徒野先輩の怪異語り

佐倉みづき

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『水辺に潜むモノ』

6.河童の棲む川

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 依頼を受けた翌日の土曜日、未那は和佳子と共に優佳子が亡くなった現場を訪れていた。助手という体のいい手足パシリを得た徒野は悠々と研究室に陣取ったまま、ビデオ通話という形で遠隔の現場検証を行う安楽椅子探偵を気取っている。自らは動かないからと気楽なものである。
 現場は大学から離れた、小高い山間を流れる下和久川の川辺。U字型に緩やかにカーブした川は流れもゆっくりで、天候に恵まれたこの日は川面が陽の光を反射し、きらきらと煌めいている。自然の穏やかな光景を目の当たりにした未那は荒んだ気持ちが洗われる心地がした。
「うーん……とても死亡事故が多発しているようには見えないですね」
 画面の向こうの徒野にも見えるようスマートフォンのカメラを翳しながら未那は呟く。実際に手を入れて深さを確認した川底も手首が浸かる程度と浅く、間違っても大人が溺れるような場所ではなさそうだ。
 とはいえ、大雨などで水嵩が増せば危険だろうし、水勢が強ければ足を取られて流される可能性もゼロではない。近頃は短時間で急激に降るような異常気象が多く、山で大量に降った雨が下流に流れ込んで急に増水するケースも少なくないと聞く。
「実は……妹が亡くなる遥か前から、この辺りでは河童が出ると言われていたようなんです」
 和佳子が控えめに切り出した。
「河童?」
 妖怪といえば、と問われれば真っ先に出てくるほどメジャーな存在だが、こんな身近にも出没していたのか。生憎、未那はこの辺りの出身ではないため聞いたことがなかった。
『如月は河童について詳しいか?』
 リモート先の徒野の質問に、未那は首を横に振った。
「よく語られる程度のことしか。頭のお皿の水がなくなると死んじゃうとか、キュウリが好物だとか、そのくらいなら聞いたことはありますけど」
『地域によって呼び方は様々だが、ひょうすべや水虎すいこ河伯かはくとも呼ばれる。日本各地に伝承が残っているが、中でも柳田國男の『遠野物語』で描かれた岩手県遠野市が有名だな。あそこでは町おこしに河童が使われ、捕獲許可証なんかも作っている……。
 そんな河童の外見だが、子供ほどの大きさで如月の言った通り頭部には水の溜まった皿を乗せており、体表は緑色、嘴のような尖った口を持ち、指の間には水掻きがあり、背中に甲羅を背負った姿でイメージされることが多い。泳ぎが得意で人間を水中に引き摺り込み、尻子玉という架空の臓器を抜いて殺してしまう。また、相撲も得意とし、よく子供と相撲を取っているという。これも負けると尻子玉を抜かれてしまう。悪戯好きでありながら容赦なく人間の命を奪う残酷さを併せ持ち、かと思えば岩瀬万能膏の逸話では恩返しとして薬の作り方を授けて人間を助けたりと多面性のある妖怪だ』
 徒野は淀みなく淡々と説明する。未那と和佳子は黙って徒野の解説に耳を傾ける。
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