鳳朝偽書伝

八島唯

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第1章 歴史への旅

奇妙な主人

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 大通りから細い路地に灰簾カイレンは歩みを進める。
 手には『桂庵行』でしたためてもらった紹介状を大事そうに握りしめて。
『ちょっと主人の方が......独特でな。何人もうちから紹介されて勤めに出ていたんだが、みんなすぐやめちまってな』
 意味ありげにそう語る『桂庵行』のおやじを思い出す灰簾カイレン
「仕事は何をシている人なんだい。ちゃんとお給金払えるならなんでもいいよ」
「仕事は......学者らしい」
「へぇ~役人さんかい?」
「いや、市井の学者で何でも昔のことを色々研究しているらしい」
 ふうん、と灰簾カイレンは鼻を鳴らす。
「そんなんで食えるんかい?」
「いや、財産はかなり持っておられるようだ。まあ、金持ちの道楽というところなのかもな」
「それじゃぁ給金もいいだろうし、なぜみんなやめてしまんだよ」
 おやじは口を閉じてしまう。
 そんなやり取りを思い出しながら、灰簾カイレンはつぶやいた。
「まあ、なんかヤバそうな気もすっけど、大丈夫だろう。俺なら」
 見た目は少年の姿の灰簾カイレン。その実は――女の子である。
「女、っていうだけで軽く見られるし給金も安い。それなら、いっそこの格好していたほうが儲かるしな」
 灰簾カイレンは最近まである老人の家に勤めていた。
「前の奉公先は良かったけど――じいさん、死んでしまうんだもんな。まあ年だからしょうがないけど」
 最後まで灰簾カイレンはかいがいしく老人の世話をしていた。
(じいさんが死んじゃったらおれの仕事もなくなるしな)
 とはいえ、灰簾カイレンの介護は細やかなものであった。
 しかし――運命には逆らえず、ある朝老人は息を引き取った状態で迎えることとなる。
 老人が死んだ日、親戚と称するものが家に押しかけ灰簾カイレンを放り出すように追い出した。本当にわずかな退職金を投げるように与えて。
「生きてるうちは顔出さないくせに、死んだあとは残した財産目当てでやってくる――まあ、そんなもんだろうな。おれん家もそうだったし」
 灰簾カイレンはため息をつく。
 今は家もなく、寝床もない。手持ちのお金もかなり心細くなってきた。
 一刻も早く、新しい住み込み先を見つけなければ――ということでいわくありげな仕事を即決したのであった。
「北ニ下四四五......と」
 手書きの地図を見ながら行先を確認する。
「しかし」
 ふと顔を上げる灰簾カイレン
「そんなにみんな辞めちゃうってどんな主人なんだろう」
 主人の名前は翔極といった。
 辞める理由は、主人が厳しいからか?
 もしくは、なにか怪しい趣味があるとか?
 そういう雇い主は何人かいた。
 奉公人に手を出すようなやばい主人。
 灰簾カイレンが少年のなりをしている理由の一つがそれである。大人の男性の中には女性の年齢を問わずに性の対象にするものも多い。平和な時代なればこそ、そういった輩も多くなる。
 正直、自分のようなぱっとしない子供を相手にする大人も――いないわけではない。むしろ、金持ちこそそういう輩が多いのである。
「まともな人だといいんだけどなぁ......まあまともな人なら、すぐ使用人が辞めるわけもないんだろうけど......」
 いつの間にか、住所の場所にたどり着く。キョロキョロとあたりを見回す。
「でっけえ庭だな」
 門は開け放たれていた。
 こんにちは、と声をあげるが反応がない。
 石畳の上を歩く灰簾カイレン。古いがなかなかに手の凝った彫刻がされていた。
 庭の植木もきちんと整えられており、かなりのお金持ちなのかもしれない。
「ん......?」
 灰簾カイレンは首を傾げる。
 普通であれば、石畳の先には玄関があるものだがなぜか大きな蔵に行き当る。立派な白壁とごつい瓦の屋根。
 その蔵の大きな扉は開け放たれ、まるで口を開けているようだった。
 すうっと、その中に吸い込まれる灰簾カイレン
 足が勝手に動く――なにか、得も知れない力に引っ張られたのかもしれない。
 暗い蔵の中。
 灰簾カイレンは目を凝らす。
 見えてきたのは天井。そしてその高い天井の下には――いくつもの本棚が並んでいた。
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