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13・しましまさんと内緒の思い出ー2
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休日は桐矢くんに車を出してもらい、買い出しに連れて行ってもらってる。
食材と日用品を購入して、お昼はご馳走になった。
「ご馳走さま、久々のパスタ、美味しかったー」
「当たりだったな、あの店」
また行こうと言われ、うん、と頷き約束した。
家に帰ると、ちょうど家を訪ねてきたところだった二人に出会った。大柄な男の人と、女の人の方は昨日、七年前の手紙を受け取った沖野ヨウコさんだった。
「雪さん、こんにちは」
「あ、小宮先輩も一緒でしたか!」
「三島、どうしたんだ」
「手紙を届けてくれたお礼と、報告に!」
三島さんは声も身体もとても大きい人だった。
「オレたち、お付き合いを始めました!」
二人は繋いだ手を掲げて笑った。つられて私も顔が緩んでしまう。
「どーぞ! 食べてください」と渡された袋にはずしりと重い。大きなメロンが二玉入ってた。
「お礼だなんて、あの手紙はしましまさんが拾って来たものですし」
立派すぎるメロンに、戸惑ってしまうのだけど、彼は笑って「猫には鰹節持って来ました!」と大きな猫用鰹節袋までくれた。いろいろと勢いに圧倒されてしまった。
縁側に座布団を並べてお茶を用意した。
「にゃぁーん」
「あ、しましまさん、おかえりー」
「おぉ! この猫がオレたちの縁結びをしてくれた猫ですか! 男前だな、おいで!」
「にゃん」
呼ばれてあっさり三島さんの膝上へ。
「はぁっ!? しましまぁー、オレが呼んでも絶対こないヤツがっ」
「はははっ! うちは牛を飼ってるから動物の扱いには慣れてるんですよ!」
牛と猫は全然違う気するけど、しましまさんから側に行くなんて珍しいことだ。
「ほんと感謝してます! 七年前、夏休みの間に転校したのも知らないで手紙を出して、祭の日、大杉の下でずっと待ってたんですよっ」
三島さんは苦笑しながら、しましまさんを揉むように撫でていた。
「あの時は振られた思って、夏休み中ヘコんでましたわ! はははっ」
ヨウコさんが戻ってきたのは聞いていても、気になってはいたけれど、今更話すきっかけもないまま、天神祭を迎えたのだと。
「大杉の下で、七年前のこと思い出してたんですよ、そしたら」
『手紙、ありがとう』
浴衣姿のヨウコさんが手紙を手に立っていたと。
七年前に戻った気がしましたよと、照れ隠しにがしがし頭をかきながら、三島さんは笑った。
「“七年も待ってた”って、気づいたら言ってましたわー! はははっ」
二人は笑いながら顔を見合わせて頬を染めていた。
すごい! しましまさん、すごいよ!
七年越しの再会で想いが通じるなんて、こんな素敵な奇跡が起こるなんて!
「まさか猫に手紙を拾われて、七年も経ってヨウコに届くとは。驚きましたが、これをきっかけにオレたち、付き合うことになりまして! 」
二人はまた手を繋ぎ、私たちに見せた。
しましまさんの奇跡は何度も見たけど、これはドキドキしてしまう。
「ヨウコさん、よかったね」
「雪さん、ありがとうございます、私も昨日の今日でこんなことになるなんて、驚いているんですけど」
三島さんの勢いに流されてるような感じもするけど、でも、きっと、絶対に二人は幸せになるだろう。
しましまさんの縁結び。
三島さんの膝上で、しましまさんは上機嫌でずっと喉を鳴らしてるのだから。
「七年越しに叶ったな、三島、よかったな。沖野さんも」
「にゃーん」
「ありがとうございます!」
「これが猫の拾い物ですか?」
なっつかしーな! とカゴの中のぞく三島さんが手にしてるのは、今朝しましまさんが拾ってきたハンコ。
「これ小学校で作ったやつですね! 懐かしいなぁ! オレは確か、好きな漫画の主人公で作ったんだよ、ヨウコは?」
「私は飼ってたダックスフンドだったわ」
「うわ、これ、ゴーオンレンジャー!? うわぁ、これ子供の頃すっげー好きだったんですよ!」
三島さんが手にしているのは、しましまさんが二週間くらい前に拾って来たレンジャーもののソフトビニール人形。
「懐かしいなぁ、これ、じーさんに誕生日の祝いで買ってもらったことあったんですよ!」
と、そこまで言って三島さんの表情は固まった。
「どうしたの?」
顔を覗き込むヨウコさんにも応えず、人形の足の裏を見つめる三島さんの眉間にはシワ。
「ん、いや……、まさか……」
と、狼狽える姿は明らかにその人形と繋がりがあるようで、
「にゃあ」
しましまさんは三島さんに体をすり寄せているから間違いないのだろう。
「それ、三島くんの?」
「え、いや……」
でも彼はそのまま、カゴに戻そうとする。
「三島、しましまの奇跡を見ただろ? 気のせいじゃないんじゃないのか?」
桐矢くんの声に三島さんは少し考えて人形を差し出した。
「先輩、この足の裏、何て読めますか?」
受け取って一緒に人形の足の裏を覗き込んだ。
「“夕”?」
「これカタカナのタじゃない?」
「ああ、そっか、“タ”、こっち、“ク”か?」
擦れているが、“タク”と読めた。
「タクって拓也ってこと? 三島くんのことなんじゃない!?」
「これ、オレのかもしれません……いや、でも……」
「にゃぁん」
「すごい! 絶対そうだよ! 猫ちゃんスゴイ!」
三島タクヤ、人形の足の裏に書かれた“タク”は三島さんの名前で間違いないのだろう。だってしましまさんも嬉しそうに喉を鳴らしているのだから。
しかし、しましまさんの拾い物で七年越しに縁が繋がっても、まだ、三島さんは人形との出会いに呆然としていた。
「本当に、オレのなのかな……」
「だって、こんな偶然ないよっ?」
「……全部火事で失くしたと思ってたから」
その言葉に私たちは息を飲む。
「仏壇の火の不始末、だったらしいですわ、仏間と子供部屋と、じーさんの部屋も、母屋が半焼してしもうて……、ほんと、オレも全部、失くしてしもうて、その時にじーさん……」
私たちは再び息を飲んだ。
「鉄筋コンクリートで建て替える! ってキレてな」
「ええっ!?」
「ん?」
「え、あの、家族は、みんな無事だったのね?」
「ああ、うん、そーだ、みんな無事だったよ、で、じーさんは一昨年、ボケずに元気でポックリだしな! 九十三歳の大往生だ! はははっ!」
ヨウコさんの疑問に笑って答えた三島さんに、私たちも力が抜けた。
「ただ、ウチは兄弟も多いからオモチャなんか買ってもらったの、これ一度きりなんですわ、誕生日っていっても小遣いくれて、好きなもん買えってかんじで。この人形も親に強請って、それでもダメだって言われて、じーさんが内緒で買ってくれたんですよ。オレにとって初めて貰った形のある物って、この人形しかなかったんですわ……、はは……、燃えてしもうたと思っとたんですけどね……」
人形を見つめる三島さんの腕に、しましまさんはクリクリと額を擦り寄せていた。
「ねぇ、おじいさんが、私たちを合わせてくれた、そんな気がしない?」
「そうかもしれないな」
「にゃぁーん」
笑い合う二人の手はまたしっかり繋がれていた。
人形を譲って下さいと頭を下げる三島さんに、もともと三島さんの物なのだからと、受け取ってもらった。
二人で、このままおじいさんの墓参りに行ってきますと、そう言って帰って行った。
しましまさんの拾い物には意味がある。
しましまさんも長い尻尾をゆらゆらと揺らしながら、二人を見送っていた。
食材と日用品を購入して、お昼はご馳走になった。
「ご馳走さま、久々のパスタ、美味しかったー」
「当たりだったな、あの店」
また行こうと言われ、うん、と頷き約束した。
家に帰ると、ちょうど家を訪ねてきたところだった二人に出会った。大柄な男の人と、女の人の方は昨日、七年前の手紙を受け取った沖野ヨウコさんだった。
「雪さん、こんにちは」
「あ、小宮先輩も一緒でしたか!」
「三島、どうしたんだ」
「手紙を届けてくれたお礼と、報告に!」
三島さんは声も身体もとても大きい人だった。
「オレたち、お付き合いを始めました!」
二人は繋いだ手を掲げて笑った。つられて私も顔が緩んでしまう。
「どーぞ! 食べてください」と渡された袋にはずしりと重い。大きなメロンが二玉入ってた。
「お礼だなんて、あの手紙はしましまさんが拾って来たものですし」
立派すぎるメロンに、戸惑ってしまうのだけど、彼は笑って「猫には鰹節持って来ました!」と大きな猫用鰹節袋までくれた。いろいろと勢いに圧倒されてしまった。
縁側に座布団を並べてお茶を用意した。
「にゃぁーん」
「あ、しましまさん、おかえりー」
「おぉ! この猫がオレたちの縁結びをしてくれた猫ですか! 男前だな、おいで!」
「にゃん」
呼ばれてあっさり三島さんの膝上へ。
「はぁっ!? しましまぁー、オレが呼んでも絶対こないヤツがっ」
「はははっ! うちは牛を飼ってるから動物の扱いには慣れてるんですよ!」
牛と猫は全然違う気するけど、しましまさんから側に行くなんて珍しいことだ。
「ほんと感謝してます! 七年前、夏休みの間に転校したのも知らないで手紙を出して、祭の日、大杉の下でずっと待ってたんですよっ」
三島さんは苦笑しながら、しましまさんを揉むように撫でていた。
「あの時は振られた思って、夏休み中ヘコんでましたわ! はははっ」
ヨウコさんが戻ってきたのは聞いていても、気になってはいたけれど、今更話すきっかけもないまま、天神祭を迎えたのだと。
「大杉の下で、七年前のこと思い出してたんですよ、そしたら」
『手紙、ありがとう』
浴衣姿のヨウコさんが手紙を手に立っていたと。
七年前に戻った気がしましたよと、照れ隠しにがしがし頭をかきながら、三島さんは笑った。
「“七年も待ってた”って、気づいたら言ってましたわー! はははっ」
二人は笑いながら顔を見合わせて頬を染めていた。
すごい! しましまさん、すごいよ!
七年越しの再会で想いが通じるなんて、こんな素敵な奇跡が起こるなんて!
「まさか猫に手紙を拾われて、七年も経ってヨウコに届くとは。驚きましたが、これをきっかけにオレたち、付き合うことになりまして! 」
二人はまた手を繋ぎ、私たちに見せた。
しましまさんの奇跡は何度も見たけど、これはドキドキしてしまう。
「ヨウコさん、よかったね」
「雪さん、ありがとうございます、私も昨日の今日でこんなことになるなんて、驚いているんですけど」
三島さんの勢いに流されてるような感じもするけど、でも、きっと、絶対に二人は幸せになるだろう。
しましまさんの縁結び。
三島さんの膝上で、しましまさんは上機嫌でずっと喉を鳴らしてるのだから。
「七年越しに叶ったな、三島、よかったな。沖野さんも」
「にゃーん」
「ありがとうございます!」
「これが猫の拾い物ですか?」
なっつかしーな! とカゴの中のぞく三島さんが手にしてるのは、今朝しましまさんが拾ってきたハンコ。
「これ小学校で作ったやつですね! 懐かしいなぁ! オレは確か、好きな漫画の主人公で作ったんだよ、ヨウコは?」
「私は飼ってたダックスフンドだったわ」
「うわ、これ、ゴーオンレンジャー!? うわぁ、これ子供の頃すっげー好きだったんですよ!」
三島さんが手にしているのは、しましまさんが二週間くらい前に拾って来たレンジャーもののソフトビニール人形。
「懐かしいなぁ、これ、じーさんに誕生日の祝いで買ってもらったことあったんですよ!」
と、そこまで言って三島さんの表情は固まった。
「どうしたの?」
顔を覗き込むヨウコさんにも応えず、人形の足の裏を見つめる三島さんの眉間にはシワ。
「ん、いや……、まさか……」
と、狼狽える姿は明らかにその人形と繋がりがあるようで、
「にゃあ」
しましまさんは三島さんに体をすり寄せているから間違いないのだろう。
「それ、三島くんの?」
「え、いや……」
でも彼はそのまま、カゴに戻そうとする。
「三島、しましまの奇跡を見ただろ? 気のせいじゃないんじゃないのか?」
桐矢くんの声に三島さんは少し考えて人形を差し出した。
「先輩、この足の裏、何て読めますか?」
受け取って一緒に人形の足の裏を覗き込んだ。
「“夕”?」
「これカタカナのタじゃない?」
「ああ、そっか、“タ”、こっち、“ク”か?」
擦れているが、“タク”と読めた。
「タクって拓也ってこと? 三島くんのことなんじゃない!?」
「これ、オレのかもしれません……いや、でも……」
「にゃぁん」
「すごい! 絶対そうだよ! 猫ちゃんスゴイ!」
三島タクヤ、人形の足の裏に書かれた“タク”は三島さんの名前で間違いないのだろう。だってしましまさんも嬉しそうに喉を鳴らしているのだから。
しかし、しましまさんの拾い物で七年越しに縁が繋がっても、まだ、三島さんは人形との出会いに呆然としていた。
「本当に、オレのなのかな……」
「だって、こんな偶然ないよっ?」
「……全部火事で失くしたと思ってたから」
その言葉に私たちは息を飲む。
「仏壇の火の不始末、だったらしいですわ、仏間と子供部屋と、じーさんの部屋も、母屋が半焼してしもうて……、ほんと、オレも全部、失くしてしもうて、その時にじーさん……」
私たちは再び息を飲んだ。
「鉄筋コンクリートで建て替える! ってキレてな」
「ええっ!?」
「ん?」
「え、あの、家族は、みんな無事だったのね?」
「ああ、うん、そーだ、みんな無事だったよ、で、じーさんは一昨年、ボケずに元気でポックリだしな! 九十三歳の大往生だ! はははっ!」
ヨウコさんの疑問に笑って答えた三島さんに、私たちも力が抜けた。
「ただ、ウチは兄弟も多いからオモチャなんか買ってもらったの、これ一度きりなんですわ、誕生日っていっても小遣いくれて、好きなもん買えってかんじで。この人形も親に強請って、それでもダメだって言われて、じーさんが内緒で買ってくれたんですよ。オレにとって初めて貰った形のある物って、この人形しかなかったんですわ……、はは……、燃えてしもうたと思っとたんですけどね……」
人形を見つめる三島さんの腕に、しましまさんはクリクリと額を擦り寄せていた。
「ねぇ、おじいさんが、私たちを合わせてくれた、そんな気がしない?」
「そうかもしれないな」
「にゃぁーん」
笑い合う二人の手はまたしっかり繋がれていた。
人形を譲って下さいと頭を下げる三島さんに、もともと三島さんの物なのだからと、受け取ってもらった。
二人で、このままおじいさんの墓参りに行ってきますと、そう言って帰って行った。
しましまさんの拾い物には意味がある。
しましまさんも長い尻尾をゆらゆらと揺らしながら、二人を見送っていた。
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