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1章
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「せん、せ」
「どうされました?」
カチャカチャと音を立てながら器具を扱うノア先生を呼ぶと、すぐに振り向いて目線を合わせてくれる。いつもと同じ、穏やかな雰囲気。けれど優しく細められたその目の下には、うっすらとクマができている。
じぃ、とそのクマを眺めて、それに右手を伸ばす。顔に触れても驚いたように少し目を見開いただけで、払い除けることも避けることもなかった。そのまま親指でそれをなぞるように目尻に向かって辿ると、くすぐったいのか触れた方の目をさらに細めている。
「どうなさったんですか」
さっきよりも柔らかい声色。酷く優しい人だ。
他の誰よりも優しいこの人に負担をかけてしまっていることなど、とっくに分かりきっていた。俺がここに来てからのノア先生は、多くの時間をこの部屋で過ごしている。元の仕事もあるだろうに、俺が寝た後も遅くまで起きていて病気の研究を重ねたり、一夜に二度、三度とこの部屋に様子を見に来ている事も知っている。そして、それを直接問うたところで、気にするな、と少し困ったように笑って流されてしまうことも。
「……なんでも、ない……です」
「そうですか?……なにか心配事があればいつでも仰ってください。なんでも相談に乗りますからね。特に体調に関しては些細な変化も見逃すわけにはいきませんから」
その言葉に頷けば、ノア先生は少し安堵したように微笑んでから、改めて器具を片付け始めた。
「ジルベール様っ、これすっごく美味しいですね!僕、こんなに美味しいの初めて食べました!」
ノア先生が片付けを終えて部屋を出ると、サロモンがクッキーを咥えながら目を輝かせた。人の顔ほどはある大きさの皿に盛られた菓子は、つい一時間ほど前のお茶会で残ったもの。アベラ様からリュカ達にと、いただいたのだ。
「でも、本当に良いんですか?食べてしまっても」
「良いじゃねぇか。もうもらってんだし、ジルベール様も食い切れないだろ。じゃ、俺もいただきますね」
リュカが躊躇いがちにそう言うと、アレクサンドルは軽い調子で返して皿の上にあったクッキーを摘んだ。そしてすぐに口の中に放り込んで咀嚼する。その様子を見ていたリュカもおずおずと手を伸ばして、先程アレクサンドルが選んだクッキーと同じものを手に取った。
「い、いただきます」
律儀に食べる前にそう言って、一口大のクッキーを半分ほど齧り、ゆっくりと口を動かしている。その間にもアレクサンドルとサロモンは二枚目に手を伸ばしていて、思わず自分の頬が緩むのを感じた。
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