前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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43話 揚水設備を作りました・後編

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 “アルキメディアン・スクリュー”または“アルキメデスの螺旋”と呼ばれる装置がある。
 スクリューポンプの一種で、管の内部に螺旋を作り、螺旋を回転させる事で連続的に内部の物体を上方へと移動させる装置だ。
 今回じーさんや棟梁に作ってもらったホンプが正にそれだった。
 このポンプは、効率こそ低いが構造自体は単純で、何より液体の搬送に適していると言う性質があった。
 正確にはその派生型に当たる代物なのだが、原理はまったく一緒だ。
 魔術を使わない、物理による揚水機……それが、今、俺の目の前にある物体の正体だった。
 これは貯水池で使っていた竹と同様のものを、螺旋状に加工して繋ぎ合わせた物なのだが、その外見は一見すると緑色のコイルスプリングの様にしか見えない。
 台座に乗せる部分だけは、その周囲を細く裂いた竹で囲って強度を上げている。
 部分的なのは、全体重量を軽くするのが目的だ。
 斜面に設置すると言う事で、ずり落ちない様に台座に引っかかるように返しもしっかり備えていた。
 台座は木材の端材や余っていたレンガ、それに竹材などを用いて造られている。
 螺旋の直径はそこそこ大きく、子どもサイズの俺では両手を回しても届かないくらいには大きかった。
 これは、円周を大きくする事で、一度に汲み出せる水量を少しでも多くするため、と言う目的があった。
 このスクリューポンプは性質上、使用するに当たってある程度の傾きを必要とした。
 これは重力を利用する事で、内部の水に螺旋の坂道を登らせているからなのだが、そのために、実際に揚水している部分は螺旋の中心線の下半分側だけで、残りの上半分は空洞となっているのだ。
 つまり、螺旋の半径を大きくすれば、それだけで水を溜める事が出来るバケット部分を大きくする事が出来る、と言う訳だ。
 そして、もう一つ。
 これは、単純に加工する竹への負担の軽減だ。
 屈曲半径が小さい……つまり、小さい円を描くようにして竹を曲げた場合、角度がきつくなり過ぎて竹が折れてしまう恐れがあるからだ。
 折れる事を回避するためにも、ゆったりと大き目の弧を描けるようにした、と言う事だな。

 未完成の魔術陣の加工は、ものの数十分ほどで完了した。

「うっし……これで完了っと……」
 
 俺は、魔術陣が完成した台座に、マナを供給して回った。
 そして、全ての台座にマナを供給すると、俺は一度斜面を上がってじーさんたちの所まで戻ったのだった。

「おっ? 終わったのか?」
「ああ。もう少しすれば動き始めると思うよ」

 俺が斜面を登りきると、じーさんがそう声を掛けてきた。
 そこにはじーさん以外にも、このポンプの製作に携わっていた人たちの姿があった。
 正直、設置が完了した時点で機体ハードとして手を加える部分はないのだが、もし何か不測の事態が起きた場合、少人数だと心許ないので待機をお願いしていたのだ。

 待つ事数分……

 何をするでもなく、じっとみつめる一同の前で、台座の上に載っている大型の竹ポンプはゆっくりと……ほんと~にゆっくりと回転・・を始めた。
 先ほど完成させた魔術陣は、このポンプを回転させるためのものだった。

「「「「おおぉぉっ!!」」」」

 ポンプが動き出すやいなや、辺りから一斉に歓声が沸いた。
 お前らこんなんしょっちゅう見てるだろうが、俺の愛車クララとかさぁ……と、思ったがこの場にいる者の中に、移住組みが少なくない人数が混じっている事に気がついた。
 歓声は、主に彼らのものだった。
 移住組みがこの村に戻ってきて、もう一ヶ月ほどが経っていた。
 この村で生活を送るうえで、魔術陣を用いたランプやコンロなんかの魔道具を見たり使ったした事がある者は多いだろう。
 が、しかし愛車クララの様な実際に動作する物を見た事がある、と言う者は意外と多くなかったりする。
 銭湯の工事中に散々乗り回していたが、作業に当たっていた場所次第では、一度も見る機会がないからだ。
 それに俺の家自体、村の端っこの方にあるので、ウチから遠くに住んでいる人たちは中々お目にかかれなかったりする。
 何かの作業中や移動中の愛車クララを見る事が出来た移住組みの人は、運が良い方と言えるだろう。

「本当に、こんなんで水が汲めんのかぁ?
 ちっとも、出てこねぇじゃねぇかっ!」
「今、動き出したばかりでしょ、おじいちゃん……」

 まだ一周もしてないのに、ウチのじー様と来たらどんだけせっかちなんだよ。

「時間が掛かるものなのか?」
「ええ、最初だけはどうしても……
 量と速さを犠牲にして、確実性を取っているのでその分、多少時間が掛かります。
 でも、一度配水が始まれば、そこからは継続的に水が供給されるようになるので、それまでの辛抱ですね。
 実際、ちゃんと動くところを確認したいので、棟梁たちには申し訳ないですけど、不測の事態に備えてこのまま待機をお願いします。
 もし、水漏れとかしていたら補修をしなければいけませんから。
 暇かもしれませんが、よろしくお願いします」
「いや、そうでもない様だぞ」

 俺がペコリと棟梁に頭を下げると、棟梁からはそんな言葉が返ってきた。
 どういう意味かと思い、棟梁へと視線を向けると、棟梁は視線だけで“あっちを見ろ”と促してきた。
 その先は、今尚、ゆっくりと回転するポンプ……の前に群がっている人だかりだった。
 何時の間に……
 何がそんなに楽しいのか知らないが、多くの者たちが回る竹パイプを見て、“すげーぇ!”だとか“どうなってんだ?”とか口々にこぼしていた。
 その光景を見ていて、ふと、ただ人形がグルグル回るだけのオモチャを見てはしゃぐ子どもの様だと思ってしまった……

「で、ここは誰が世話をするんだ?」

 群がるでっかい子どもを見ていた俺に、棟梁は横から声をかけてきた。

「世話? ですか?」
「ああ。
 風呂屋にはテオやダリオを置いているだろう?
 俺は詳しくは知らんが、あの施設を維持するには定期的に魔力を与えなくてはいけないと聞いた。
 こいつにはどう見ても、あれと似た雰囲気がある……
 だから、ここにもそう言った、魔力を管理する者が必要なのではないか、と思ったのだが……
 違うのか?」

 棟梁のそんな疑問に、俺は笑いが込み上げて来るのを抑える事が出来なかった。

「……ぐっ、ぐっふっふっふっふぅ~!
 よくぞっ! よくぞ、聞いてくれましたっ!!」
「おっ、おう……」

 何を隠そう今回一番頭を捻ったのが、正にその部分だったのだ。
 今回、揚水機本体には一切の魔術的加工は施していない。
 完全にじーさんと棟梁にお任せだった。
 勿論、それだけでは動かないので、肝心の駆動部に関しては俺が監修している。
 これでも、いろいろと条件が厳しいうえ、新しい技術を導入するとあって、結構大変だったのだ。
 とは言っても、実際は窯元のじーさんや棟梁たちに図面を渡して、指定した物を作って、指定通りに組んでもらっただけなので、頭脳労働的に大変だった、と言う事だな。

「なんとっ! 今回の商品は、“メンテフリー”で動きます!
 魔力マナ供給も一切不要なのですっ!」
「めてんふり……? なんだそれは?」

 あっ、いかん……つい日本語で言ってしまった…… 

「“めてんふり”じゃありません。“メンテフリー”です。
 整備・保守などの手間が一切不要な事をそう言うのです」
「ほぉ……それはすごいな……」

 正確には、まったくのフリーではなくたまに掃除とか、壊れている所がないかのチェックくらいはする必要があるかもしれないが、少なくともマナを供給するために、わざわざ足繁くこの場所まで来る必要はない。

「しかし、どうやって?」

 棟梁は当然の疑問を口にした。
 このポンプは“動力がなくても動きます”、そう言われたのだから疑問に思って当たり前だろう。

「棟梁は、石で出来たランプって使った事ってありますか?」
「ん? ああ、親父の家にあった物を何度かな……
 だが、それがどうした?」

 話題を摺り返られたと思ったのか、棟梁がやや怪訝な顔をして俺を見下ろしていた。
 しかし、とんでもない誤解だ。
 むしろこれから話すのが本質だと言うのに……

「あれは、人から魔力マナを吸い取って、魔術陣で光に変換しているんですよ。
 では、その魔術陣に光を当てたらどうなると思いますか?」
「? 何を言っているんだお前は?」

 あらま……
 やはり、この手の話は普通の人には難しいのだろうか。
 棟梁は、唯でさえ皺の寄っている眉間に更に皺を寄せていた。

「え~、とですね……
 魔力マナによって光を生み出す事が出来ると言う事は、逆に光から魔力マナを生み出す事も可能だと言う事なんですよ」

 正直、魔術陣に可逆性があるなんて思ってもみなかった。
 これはモーターと発電機の関係に近いのだと思う。
 モーターに電気を流せば、軸は回転し動力を得ることが出来る。
 逆に、止まっているモーターの軸にどんな方法でも良いから回転力を加えれば発電する事が出来る。
 余談ではあるが、この回転方法の違いが、発電方法の違いなのである。
 風の力を使ってプロペラを回せば風力発電。
 水が流れ落ちる力を使って水車を回せば水力発電。
 大量の水を熱して、出来た蒸気の力によってタービンを回すのが火力発電だ。
 原子力発電は、やっている事自体は火力発電と大差はない。
 ただ、水を熱する熱源に石油を使うか、原子核分裂時に発生する熱エネルギーを使っているのかの違いくらいなものだな。
 少し脱線したが……
 つまり、この魔術陣にも同じような事が起きている、と言う事なのだ。
 この発見は、ただの気まぐれから生まれた物だった。
 魔術陣の魔術発動までのプロセスは、あくまで1から順に処理をして行き、最終工程をクリアすることで発動する。
 魔術の種類を指定し、範囲を決め、消費するマナの量を定めて、力の方向を決定する。
 円運動のような、力の向きが一定でないものに関しては、さらに別にそれらを決定するプロセスを組まなければいけないが、それでも必ずからに順を追って処理をされる。
 突然下から上に向かって処理が逆流する事はない。
 だから、そのまま石ランプに光を当ててもマナを生み出す事は出来ない。
 だが……
 元々のプロセスの流れ自体を、逆に書いたらどうなるのか……
 つまり、止まっているモーターの軸を無理やり回してみたのだ。
 結果、俺は光からマナを生成する事に成功した。
 ただし、ロスが大きいらしく得られるマナはとても微量で実用価値はまだ低い。
 例えば、1のマナを使って、1の光量を発生させたとする。
 そして、その1の光量でマナを生成した場合、生み出されるマナの量は0.1くらいにまで減じてしまうのだ。
 生成量は微量ではあっだ、ソーラーパネルよろしくほぼ無尽蔵にマナを作り出す事が出来る点は魅力的だった。
 特に、こう言った人の手が届き難い所には尚更だ。
 生成量の方ではまだ効率化が望めないので、駆動部分の方を徹底的に効率化を図る事にした。
 少量のエネルギーでも、安定したトルクを得られるようになった代わりに、速度はご覧の通りだがこれで理論上は日が出ている限りは、このポンプは動き続ける事が出来ると言う訳だ。
 今回は初回起動と言う事で、時短も兼ねてこちらから供給したが、明日からは放置になるだろう。

 と、言うような事を棟梁に話したのだが、“ほぉ”とか“ふむ”とか“なるほどな”と言う気のない言葉が返って来ただけで、反応はイマイチだった……
 ってか、棟梁……あんた実は俺が話した内容の半分も分かってないだろ?
 神父様とこの事実を発見した時は、そりゃもう、抱き合って喜んだものだが……あっ、別に変な意味じゃないからな?
 こう……何と言うか、こちらの感動が棟梁にはあまり伝わっていない様で、ちょっと寂しかった……

「「「「おおおおおぉぉ!!!!」

 なんて事を、棟梁と話していたら一際ひときわ大きな歓声が聞こえてきた。

「おいっ! ロディフィス! 水が出てきたぞぉ!」

 どうやら、ようやく水がこの高さまで揚がってらしい。
 棟梁との話を切り上げると、俺も早速ポンプの所へと向かった。
 人だかりを掻き分けて、なんとか貯水池の前へと辿り着く。
 ってか、お前ら水が出るまでずっとポンプが回ってるところを見てたのかよ……目を回しても知らんぞ?
 そこでは、竹ポンプがゆっくりと回転しながら、一定タイミングで水を吐き出していた。
 ここは配水のスタート地点と言う事で、他の貯水池に比べて大きさは半分もない小さなものだった。
 だが、他の所の様にただ穴を掘ったのではなく、貯水池の周囲をレンガで囲い、底には砂利が敷き詰められていた。
 頻繁に来る事も出来ないので、魔術陣による補強が出来ないのだ。
 なので、通常の補強方法を取る事にした。
 マナソーラーでマナを供給出来ないか、とも思ったのだがどうにもうまくいかない。
 どう言う訳か、マナソーラーによって生み出されたマナは通常のマナと違って、なんと言えばいいのか
“弱い”のだ。
 マナ生成の魔術陣を大量に生産して、生成されたマナを別の場所に送ろうにも、途中で消えてしまう。
 また、石などの鉱物に一時的に留めようとしても、入れた端から抜けてしまうのだ。
 故に、駆動回路の中に直接書き込む以外に、現状使い道はない。
 便利な様で、意外と使い勝手は悪いのだ。 

 それからしばらくは様子見と言うことで、吐水口前だけではなく全体的に不具合や破損の恐れがないかを入念にチェックして、その日はお昼を前に解散となった。

 翌日……

 一応、朝一でポンプの様子を見に行くと、勢いこそないもののゆっくりと、確実に動いていた。
 貯水池には水をなみなみと湛え、竹の配管を伝って村の貯水池へと向かって流れて行っていた。
 俺もまた、村の貯水槽の様子も確認するためにこの小高い丘を下ることにした。

「おうっ! 早ぇな、ロデ坊!」
「ちぃーっす」
「ロディ、ちゃんとここまで水来てるぜ!」
「おお、そいつは良かったな」
「ロディフィス、この水路を造るって言い出したのはお前らしいな?
 風呂屋の時もそうだが、たいしたもんだよお前は」
「まぁ、それほどでもあるけどね。
 ってか、実際風呂屋も水路も造ったのはほとんど土建組みのやつ等だからさ、今度棟梁に会った時にでもちゃんと礼を言っとけよ」
「だっはっはっ! ちげーねぇなっ!
 っしかし、あの不良坊主が“棟梁”ねぇ……時間は人を変えるって言うが……いやはや……」

 ちょっ、何それ? 棟梁が不良だったって何?
 チョー気になるんですけどっ!
 棟梁の若い頃の話が聞きたかったが、それはまたの機会にすることにして、俺は村の各貯水池をチェックして回った。
 行く先行く先で、村人たちから声を掛けられたのが多少鬱陶しくはあったが、皆嬉しそうなに話しかけてくるので邪険にも出来ない。
 あの水やり地獄から開放されて、皆余程嬉しいと見える。
 そうまで喜ばれるなら、作った甲斐があると言うものだ。
 ちなみに、人力による畑の水やりは、小さな穴が沢山あいた桶に水を注いで、それを天秤棒につるして畑の中を歩くと言う方法で行っている。
 一度やってみた事があったが、今の俺では無理だった。
 あの時は、肩が外れるかと思ったぞ……

 貯水池に特に問題らしい問題はなかった。
 ってか、いつの間にか人が貯水池に落ちないように簡単な柵まで出来ていた。
 たぶん、作ったのはクマのおっさんだろう。なんとなくだけど……
 竹配管の水路は何処かで詰まることもなく、一番下の貯水池までしっかり水が来ていた。
 ただ、一番下とあって他のところの様に貯水池が一杯になるほどの水は溜まっていなかったが、これも昼頃には一杯になりそうだった。
 ここから先にもう貯水池はない。
 この貯水池が一杯になったら、溢れた水は川へと帰る事になるのだ。
 一通りのチェックを終えると、俺は元来た道を戻り帰路へと就いた。
 おかげでまたいろんな人から声を掛けられる羽目になった訳だが……
 鬱陶しくはあったが、悪い気はしなかった。

 結局、この年は収穫を迎えるまで雨は降らず、この灌漑かんがい設備は村人から大変重宝される事になったのだった。
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