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第2章 クリューガー公国との戦い
皇帝謁見
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暗い大広間。壁には帝国皇室の旗がでかでかと掲げられる。ザーズヴォルカ朝の紋章である。
僅かな衛兵と、宮廷尚書そして正面の玉座には干からびた老人がまるでミイラのように座している。
――ザーズヴォルカ朝第五代神聖オストリーバ帝国皇帝アレクサンダル一世その人である。神聖オストリーバ帝国の皇帝は選帝侯による選挙により決定される。そして帝国議会の信任を得て登極するというのが決まりであった。しかし、ここ百年近くはザーズヴォルカ家が皇帝位を独占していた。
代々の皇帝の在位時の議会工作により、世襲的なムードが作られていたのである。
現在のアレクサンダル一世は御年七十五歳。二十三歳で即位し、その類まれなる軍事と内政のバランス感覚で『名君』と言っても良い名声を獲得していた人物で、あった――
すでに在位五二年。年による衰えは激しく、現在ではほぼ政務に関与していることはないと言われている。過去の名声だけが、まるで死後編纂された伝記のように首にぶら下がっているようにも見えた。
その皇帝に負けず劣らず老いさらばえている感じの宮廷尚書。弱々しい声でラディムの名を呼ぶ。
「クリューガー公ラディム、皇帝陛下に謁見を賜らん――」
正直最後の方は何を言っているのかははっきりしない。
はっ、とラディムは応答し、中腰のまま皇帝の玉座の前に控える。
(これが皇帝か......)
はるか後ろの扉の前に平伏するカレル。当然顔を見ることも許されないが、生気のなさを肌で感じていた。
「.........」
皇帝がラディムに向けて何やらもごもごとつぶやく。となりの宮廷尚書が咳払いをして、翻訳する。
「皇帝陛下は、公にねぎらいの言葉をかけておられる。感謝するよう」
ただ頭を下げるラディム。
そのような茶番が繰り返される中、皇帝は眠りに落ちる。
それを合図として、退出を促されるラディム。
前を向きつつ、重々しい扉から二人は退出する。
コツコツと皇帝宮殿の中を歩く二人。衛兵の影は少ない。かつては社交場として宮廷貴族の姿に溢れたこの宮殿も今は蜘蛛の巣すら目立つ状態になっていた。
「......時の流れは無情でございますね」
カレルがなんともなしに口を開く。かつて祖父に口伝されたアレクサンダル一世の英雄譚は華々しく、そしてその宮廷もきらびやかなものであった。
うん、と天井を見上げるラディム。
「時間だけは、いかなる魔法術でも操ることはできないからね。その時間を凌駕できる人間がいたらそれこそ『神』なのかもしれない。我々は生まれ、育ち、老いて死ぬ。その過程で色々なものを得て、いろいろなものを失っていく。玉座にいた皇帝陛下は、英雄譚に語れれる人物と同じでありそうでもない――なんとも言えない存在なのかもしれないね」
うつむきながらそのラディムの見解を噛みしめるカレル。
一つだけ彼が願うこと――それは主君ハルトウィンより絶対先に死なないこと。
それが唯一、カレルが願うことであった――
僅かな衛兵と、宮廷尚書そして正面の玉座には干からびた老人がまるでミイラのように座している。
――ザーズヴォルカ朝第五代神聖オストリーバ帝国皇帝アレクサンダル一世その人である。神聖オストリーバ帝国の皇帝は選帝侯による選挙により決定される。そして帝国議会の信任を得て登極するというのが決まりであった。しかし、ここ百年近くはザーズヴォルカ家が皇帝位を独占していた。
代々の皇帝の在位時の議会工作により、世襲的なムードが作られていたのである。
現在のアレクサンダル一世は御年七十五歳。二十三歳で即位し、その類まれなる軍事と内政のバランス感覚で『名君』と言っても良い名声を獲得していた人物で、あった――
すでに在位五二年。年による衰えは激しく、現在ではほぼ政務に関与していることはないと言われている。過去の名声だけが、まるで死後編纂された伝記のように首にぶら下がっているようにも見えた。
その皇帝に負けず劣らず老いさらばえている感じの宮廷尚書。弱々しい声でラディムの名を呼ぶ。
「クリューガー公ラディム、皇帝陛下に謁見を賜らん――」
正直最後の方は何を言っているのかははっきりしない。
はっ、とラディムは応答し、中腰のまま皇帝の玉座の前に控える。
(これが皇帝か......)
はるか後ろの扉の前に平伏するカレル。当然顔を見ることも許されないが、生気のなさを肌で感じていた。
「.........」
皇帝がラディムに向けて何やらもごもごとつぶやく。となりの宮廷尚書が咳払いをして、翻訳する。
「皇帝陛下は、公にねぎらいの言葉をかけておられる。感謝するよう」
ただ頭を下げるラディム。
そのような茶番が繰り返される中、皇帝は眠りに落ちる。
それを合図として、退出を促されるラディム。
前を向きつつ、重々しい扉から二人は退出する。
コツコツと皇帝宮殿の中を歩く二人。衛兵の影は少ない。かつては社交場として宮廷貴族の姿に溢れたこの宮殿も今は蜘蛛の巣すら目立つ状態になっていた。
「......時の流れは無情でございますね」
カレルがなんともなしに口を開く。かつて祖父に口伝されたアレクサンダル一世の英雄譚は華々しく、そしてその宮廷もきらびやかなものであった。
うん、と天井を見上げるラディム。
「時間だけは、いかなる魔法術でも操ることはできないからね。その時間を凌駕できる人間がいたらそれこそ『神』なのかもしれない。我々は生まれ、育ち、老いて死ぬ。その過程で色々なものを得て、いろいろなものを失っていく。玉座にいた皇帝陛下は、英雄譚に語れれる人物と同じでありそうでもない――なんとも言えない存在なのかもしれないね」
うつむきながらそのラディムの見解を噛みしめるカレル。
一つだけ彼が願うこと――それは主君ハルトウィンより絶対先に死なないこと。
それが唯一、カレルが願うことであった――
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