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二八七話
しおりを挟む酒が回り出したのか、マレアは饒舌に語り出す。
最初は、上からの命令だったらしい。
「いきなり、明日からお前女王陛下の護衛な? よろしくっ! っていわれてもねぇ……
しかも相手は王女とはいえ八歳の子どもだよ?
ぶっちゃけるとさ……なんで私が子どものお守りなんかしなくちゃいけないんだって、本気で嫌だったんだよね。
それまで情報収集とか暗殺とか、そういう部署に居たのに突然お守って……」
なんか超絶に物騒な言葉が出て来たが、敢えて言及はすまいよ……
「それって私には関係ないことだろ? って……
でも? まぁ? あたしも一応、騎士団所属だし? 助けてもらった恩、それに今まで生かしてもらった恩もあるし? 命令だっていうから任務には着くし仕事はするよ? でも、正直やる気は全然なかったねぇ~。
だから、すっごく適当に働いてたんだよ。
護衛はするけど、態度は雑、言葉遣いもなってない……ってそれは今もだけど……」
自覚あったんかい……だったら直せやとツッコミたいところだが、話の腰を折るまいとぐっと耐える。
「今、思い出しても完全に嫌な奴だったと思うよ。
正直、あたしはプレセアっちに嫌われるだろうとずっと思ってた。それにあわよくば“こいつ嫌いっ! クビっ!”って言ってもらえるかもって期待してたんだけど……」
「そうはならなかった、と?」
「そ。むしろ見た目がプレセアっちの歳に近いからなのか、逆にどういうわけかベタベタに寄って来ちゃってさ……あれには参ったねぇ~」
そう呟くと、グラスに残っていた僅かな酒を一気に流し込む。そして、空になったグラスをテーブルへと戻す。
特に他意があるわけではなかったが、なんとなく、空になったグラスに追加の酒を半分程注いでやった。
「ああ、ありがと……
正直ね、あたしはずっと復讐することだけ考えて生きて来たから、小さい子に懐かれた時、どうしたらいいか分からなくなくってさ……
訓練でも、小さな子どもとあやし方、なんて教わらなかったし」
そう思い出すように語りながら、マレアは新しく酒が注がれたグラスに手を伸ばす。
と、別に口を付けるわわけでもなく、手の中でガラスを傾けては、中の液体をクルクルと回して遊び始めた。
「それでも、嫌な気はしなかった、かな……ううん、多分、嬉しかったんだと思う。
それまで誰かに頼られるとか、懐かれるとか、とういう経験したことなかったからさ……
で、なんだかんだでクビにもならず、かといって、復讐しに行くタイミングものがしちゃったまま、なんかズルズル護衛続けてたら、うっかりさっきの傷跡をプレセアっちにみられちゃったのさ。
そしたらもう大号泣っ! 本気で泣かれたんだよね……
この見た目じゃん? 最初は気持ち悪いから驚いたのかと思ったんだけど……」
そう言うと、口が乾いたのかマレアはグラスを緩やかに傾け、舌を湿らす程度に中身を口に含む。
「痛くない? 苦しくない? って、泣きながら聞いて来たんだよね……
薬はいるか? とか、お医者さん呼ぼうか? とか、もう必死になやっちゃってさ……
あの頃のプレセアっちはさ……沢山のことが色々と一度に起きて、そりぁもう大変な時期だったんだよ。
それこそ、あたしが抱えてた悩みなんかと比べたら比にならないくらいにね。
突然の病の流行で、女王、王配両陛下の急逝。それに伴う王位の簒奪戦……
国内は混乱の只中で、誰が味方で誰が敵なのかも分からない。
当然の様に食べ物や飲み物には毒が盛らて、実際、それで何度も倒れて……
あっ知ってる? プレセアっちって毒盛られまくった所為で、変な耐性付いちゃって生半可な毒じゃ死なない体になったって、前にお医者の先生が言ってたよ?」
「マジかよ……」
それは喜んでいいことなのか、それとも悲しむことなのか、とにかく返答に困る話だな。
「それに、暗殺者だってひっきりなしに押しかけて来ててさ……
まぁ、そいつら全員返り討ちにしたんだけど……
正直、他人のことに気を回す余裕なんてなかったはずなのに、あの子ってばあたしの心配なんかしちゃってさ……」
そこで一度言葉を止めると、手にしていたグラスの中身を一息で喉へと流し込み、グラスを勢い良くテーブルと叩きつける。
一瞬割れたんじゃないか? と思う程、派手な音が上がったが、グラスは無事のようだ。
「あたしなんて自分のことしか考えてなかったのにっ! ぶっちゃけ、護衛始めたばっかりの頃なんて、この国女王が死のうが別にどうでもいいって、割と本気でそう思ってたくらいなのに、あの子はっ!
あたしのこと本気で心配して、本気で泣いてくれたんだよっ! ヒック」
急に立ち上がり、力強く拳を握りしめ熱く語り始めたマレアだったが……
これ、完全に酔っぱらってますな? 語り口調が、酔っ払いのそれである。
ただ……顔色は不思議と何も変わっていなんだよなぁ……
強いていうなら、目だけが何処か虚ろっぽい感じになっているくらいなものか。
これがコビットという種族の特性なのか、はたまた生まれ持った体質か、とにかく理由かは分からないが、マレアは酒の影響が表面化しない体質のようだな。
「プレセアっちはねっ! 凄く良い子なんだよぉ~! 優しい子なんだよぉ~!
そんな子が毒を盛られるとか、暗殺されそうになってるとか可愛そうじゃん! おかしいじゃん! だから、あたしはあの子を守るって決めたのさっ!
で、プレセアっちが安全に暮らせる国になってから、あのクソ野郎共に復讐するのっ!」
「ああ、復讐するのを止めた、とかではないんだな」
「止めねぇよっ! 村襲った実行犯とそれを命令した奴、それと一番偉い奴は全員捕まえて、ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわせたるぅっ!」
巻き舌にドスの利いた声と、口調はまるでヤの付く人のそれだった。
「だからあたしは、あの子を守る為……に……」
で、散々熱く語っていたマレアが、突然、糸が切れた人形の様にふらっと倒れ始めたはないか。
「あぶなっ!」
これがまだ後ろならソファーがあるため問題ないが、マレアが倒れたのは前のめり。
その先にはテーブルがあり、そのまま倒れれば顔面から天板に激突するコース一直線となっていた。
テーブルの上にはグラスや瓶が置かれており、仮にその上に落ちれば最悪、軽い怪我程度では済まなくなってしまう恐れもある。
とはいえ、マレアが居るのはテーブルの対面。俺では手を伸ばしたところで届くはずもないので、咄嗟に黒騎士を取り出し、激突寸前のマレアの首根っこをひっ捕まえる。
「ふぅー、間一髪だったな……」
もう一瞬遅れていれば、テーブルと過激なキスをするところだっのだが、倒れた当人はというと……
「ふかぁー……すや~……ふかぁ~……すや~……」
寝てやがる……
まぁ、あれだけ度数の高い酒をガバガバ飲んでいればこうもなろう。
なんにしても、だ。
マレアの奴……いつも何処かふざけて掴み所のない奴だとばかり思っていたが……
これで中々にヘビーな人生を歩んで来たということは理解した。そして、どうしてそこまでプレセアに肩入れしてるのかも、な。
まぁ、だからと俺がどうするかはさておき……
「取り敢えず、これ、片付けないとな」
と、黒騎士に首根っこを掴まれて宙ぶらになっているマレアに視線を向ける。
というわけで、適当に侍女を呼んで、寝ているマレアを自室へと運ぶことにした。
いくら体格が子どもとはいえ、女性に背負わせるのは大変そうなので、俺が……というか黒騎士で運搬することに。
部屋に運んでからの面倒は侍女さん達にお願いするとして、俺は早々にお暇だ。
マレアの話しが本当なら、ここに残っていると色々とヤバそうだからな……
気のせいかもしれないが、すれ違う侍女達から、獲物でも狙う様な目で見られているような気もしたし……こわやこわや。
正直、ピンク色な展開を期待していない……といえば嘘になるが、危うきには近寄らないのが一番だ。
あくまで、俺の第一目標は元の世界への帰還である。
プレセア達への協力は、その手段の一つだとを割り切りらなければいけない。
仮に、プレセア達王族派が討たれ、新興貴族派が政権を取った場合、古代遺跡の調査権そのものが白紙に戻される可能性だってあるのだ。
それを考えれば、プレセア達に協力すること自体、理に適っているともいえなくはない。
俺は別に、この国を救いたいわけでも、女の子達に囲まれてイチャイチャ過ごしたいわけでも、このよく分からないまま手に入れた力を使って、面白おかしく生きて行きたい……わけ……でも……
ん? それはそれでありなのか? って、だから違うっ! ブレるな俺っ!
脳内を駆け巡る楽し気な妄想を再度振り払い、俺は自分に言い聞かせた。
確認っ! 第一目標! 元の世界への帰還っ! 以上っ!
帰れる手段があるのかないのかは別にして、まずは探すことが大前提である。
この世界に根を張って生きて行くかどうかを考えるのは、帰る方法がない、もしくは見つからなかった後でも遅くはないだろう。
そんなことを考えながら自室への帰路を急ぎ、今日はそのまま寝てしまうことにした。
勿論、今後勝手な侵入を許さない為にも、私室の扉にマイ工房と同じ俺しか開けられないよう細工をすることは忘れない。
風呂やら何やらがまだではあるが……それは明日の朝でいいだろ。
なんか色々あってどっと疲れたよ……ということで、おやすみなさい。すや~。
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