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第1章 タルフィン王国への降嫁

王の間へのいざない

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 雑踏の中を行く二人。その周りには護衛の兵隊が取り巻く。どこまでも黒い兵士たちだった。
「このような人混みの中、お迎えするのは失礼かとも思いましたが国王の命令ですので。どうかご了承を」
 護衛の責任者であるロシャナクがそうシェランに説明する。あたりをきょろきょろ見回すシェラン。
(これが辺境の小国の都......?!)
 シェランも都会生まれの都会育ちである。『大鳳皇国』の首都である『大龍都』はそれは繁栄していた。家の近くの市場はいつも人があふれていて、よく遊びに行ったものである。
 しかし、この熱気はそれに勝っているようにも思えた。
 色とりどりの衣服に、宝飾品。見たことのないような家具。鎧や武器なども市場に並んでいた。
 さらに、見たことのない野菜や料理もならんでいる。そこからただよってくる、なんとも言えないいい匂いがシェランの食欲を刺激する。
 シェランは思わずお腹がなりそうになり、あわててそれをおさえた。
「この王都『ゴルド=クテシファン』には東西のさまざまな物品が集まります。『砂の道』を通って西の宝石や武器などが、『草の道』を通って『大鳳皇国』の絹や衣服がこの市場で高値でやり取りされます。活気があるのは当然ですよ。『大鳳皇国』の市場に比べれば微々たるものでしょうが」
 ロシャナクが鎧をつけたままでそう何気もなしに説明する。
 ちがう、と心のなかでシェランは何度も否定する。
(こっちのほうが、間違いなくすごい......!)
 たしかに『大鳳皇国』の市場の規模はすごい。でも、明らかに品物が違う。見たことのない食べ物、見たことのない衣服がこんなにたくさん並んでいるのを見たのは初めてだった。
「値段は――」
 値札を遠くからシェランは目を細めて見ようとする。しかし、見たことのないミミズみたいな文字がそこには書かれていた。
「五二四銀ゴルドですね。お国の貨幣も使えますが、両替したほうが便利ですよ。最近の相場だと――一金元が大体二〇〇〇銀ゴルドのようです」
 シェランは指を折って計算する。そして、えっと大きな声を上げる。
「あんなきれいなドレスが、四分の一金元で買えちゃうの?!」
 大体、一金元は『大鳳皇国』の中級役人の一日の俸給に当たる。きれいな衣服は数ヶ月働いても買えないくらいの金額であった。それがここでは破格の値段で売られている。
(......ここ辺境の小国だったよね。どうしてこんなに......)
 都の大通りを進み、一隊は王城に到着する。
 木でできた大きな門。扉は開けられ、そこにはわずかな衛兵がいるばかりである。
 将軍であるロシャナクの姿を見ると、敬礼して城内に一隊をうながす。
 大きな白い道の周りには緑の木々がつらなる。まわりはすべて砂漠だったのに、この都の中には緑が多い。
「周りは砂漠ですが、この都にはオアシスから水が引かれています。海に浮かぶ島のような感じですね」
「へぇ......」
 シェランはため息しか出ない。これでは立場が逆だ。田舎から出てきた少女のように、あらゆるものに感心してしまっている。
「私はここまでです。国王陛下にご謁見ください」
 目の前には異国の礼服を着た男性がうやうやしく礼をして、シェランを迎える。
 下馬して一人で王宮にいざなわれるシェラン。まるで森の中のような道をえんえんと歩きながら。
 鳥の声が聞こえる。木漏れ日が心地よい。
 とっても、辺境の砂漠の中にいるとは思えなかった。
 そして、王宮にたどり着く。
 シェランは『大鳳皇国』の王宮に入ったことはない。皇帝にすら謁見したことはなかった。
 目の前には大理石づくりの王宮がそびえる。
 いくつもの広間と部屋を通って、シェランはようやく王の間へと行き着く。
「ここでお待ち下さい」
 そういってお付きの男性も姿を消す。広い広間にぽつんとシェランが一人。
「広いなぁ......」
 床はこれまた白い大理石におおわれていた。思わずしゃがんでその床を触る。
「冷たい!」
 きょろきょろあたりを見回す。奥には玉座らしきスペース。それ以外には何もない質素なスペース。しかし壁の飾りを見ると様々な宝石が散りばめられているようにも見えた。
 ゆっくりと歩きながら、シェランはそれを見つめる。
 その時
 奥の方に人が立っていることに気づいた。
 思わず柱の陰にシェランは隠れる。
 こつこつと音が響く。誰かが来たらしい。
(王の間にいる人って、それは.....)
 胸がドキドキとする。
 気づかれないようにその姿を必死で見ようとする。
 太った中年の男性か、それとも広いひげの老人か――
 ゆっくりとその人影は近づいてくる――
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