銀髪のカイゼリン~オストリーバ帝国物語

八島唯

文字の大きさ
30 / 35
第2章 クリューガー公国との戦い

皇帝謁見

しおりを挟む
 暗い大広間。壁には帝国皇室の旗がでかでかと掲げられる。ザーズヴォルカ朝の紋章である。
 僅かな衛兵と、宮廷尚書そして正面の玉座には干からびた老人がまるでミイラのように座している。
 ――ザーズヴォルカ朝第五代神聖オストリーバ帝国皇帝アレクサンダル一世その人である。神聖オストリーバ帝国の皇帝は選帝侯による選挙により決定される。そして帝国議会の信任を得て登極するというのが決まりであった。しかし、ここ百年近くはザーズヴォルカ家が皇帝位を独占していた。
 代々の皇帝の在位時の議会工作により、世襲的なムードが作られていたのである。
 現在のアレクサンダル一世は御年七十五歳。二十三歳で即位し、その類まれなる軍事と内政のバランス感覚で『名君』と言っても良い名声を獲得していた人物で、あった――
 すでに在位五二年。年による衰えは激しく、現在ではほぼ政務に関与していることはないと言われている。過去の名声だけが、まるで死後編纂された伝記のように首にぶら下がっているようにも見えた。
 その皇帝に負けず劣らず老いさらばえている感じの宮廷尚書。弱々しい声でラディムの名を呼ぶ。
「クリューガー公ラディム、皇帝陛下に謁見を賜らん――」
 正直最後の方は何を言っているのかははっきりしない。
 はっ、とラディムは応答し、中腰のまま皇帝の玉座の前に控える。
(これが皇帝か......)
 はるか後ろの扉の前に平伏するカレル。当然顔を見ることも許されないが、生気のなさを肌で感じていた。
「.........」
 皇帝がラディムに向けて何やらもごもごとつぶやく。となりの宮廷尚書が咳払いをして、翻訳する。
「皇帝陛下は、公にねぎらいの言葉をかけておられる。感謝するよう」
 ただ頭を下げるラディム。
 そのような茶番が繰り返される中、皇帝は眠りに落ちる。
 それを合図として、退出を促されるラディム。
 前を向きつつ、重々しい扉から二人は退出する。

 コツコツと皇帝宮殿の中を歩く二人。衛兵の影は少ない。かつては社交場として宮廷貴族の姿に溢れたこの宮殿も今は蜘蛛の巣すら目立つ状態になっていた。
「......時の流れは無情でございますね」
 カレルがなんともなしに口を開く。かつて祖父に口伝されたアレクサンダル一世の英雄譚は華々しく、そしてその宮廷もきらびやかなものであった。
 うん、と天井を見上げるラディム。
「時間だけは、いかなる魔法術でも操ることはできないからね。その時間を凌駕できる人間がいたらそれこそ『神』なのかもしれない。我々は生まれ、育ち、老いて死ぬ。その過程で色々なものを得て、いろいろなものを失っていく。玉座にいた皇帝陛下は、英雄譚に語れれる人物と同じでありそうでもない――なんとも言えない存在なのかもしれないね」
 うつむきながらそのラディムの見解を噛みしめるカレル。
 一つだけ彼が願うこと――それは主君ハルトウィンより絶対先に死なないこと。
 それが唯一、カレルが願うことであった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...