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98話 表と裏と その九
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その後、俺は神父様から現状について詳しく話を聞くことにした。とにかく、現状が分からないことには、どう手を出していいものか見当も付かないからな。
で、分かったことはといえば、未だ鎧熊の発見こそされていないものの、自警団員たちの不断の努力によって今もなお捜索は進められている、ということ。
そのお陰で、鎧熊がいたと思われる痕跡だけなら、いくつも発見されているとのことだった。
この調子なら、間もなく見つかるのではないか? というのが自警団からの報告だとか。
それに合わせて、鎧熊と直接戦闘を担う部隊も来る決戦に備え、準備を着々と進めているのだと、神父様は言う。
作戦、と呼べるようなものではないが、今後の予定として鎧熊を発見し次第、戦闘部隊は直ちに鎧熊を強襲、戦闘に参加しない残りの自警団員で速やかに村人を避難させる運びとなっているらしい。
避難とはいっても、できることなんて村から離れる程度のことぐらいしかできないんだけどな。
だが……
「なるほど……ですが、多分避難はしなくて大丈夫ですよ」
「と、言うと?」
「実は、校舎にちょっとした細工がしてありまして……」
というのも、校舎を魔改造する際に、実験の意味も込めてあれやこれやと無駄に多機能にしていた。
その中で、照明や冷暖房といった使用頻度の高そうな機能については、神父様始めシスターたちにも使い方を教えてはいたのだが、なにも全ての機能を説明していた訳ではなかったりする。
まぁ、全部話してないのは説明するのが面倒になったからなんだけどね……
で、その話していない機能の一つに、校舎をまるまるシェルター化する、というものがあった。
これは災害時や、賊などに村が襲われた時に避難先として使えれば、と思い組み込んだものなのだが……
そもそもアストリアス王国は、地震や台風といった自然災害とはほぼほぼ無縁な土地なうえ、賊に村が襲われるなんて、平和な今となっては嵐に見舞われるより出会う確率が低いと来た。
ようは、殆ど無用の長物と化していた機能なものだから、まさかこんな形で役に立つ日が来るとは思いもしなかったのだ。
ちなみに、強度にはかなりの自信があり、たとえ屋根に力士が一〇〇人乗っても大丈夫だ。
鎧熊だろうが何だろうが、壊せるものなら壊してみろってんだ、コノヤロー!
「校舎だけで村人全員を収容するのには無理がありますから、銭湯と村長の家、あとは集会場に同じ改造を施せば、なんとか村人全員を収容できるだけの空間を確保できると思いますよ」
村長の家を選んだのは、あそこが村で一、二を争うくらい大きな民家だからだ。あそこなら、詰め込めば結構な人数を収容できるはずだ。
それに、何も十日も二十日も避難しようという訳ではない。ほんの一日、二日程度ならそれで何とかなるはずだ。
なにせ、相手などたかだか獣一匹。うちの優秀な自警団の手に掛かれば、一日で討伐してくれるに違いないっ! ……ことを期待しておく。
「……そういうものがあるなら、先に聞いておきたかったですね」
俺からの一連の説明が終わると、神父様はそう言いながら呆れたようにため息を吐いた。
「いやぁ~、すんません。まさか本当に使う日が来るなんて思いもしなかったもので……」
「いえ、ですがこれで避難に関しては目途が立ちました。それで、作業にはどれくらいの時間が必要でしょうか?」
「そうですね……シェルター化するだけなら一日もあれば十分ですが……三日。いや、四日貰えますか?」
「四日……ですか?」
「ええ。その四日間で、自警団の防具の件も含めて何か準備します。ですから、その四日間の間は、たとえ鎧熊を見つけたとしても、絶対に手を出さないでいて欲しいんです」
流石に準備が整う前に戦いを挑むなど、愚の骨頂過ぎるからな。
備えあれば憂いなし、とか、網無くして淵に臨むな、とかいう言葉もある。
何事も万全の体勢で挑むことが重要なのだ。
とはいえ、向こうから仕掛けてきた場合はなんともならないんだけどな……
「分かりました。私の一存で決定できことでもありませんので、自警団にはその旨は伝えておきます。
とはいえ、恐らくは聞き入れてもらえると思いますけどね。安心材料は一つでも多いに越したことはありません。
それに、“道具屋”のロディフィス作の防具とあれば、皆も喜ぶと思いますよ」
「そうだといいんですけどね」
俺は、そんな神父様の言葉に苦笑を浮かべた。
“道具屋”とは最近の俺の通称だ。
“何でも屋”とか“便利屋”とかとか……
いろいろな呼称があったのだが、結局“不思議な道具を作る”“便利な道具を作る”“どんな道具でも作る”ことから“道具屋”で定着してしまったらしい。
俺個人としては、なんとも間の抜けたその呼び名に改定を求めているのだが、誰も聞き入れてくれないんだよなぁ……
俺としてはもっとこうカッコよく魔道具を作る者、“魔道士”とか“魔具士”とかの方がいいんだが……ってそんな話はさておきだ。
その後は、俺の予定と今簡単に思いつく魔道具による防具構想などを話して、解散となった。
で、神父様はその足で村長の家へと向かい、自警団--この場合はその最高責任者であるクマのおっさんだな--を交えて、今後のことを相談すると言っていた。
なんでも、俺に今回の一件を話すことは神父様の独断らしい。クマのおっさんはおろか村長にも話していないのだとか。
何故わざわざ秘密にしているのかと聞いたら、
「手を貸してもらえるにしろ、しないにしろ、まずは当人に了承を取るべきだと思いまして……」
と、なんとも律儀なことを言っていた。俺だって別に鬼ではない。
“村が危険だ。だから力を貸せ”
というのなら、別に出し惜しむつもりも、出し渋るつもりもないというのに……
と、言う訳でその日から早速、俺は村の施設のシェルター化、そして防具の魔改造および魔道具制作を開始したのだった。
ちなみに、この間の学校は自主休校扱いにしてもらった。
事情を知らないミーシャたちには、かなり不思議がられてしまったが、こればっかりは詳しく話す訳にもいかないので仕方ないな。
そして、あっという間に四日が過ぎて……
で、分かったことはといえば、未だ鎧熊の発見こそされていないものの、自警団員たちの不断の努力によって今もなお捜索は進められている、ということ。
そのお陰で、鎧熊がいたと思われる痕跡だけなら、いくつも発見されているとのことだった。
この調子なら、間もなく見つかるのではないか? というのが自警団からの報告だとか。
それに合わせて、鎧熊と直接戦闘を担う部隊も来る決戦に備え、準備を着々と進めているのだと、神父様は言う。
作戦、と呼べるようなものではないが、今後の予定として鎧熊を発見し次第、戦闘部隊は直ちに鎧熊を強襲、戦闘に参加しない残りの自警団員で速やかに村人を避難させる運びとなっているらしい。
避難とはいっても、できることなんて村から離れる程度のことぐらいしかできないんだけどな。
だが……
「なるほど……ですが、多分避難はしなくて大丈夫ですよ」
「と、言うと?」
「実は、校舎にちょっとした細工がしてありまして……」
というのも、校舎を魔改造する際に、実験の意味も込めてあれやこれやと無駄に多機能にしていた。
その中で、照明や冷暖房といった使用頻度の高そうな機能については、神父様始めシスターたちにも使い方を教えてはいたのだが、なにも全ての機能を説明していた訳ではなかったりする。
まぁ、全部話してないのは説明するのが面倒になったからなんだけどね……
で、その話していない機能の一つに、校舎をまるまるシェルター化する、というものがあった。
これは災害時や、賊などに村が襲われた時に避難先として使えれば、と思い組み込んだものなのだが……
そもそもアストリアス王国は、地震や台風といった自然災害とはほぼほぼ無縁な土地なうえ、賊に村が襲われるなんて、平和な今となっては嵐に見舞われるより出会う確率が低いと来た。
ようは、殆ど無用の長物と化していた機能なものだから、まさかこんな形で役に立つ日が来るとは思いもしなかったのだ。
ちなみに、強度にはかなりの自信があり、たとえ屋根に力士が一〇〇人乗っても大丈夫だ。
鎧熊だろうが何だろうが、壊せるものなら壊してみろってんだ、コノヤロー!
「校舎だけで村人全員を収容するのには無理がありますから、銭湯と村長の家、あとは集会場に同じ改造を施せば、なんとか村人全員を収容できるだけの空間を確保できると思いますよ」
村長の家を選んだのは、あそこが村で一、二を争うくらい大きな民家だからだ。あそこなら、詰め込めば結構な人数を収容できるはずだ。
それに、何も十日も二十日も避難しようという訳ではない。ほんの一日、二日程度ならそれで何とかなるはずだ。
なにせ、相手などたかだか獣一匹。うちの優秀な自警団の手に掛かれば、一日で討伐してくれるに違いないっ! ……ことを期待しておく。
「……そういうものがあるなら、先に聞いておきたかったですね」
俺からの一連の説明が終わると、神父様はそう言いながら呆れたようにため息を吐いた。
「いやぁ~、すんません。まさか本当に使う日が来るなんて思いもしなかったもので……」
「いえ、ですがこれで避難に関しては目途が立ちました。それで、作業にはどれくらいの時間が必要でしょうか?」
「そうですね……シェルター化するだけなら一日もあれば十分ですが……三日。いや、四日貰えますか?」
「四日……ですか?」
「ええ。その四日間で、自警団の防具の件も含めて何か準備します。ですから、その四日間の間は、たとえ鎧熊を見つけたとしても、絶対に手を出さないでいて欲しいんです」
流石に準備が整う前に戦いを挑むなど、愚の骨頂過ぎるからな。
備えあれば憂いなし、とか、網無くして淵に臨むな、とかいう言葉もある。
何事も万全の体勢で挑むことが重要なのだ。
とはいえ、向こうから仕掛けてきた場合はなんともならないんだけどな……
「分かりました。私の一存で決定できことでもありませんので、自警団にはその旨は伝えておきます。
とはいえ、恐らくは聞き入れてもらえると思いますけどね。安心材料は一つでも多いに越したことはありません。
それに、“道具屋”のロディフィス作の防具とあれば、皆も喜ぶと思いますよ」
「そうだといいんですけどね」
俺は、そんな神父様の言葉に苦笑を浮かべた。
“道具屋”とは最近の俺の通称だ。
“何でも屋”とか“便利屋”とかとか……
いろいろな呼称があったのだが、結局“不思議な道具を作る”“便利な道具を作る”“どんな道具でも作る”ことから“道具屋”で定着してしまったらしい。
俺個人としては、なんとも間の抜けたその呼び名に改定を求めているのだが、誰も聞き入れてくれないんだよなぁ……
俺としてはもっとこうカッコよく魔道具を作る者、“魔道士”とか“魔具士”とかの方がいいんだが……ってそんな話はさておきだ。
その後は、俺の予定と今簡単に思いつく魔道具による防具構想などを話して、解散となった。
で、神父様はその足で村長の家へと向かい、自警団--この場合はその最高責任者であるクマのおっさんだな--を交えて、今後のことを相談すると言っていた。
なんでも、俺に今回の一件を話すことは神父様の独断らしい。クマのおっさんはおろか村長にも話していないのだとか。
何故わざわざ秘密にしているのかと聞いたら、
「手を貸してもらえるにしろ、しないにしろ、まずは当人に了承を取るべきだと思いまして……」
と、なんとも律儀なことを言っていた。俺だって別に鬼ではない。
“村が危険だ。だから力を貸せ”
というのなら、別に出し惜しむつもりも、出し渋るつもりもないというのに……
と、言う訳でその日から早速、俺は村の施設のシェルター化、そして防具の魔改造および魔道具制作を開始したのだった。
ちなみに、この間の学校は自主休校扱いにしてもらった。
事情を知らないミーシャたちには、かなり不思議がられてしまったが、こればっかりは詳しく話す訳にもいかないので仕方ないな。
そして、あっという間に四日が過ぎて……
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