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第2章 絹の十字路
絶対無敵の『守護者』(ガーディアン)
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まばゆい光と音の洪水。まず最初に、光の洪水が目の前に広がりその後に耳をつんざくような轟音が追いかける。
さしものトゥルタンの騎兵部隊もそのその隊列を崩す。
落馬するもの、馬自体が立ち上がり体制を崩すもの――城門を目の前にしてトゥルタン軍は混乱の極みに陥った。
ファルシードは我に返る。
馬に再びまたがり、開いていた城門に飛び込むようになだれこんだ。
「城門をしめよ!」
ファルシードの一声とともに、重い城門が閉められる。
ガジミエシュは単騎で突っ込もうとするが、周りの騎兵がそれを邪魔する。
どぉんと大きな音ともに鉄の城門は閉ざされた。
国王ファルシードを生け捕るチャンスと、王都に攻め込むチャンスがここに潰えたことになる。
そもそも、あの光と音の洪水は何だったのか――
上を見上げるガジミエシュ。
そこには城壁の上に兵士の一団が整列していた。手には見たことのない黒い玉を持ち、それを掲げている。
そしてそれを指揮する将軍――女性の姿である。上半身こそ軽装の鎧を帯びていたが、服装は明らかに女性のものであった。
「トゥルタン部の騎兵よ。この都市に攻め入ることは不可能と知りなさい。なお抵抗するようだとさらなる神の怒りが頭上にふることとなりますよ!」
そういいながら、右手を上げる女性。
ファルシードはそれをじっと見る。間違いない、それは彼の后シェランの姿であった。
シェランの傍らに控えているのはルドヴィカの姿である。ルドヴィカが命令を触れると、兵士たちが構えていた黒いたまを一斉に足下のトゥルタン騎兵に投げ込む。
ばーん!という大きな音とともに爆発する玉。そしてまるで龍の吐く炎のように、火花があたりを覆い尽くす。
「あれは――花火か」
ファルシードは気づく。結婚式で使われた花火が使用されていることに。
草原の民トゥルタンは花火などというものは知らない。それこそ雷のように恐れることだろう。また馬たちも、大きな音と光にただ混乱するばかりである。
「歴史書にあったの。遊牧民族を火薬を詰めた鉄の玉で驚かす話が。『鉄砲』なんて名前だったけど」
シェランはそういいながら、下を見つめる。
ガジミエシュはこの程度では動じない男である。ただじっと、シェランの方を見つめていた。
「ハン!このままでは馬が......暴れて足をおった馬はもう死ぬしかありません。我らが馬を失うことは、足を失うこと。ここは一旦退却しては......」
部下の進言に無言で頷くガジミエシュ。
混乱したとはいえどもさすがは最強の騎馬兵団である。数分のうちに城壁を離れ、撤収に成功する。
それを追うだけの力もタルフィンにはないことを見透かしていた。
ファルシードはシェランに近寄る。
シェランはできる限りの笑みを表情に浮かべる。
兵士たちが大きな声で叫びを上げる。それはシェランに対して。
『王妃殿下!わがオアシスの『守護者!』
ファルシードはそっとシェランの右手を握りそれを空中に突き出す。
さらに増す、歓声。
シェランもできる限りの笑顔でそれに返す。
しかし――その次の瞬間、彼女は立ったままその場に崩れ落ちてしまった――
「まさに『守護者』ですな」
一息ついた王宮。家臣たちはそのようにシェランのことを評していた。
「火薬をあのように使うとは。さすがは大鳳皇国の皇女殿下。軍事の才にも恵まれておいでとは」
ファルシードの前にはルドヴィカが控えていた。
「この度のこと、感謝する。后に協力してくれたようだな」
「協力などとんでもない。王妃殿下の命令に従ったまでのことです」
ルドヴィカがそう謙遜しながら答える。
そもそもがシェランの計画であった。
ルドヴィカは火薬を集めそれを兵士に加工させたに過ぎない、と。
「王妃殿下はお疲れの様子でした。徹夜でその火薬の調合をしていましたから。どうぞねぎらいのほど――」
最後はすこし意地悪くルドヴィカがファルシードに『進言』する。
ファルシードはそのまま王妃の部屋へ足を運んだ。
横になって寝ているシェラン。
静かにファルシードは近づく。
ベッドに腰を掛けるファルシード。
じっとその寝顔を見つめる。
スウスウと寝息を立てるシェラン。よっぽど疲れているようだった。医者に見せたが、疲労以外の問題はないらしい。
静かに頭を下げるファルシード。この国のために、そして自分のために全力を尽くしてくれた少女へ、感謝を込めて。
そして、銀の髪をゆっくりと撫でる。
いつまでも――シェランが目を覚ますまで――
第2章 完
さしものトゥルタンの騎兵部隊もそのその隊列を崩す。
落馬するもの、馬自体が立ち上がり体制を崩すもの――城門を目の前にしてトゥルタン軍は混乱の極みに陥った。
ファルシードは我に返る。
馬に再びまたがり、開いていた城門に飛び込むようになだれこんだ。
「城門をしめよ!」
ファルシードの一声とともに、重い城門が閉められる。
ガジミエシュは単騎で突っ込もうとするが、周りの騎兵がそれを邪魔する。
どぉんと大きな音ともに鉄の城門は閉ざされた。
国王ファルシードを生け捕るチャンスと、王都に攻め込むチャンスがここに潰えたことになる。
そもそも、あの光と音の洪水は何だったのか――
上を見上げるガジミエシュ。
そこには城壁の上に兵士の一団が整列していた。手には見たことのない黒い玉を持ち、それを掲げている。
そしてそれを指揮する将軍――女性の姿である。上半身こそ軽装の鎧を帯びていたが、服装は明らかに女性のものであった。
「トゥルタン部の騎兵よ。この都市に攻め入ることは不可能と知りなさい。なお抵抗するようだとさらなる神の怒りが頭上にふることとなりますよ!」
そういいながら、右手を上げる女性。
ファルシードはそれをじっと見る。間違いない、それは彼の后シェランの姿であった。
シェランの傍らに控えているのはルドヴィカの姿である。ルドヴィカが命令を触れると、兵士たちが構えていた黒いたまを一斉に足下のトゥルタン騎兵に投げ込む。
ばーん!という大きな音とともに爆発する玉。そしてまるで龍の吐く炎のように、火花があたりを覆い尽くす。
「あれは――花火か」
ファルシードは気づく。結婚式で使われた花火が使用されていることに。
草原の民トゥルタンは花火などというものは知らない。それこそ雷のように恐れることだろう。また馬たちも、大きな音と光にただ混乱するばかりである。
「歴史書にあったの。遊牧民族を火薬を詰めた鉄の玉で驚かす話が。『鉄砲』なんて名前だったけど」
シェランはそういいながら、下を見つめる。
ガジミエシュはこの程度では動じない男である。ただじっと、シェランの方を見つめていた。
「ハン!このままでは馬が......暴れて足をおった馬はもう死ぬしかありません。我らが馬を失うことは、足を失うこと。ここは一旦退却しては......」
部下の進言に無言で頷くガジミエシュ。
混乱したとはいえどもさすがは最強の騎馬兵団である。数分のうちに城壁を離れ、撤収に成功する。
それを追うだけの力もタルフィンにはないことを見透かしていた。
ファルシードはシェランに近寄る。
シェランはできる限りの笑みを表情に浮かべる。
兵士たちが大きな声で叫びを上げる。それはシェランに対して。
『王妃殿下!わがオアシスの『守護者!』
ファルシードはそっとシェランの右手を握りそれを空中に突き出す。
さらに増す、歓声。
シェランもできる限りの笑顔でそれに返す。
しかし――その次の瞬間、彼女は立ったままその場に崩れ落ちてしまった――
「まさに『守護者』ですな」
一息ついた王宮。家臣たちはそのようにシェランのことを評していた。
「火薬をあのように使うとは。さすがは大鳳皇国の皇女殿下。軍事の才にも恵まれておいでとは」
ファルシードの前にはルドヴィカが控えていた。
「この度のこと、感謝する。后に協力してくれたようだな」
「協力などとんでもない。王妃殿下の命令に従ったまでのことです」
ルドヴィカがそう謙遜しながら答える。
そもそもがシェランの計画であった。
ルドヴィカは火薬を集めそれを兵士に加工させたに過ぎない、と。
「王妃殿下はお疲れの様子でした。徹夜でその火薬の調合をしていましたから。どうぞねぎらいのほど――」
最後はすこし意地悪くルドヴィカがファルシードに『進言』する。
ファルシードはそのまま王妃の部屋へ足を運んだ。
横になって寝ているシェラン。
静かにファルシードは近づく。
ベッドに腰を掛けるファルシード。
じっとその寝顔を見つめる。
スウスウと寝息を立てるシェラン。よっぽど疲れているようだった。医者に見せたが、疲労以外の問題はないらしい。
静かに頭を下げるファルシード。この国のために、そして自分のために全力を尽くしてくれた少女へ、感謝を込めて。
そして、銀の髪をゆっくりと撫でる。
いつまでも――シェランが目を覚ますまで――
第2章 完
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