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5巻

5-2

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 クリフさんの話を聞いた次の日。私たちはまたお昼休みに集まっているのだけれど……。

「はぁ……」

 とうとうミシャちゃんまでクレールさんみたいなため息をつくようになってしまった。

「それにしても、これからクレールさんはどうするのかしら?」
「どうするって言っても、クリフさんがあんな感じじゃあ……」
「はぁ……クレールさんがなんだか可哀想です」

 心配と落胆を言葉にするアニエちゃん、オージェ、ミシャちゃん。私も同じ気持ちだ。
 しかし、フランだけはあっけらかんとしている。

「別にかなわぬ恋ってわけじゃないだろう? ただ、今はクリフにその気がないってだけで」
「それはそうですけど……クレールさんの性格を考えてください。自分からアプローチできるとは思えません」

 ミシャちゃんがそう言うと、フランは首を傾げる。

「そもそもクレールは本当にクリフのことが好きなのかな?」

 確かに花をもらって気になっちっゃただけだとしたら、花を渡した経緯を知って『それなら別に』ってなる可能性もあるけど……うーん、恋愛のことは本当にわからないよぅ。

「はーい、午後の授業始めますよー」

 先生が教室に入ってきて、私たちは各自の席に着いた。


 午後の授業中はずっとクレールさんのことを考えていた。そして、私はあることを決心した。
 授業の後、いつも通りみんなと特訓してから私はお屋敷に戻る。

「着替え、こちらに置いておきますね」

 いつものようにクレールさんが私の着替えを置いてくれた。
 制服から着替えながら、私はクレールさんの方を向く。

「クレールさん!」
「は、はい⁉」

 想像よりも大きな声が出てしまって、私もクレールさんもお互いにびっくりしてしまった。
 私もこんな恋愛関係のことについて聞くなんて経験がないから、緊張してしまってるのかもしれない……。

「私、クレールさんに聞きたいことがあるの……」
「え? あ、はい……ですがサキ様」
「答えたくなかったらいいの、本当に無理をしなくてもいいから……」
「いえ、それよりもサキ様!」

 いつもなら私の話を聞いてくれるのに、私の言葉をさえぎるようにクレールさんが話すなんて珍しくて、首を傾げてしまう。

「その……サキ様のお話はなんでもお聞きしますので、下を穿いてください……」
「あ……」

 上半身は着替えたけれど、下半身はスカートを脱いでそのままだった……。
 緊張のあまり空回りしてしまった恥ずかしさの中着替えを終えて、いつもお茶をしているテーブルに着く。その間クレールさんは紅茶をれてくれていた。

「それでサキ様、私に聞きたいことと言うのは……」

 カップの中の揺れる紅茶を数秒眺めて、覚悟を決めた私はがばっと顔を上げる。

「クレールさんはクリフさんのことが好きなの⁉」
「……えぇ⁉」

 クレールさんは私の質問にすごく驚いていた。
 それどころか驚きのあまりおでこに手を当てちょっとよろめいてすらいる。

「この前私が庭で声をかけた時に持っていたゼラニウムは、クリフさんがくれたものなんだよね? それでクレールさんはクリフさんにときめいちゃったの?」
「え、えーっと……」

 頬を赤くして口ごもるクレールさんに、私は意を決して言う。

「あのね……クリフさんはこの前のお花は……ただ治療をしてくれたクレールさんへのお礼に渡しただけだったんだって」
「あ、そう……だったんですか」

 真実を聞いたクレールさんは少しだけがっかりしているように見えた。

「ごめんなさい……私が変に意識するような豆知識を言っちゃったから……」

 あの時、私が赤いゼラニウムの花言葉なんて教えなければ、クレールさんも今回のことで変に意識することもなかったんじゃないかなって、私はずっと申し訳なく思っていたのだ。
 そのせいでクレールさんがこうしてがっかりしちゃうのも、すごく悲しいし責任を感じてしまう。
 しかし、そんな私を見たクレールさんは優しく微笑んだ。

「サキ様、そんな泣きそうな顔をしないでください。大丈夫です。確かに赤いゼラニウムをもらったことはとても嬉しかったですし、そのせいで最近……お恥ずかしながら少しモヤモヤしていたのも事実です。でも、クリフのことをその……好きになったのは今回の花をもらったからなんかじゃありませんよ」
「そうなの?」

 私がクレールさんの顔を見ると、クレールさんは照れ臭そうにはにかんだ。

「はい。私はもっと昔、このアルベルト家にお仕えし始めた頃からクリフのことを気になっていたんです。そうですね……それじゃあ、少しだけ私の昔のことをお話ししますね。あれは、八年前のこと――」


 ◆


「クレール、いくよ!」
「ま、待って! お姉ちゃん!」

 孤児院で育った私――クレールと姉のメアリは十歳の時に栄誉ある四公爵家の一つ、アルベルト家にメイドとして雇っていただけることになったのです。
 貴族家はたくさんの使用人が必要なので、孤児院の子供を小さい時から教育し、優秀な人材として雇い入れることは珍しいことではありません。魔法学園に行くことは叶わなくとも公爵家に仕えることができる――ただそれだけでも私とお姉ちゃんにとっては光栄で誇らしいことでした。

「私はメイド長のシルク。メアリ、クレール、早速ですが、そこの給仕服に着替えてください。着替えた後はメイドとしての基礎を覚えていただきます。これから行うべき仕事、礼節、メイドとしての心得などについて、叩き込みます。それでは、ついてきてください」

 こうして私たちはシルクメイド長に言われた通り、先輩のメイドたちの仕事を見て回り、その後に礼節のお勉強を始めたのですが――

「クレール! お辞儀の角度が浅い! もっと深くなさい! それから歩く時にやや猫背になっています!」
「は、はいぃ!」
「メアリはそのままで構いません。次は洗濯場に行きなさい。私から仕事を学ぶよう申しつかったと持ち場の者に伝えて、他のメイドの言うことをしっかり聞くように」
「はい、かしこまりました」

 私と違い、お姉ちゃんは優秀で、言われたことはすぐにこなして先へ行ってしまう。
 結局お姉ちゃんはほとんどの仕事をその日のうちに覚えてしまったのです。
 それに比べて私は……。


「それでは挨拶から」

 翌日、シルクメイド長に言われて、私は頑張って声を張ろうとするのですが……恥ずかしくて小さな声しか出せません。

「はい……行ってらっしゃいませ、旦那様」
「声が小さい! もっとはっきりと言いなさい!」
「は、はい!」

 挨拶も、お辞儀も、全然ダメで……。
 次の日も、また次の日も……何度も注意されて、仕事の覚えも悪くて……。

「私……私って……なんてダメな子なんだろう…」

 自分のダメっぷりを突きつけられて、何度も怒られて疲れてしまって。私は休憩時間に屋敷の裏の石垣の陰でしゃがみ込んで一人、泣いていました。
 公爵家に仕えることは簡単ではないと覚悟していたつもりでしたが、想像よりも遥かに大変な現実に、私は打ちのめされていました。
 しかし、そこで驚くべき出来事が起きたのです。

「おわぁ!」

 目の前に急に私と同じくらいの男の子が降ってきたのです。

「きゃっ!」

 私が身を縮こまらせていると、上から怒号が聞こえます。

「しばらくそこで反省していろ!」
「ってーな! んだよ! ちょっとミスっただけじゃんか! ……ん?」

 転ぶように着地した男の子はがばっと起き上がって、おそらく投げ飛ばしたであろう男の人に向かって叫んだのです。しかし、その男の人は去っていってしまいます。
 そこで男の子はようやく私に気が付いたのでしょう。じっとこちらを見てきました。

「なんだ? お前もなんか失敗して投げ飛ばされたのか?」
「え⁉ い、いや……失敗はたくさんしてるけど投げ飛ばされてはないかなぁ……」
「そうなのか? じゃあなんでこんなところにいんだよ」

 男の人はそう言って勢いよく起き上がって石垣にどかっと腰を下ろしました。
 私が育った孤児院は男女別に育てる方針だったので、もちろん同い年くらいの男の子と話す機会なんてありません。それはそれは緊張しました。
 そんな私の内心になどまったく気付いていないのでしょう、男の子はさらに言葉を重ねます。

「目の周りが赤いし、まさか泣いてたのか?」

 男の子にズバリと当てられて、私は無言でこくりと頷きました。
 すると男の子は首を傾げます。

「なんで泣いてんだよ? メイドなら屋敷の中で働いているから安全だし、疲れないだろ?」

 私はその言葉にカチンときて、思わず言い返しました。

「そ、そんなことないよ! お洗濯物はよろけて転んじゃうくらい重たいし、洗い物の水は冷たいし、お辞儀の角度は深すぎて腰や背中が痛くなるし、旦那だんな様や奥様を前にしたら吐きそうになるくらい緊張しちゃうんだから!」
「かー! 贅沢ぜいたくだね、俺なんて今日は無理やり訓練でいのししの前に放り出されたんだぞ! それから走り回ってやっと逃げられたと思ったらガスタスのおっさんが逃げるなって怒るしよ!」
「でも生きてるしちゃんと助けてくれてるんでしょ⁉ 私なんてこの間――」

 私と男の子は自分がアルベルト家に仕えてからどんなことがあったのか言い合いました。
 そして二人で話す内容がなくなってしばらくにらみ合うと、耐えきれずお互いについ吹き出し笑ってしまったのです。思えば、屋敷に来てから初めて笑ったのがあの時でした。
 男の子は名乗ります。

「俺はクリフ。この前アルベルト家に仕えることになった騎士見習いだ。お前は?」
「私はクレール。私も少し前に仕えることになったメイドよ」
「クレールか……よろしくな。そうだ、今度から休憩の時にここに来いよ。お互いの教育係の愚痴ぐちでも言い合おうぜ!」
「う、うん……!」

 その時のクリフの笑顔はすごく明るくて、落ち込んでた私の心を照らす太陽の光のようでした。
 それから私たちは偶然休憩時間が重なった時に、屋敷の裏で教育係の愚痴を話すようになりました。
 話を聞いてくれてそれを笑い飛ばしてくれるクリフの存在が、段々と自分の中で大きなものになっていくのを私は確かに感じていました。


 そしてアルベルト家に仕えてから半年が過ぎた頃。

「あ、いたいた。クリフ~」

 いつものように休憩時間に屋敷裏に行くと、クリフが座っていました。
 五日ぶりにクリフに会うので、私の頭の中はここ最近に起きた話したいことでいっぱいでした。今日もまたお互いの苦しさを分け合って、楽しい時間を過ごすのだと思っていたのです。
 しかし、その時クリフから告げられた言葉は、私の期待から大きく外れたものでした。

「聞いてよ、クリフ。またシルクメイド長にね――」
「なぁクレール」

 いつもなら私の話を聞いてくれるはずのクリフは、話を遮って真面目な表情を浮かべます。

「俺たち、ここでこうやって会うのはこれで最後にしよう」
「え……」

 その言葉を頭が理解できず――いや、理解はしても拒絶したかったのかもしれません。とにかく私は少しの間、声を出すことができませんでした。
 しばらくの無言の後、私はやっと声を絞り出します。

「どうして……? 私、何か気にさわることを……」
「違う。お前は何も悪くない。悪いのは全部俺だ」

 クリフはそう言いますが、尚更意味がわからなくなるばかり。私は頭を振ります。

「わかんないよ。どうしてそんなことを言うの……っ⁉」

 私はクリフの右手を掴みました。

「どうしたのこれ……」

 手甲しゅこうで隠れていたクリフの右腕は紫色にれあがっていました。

「なんでもない……ちょっと訓練で失敗をしただけだ!」

 失敗のあとを見られたくないのか、少し乱暴に私の手を振りほどいてクリフは横を向きました。

「ただの失敗でこんなことにならないよ……」

 しばらくの無言の後に、クリフは観念したようにはぁっと息を吐いて話し始めました。

「……今日の訓練の途中に、魔物が出たんだ」
「魔物⁉」

 新人騎士さんたちの訓練は王都周辺の害獣がいじゅうとなりそうなけものの討伐が主です。
 でも、クリフはまだ騎士になって日が浅い。魔物を相手にしたことなどないはずでした。

「途中で応援と魔法使いが来てくれたからなんとか助かったんだ。でも、襲われた時に俺はなにもできなかった……体が固まってみんなの足を引っ張って……ことが片付いた後に先輩の騎士に言われたんだ。『メイドと楽しくやってるだけで真面目に訓練もこなせてないんだから、動けなくて当然だ』って……」

 それを聞いて私もお姉ちゃんに言われたことを思い出しました。
『最近、騎士の子と仲良くしてるようだけどほどほどにしなさい、こっそりと殿方と会っているのはメイドとして印象が良くない』ってことあるごとに忠告されていたのです。
 でも私はそれに耳を貸さず、頭の中はクリフに早く会いたいということばかり。
 私にとって、クリフと会うこの時間は大切な時間でした。でも、それが彼を苦しめているんだと気が付いて、私の目から涙がこぼれました。
 それを見て、クリフは困ったような表情を浮かべます。

「泣くなよ。悪いのは会おうって誘った俺だし、ヘマをしたのも俺なんだ。クレールは何も悪くない」
「ごめんなさい……私、私……」

 それでも私が泣きやまないのを見かねて、クリフが私の頭をでました。
 人に頭を撫でられるなんて久しぶりのことで、私は驚きました。
 そんな私に、クリフは言います。

「クレール、それじゃあ俺と一つ約束をしよう」
「ぐす……約束……?」
「あぁ、俺は騎士として、お前はメイドとして、お互いが一人前になったらまたこうやって一緒に話をしよう。俺らが非の打ちどころのないくらい優秀になれば、何をしてたってとがめられない――そうだろう?」

 クリフは私を真っ直ぐに見つめながら言いました。
 そんな簡単なことではないとわかってはいました。それでも私はクリフと約束を交わしたのです。
 それから私たちがこれまでのように話すことはほとんどなくなりました。
 少し心が痛みましたが、これもいつか世界一温かいあの場所に戻るため――そう思うだけで頑張れました。


 ◆


「――これで私の昔話はおしまいでございます」

 ひとしきり話し終えたクレールさんは、ふぅっと息をついて私に紅茶のお代わりを淹れてくれた。
 お互い一人前になったらまた昔のように話をしよう……そんな子供の時にした約束を今でも大切に思うクレールさん。
 この美味しい紅茶も、綺麗に畳まれた服も、ちり一つない完璧な部屋も、その約束を果たすために日々努力した結果なのだと思うと、私はクレールさんのことがとても愛おしく感じられた。

「クレールさんはもう十分、一人前なんじゃないかな」
「ふふふ……ありがとうございます。でも、私なんてまだまだですよ。今でもたまに、シルクメイド長に怒られています」

 そう言って照れ臭そうに笑顔を見せるクレールさん。
 でも、九歳の私が言うのもあれなんだけど、クレールさんだってもう十八歳なんだから、恋をしたいんじゃないかな。
 この世界の結婚適齢期はだいたい十五歳から二十代前半くらいと聞いているから、クレールさんはもう結婚したっていい年齢だし……。

「クレールさんは、クリフさんとお付き合いして、結婚とかしたいなって思う?」

 私が聞くとクレールさんは困ったような笑みを浮かべる。

「うーん、そうですね。私は仕えさせてもらってるアルベルト家にとても感謝しています。クリフと結婚するとなれば、働ける時間がなくなっちゃいますし……」
「それは私が困っちゃうかも……」
「あはははっ。サキ様にそう言ってもらえると私も嬉しいです。でも、休日に二人でお出かけしたり、一緒に夜空を眺めたり……そういうことができたらきっと幸せなんだろうなと、この八年間で何度も思ってはいましたよ」
「クレールさん……そっか、話してくれてありがとう」

 メイドのお仕事はすごく大変そうだし、恋についやす時間はないのかもしれないけど、花一つでヤキモキしちゃうくらいにクレールさんはクリフさんのことを想っているんだ。
 私は紅茶を飲み終えて、クレールさんがカップを片付けに行ったのを見て部屋を出る。
 フランの部屋の前まで行って、扉をノックする。

「サキだよ」
「サキ? 入ってきていいよ」

 私が部屋に入ると、フランは机に広げられている本から顔を上げた。

「ごめん、読書の邪魔しちゃった?」

 私が聞くと、フランは本を閉じながら言う。

「いいや、ちょうど休憩しようと思っていたんだ。どうかしたかい?」
「この時間に騎士さんたちがどこにいるか、知ってる?」
「えっと……警備の任務がなければ宿舎に戻ってる頃だと思うけど……」
「わかった! ありがとう!」
「え⁉」

 私はフランの声を置き去りに部屋を出て、騎士宿舎へ向かう。
 アルベルト家の従者さんが住む宿舎は、お屋敷を出て少し歩いたところにあるのだ。
 宿舎は男性用宿舎と女性用宿舎がそれぞれ一棟ずつ建っている。
 男性用宿舎に到着し、中に入ろうとすると――

「こらこら、ここは女の子が入るような場所じゃないぞ」

 そう後ろから声をかけられたので、私は驚きのあまり飛び上がりそうになる。

「ってサキ様じゃないですか。どうしたんですか、こんなむさ苦しいところに」

 振り向くと、そこには騎士団のガスタスさんが立っていた。
 私は前のめりにガスタスさんに聞く。

「訓練が終わったばかりなのにごめんなさい……あの、今クリフさんはいますか?」
「クリフ? あいつは今日は警備の任務があるから、屋敷の方に戻ったはずですがねぇ」
「えぇ⁉ じゃあすれ違っちゃったんだ!」

 ガスタスさんの言葉に、私は思わず声を上げてしまった。
 するとガスタスさんは微笑ましいものを見たように目を細めてから言う。

「確か今日は裏門を担当しているはずですから、裏門に行ってみたらどうですか?」
「裏門ね、ありがとう!」

 私は来た道を戻ってそのまま屋敷の裏門へ向かう。
 結構時間が経っちゃってる……クレールさん、心配して捜してるかも……。

「あ、いた! クリフさん!」
「サキ様? えっと、どうされました?」

 乱れた息を整える私を見下ろしながら、クリフさんは戸惑った様子だ。
 私は単刀直入に聞くことにした。

「正直に答えて、クレールさんのことどう思ってるの?」
「昨日に続いてまた急ですね……」
「いいから教えて!」

 私が詰め寄るとクリフさんは苦笑いを浮かべながらも、答えてくれる。

「クレールは素敵な女性だと思いますよ」
「それだけ?」
「……実は昔、クレールとある約束をしたんです。その約束を果たすために俺は今も必死に訓練や仕事をこなしているつもりです。でも、まだまだなんです。俺から見てクレールはもう十分約束を果たしてくれているのに、俺はまだまだ約束を果たせていないから――」

 思わず私は口を挟んでしまう。

「でも、クレールさんはずっとクリフさんのことを想ってるかもしれないよ?」

 私が二人の事情を知っていることを察したのか、クリフさんは優しい笑みを浮かべる。

「それでも、これは俺が言い出したことなんです。それに……こんなまだまだ未熟な騎士じゃあ、クレールのことを守れないでしょう?」
「え? それって……」
「そうだろ? クレール」

 クリフさんは私の後ろに向かって声をかける。
 振り返ると、おずおずとクレールさんが出てきたところだった。
 クレールさんの顔は、前に見たゼラニウムのように真っ赤だった。

「い、いつから気付いてたの……?」

 クレールさんの言葉に、クリフさんは飄々ひょうひょうと答える。

「最初から。サキ様が来る少し前からそこにいただろ?」

 えぇ⁉ 全然気が付かなかったんだけど⁉
 クレールさんはクリフさんの質問に答える代わりに、地面を見ながら呟く。

「私は別に……守ってほしいだなんて思ってないし」

 恥ずかしそうにうつむくクレールさんは、すごく可愛かった。
 それを見たクリフさんは、私に言う。

「サキ様、大変失礼とは思いますが、少しだけクレールと二人で話をさせていただけますか?」
「え?」

 た、確かに私は邪魔者だよね……でも、この後二人がどんなお話するか聞きたい!
 でも、クレールさんの幸せのため……う~……。


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