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68話 押しかけられるその前に
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「すまんっ! ロデ坊! こんなんにしちまった……」
「わぁお……」
そう言ってガゼインおじさんが俺に返してくれた治術陣は、ものの見事にボロボロになっていた……
この紙、パピルス紙みたいなものだから耐久性だけなら、普通の和紙や洋紙より丈夫なんだけどなぁ……
……一体どうすれば数日でこうもボロボロに出来るのか。
俺はあいさつ回りの帰りにミーシャの家に寄っていた。
目的は勿論、牛に貼りっぱなしになっていた治術陣を回収するため、そしてガゼインおじさんから詳しい話を聞くためだ。
村で出回っている“体調がよくなる札”、それは間違いなく治術陣のことだろうとは思っていた。
今、村でそんなことが出来るものといったら、これくらいしかないからな。
となれば、出所はここ以外にはない。
で、なんで治術陣が出回っているのかその経緯やらなんやらの話を聞いたら、最後にこのボロボロになった治術陣が出て来たって訳だ。
「ホント、悪りぃな……こんなボロボロにしちまって……」
「いや、別にそれはいいんだけどさぁ……こんなん直ぐに作れるし、所詮試作品だし」
「そっ、そうか……? ならいいんだが……」
最初は本当にだだの思い付きだったらしい。
たまたま知人の男性が、体調不良を訴えていたものだから、ものは試しに治術陣を貸したらしいのだ。
牛が治術陣で元気になったのを見ているガゼインおじさんは、同じように人間にも効果がある、と思ったようだが……
しかし、普通に人間相手に使うとは思わなかった……まだ実験中で何が起こるか分からんというのに……
だがまぁ、今回の一件はガゼインおじさんだけを責めることも出来ないんだよなぁ。
俺だって別に“実験中だから人に使ってはいけません”とか、諸注意を予め言っていた訳ではもないしな。
何でもそうだが、使用者が設計者の意図しない使い方をする、なんてのはその道では常識とされていることだ。
故に、設計者は常に最悪を想定して設計しなければならない訳なのだが……
例えば、こんな話がある。
稼働しているプレス機に手を突っ込んだら危険だ。
なんて事は誰だって分かる事だが、この稼働しているプレス機に手を突っ込んで、手を切断してしまった、という事故がとある所であった。
で、対策としてプレス機の可動域に、作業者が手を入れられないようにカバーが付けられたのだが……
その隙間を縫って手を突っ込んだ者が現れ、同じような事故が起きてしまった。
結果、カバーは二重になリましたとさ。
と、いう話があるくらい、使用者というのは設計者の斜め上を行くものなのだ。
まぁ、全員が全員そういう使い方をしている、とは言わないけどさ……
そういう使い方をする人も中にはいますよってことだ。
そういう意味では、こうなる事を想定していなかった俺のミスだろう。
破術陣のような、見るからに危険なものでもなかったので危機管理の意識が希薄になっていたことは否めないしな……反省だ。
なので、一概にガゼインおじさんだけを責められないのだ。
不幸中の幸いとして、人間に使って体調不良などの悪影響が出ていない、ということだろうか。
まぁ、元々牛で成功しているのでそんなに酷いことになるとも思ってはいなかったが、万が一ということもあるからな。
だが、奇しくも思わぬところで人体実験が済んでしまった訳か……
ガゼインおじさんもその効果を実感しているようだし、件の知人の男性とやらなどは翌日から見るからに体調が改善されたという。
一度会って、どんな感じなのか話を聞いてみたいものだな……って、自分で試してみればいいのか?
今回の件で安全は保障されている訳だし。
で、なぜに治術陣がこんなにズタボロになっているのかというと……
例によって例の如く、ガゼインおじさんとその知人の男性によって、治術陣の効果が吹聴された結果、“なら次は自分が”と軽い奪い合いになってしまったらしいのだ。
奪い奪われ、人の手を行ったり来たりしているうちにこの様に……ということらしい。
しかも、書いてあった術式が所々掠れて消えてしまった所為で、今はただの紙切れに戻ってしまっている始末。
だが、これもまたあまり彼らを責められないんだよなぁ……
本来なら、出所が俺であると分かった時点で洗濯機の時の様に大挙して家へ押しかけて来てもおかしくはなかったのだが、俺が怪我をして安静中なのは村中の人が知っていることだったため、そこは自重してくれたようなのだ。
そのため、現物一つの取り合い、となってしまったらしい。
今日のあいさつ回りで感じた視線というか、違和感はこれだったんだな。
みんな俺に、治術陣の制作を頼んでいいものかどうか迷っていた、ってことなんだろうと思う。
まったく、有難いのか迷惑なのかよく分からん話だ。
しかし……
以前、洗濯機の騒動の時の元凶は確かノーラおばさんだったような……
……いや、何も言うまい。
別に“迷惑な夫婦だなぁ”なんてこれっぼっちも思ってないからな?
試作実験品、とはいえここまで広まってしまった以上放っておくと、本当に洗濯機事件の二の舞になりかねないので、何か先手を打っておく必要はありそうだ。
俺はガゼインおじさんに別れを告げると、自宅に帰って対策を思案することにした。
翌日……
「……ってなことになっているらしいんですよ」
朝一から教会の書庫で、俺は昨日の出来事を神父様に話していた。
一時間目の授業はもうとっくに始まってしまっていたが、語学の授業を免除されている俺には関係のない話だ。
二時間目の算数の時間までは、俺の自由時間である。
しかし……
ここに来るのも随分と久しぶりのような気がするな……何日振りだろうか?
ああ、インクと紙の匂いが懐かしい……
「ええ、その話なら私も聞きましたよ。
とは言っても、私も知ったのは昨日のことですが……」
神父様がその話を聞いたのは、昨夜、大衆浴場で夕食をとっていた時のことだったらしい。
神父様は、基本的には教会に詰めていることが多いので村人との接点は思いの外多くはないらしく、そういったウワサ話の類には疎いとのことだった。
まぁ、村の人が教会に来るのなんて、神父様に何かしらの用事がある時くらいなものだ。
その“何かしらの用事”ってのも相談事ばかりで、わざわざ世間話をしにくるためだけに教会に顔をだすのなんて村長くらいなものだった。
その村長だって、別に頻繁に訪れている訳でもないしな。
それにたとえ、道端でばったり出くわしても、ほとんど挨拶だけで終わってしまうのだとか。
別に村の人たちが神父様を嫌って避けている、という訳ではないだろうが、何かこう……気軽に近寄りがたい何かがあるのかもしれないな。
“高貴”とか“偉い人”みたいな?
休日に会社の社長にばったり出くわした時みたいな気まずさ……みたいな?
……違うか。
「でも、珍しいですね。
神父様があそこでご飯を食べるなんて」
神父様の食生活は、基本自炊だ。
自分の食事は自分で用意するのも、ある種の修行なんだとか。
食材となった命に対しての感謝がどーの、と以前話していたことがあったな。
「いや、恥ずかしい話なのですが、最近は割と通っているんですよ」
“あれは大変危険な制度ですね……自分が堕落しているのが分かりますよ”と、神父様はバツが悪そうに笑って見せた。
別にそこまで気にするほどの事でもないだろうに……
男の一人暮らしなんて大体そんなものだ。
俺だって前世では、コンビニ弁当やスーパーの総菜もしくは弁当屋にずいぶんと世話になったものだ。
おかげで体重が素敵なことになっていたが、あれは売っている弁当がおいしいのがいけないんだ。
うん、そうだ。そうに違いないっ!(責任転嫁)
あっ……でも、修行中の坊さんがコンビニで弁当を買っていたとしたら、何か違和感が……
まぁいいか。深くは考えまい……
「それで、これからどうするのですかロディフィス?
このままほったらかし、という訳にもいかないでしょう?
まぁ、キミのことですから、何か案があるとは思いますが……」
「はい。
実は神父様から意見をもらえればと思って、一応草案……というか、いくつかアイデアをまとめたものを用意してあるんですよ。見てもらえますか?」
「ええ、私でよろしければ喜んで」
という訳で、俺は昨日突貫工事で仕上げた企画書を神父様へと手渡した。
「……ふむ、ふむ……ほぉ……なるほど……
つまり、符として配布するのではなく、同等の機能を有した器具を作り設備しよう、ということですか?」
「はい。
札は配るにはコスト的な問題もありますし……」
紙は結構高価な品物だ。
それを村人に配るほど用意するとなると、馬鹿にならない金額が掛かってしまうことになる。
ましてやいくら比較的丈夫なパピルス紙もどきとはいえ、紙である以上耐久力には限界がある。
破れたり、破損したりする傍から新しく用意していたのでは出費がかさむばかりだ。
そして何より最も重要なのが……
そんなに沢山作るのがしんどいわっ!
一枚一枚用意していたら何枚書くことになるやら……
まぁ、スタンプでも作れば量産することも可能だろうが、だからといって紙の費用の問題が解決する訳でもない。
「それに、ガゼインおじさんの例もあるので、なるべく携帯出来るようにはしたくなかった、というのもありますね」
お手軽簡単に使えてしまうと、どんな問題が起こるか分かったものではないからな。
なるべく利用方法を限定して、想定外の使われ方を防止する必要があったのだ。
「賢明な判断だと思いますよ。
問題が起きてからでは遅いですからね。
しかし……ガゼインの一件は迂闊でしたね……
私もあの場にいたのに、その可能性に思い至らなかった……
私がもっとしっかり気に留めていればこのようなことには……すみません、ロディフィス」
神父様が急に俺に向かって頭を下げるものだから、俺は慌ててそれを遮った。
「そんなっ! 別に神父様の所為って訳でもないでしょう!?
俺がもっと気を付けていればよかっただけの話なんですから!」
飲み屋の支払いで“ここは私が!”“いいえ、私が!”みたいな不毛なやり取りを少しして……
「……では、こうしましょう。
これからはお互いより一層気を付けていく、ということで」
「ですね……」
と、いう感じで決着が着いた。
一体なんだったのか、このコント。
まったく……神父様は真面目過ぎるのが玉に瑕なんだよなぁ。
「で、どうですかね? それ」
「そうですね……
ええ、いいと思います。
特に問題はないと思いますが……ただ」
「ただ?」
「設備に対する説明は書かれていますが、設置する場所や利用方法・運用方法については書かれていないのですね……」
「はい……そこはいろいろな人の意見を聞いた上で、どうするのが一番いいかを考えようかと思いまして……
で、ですね……出来れば神父様にも協力して頂ければと思うのですが……」
正直、一人で進めるにはちと規模が大きな話になりそうだったので、俺は神父様に協力を仰ぐことにした。
協力者を増やして、頭脳労働の負担を軽減しようする算段だ。
ちなみに、肉体面の労働に関しては既に巻き込む人間は決めていた。
うちのじーさんとか、棟梁とか、クマのおっさんとかなっ!
断られたらどうしようか……という不安もあったが、
「ええ、私なんかでよければいくらでも」
なんともあっさり俺は神父様からの協力を得ることが出来た。
と、いう訳で本日から治術陣・健の開発に取り掛かることにした。
“健”は健康の“健”で、健やかの“健”だ。
治療目的というよりは、健康促進・維持を目的としたものだが、本格的な治術陣を開発する前の肩慣らしには丁度いいかもしれないな。
それに、俺の怪我がほぼ回復してることは村の連中も薄々は感づいているだろうから、ちゃちゃっと作らないとまた家に押しかけられるかもしれないからな……
流石にあれはもう勘弁して欲しいからなっ!
「わぁお……」
そう言ってガゼインおじさんが俺に返してくれた治術陣は、ものの見事にボロボロになっていた……
この紙、パピルス紙みたいなものだから耐久性だけなら、普通の和紙や洋紙より丈夫なんだけどなぁ……
……一体どうすれば数日でこうもボロボロに出来るのか。
俺はあいさつ回りの帰りにミーシャの家に寄っていた。
目的は勿論、牛に貼りっぱなしになっていた治術陣を回収するため、そしてガゼインおじさんから詳しい話を聞くためだ。
村で出回っている“体調がよくなる札”、それは間違いなく治術陣のことだろうとは思っていた。
今、村でそんなことが出来るものといったら、これくらいしかないからな。
となれば、出所はここ以外にはない。
で、なんで治術陣が出回っているのかその経緯やらなんやらの話を聞いたら、最後にこのボロボロになった治術陣が出て来たって訳だ。
「ホント、悪りぃな……こんなボロボロにしちまって……」
「いや、別にそれはいいんだけどさぁ……こんなん直ぐに作れるし、所詮試作品だし」
「そっ、そうか……? ならいいんだが……」
最初は本当にだだの思い付きだったらしい。
たまたま知人の男性が、体調不良を訴えていたものだから、ものは試しに治術陣を貸したらしいのだ。
牛が治術陣で元気になったのを見ているガゼインおじさんは、同じように人間にも効果がある、と思ったようだが……
しかし、普通に人間相手に使うとは思わなかった……まだ実験中で何が起こるか分からんというのに……
だがまぁ、今回の一件はガゼインおじさんだけを責めることも出来ないんだよなぁ。
俺だって別に“実験中だから人に使ってはいけません”とか、諸注意を予め言っていた訳ではもないしな。
何でもそうだが、使用者が設計者の意図しない使い方をする、なんてのはその道では常識とされていることだ。
故に、設計者は常に最悪を想定して設計しなければならない訳なのだが……
例えば、こんな話がある。
稼働しているプレス機に手を突っ込んだら危険だ。
なんて事は誰だって分かる事だが、この稼働しているプレス機に手を突っ込んで、手を切断してしまった、という事故がとある所であった。
で、対策としてプレス機の可動域に、作業者が手を入れられないようにカバーが付けられたのだが……
その隙間を縫って手を突っ込んだ者が現れ、同じような事故が起きてしまった。
結果、カバーは二重になリましたとさ。
と、いう話があるくらい、使用者というのは設計者の斜め上を行くものなのだ。
まぁ、全員が全員そういう使い方をしている、とは言わないけどさ……
そういう使い方をする人も中にはいますよってことだ。
そういう意味では、こうなる事を想定していなかった俺のミスだろう。
破術陣のような、見るからに危険なものでもなかったので危機管理の意識が希薄になっていたことは否めないしな……反省だ。
なので、一概にガゼインおじさんだけを責められないのだ。
不幸中の幸いとして、人間に使って体調不良などの悪影響が出ていない、ということだろうか。
まぁ、元々牛で成功しているのでそんなに酷いことになるとも思ってはいなかったが、万が一ということもあるからな。
だが、奇しくも思わぬところで人体実験が済んでしまった訳か……
ガゼインおじさんもその効果を実感しているようだし、件の知人の男性とやらなどは翌日から見るからに体調が改善されたという。
一度会って、どんな感じなのか話を聞いてみたいものだな……って、自分で試してみればいいのか?
今回の件で安全は保障されている訳だし。
で、なぜに治術陣がこんなにズタボロになっているのかというと……
例によって例の如く、ガゼインおじさんとその知人の男性によって、治術陣の効果が吹聴された結果、“なら次は自分が”と軽い奪い合いになってしまったらしいのだ。
奪い奪われ、人の手を行ったり来たりしているうちにこの様に……ということらしい。
しかも、書いてあった術式が所々掠れて消えてしまった所為で、今はただの紙切れに戻ってしまっている始末。
だが、これもまたあまり彼らを責められないんだよなぁ……
本来なら、出所が俺であると分かった時点で洗濯機の時の様に大挙して家へ押しかけて来てもおかしくはなかったのだが、俺が怪我をして安静中なのは村中の人が知っていることだったため、そこは自重してくれたようなのだ。
そのため、現物一つの取り合い、となってしまったらしい。
今日のあいさつ回りで感じた視線というか、違和感はこれだったんだな。
みんな俺に、治術陣の制作を頼んでいいものかどうか迷っていた、ってことなんだろうと思う。
まったく、有難いのか迷惑なのかよく分からん話だ。
しかし……
以前、洗濯機の騒動の時の元凶は確かノーラおばさんだったような……
……いや、何も言うまい。
別に“迷惑な夫婦だなぁ”なんてこれっぼっちも思ってないからな?
試作実験品、とはいえここまで広まってしまった以上放っておくと、本当に洗濯機事件の二の舞になりかねないので、何か先手を打っておく必要はありそうだ。
俺はガゼインおじさんに別れを告げると、自宅に帰って対策を思案することにした。
翌日……
「……ってなことになっているらしいんですよ」
朝一から教会の書庫で、俺は昨日の出来事を神父様に話していた。
一時間目の授業はもうとっくに始まってしまっていたが、語学の授業を免除されている俺には関係のない話だ。
二時間目の算数の時間までは、俺の自由時間である。
しかし……
ここに来るのも随分と久しぶりのような気がするな……何日振りだろうか?
ああ、インクと紙の匂いが懐かしい……
「ええ、その話なら私も聞きましたよ。
とは言っても、私も知ったのは昨日のことですが……」
神父様がその話を聞いたのは、昨夜、大衆浴場で夕食をとっていた時のことだったらしい。
神父様は、基本的には教会に詰めていることが多いので村人との接点は思いの外多くはないらしく、そういったウワサ話の類には疎いとのことだった。
まぁ、村の人が教会に来るのなんて、神父様に何かしらの用事がある時くらいなものだ。
その“何かしらの用事”ってのも相談事ばかりで、わざわざ世間話をしにくるためだけに教会に顔をだすのなんて村長くらいなものだった。
その村長だって、別に頻繁に訪れている訳でもないしな。
それにたとえ、道端でばったり出くわしても、ほとんど挨拶だけで終わってしまうのだとか。
別に村の人たちが神父様を嫌って避けている、という訳ではないだろうが、何かこう……気軽に近寄りがたい何かがあるのかもしれないな。
“高貴”とか“偉い人”みたいな?
休日に会社の社長にばったり出くわした時みたいな気まずさ……みたいな?
……違うか。
「でも、珍しいですね。
神父様があそこでご飯を食べるなんて」
神父様の食生活は、基本自炊だ。
自分の食事は自分で用意するのも、ある種の修行なんだとか。
食材となった命に対しての感謝がどーの、と以前話していたことがあったな。
「いや、恥ずかしい話なのですが、最近は割と通っているんですよ」
“あれは大変危険な制度ですね……自分が堕落しているのが分かりますよ”と、神父様はバツが悪そうに笑って見せた。
別にそこまで気にするほどの事でもないだろうに……
男の一人暮らしなんて大体そんなものだ。
俺だって前世では、コンビニ弁当やスーパーの総菜もしくは弁当屋にずいぶんと世話になったものだ。
おかげで体重が素敵なことになっていたが、あれは売っている弁当がおいしいのがいけないんだ。
うん、そうだ。そうに違いないっ!(責任転嫁)
あっ……でも、修行中の坊さんがコンビニで弁当を買っていたとしたら、何か違和感が……
まぁいいか。深くは考えまい……
「それで、これからどうするのですかロディフィス?
このままほったらかし、という訳にもいかないでしょう?
まぁ、キミのことですから、何か案があるとは思いますが……」
「はい。
実は神父様から意見をもらえればと思って、一応草案……というか、いくつかアイデアをまとめたものを用意してあるんですよ。見てもらえますか?」
「ええ、私でよろしければ喜んで」
という訳で、俺は昨日突貫工事で仕上げた企画書を神父様へと手渡した。
「……ふむ、ふむ……ほぉ……なるほど……
つまり、符として配布するのではなく、同等の機能を有した器具を作り設備しよう、ということですか?」
「はい。
札は配るにはコスト的な問題もありますし……」
紙は結構高価な品物だ。
それを村人に配るほど用意するとなると、馬鹿にならない金額が掛かってしまうことになる。
ましてやいくら比較的丈夫なパピルス紙もどきとはいえ、紙である以上耐久力には限界がある。
破れたり、破損したりする傍から新しく用意していたのでは出費がかさむばかりだ。
そして何より最も重要なのが……
そんなに沢山作るのがしんどいわっ!
一枚一枚用意していたら何枚書くことになるやら……
まぁ、スタンプでも作れば量産することも可能だろうが、だからといって紙の費用の問題が解決する訳でもない。
「それに、ガゼインおじさんの例もあるので、なるべく携帯出来るようにはしたくなかった、というのもありますね」
お手軽簡単に使えてしまうと、どんな問題が起こるか分かったものではないからな。
なるべく利用方法を限定して、想定外の使われ方を防止する必要があったのだ。
「賢明な判断だと思いますよ。
問題が起きてからでは遅いですからね。
しかし……ガゼインの一件は迂闊でしたね……
私もあの場にいたのに、その可能性に思い至らなかった……
私がもっとしっかり気に留めていればこのようなことには……すみません、ロディフィス」
神父様が急に俺に向かって頭を下げるものだから、俺は慌ててそれを遮った。
「そんなっ! 別に神父様の所為って訳でもないでしょう!?
俺がもっと気を付けていればよかっただけの話なんですから!」
飲み屋の支払いで“ここは私が!”“いいえ、私が!”みたいな不毛なやり取りを少しして……
「……では、こうしましょう。
これからはお互いより一層気を付けていく、ということで」
「ですね……」
と、いう感じで決着が着いた。
一体なんだったのか、このコント。
まったく……神父様は真面目過ぎるのが玉に瑕なんだよなぁ。
「で、どうですかね? それ」
「そうですね……
ええ、いいと思います。
特に問題はないと思いますが……ただ」
「ただ?」
「設備に対する説明は書かれていますが、設置する場所や利用方法・運用方法については書かれていないのですね……」
「はい……そこはいろいろな人の意見を聞いた上で、どうするのが一番いいかを考えようかと思いまして……
で、ですね……出来れば神父様にも協力して頂ければと思うのですが……」
正直、一人で進めるにはちと規模が大きな話になりそうだったので、俺は神父様に協力を仰ぐことにした。
協力者を増やして、頭脳労働の負担を軽減しようする算段だ。
ちなみに、肉体面の労働に関しては既に巻き込む人間は決めていた。
うちのじーさんとか、棟梁とか、クマのおっさんとかなっ!
断られたらどうしようか……という不安もあったが、
「ええ、私なんかでよければいくらでも」
なんともあっさり俺は神父様からの協力を得ることが出来た。
と、いう訳で本日から治術陣・健の開発に取り掛かることにした。
“健”は健康の“健”で、健やかの“健”だ。
治療目的というよりは、健康促進・維持を目的としたものだが、本格的な治術陣を開発する前の肩慣らしには丁度いいかもしれないな。
それに、俺の怪我がほぼ回復してることは村の連中も薄々は感づいているだろうから、ちゃちゃっと作らないとまた家に押しかけられるかもしれないからな……
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