恋をしたのは君の方だった

星乃芽

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1日目

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私は一目惚れを知った。今までの生活がなんだったんだと言わんばかりの温かい、でも氷のようなつんざくような気持ちが私を満たした。一目惚れは大体叶わない。そう誰かが言っていた。その言葉通り今この恋は儚く散ったに等しい。だって極悪犯だ。それこそ禁断の恋だし、叶うわけもないし、もし出会って好きだと言っても刺されるかもしれない。重いため息をつきながら登校の道を歩いた。

「はぁ…」

恋とはため息が出るもの、恋とはその人の事しか考えられなくなるもの。これも誰かが言っていた。どれもフィクションだと思っていた。

恋とは盲目だ。

上の空で歩いていると人にぶつかってしまった。そういう盲目じゃないが。

「ったく、ちゃんと前見ろよ」

まずい、怖い人に関わってしまった。声色だけでわかる。

私は素直に謝るために頭を下げた。

「す、すみませ…」

"ん"のタイミングで顔を上げ、その人の顔を見た。そして不意に目が合ってしまった。私だけ時が止まる。

この私が見間違えるはずがなかった。帽子を目深に被り、申し訳程度のサングラスをした変装っぽいものをしていたがこの人は今日私が一目惚れした人(と極悪犯)だった。確か彼の名は、

「かわせ…よ…う」

アナウンサーは読み上げなかったが写真の下にそう書いてあった。

「…っぐ」

変な声を出したかわせようは逃げ出した。私は別に追おうとしなかったが、ひどく後悔をした。

こんなことが起きては一日に力が入るはずもなく、授業を聞けるはずもなく、お弁当に入っていた好きなおかずの唐揚げでさえ喉を通るはずもなかった。そのまま先生の連絡を上の空で聞き、重い足で校門を出た。空の一日のように感じた。

「はぁ」

今日はそれしか発してないなとふと思う。別に心配するような友達もいないしまぁいいかとまたため息をつき下を向いた。

恋とは盲目だ。

こんなにも私を狂わせるのだから、その責任を彼にとって欲しいものだ。なんだか逆に怒りが込み上げてきて、腕を組み顔をあげた瞬間人にぶつかってしまった。でも同じ爽やかな匂いがした。

「ってぇ1日に二度も誰だ。」

瞬間的に私は息を吸って吐いた。そして自分の手を握りながら小声で

「あの…かわせようですか?」

奇跡だと思ってしまった。朝と同じ道でぶつかり、同じ綺麗な青年の声がした。だから今度こそはと震えながら話しかけていた。

その時から3秒を数える間もなく、私はかわせようにいきなり手を握られ近くの空き家に連れられた。絶対に思ってはいけないが駆け落ちしているみたいでドキドキした。かわせようは手頃な空き家を見つけそのドアの鍵を閉めた。

しばしの静寂の後、

「お前、朝もぶつかって俺の名前を言ったやつだな?」

ドキドキという動悸ははときめきから恐怖に変わった。そして後悔した。私が登下校で使っている道はみんなとは少し外れた家までの近道で、そこは人が滅多に通らず空き家も多かった。そんなところで誘拐されても仕方ないと半ば諦め始めた。

「…はいそうです。あなたのことが好きです。」

ん?何を言っているんだ私は。馬鹿か?バカなのか?

「…は?…何を言っているんだ?」

私の我に返った心の中をそのまま返された。

そして悪い顔をしたかわせようは私を壁まで追い詰めてきて、まるで少女漫画みたいな壁ドンをしてきた。壁じゃなくてドアだけど。

「え?」

つい声に出てしまった。私はさっきまで意識していなかったが色んな立場を抜きにして今男女で2人きりなのだ。そしてこの人は私の一目惚れした人。息が止まる。

極悪犯、一目惚れの人、色んな感情が入り混じり逃げようにも逃げられなかったがそんなことよりこの素敵な状況から逃げたくなかった。このまま流されてもいいなとさえ。

「ふっ…」

そして悪い顔のまま鼻で笑ったかわせようは私のこのぐちゃぐちゃな感情を加速させた。

「お前、俺とここにいろ。そして絶対ここから出るなよ。」

変な性癖が生まれそうな文言だが、恋とは盲目だ。

「はい、もちろんです。」

なんて言ってしまうのだから。
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