った。この子は__彼は主が話してくれたあの物語のような過去を、きっと覚えている。
事前にその話を知っていれば、そのことに気付くのは容易だった。
生前の王妃様が話していたという、“人生を繰り返している”という話を。
その話の中のジル様は壮絶な人生を送っていた。決して語られたことが全てではないだろうに、それだけでよく心を壊さずにいられたな、と思ってしまう程に。
話を聞いた上で彼の姿を見ると、鈍感なふりをすることで、ずっと自分の心を守ってきたのだと分かった。そうすることでしか守れなかったのだと。
だからこそ、これ以上長引かせてはいけないとも思った。これ以上の信頼関係を築いてしまえば、今度こそジル様は壊れてしまう。
これ以上、彼の傷を深くしないためにも、主の期待に応えるためにも、俺は作戦を決行する決意を固めた。
あの日、主がジル様に渡した紙には、過去の人生で彼を殺害した人物の名前が全て記されている。
彼の世話係の子供達の名前を俺が初めに知ったのも、その紙を見た時だった。
「可哀想に」
自分の事を殺した相手はその罪を何も覚えていないのに、殺された側はその記憶に苦しめられ続ける。嫌な記憶ほどよく覚えているものだ。自分が殺される瞬間の記憶など、その最たるものだろう。
どれだけ親切にされても、信用したくても本能が拒絶する。今は親切な顔をしていても、いつかはまたあの時のように牙を剥くかもしれない、と。もしかしたらいつかまた、それが完全に払拭されるまでずっと。
なんて不公平なことだろう。どうして彼ばかりが苦しめられなければならないのだろう。
いっそ全てを忘れて、自分を傷付けたことのない人しかいないこの場所で一生を過ごせばいい。自分の事を傷付けた奴らの事なんか忘れて、俺達の事だけを考えればいい。
ここにいる限りは俺達でその身に降りかかる火の粉から守ってあげられるから。そのか細い身体にこれ以上の重石は一つもいらない。
窓の外に視線をやると連日邸宅周辺を彷徨く王宮騎士達の中に彼の世話係の子供達の姿が見えて、その姿をかき消すようにカーテンを乱雑に閉めた。
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