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煌びやかな王宮の広間に集められたのは金魚のようにヒラヒラとしたドレスに身を包む美女たち。
優雅に美しい微笑みを浮かべてはいるが、目がちびっとも笑っていない。皆が皆して、狩人の目になっていた。獲物は王太子の妻の座。
そんな中でなぜにか、同じようにドレスに絞められ、うふふ、おほほ、と微笑んでいるアズラエル。
もうやだ、帰りたい。めっさ帰りたい。
原因は双子の姉であるマルティナ。近隣諸国適齢期の王女へ届いた、大国からの王太子妃スカウト通知。
まさかこんな辺境の小さな国の王女宛てにそんなものが届くなど、誰も思ってもいなかったから城内は大混乱。
そんな中で顔色を失くして立ちすくんでいたのは宰相の息子。先週姉であるマルティナ王女の夫になったばかりの義兄、カリスだった。
「なんて言う? どうやって断る?」
「いやいや、言えんでしょー、大国だよ?」
国王である父と叔父は、基本長い物にはくるくるっと巻かれろ思考。
「でもさ、嫁取りに近隣諸国、全部に声かけたみたいねー、ほら」
「あらやだ、十三国全部じゃない。うちみたいな虚弱国も、義理で声かけた感あるわねー」
「うちってさ、王太子妃に選ぶメリットないもの」
「ねぇー」
王妃である母と叔母の言葉。
「だからって断れないのだから、マルティナには行ってもらったら? うちが選ばれることなんてないんだし、あ、カリスくんとさ、王都観光、新婚旅行気分で」
「ダメです!」
兄であるうちの王太子の言葉を遮り声をあげたのは、姉の夫である宰相の息子カリス。
「マ、マルティナのお腹には子供がいます!」
あら、もう? なんて顔を見合わせる母と叔母。
「妊娠三か月なんです!」
計算合わないじゃん。順番違うじゃん。先週結婚式をあげたばかりのカリスに、一同無言のぬるい目が向く。
「じゃあ、アズ。お前が行っておいでよ」
『それだ!』
父母叔父叔母が声を揃えて頷いた。
「ん?」
クッキーをくわえたままアズラエルは首を傾げた。
離れたとこで、お菓子をむっしゃーむっしゃー、むさぼりながら新刊を読みふけっていた第二王子アズラエルに、父母、叔父叔母、兄の目が向いていた。
「アズラエル、ハシノ国の王太子として命じる、マルティナとしてハイディエル国へ赴き婚約者候補から脱落し、戻ってこい」
「え?」
ぽろりとクッキーのカケラが口からこぼれた。
「は!? な、何言ってんだよ! 男のオレが行けるわけないだろ!?」
立ち上がった拍子に落ちた冊子を拾い上げたのは兄。「アズぅ」と鼻先に開いた冊子を突き付ける。
「ハイディエル国の王都にはお前の尊敬する、カラクリ技師のいる工房があるって、知ってるよねぇ?」
突き付けられたページにはハイディエル王都のカラクリ工房、オルガ技師の特集記事。息をのむアズラエル。続く兄の声はとても優しかった。
「カラクリ工房だけじゃない、王都には歴代の匠が手掛けた時計塔、他に王城や神殿にもカラクリ時計が設置されてるっていうよねぇ」
アズラエルの喉がゴクリと鳴る。
兄は冊子に目を向けゆっくりとめくる。
「近隣の国には寄贈されたカラクリ時計が、数多くあるって言うし?」
もう堪らなかった。そして優しい表情で告げられる追い打ち。
「見たいよねぇ?」
カクカクカクカクとカラクリ人形のように頷くアズラエル。
「行きたいよねぇ?」
カクカクカクカクと頷くアズラエル。
「行ってくれるよね?」
カクカクカクカク頷くアズラエル。
「はい」
兄がパンパンと手を打つと側仕えたちがアズラエルの脇を抱えた。
「え?」
「頼んだぞ」
「お任せください」
いつの間には揃った侍女が並び頭を下げた。
「え!? 待っ! えぇー!?」
***
双子だけあって顔だけは姉、マルティナと瓜二つ。姉妹だと言った方が納得されるほど華奢な容姿の第二王子アズラエル。違うのは金の髪のマルティナに対してアズラエルは銀の髪。
ドレスを着させられ、化粧を塗りたくられ、マルティナと同じ金髪のカツラをつければ、カリスも頬を染め「マルちゃん」なんて呟くほどの瓜二つな仕上がり。
「がんばれよ、バレればうちの国は消されるぞー」
「いやぁぁぁー!」
アズラエルは無理やり馬車に詰められ、ハイディエル国へと送り出されたのだった。
優雅に美しい微笑みを浮かべてはいるが、目がちびっとも笑っていない。皆が皆して、狩人の目になっていた。獲物は王太子の妻の座。
そんな中でなぜにか、同じようにドレスに絞められ、うふふ、おほほ、と微笑んでいるアズラエル。
もうやだ、帰りたい。めっさ帰りたい。
原因は双子の姉であるマルティナ。近隣諸国適齢期の王女へ届いた、大国からの王太子妃スカウト通知。
まさかこんな辺境の小さな国の王女宛てにそんなものが届くなど、誰も思ってもいなかったから城内は大混乱。
そんな中で顔色を失くして立ちすくんでいたのは宰相の息子。先週姉であるマルティナ王女の夫になったばかりの義兄、カリスだった。
「なんて言う? どうやって断る?」
「いやいや、言えんでしょー、大国だよ?」
国王である父と叔父は、基本長い物にはくるくるっと巻かれろ思考。
「でもさ、嫁取りに近隣諸国、全部に声かけたみたいねー、ほら」
「あらやだ、十三国全部じゃない。うちみたいな虚弱国も、義理で声かけた感あるわねー」
「うちってさ、王太子妃に選ぶメリットないもの」
「ねぇー」
王妃である母と叔母の言葉。
「だからって断れないのだから、マルティナには行ってもらったら? うちが選ばれることなんてないんだし、あ、カリスくんとさ、王都観光、新婚旅行気分で」
「ダメです!」
兄であるうちの王太子の言葉を遮り声をあげたのは、姉の夫である宰相の息子カリス。
「マ、マルティナのお腹には子供がいます!」
あら、もう? なんて顔を見合わせる母と叔母。
「妊娠三か月なんです!」
計算合わないじゃん。順番違うじゃん。先週結婚式をあげたばかりのカリスに、一同無言のぬるい目が向く。
「じゃあ、アズ。お前が行っておいでよ」
『それだ!』
父母叔父叔母が声を揃えて頷いた。
「ん?」
クッキーをくわえたままアズラエルは首を傾げた。
離れたとこで、お菓子をむっしゃーむっしゃー、むさぼりながら新刊を読みふけっていた第二王子アズラエルに、父母、叔父叔母、兄の目が向いていた。
「アズラエル、ハシノ国の王太子として命じる、マルティナとしてハイディエル国へ赴き婚約者候補から脱落し、戻ってこい」
「え?」
ぽろりとクッキーのカケラが口からこぼれた。
「は!? な、何言ってんだよ! 男のオレが行けるわけないだろ!?」
立ち上がった拍子に落ちた冊子を拾い上げたのは兄。「アズぅ」と鼻先に開いた冊子を突き付ける。
「ハイディエル国の王都にはお前の尊敬する、カラクリ技師のいる工房があるって、知ってるよねぇ?」
突き付けられたページにはハイディエル王都のカラクリ工房、オルガ技師の特集記事。息をのむアズラエル。続く兄の声はとても優しかった。
「カラクリ工房だけじゃない、王都には歴代の匠が手掛けた時計塔、他に王城や神殿にもカラクリ時計が設置されてるっていうよねぇ」
アズラエルの喉がゴクリと鳴る。
兄は冊子に目を向けゆっくりとめくる。
「近隣の国には寄贈されたカラクリ時計が、数多くあるって言うし?」
もう堪らなかった。そして優しい表情で告げられる追い打ち。
「見たいよねぇ?」
カクカクカクカクとカラクリ人形のように頷くアズラエル。
「行きたいよねぇ?」
カクカクカクカクと頷くアズラエル。
「行ってくれるよね?」
カクカクカクカク頷くアズラエル。
「はい」
兄がパンパンと手を打つと側仕えたちがアズラエルの脇を抱えた。
「え?」
「頼んだぞ」
「お任せください」
いつの間には揃った侍女が並び頭を下げた。
「え!? 待っ! えぇー!?」
***
双子だけあって顔だけは姉、マルティナと瓜二つ。姉妹だと言った方が納得されるほど華奢な容姿の第二王子アズラエル。違うのは金の髪のマルティナに対してアズラエルは銀の髪。
ドレスを着させられ、化粧を塗りたくられ、マルティナと同じ金髪のカツラをつければ、カリスも頬を染め「マルちゃん」なんて呟くほどの瓜二つな仕上がり。
「がんばれよ、バレればうちの国は消されるぞー」
「いやぁぁぁー!」
アズラエルは無理やり馬車に詰められ、ハイディエル国へと送り出されたのだった。
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