しましま猫の届け物

ひろか

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18・しましまさんと贈り物ー3

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 家に戻って、桐矢くんは温かいお茶を入れてくれた。

「ごめんね、びっくりしちゃって」

 桐矢くんの顔を見たら、涙が止まらなくなってしまった。なんでだろ……、恥ずかしい。

「しょうがないよ、……警察と地元の人たちで捜索に入るって。ユキちゃんはしっかり戸締りして家にいろよ」
「でもっ」
「オレも、手伝いに呼ばれてるから」

 思わず、立ち上がった桐矢くんの裾を掴んでしまった。

「あ、あのっ」
「ん?」
「あの……、えっと、おむすび! 作って待ってるから! 食べに来て」
「ありがと」

 にへっと子供の頃のままの笑顔で、桐矢くんは出て行った。
 空は赤を追いやるように暗く染まり始めている。

『おばーちゃん、待ってぇ』

 チカちゃんと一緒にいたおばあさんは誰なのか。

『私の母は二十年前に亡くなってます!』

 今朝、しましまさんが拾ってきたバースデーカードには、

『りっこちゃんへ
 10歳のお誕生日おめでとう!
 お母さんより』

 しましまさんの拾い物に関わり、今までのことを考えれば、とても無関係だとは思えなかった。
 だからって、チカちゃんと一緒にいたおばあさんは、リカコさんのお母さんだと言う?
 亡くなった人がチカちゃんを連れ去ったって?

 首を振り、独り言ちた。

「そんなこと……あるわけないのに」

 桐矢くんに、しましまさんの拾い物がリカコさんのものだと伝えてみようか……。拾い物の持ち主にしましまさんが体をすり寄せるから、分かるんだって。笑われるかも? ……でも、桐矢くんなら信じてくれる気がする。

 私は米と研ぎ、炊飯器にしかけた。

「にゃあーん」
「お帰り! しましまさん!」

 ゴロゴロと喉を鳴らして体をすり寄せるしましまさんを撫でくりまわし、私は総司くんからの手紙のことを思い出した。

「ごめんね! 総司くん!」

 バタバタとしていて棚に置いたままだった。慌てて封筒を開けば、

『雪へ
 僕と桐矢は、昔から好みが同じなんですよ』

「へ?」

 今朝、総司くんに宛てた手紙はハンコのお礼だった。その返事がコレ。

 これは、食べ物の好物の話じゃない。

 手紙を胸に、思わずきょろきょろと、意味もなくしてしまった。
 昨日と、今日、おかしい。手紙の内容が、なんだか、変だ。

「え、っと……」

 バクバクする心臓と呼吸が早くなって、私は手紙を胸に抱いたまま、麦茶をコップ注ぎ飲み込んだ。
 もう一度、手紙に目を落とす。

 どゆこと?

 昨日の手紙は、『僕が作ったハンコは、桐矢と同じものですよ』で、この手紙から桐矢くんが作ったハンコも、雪の結晶だと知ってしまって……。

『総兄はさ、結晶って形で隠して、ユキの名前彫ったんだよ』
『ユキはにっぶいから、全然気づいてなかったみたいだけど、総兄は、ずっと、ユキが好きだったんだよなー』

 ハンコを届けにきてくれた桐矢くんは、そんな総司くんの想いを教えてくれた。

「…………」

『僕と桐矢は、昔から好みが同じなんですよ』

「……………………」

 え……と、待って、それって、それじゃ、まるで、桐矢くんが、私を「にゃん!」
「ひゃあっ!」

 飛び上がり振り向けば、カラン! としましまさんが空っぽのエサ入れを転がしたところだった。

「ごめん! しましまさん!」

 慌ててカリカリを補充し、解した蒸しササミもお詫びに添えた。


 炊き上がったご飯をボールに取り、具には梅干しと、ゴマ昆布を入れたおむすびを作り、一個ずつラップで包んだ。甘々の卵焼きと、ケチャップを絡めた肉団子を作り、摘んで食べやすいようにと爪楊枝を刺し、おかずの皿にもラップを掛けた。

 二十一時半、チカちゃんはまだ見つからない。外にはまだ、懐中電灯の光が幾つも見えていた。

「ねぇ、しましまさん」

 香箱座りのしましまさんの背を撫でると、ゴロゴロと低い音が聞こえてきた。

「チカちゃん、見つかるよね」
「にゃん」

 ひと鳴きし、しましまさんが立ち上がった時、カラカラと玄関の開いた音がした。続けて「ユキちゃん、なんで鍵掛けてないんだ?」と、桐矢くんの声。

「お疲れ様、おかえり」
「あー、はは、おかえりっていいな……」

「にゃあ」

 なぜか照れたように頭をかく桐矢くんの、その足に珍しく体を擦り寄せたしましまさん。
 桐矢くんも驚いてしましまさんに振り返る。

 しましまさんは長い尻尾を揺らしながら夜の散歩へと出かけて行った。


















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