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94話 表と裏と その五
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「ヨシュア殿、こんな所におられましたか。教会の方におられないので探しましたよ」
村へと戻って来た俺は、神父様を送るために愛車・二式を教会方面へと向かってゆっくり転がしていると、道すがらクマのおっさんと出くわした。
何やら神父様に用事でもあるようなので、この場で一旦停止する。
「これはすいません。少し所用で出かけていたもので……それで、何かありましたか?」
「ええ、少し。詳しい話は後ほど……一先ず、村長の家まで来て頂けますかな?」
そこでクマのおっさんが、俺の方をちらりと見ては言葉を濁す。
どうやら、俺には……というか、あまり人に聞かせたくない話のようだ。
話しとやらの内容が多少気にはなるが、重要なことならあとで村長辺りから村人全員に連絡があるだろうからそれを待てばいいだけか。
そもそも俺自身、村の運営に直接関わっている身でもないので、そうなんでもかんでも首を突っ込むものでもないしな。
「分かりました。では、ロディフィス私はここで失礼します」
「それならどうせ通り道ですし、ついでに送りましょうか? こいつなら歩いて行くよりは早いですよ?」
俺は愛車・二式から降りようとする神父様にそう声を掛けて呼び止めた。
どうせこのあと、今日の実験で得たデータを記したノートを片付けるために学校方面へと向かう予定だった。
ここからなら、村長の家はその道の途中なので、結局向かう先は同じということだ。
ならばと、クマのおっさんを荷台に積んで俺は村長の家へと目指すことにした。
クマのおっさんを積んだことで、積載重量が跳ね上がり負荷が増加したが、愛車・二式に掛ればどうということもない。
愛車・二式に揺られること少し。村長の家へと着いたので二人を降ろす。
ふー……これでようやく静かになった。
というのも、クマのおっさんが先代の愛車より、格段に乗り心地が向上した二式に五月蠅いくらいに感心していたのだ。
褒められること自体は悪い気はしないが、耳元でデカい声を上げられるのと、背中をバンバンされるのは流石にウザいったらない……
俺は二人が村長の家に入って行くのを見送ってから、本来の目的地である学校方面へと向かって愛車・二式を走らせた。
走らせる、とはいっても村の中なので安全速度は順守している。
速度計なんてものは付いてないので、時速何キロ出ているかは知りようもないが、体感基準で大人の歩く速度以上、ママチャリ未満といったところか。
俺の足では、村長の家から学校まで三〇分程は掛かってしまう道のりも、愛車・二式に掛ればものの一〇分もせずに到着してしまった。
今日は学校が休みの日とあって、学校にはシスターたちを含め誰の姿もない。大変静かなものだ。
普段の賑やかさが嘘のようで、逆に違和感すら覚えてしまう。しかし、そんな雰囲気にどことなく感じる懐かしさがあった。
誰もいない学校って、確かこんな感じだったなぁ……
なんて思いつつ、俺は目的の場所へと向かって愛車・二式を進ませる。
校舎をぐるりと回り、見えて来た調理施設を抜けて更に奥。すると、そこにこじんまりとした小屋が姿を現した。
大きさにして、教会の書庫と同じか、それより少しだけ大きいくらいの建物だ。
俺はその建物の前で愛車・二式を停めると、少ない荷物を手に愛車から飛び下りた。
殆どの荷物はエーベンハルト氏の研究所跡地で焼いてしまったので、帰りは荷物が少なくていい。
ここは、所謂資料保管庫のような所だ。
神父様が授業で使う教本や資料などが保管されている建物だ……というのは表向きの説明で、その実態は俺の魔術陣に関する研究施設だったりする。
実験で得たデータの保管に、普段の魔術陣に関する研究を今ではここで行っている。
今まで家で保管していた資料も、すべてこちらへと移していた。理由としては、防犯上の安全面半分、妹たちのいたずらによる損傷の回避半分といったところか……
利便性を考えるなら、自宅の近くに建てた方が都合がいいのだろうが、私的理由で村の財産を使ったとなれば色々と角が立つので、学校設備の一環、という体で校舎を作った際に一緒に建ててもらった。
人の目というのは、気にするに越したことはないだろうからな。
まぁ、やっていること自体はあまり変わらないような気もするが……実際に授業に使う資料も保管している訳だし、強ち嘘でもないだろう。
資料保管庫に俺が間借りさせてもらっている、と考えれば何の問題もない。
……保管物の量的に俺の物八対神父様の物二、くらいの割合だがそこは気にしてはいけない。
俺は、荷物を片手に保管庫兼研究所の扉の前に立つと、扉の中央にあしらわれた手の平大の魔術陣へと手を伸ばした。
俺が関与している建物である以上、この小屋もまたバリバリの魔改造が施されている。
俺が魔術陣へと触れると、例によって例の如く、手の平から魔力の抜けていく感覚とともに魔術陣が薄っすらと光を帯びた。そして程なくしてガコンッと大きな音が響く。
これで扉のロックの解除は完了だ。
これは魔術陣と歯車などの機構を使った鍵の類だった。
魔力には、何というか波長とか周波数のようなものがあり、それは個人で全く違うものだということが分かっている。
これを利用することで、魔力波長を登録した者のみが開くことができる扉を作ることができるのだ。
それこそ現代の指紋認証とか、虹彩認証と似たようなものだ。扱っている物が物だけに、これくらいのセキュリティーは用意して然るべきだろう。
また、俺以外ではこの建物の管理責任者とうことで神父様の魔力も既に登録済みだ。まぁ当然といえば当然だな。
でそんな資料庫兼研究所だが、現在この建物を自由に出入りできるのは俺と神父様の二人だけである。
一応、資料はすべて日本語化しているので、流出したからといってすぐにどうこうとなとは思わないが、念には念を、だ。
ちなみに、このロック機構は俺が今日作った実験魔道具にも採用されている。要は、魔道具だけ持ち逃げしても使えないということだ。
更にこの建物だが、ロック中は強度上昇の魔術陣も併せて発動している。建設中の段階で、強度実験も兼ねてクマのおっさんに本気で“ぶちかまし”をしてもらったが、びくともしなかった記憶がある。
クマのおっさんもこの結果に相当驚いていたから、その強度は折り紙付きだ。
基本的に物騒な実験魔道具には、すべてこのロックが施されている。下手に誰かが使って事故でも起きたら目も当てられないからなぁ……
俺はロックの解除された扉を開くと、スタスタと中へと入って行く。
窓が一つもないので、中はまるで夜のように暗い。というのも、保管されているのが主に紙類ということもあり日焼けしないよう、直射日光が入らないような造りにしてもらっていた。
まぁ、窓がない方が作りも簡単で工期が短くて済むというのもあったからな。
俺は隙間から入り込む僅かな明かりと記憶を頼りに、壁へと手を伸ばす。と、唐突に天井が煌々と輝き出した。
魔術陣による照明だ。
天井には照明用の魔術陣が施されており、それを起動する魔術陣が壁に書き込まれていたのだ。
シルヴィ一家が住んでいるモデルハウスは、この小屋をベースにして作った物なので、あの家にあるものなら大概なんでも揃っている。勿論、冷暖房だって完備の優良物件だ。
とはいえ、作り自体は実に簡素なもので、別段特筆すべき点は何もない。
この部屋にあるものといえば、壁一面に設置された一割も使用されていないすかすかの本棚と、二台の机があるだけだった。
本棚がすかすかなのは出来て間もないからで、今後いろいろと増えていく予定だ。
机は、綺麗に整頓された机と、そうでないのが一つずつ……
綺麗な方が神父様で、ずさんな方が俺の机だ。
俺は自分の机にドカリと腰を落とすと、カバンから今日の実験で得たデータを記したノートを取り出した。
最初はノートを置いて帰ろうかと思っていたのだが、まだ日も高いので少しデータを整理してから帰ることにしよう。
やっぱり、記憶が新しいうちにまとめた方がいいからな。
そして、俺は今しばらく作業に没頭するのだった。
村へと戻って来た俺は、神父様を送るために愛車・二式を教会方面へと向かってゆっくり転がしていると、道すがらクマのおっさんと出くわした。
何やら神父様に用事でもあるようなので、この場で一旦停止する。
「これはすいません。少し所用で出かけていたもので……それで、何かありましたか?」
「ええ、少し。詳しい話は後ほど……一先ず、村長の家まで来て頂けますかな?」
そこでクマのおっさんが、俺の方をちらりと見ては言葉を濁す。
どうやら、俺には……というか、あまり人に聞かせたくない話のようだ。
話しとやらの内容が多少気にはなるが、重要なことならあとで村長辺りから村人全員に連絡があるだろうからそれを待てばいいだけか。
そもそも俺自身、村の運営に直接関わっている身でもないので、そうなんでもかんでも首を突っ込むものでもないしな。
「分かりました。では、ロディフィス私はここで失礼します」
「それならどうせ通り道ですし、ついでに送りましょうか? こいつなら歩いて行くよりは早いですよ?」
俺は愛車・二式から降りようとする神父様にそう声を掛けて呼び止めた。
どうせこのあと、今日の実験で得たデータを記したノートを片付けるために学校方面へと向かう予定だった。
ここからなら、村長の家はその道の途中なので、結局向かう先は同じということだ。
ならばと、クマのおっさんを荷台に積んで俺は村長の家へと目指すことにした。
クマのおっさんを積んだことで、積載重量が跳ね上がり負荷が増加したが、愛車・二式に掛ればどうということもない。
愛車・二式に揺られること少し。村長の家へと着いたので二人を降ろす。
ふー……これでようやく静かになった。
というのも、クマのおっさんが先代の愛車より、格段に乗り心地が向上した二式に五月蠅いくらいに感心していたのだ。
褒められること自体は悪い気はしないが、耳元でデカい声を上げられるのと、背中をバンバンされるのは流石にウザいったらない……
俺は二人が村長の家に入って行くのを見送ってから、本来の目的地である学校方面へと向かって愛車・二式を走らせた。
走らせる、とはいっても村の中なので安全速度は順守している。
速度計なんてものは付いてないので、時速何キロ出ているかは知りようもないが、体感基準で大人の歩く速度以上、ママチャリ未満といったところか。
俺の足では、村長の家から学校まで三〇分程は掛かってしまう道のりも、愛車・二式に掛ればものの一〇分もせずに到着してしまった。
今日は学校が休みの日とあって、学校にはシスターたちを含め誰の姿もない。大変静かなものだ。
普段の賑やかさが嘘のようで、逆に違和感すら覚えてしまう。しかし、そんな雰囲気にどことなく感じる懐かしさがあった。
誰もいない学校って、確かこんな感じだったなぁ……
なんて思いつつ、俺は目的の場所へと向かって愛車・二式を進ませる。
校舎をぐるりと回り、見えて来た調理施設を抜けて更に奥。すると、そこにこじんまりとした小屋が姿を現した。
大きさにして、教会の書庫と同じか、それより少しだけ大きいくらいの建物だ。
俺はその建物の前で愛車・二式を停めると、少ない荷物を手に愛車から飛び下りた。
殆どの荷物はエーベンハルト氏の研究所跡地で焼いてしまったので、帰りは荷物が少なくていい。
ここは、所謂資料保管庫のような所だ。
神父様が授業で使う教本や資料などが保管されている建物だ……というのは表向きの説明で、その実態は俺の魔術陣に関する研究施設だったりする。
実験で得たデータの保管に、普段の魔術陣に関する研究を今ではここで行っている。
今まで家で保管していた資料も、すべてこちらへと移していた。理由としては、防犯上の安全面半分、妹たちのいたずらによる損傷の回避半分といったところか……
利便性を考えるなら、自宅の近くに建てた方が都合がいいのだろうが、私的理由で村の財産を使ったとなれば色々と角が立つので、学校設備の一環、という体で校舎を作った際に一緒に建ててもらった。
人の目というのは、気にするに越したことはないだろうからな。
まぁ、やっていること自体はあまり変わらないような気もするが……実際に授業に使う資料も保管している訳だし、強ち嘘でもないだろう。
資料保管庫に俺が間借りさせてもらっている、と考えれば何の問題もない。
……保管物の量的に俺の物八対神父様の物二、くらいの割合だがそこは気にしてはいけない。
俺は、荷物を片手に保管庫兼研究所の扉の前に立つと、扉の中央にあしらわれた手の平大の魔術陣へと手を伸ばした。
俺が関与している建物である以上、この小屋もまたバリバリの魔改造が施されている。
俺が魔術陣へと触れると、例によって例の如く、手の平から魔力の抜けていく感覚とともに魔術陣が薄っすらと光を帯びた。そして程なくしてガコンッと大きな音が響く。
これで扉のロックの解除は完了だ。
これは魔術陣と歯車などの機構を使った鍵の類だった。
魔力には、何というか波長とか周波数のようなものがあり、それは個人で全く違うものだということが分かっている。
これを利用することで、魔力波長を登録した者のみが開くことができる扉を作ることができるのだ。
それこそ現代の指紋認証とか、虹彩認証と似たようなものだ。扱っている物が物だけに、これくらいのセキュリティーは用意して然るべきだろう。
また、俺以外ではこの建物の管理責任者とうことで神父様の魔力も既に登録済みだ。まぁ当然といえば当然だな。
でそんな資料庫兼研究所だが、現在この建物を自由に出入りできるのは俺と神父様の二人だけである。
一応、資料はすべて日本語化しているので、流出したからといってすぐにどうこうとなとは思わないが、念には念を、だ。
ちなみに、このロック機構は俺が今日作った実験魔道具にも採用されている。要は、魔道具だけ持ち逃げしても使えないということだ。
更にこの建物だが、ロック中は強度上昇の魔術陣も併せて発動している。建設中の段階で、強度実験も兼ねてクマのおっさんに本気で“ぶちかまし”をしてもらったが、びくともしなかった記憶がある。
クマのおっさんもこの結果に相当驚いていたから、その強度は折り紙付きだ。
基本的に物騒な実験魔道具には、すべてこのロックが施されている。下手に誰かが使って事故でも起きたら目も当てられないからなぁ……
俺はロックの解除された扉を開くと、スタスタと中へと入って行く。
窓が一つもないので、中はまるで夜のように暗い。というのも、保管されているのが主に紙類ということもあり日焼けしないよう、直射日光が入らないような造りにしてもらっていた。
まぁ、窓がない方が作りも簡単で工期が短くて済むというのもあったからな。
俺は隙間から入り込む僅かな明かりと記憶を頼りに、壁へと手を伸ばす。と、唐突に天井が煌々と輝き出した。
魔術陣による照明だ。
天井には照明用の魔術陣が施されており、それを起動する魔術陣が壁に書き込まれていたのだ。
シルヴィ一家が住んでいるモデルハウスは、この小屋をベースにして作った物なので、あの家にあるものなら大概なんでも揃っている。勿論、冷暖房だって完備の優良物件だ。
とはいえ、作り自体は実に簡素なもので、別段特筆すべき点は何もない。
この部屋にあるものといえば、壁一面に設置された一割も使用されていないすかすかの本棚と、二台の机があるだけだった。
本棚がすかすかなのは出来て間もないからで、今後いろいろと増えていく予定だ。
机は、綺麗に整頓された机と、そうでないのが一つずつ……
綺麗な方が神父様で、ずさんな方が俺の机だ。
俺は自分の机にドカリと腰を落とすと、カバンから今日の実験で得たデータを記したノートを取り出した。
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