前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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95話 夜空の下で…… その1

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「バル……」

 バルトロが大衆浴場から出ると、目の前に随分と見慣れた顔が立っていた。

「なんでぇ……まだ残ってやがったのかよヨシュア?」
「ええ……少し貴方と話すことが出来たもので……」
「おうおう、今日の俺はやけにモテモテじゃねぇか……相手が、ガキとジジイってのが泣けて来る話だがな……」
「バル、ふざけないでくだ……」
「ここじゃちと都合が悪りぃな……場所を変えねぇか?」

 バルトロはそう言うと、ヨシュアの許可などお構いなしに歩き出した。
 ヨシュアもまた、特に何も言わずに後を追う。
 今夜は月も星も明るく、雲もない……
 慣れ親しんだ道だ。これだけ明かりがあるのなら、たとえ夜道と言えども不便はない。
 バルトロが足を止めたのは、大衆浴場から少し離れた場所だった。
 時間も時間ということもあり、当然人通りなどまったくない。静かなものだった。
 大衆浴場は、村の外れの方に建てられているので尚更だ。
 バルトロは、おもむろに懐から使い古したパイプを取り出すと、丁寧にたばこの葉を詰め、指先に魔術で火を灯す。

「ふぅー……」

 吐き出した煙は、僅かばかりの時間だけ月明りに照らされ、白い帯を虚空に描く。だが、すぐさま夜風に流され消えてしまった。
 頬をかすめていく風に、めっきり冷たくなったものだと、バルトロはそう思った。

(これからの季節は、老体には少し辛いな……)

 そう、心の中で独り言ちる。

「なんだ……まぁ、あんな所で立ち話なんてしていると、ロディフィスの奴が出て来ちまうからな。
 で? 話ってのはなんだよヨシュア?
 どうせ、あいつのことなんだろ?」
「そうですね……
 本当は彼に話があったのですが……中で貴方たちが話している声が聞こえたもので……」
「ああ、だから出来た・・・か……
 しかし、盗み聞きとは良い趣味してんなぁ」
「入るに入れなかっただけですよ。
 今回の件に関しては、貴方に全てを任せると、そういうことで話は付いていますからね。
 ですが……バル。貴方は一体何を考えているのですか?」

 そう問いかけるヨシュアの言葉を、聞いているのかいないのか……
 バルトロは、何食わぬ顔で愛用のパイプを口元まで運ぶと、深くゆっくり吸い込み、同じだけの時間を掛けて吐き出した。

「ふぅ~、何をって言われてもなぁ……」
「またそうやって……私は真面目に聞いているんです。
 リオット村の者たちを受け入れることは、ロディフィスの意思とは何の関係もなく、既に決まっていたこと……それを決断したのは、他ならぬバル、あなた自身のはずです。
 それも、滅多に人に頭を下げない貴方が、みなに頼み込んでまで……
 なのに、ロディフィスには肝心なことは何もかも黙ったまま、全てを押し付けるような真似まねをする。あんな言い方をしてまで……
 貴方がロディフィスのことを気に入っているのは知っています。ですが、あれは……聞いていて彼が不憫ふびんで、話に割って入ろうかと思いましたよ」
「はっはっはっ、そいつは昼のことか? それとも今のことか?」
「両方ですよ」

 ヨシュアは、あまりにも理不尽な態度ばかりをとるバルトロに、呆れ混じりの視線を向けた。
 しかし、バルトロはかかっと笑うと、またパイプへと口元へと運ぶだけだった。

「ヨシュアよぉ、お前はあいつの……ロディフィスの、あのけったいな力、つーか才能っていうのか?
 あれをどう思うよ?」

 吸った煙を吐き出して、一拍の後にバルトロはヨシュアへとそう問いかけた。

「突然なんですか? それよりも……」
「いいから答えろって」
「……そうですね、いて言うなら先生の人生は無駄ではなかったと、それを証明してくれたことを嬉しく思いました」
「それだけか?」
「…………」
「お前からロディフィスの……あの魔術陣ってやつの話を初めて聞かされたときは、なんの冗談かと思ったもんだ。
 で、現物を目の当たりにして、正直、厄介なことになったんじゃないかと、そう感じたよ。お前だって、似たようなことは考えたんじゃないのか?
 村の奴等の中には、あれが村の外の世界じゃ割と普通に出回ってるもんだと思ってる奴だって多くいる。
 だがよ、俺はあんなもん、今まで見たことがねぇ。
 似たような物なら、“術宝具”ってぇのをたったの一度だけ見たことはある。だが、それだって俺がまだ若い時分じぶんの話だ。
 あれがどれだけ物騒な代物なのか……それは、俺以上にお前の方がよく理解しているんじゃないのか?
 なぁ? 元王宮付き魔術師さんよ?」

 バルトロの問いかけに、ヨシュアは言葉を返さず、沈黙を持って答えた。
 それを一切考えたことがない、といえば嘘になる。
 もし、仮に……何かの拍子に、魔術陣という存在が世に知れ渡ってしまったならどうなるのだろうか……と。
 魔術陣は、いってしまえば術宝具の劣化品だ。
 稀有けうな存在である術宝具。それに、どれほどの価値があるのか……
 それを魔術士であるヨシュアが知らない訳がなかった。
 たとえ劣化品とはいえ、量産性の高い魔術陣が生み出す利益は膨大なものになるだろう、ということくらい簡単に予想がつく。それこそ、魔石など目じゃない程に。
 そういう意味でロディフィスという存在は、正に金の卵を産む鳥だ。
 それが、領主や名のある貴族のような、力ある者たちに知られたとしたら……その行動は想像にかたくはない。
 よくて、高待遇で召し抱えられるか、悪ければ重用という名の連行か……しくは……
 何にしたところで、ろくなことにはならないだろう。
 そんな可能性を頭には置きながら、それでも、ロディフィスが魔術陣を作り続けることを止めはしなかった。
 それは、ここが人の交流のほとんどない、辺境の地であるという盲目的な安心感からか、しくは、失意の中でこの世を去った、師の名誉を取り戻したかったからなのか……はたまた、ただただ魔術師としての好奇心ゆえなのか……

「厄介ごとが起きる前に、奴からすべてを取り上げた方がいいんじゃないか? そんなことも考えた……
 だがな、こうも思ったんだよ。
 “これは今を変える好機でもあるんじゃないか”ってな。
 ……俺たちは、川面を流れる木の葉みてぇなもんだ。
 ただ、流れに任せて運ばれていくだけで、抗うことなんて出来やしない。
 少しでも流れが速くなれば、あっけない程簡単に呑まれて底へと沈む……」

 バルトロは、今のスレーベン領のあり方を良しとは思ってはいなかった。ただ一方的に奪うだけの、今のようなやり方は。
 少なくとも、先代が領主だった頃は、ラッセ村のような貧しい寒村でも、それなりに活気はあった。人の流れも、気持ち今よりは多かった。
 だからといって、村一つが領主に楯突たてついたところで、何が解決する訳でもない、とうことも理解していた。
 むしろ、そんなことをしようものなら、村人たちの生活が立ち行かなくなってしまうのは明白だ。
 税を軽減して欲しいと陳情した村が、領主の不興ふきょうを買い、村そのものが無くなってしまうことが過去にはあった。
 現に、先代の領主の時代と比べて、間違いなく近隣の村の数は減少している。
 現状を変えたいとは思う。だが、それを成すだけの力を持っていないということは、バルトロ自身が一番よく分かっていることだった。
 バルトロだけの話ではない。このスレーベン領に住む者、みながその日を生きるのに精いっぱいで、そんな余力、誰もが持ち合わせてはいなかった。
 ただ、何事にも例外はある訳で……

「ここに、一そうの舟がある……
 大きくもない。頑丈でもない。大きな波にあおられたら簡単に沈んじまいそうな……そんな小せぇ舟だ。
 そんな舟でも、木の葉よりかは沈みにくい」
「それが、あの子……ロディフィスであると、貴方はそう言いたいのですか?」
「何かを変えたいと願うなら、何かを変えなきゃ、何も変わりゃしねぇ……
 あいつの存在は、その変化の小さな切っ掛けに過ぎんよ。
 だから、今まであいつの好きにさせて来た。お陰で村は、この短期間で驚くくらい様変わりした。
 だがな? 今、その舟には船頭も漕ぎ手もいやしない。それじゃ、ただただ流されるだけの木の葉と変わらん。
 まぁ、今までその些細ささいな切っ掛けすら作ってこられなかった俺が言うのもなんだがな……」

 バルトロは、すっかり燃え尽き煙も上がらなくなったパイプを手首で返し、手ごろな木の幹でパイプを数度軽く叩いた。詰まっていたタバコの葉は、綺麗に灰へと変わっており、白い塊となって地面へと落ちた。

「あいつがもし、賛成なり反対なり、どちらかの態度をはっきりさせていたのなら、俺はすべてを話してあいつの手を借りただろうよ。
 だが、あいつは結局どっち付かずの答えしか出さなかった。あの娘っ子たちですら、自分の意思を示したってのによ。
 あいつ一人の言葉で、何が決まる訳でもないってのに、何も言いやしない。
 あいつは、自分が振るっている力が危険な物であることも、周囲にどれだけ大きな影響を与えるかも理解してやがる。
 だってのに、力を手放す訳でもなければ、その力を振るう覚悟がある訳でもない」
「それを、まだ子どものあの子に求めるのは無体むたいというものではないのですか?
 そこは我々がしっかりと支えて、あの子の力になってあげればいいだけの話でしょう?」

 バルトロは、今まで手元でもてあそんでいたパイプから視線を外し、ヨシュアの方へと向き直った。
 
「何かを理由に投げ出すくらいなら、はなからあんな力は手にするべきじゃねぇんだよ。
 あいつはバカじゃない。むしろ、村の中で一番頭が回る奴だ。
 “なまじ、魔術陣なんてものが扱えるから、厄介事ばかり押し付けられる”ってことくらいは、いい加減理解していることだろうよ。
 だがな、あいつが力を振るい続けるってことは、今までや今回以上の理不尽や厄介事が、あいつの身にいくらでも降って湧き続けるってことなんだよ。そいつは、あいつの意思なんてお構いなしに突然やっくる。
 お前は、俺たちがあいつを支えてやればいい、とそう言ったが、そいつはいつまでだ?
 ロディフィスが分別のつく大人になるまでか?
 それまで、なんの問題も起きず、誰も彼もがあいつがり立派に成長するのを暖かく見守ってくれるのか? 全てが、あいつの都合の良いように待ってくれる、と?
 困った時には、何処からともなく見知らぬ誰かが颯爽さっそうと現れて、窮地きゅうちを救ってくれる、と?
 いくらなんでも、流石にそれはねぇだろう……」
 
 現に、ロディフィスは魔術陣の力によって、今までに二度大きな危機からラッセ村を救っている。
 一度目は用水路を作ったとき、二度目は鎧熊アーベアと出くわしたときだ。
 どちらも、ロディフィスが魔術陣を扱えたからこそ、大事にならずに済んでいるのだ。
 特に、鎧熊アーベアの件に関しては、魔術陣がなければロディフィスは確実に命を落としていたことだろう。
 それに、北の森で出くわしたというのが、本当に運が良かった。
 もし、知らず知らずのうちに、鎧熊アーベアに村まで近づかれていたら、どれだけの被害が出ていたことか分かったものではない。
 もし、あの場にロディフィスが居なければ……
 もし、バルトロが危険だからと、ロディフィスから魔術陣が取り上げられていたなら……
 何かがほんの少し違っただけで、今、こうしてのんびり話していられる状況ではなかったのだろう。
 そういう意味では、バルトロは自分の判断は間違っていなかったと確信していた。
 だが、これから先はただ好きにさせるだけではダメなのだ。
 
「俺たちは、明日の天気すらろくに分かりゃしないんだ。いつどこで何が起きるかなんて、誰にも分からりゃしねぇ。
 力を振るい続ける限り、あいつは自分の意思で大きな決断を下さなくちゃならないときが必ず来る。
 それが一年後なのか、一〇年後なのか……ひょっとしたら、明日や明後日なのかもしれねぇ。
 そのとき、いつでも誰かが傍にいて、一緒に悩んでやれる訳じゃねぇ。決断までに、十分な時間が用意されているとも限らねぇ。
 だったら、俺が今あいつしてやらなきゃならんことは、あいつと一緒になって悩んでやることでもなけりゃ、あいつを守ってやることでもねぇんだよ。
 少しでも早く、あいつがテメェの足で歩く方向を決められるようにしてやることだけだ」

 そして、バルトロは手にしていたパイプのボウルの部分を、ヨシュアの胸へと軽く押し当てた。

「まぁ、そういった諸々はお前たちに任せるとするわ。クソガキの調教なんぞ俺のガラじゃないんでな。
 悩んでいるようなら相談に乗ってやってくれ、落ち込んでいるようなら尻を叩いて励ましてやってくれ、道を踏み外しそうならブン殴ってでも引き戻せ……そして、あいつが愚痴るようなことがあれば、ちゃんと聞いてやってくれ。
 ……で、後で報告しろ。嫌がらせをしてやる」
「はぁ、まったく貴方という人は……
 バル。貴方の考えは分かりましたが、だからと言って、あんな突き放すようなことを言わなくともよかったのではかと思うのですが……」
「今のあいつは、誰かに頼まれたから、誰かに乞われたからと、そんな理由でも力を振るっちまう。
 そんな拠り所のないふらふらした力を振るい続ければ、いずれ取り返しのつかない過ちに繋がりかねん。
 意思の伴わない力なんぞ、ただの凶器と変わらんよ。誰にでも向けられる刃程怖いものもないからな。
 騎士が振るう剣は“守る”という強固な決意があるからこそ、高潔にして気高く見えるってもんだ。
 今のままのあいつじゃ、将来自分の力の使いどころを誤って、何をしでかすか分かったもんじゃない。
 基本、人ってーのは力と金には弱いもんだからな」

(あいつの場合は、あと“女”か……)

 と、心の中でそっと付け加え、顔には出さずに苦笑する。

「ここらが決め時なのさ。
 自分が何のために力を振るっているのか、何故力を振るうのか……そして、あいつ自身が何を成したいと思っているのか。
 今の状態をわずらわしいと思うなら、面倒なことから逃れたいと思うなら、手にしたもののすべてを捨てて、目を閉じ耳をふさぎ、何もせずじっとうずくまっていればいい。
 そうすれば、もう誰も何もあいつに押し付けたり、期待したりなんてしなくなるだろうよ。
 それに、嫌なことから逃げることが悪いことだとは、俺は思わねぇしな。
 むしろ、あいつの歳を考えたらそっちの方が自然だ。
 人なんて楽な方に流れるのが当然だからな。
 そのことであいつを責めはしない。ただし、あいつには金輪際こんりんざい魔術陣だの魔術だのには関わらせないがな。意思を持たない奴が持つには、過ぎた力だ……
 なぁに、けったいなクソガキが、ただのクソガキになるだけだ。大したことじゃねぇ。
 どの道、これくらいのことで折れちまう程度なら、とてもこれから先はやっていけないだろうよ。
 だが……それらを分かっていて尚、それでも力を振るうことを選ぶなら……
 俺はこれから何度でも、あいつに無理難題を吹っ掛ける。それこそ、こんな力なんてない方がよかった、と思う程にな……」

 バルトロは、パイプをしまうと手近な木の幹へと背中を預けた。
 そんなバルトロに、ヨシュアは“何もそこまでしなくても”と言いたげな視線を向ける。
 が、その視線の意味に気づいていながら、バルトロは軽くそれを無視をした。

「不思議なもんでな……
 人ってのは、すんなりうまくいったときの経験よりも、もがいて足掻いて辛くて苦しくて……
 悩んで考えたときの経験の方が、たとえ結果が失敗だったとしても、得られ物が大きいんだよ。
 あいつは今まで、散々成功してきたからな……ここらで一丁、辛い目に遭った方があいつのためだろ?
 確かに持っている知識の量は認めるが、何でも知っているようで、その実何にも知らねぇからなあいつは」
 
 視線を向けるヨシュアに向かって、バルトロはかかっと一笑いしてみせた。
 そして、急に笑うのを辞めたかと思えば、真面目な顔をして言葉を続けた。

「川は絶えず流れる……その中では、誰も留まることなんて出来はしねぇんだよ。
 今のままでいるということは、何もしないでいること同じゃねぇ。
 何もしなければただ押し流される。留まるためには前へ前へと進み続けなきゃならん……
 それは決して楽なことじゃないだろう。辛いだろう、苦しいだろう。
 それが、今を在り続けるってことなんだよ。
 だが、流れは速い。生半可な力じゃ直ぐに押し戻されちまう。
 あいつの……今のロディフィスの力だけじゃ到底あらがえるもんじゃねぇだろう。
 力がいるんだよ。流れに逆らえだけの、大きな力がな……」
「……なんとなくですが、貴方がしようとしていることが見えてきましたよ。バル」

 ヨシュアはそう言うと、一つため息を吐いた。

「貴方の言う“力”とは、何もロディフィスが持っている知識や、魔術陣といった技術だけを指している訳ではないのですね。
 あの子に手を貸してくれ者、信じてくれる者もまた、ロディフィスの力の一部だと……
 確かに、今まであの子はいろいろなことをしてきましたが、ロディフィス一人で成し遂げて来たものは多くはありません。
 そのどれもが、村の人たちの力を借りて行ってきたものばかりです。
 そして、その成果をこの村の人たちは間近で見てきていますからね。あの子のことを、信頼している者も多くいるでしょう。
 特に、鎧熊アーベアの一件以降、自警団の方たちからの信頼はとても高いようですし。
 ですが……他所から来た人たちにとっては、そうではない。
 だから、話し合いの席にわざわざロディフィスを呼んで、あの子に彼らを助けるように仕向けた、と。
 そうすれば、彼らの恩義は村長である貴方ではなく、ロディフィスへと向く……彼らもまた、あの子の力の一部とするために。
 貴方は先ほど、ロディフィスを舟と言いましたね。その船には船頭も漕ぎ手もいないと……
 貴方はロディフィスを船頭に、そしてあの子に信頼を寄せる者たちを漕ぎ手に、今という流れにあらがおうと、そう言うことですか?」

 ヨシュアの話を一通り聞くと、バルトロはかかっと笑った。

「何もそこまで大層なことは考えちゃいねぇよ。
 だがまぁ、あいつが何かを成そうとしたときに、あいつに手を貸してくれる奴等が多ければいいとは思うけどな。
 そもそも、あいつがこれからどうするかも分かってねぇんだ。今、そんな先の話をしたって仕方がないだろ?
 ただ……まぁ、単純にあいつに賭けてみたくなった、ってだけの話だ。
 あいつは何を考えているか、分からんところがあるからな……
 もしかしたら、俺なんかじゃ思いも付かんようなことをしでかすかもしれん。
 今は小さな舟だが、いつかは大勢の人間を乗せても沈まない、そんなでかい船になるんじゃないかって、期待してんだよ俺は。
 どの道、このまま何もしなけりゃ、遠からずこの村だって他の村同様立ちいかなくなるのは目に見えてんだ。それはたとえ、ロディフィスがいたとしてもだ。 
 ガキにすがるってのもみっともない話だが、それでこれからが良くなるかもしれないってんなら、恥だろうが外聞だろうが何でもかなぐり捨てやるよ。
 それにな、俺は見てみたいんだよ。
 あいつが創る明日がどうなっていくのかをな……」

 バルトロは、そこで言葉を区切ると、あらぬ方へと首を巡らせた。
 ヨシュアもそれに続くが、その先には特に何もありはしない。ただ、闇夜に溶けて、薄っすらと木々の影が見える程度だった。
 少しして、ここからは見えないが、この先に先ほどまでバルトロたちがいた大衆浴場があることに、ヨシュアは気が付いた。

「なんにしても、だ。種は撒いた。それが根を張り、育ち、実を成すか、それとも腐って枯れ落ちるかは、あいつ次第だ。
 すべては、明日のあいつの出方で決まるだろうよ」
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