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真っ赤な背中のドラゴンさん
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〈通りがかってみたらこんなところに子どもか〉
低く唸るかのような、けれども透き通っているような、とても耳障りの良い声がソフィの耳へと届いてくる。
「……猿がしゃべった――」
目の前にいる化け物モンキーがしゃべったことにソフィは驚きを隠せなかった。
〈死にかけている今状況がわからないのも無理はないか〉
しかしその声は目の前の猿ではないことをすぐに理解した、大きな足がゆっくりと自分を跨いだ。猿たちはその大きな生き物に怯えているのか、唸り声を発しながら背を低くして臨戦態勢を取る。
その大きな足の持ち主は苛立たしげに目の前の猿へと不満を漏らした。
〈やかましいぞバカザルども〉
大きな影、赤くてふさふさの体に長くて太い尻尾、それは自分を跨いで超えた大きな背中側でしか確認できなかったが、ソフィは昔図書館で見た事がある存在だった。
『真っ赤な――ドラゴン………?』
薄れゆく意識の中、ソフィは大きく咳き込み大量の血を吐き出したのを最後に事切れたかのように頭を泥の中に沈めるように意識を失った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「今日は僕、街へ行くんだ!」
村でソフィの友だちである少年ドゥラが声高らかに言う、ははぁ、さてはこの野郎自慢しに来やがったな?ソフィは内心そう思いつつもお土産を期待した。
「都会だとどういう物があるんだろうね」
「お父さんから聞いた話だけど、あっちじゃ子どもたちは学校に行ったりたくさんの子どもと一緒に遊んだり、そんでもってお金もいっぱい稼げるらしいよ!」
「私たちが売ってるパン一個が100ルソルだけど、もっと稼げるのかな?」
「100ルソルなんてとんでもない!街によっては一日で一千万ルソルぐらい稼げたりするんだって!」
「うそだー!畑とか田んぼ買えるよそれ!世界中畑まみれ田んぼまみれで虫大量発生だよ!」
「……ソフィってさ、前から思ってたけどアレだよね」
街へ行くと喜んでいたドゥラとソフィはその数日後、会うことはなかった。都会へ両親と出向いてそちらに暮らすことになったんだろうか、ソフィはそう考えた。
これが走馬灯だという事はドゥラが出てきた時点でソフィにはわかっていた、わかった瞬間、村で一緒に話していたドゥラや小汚い小屋の様な家、畑や周りの牛がすべて遠くへと吸い込まれるように消え去り、その場には自分とどこまでも続く闇だけが取り残された。
――都会へ行ったドゥラ君は今どうしてるんだろう――
その一寸先は闇の中でもソフィは一人でしゃがみ込みながらそうつぶやく。
今自分は生きているのか死んでいるのか、そのことを考えるのが怖い、怖くて怖くて仕方がない!だってもし死んだって事を理解したらこの走馬灯すらなくなってしまうかもしれない、だからしゃがみ込んでひたすら呟いた、年端も行かない子どもがアリの行列をひたすら見入るかのように、真っ暗闇にしゃがむ自分のボロボロの靴を見ながらつぶやく内容を頭で無駄に考えた。
『私はあの後どうなったんだろう、猿にやられちゃったのかな、それとも後から来たあのドラゴンに食べられたのかな?』
意識こそ失ったものの、最後に見たあのドラゴンの姿は覚えている。落ち着いた言葉と、まるでこちらをなだめて安心させるかのような優しい口調。
猿は嫌だがソフィは自然とあのドラゴンになら食べられてもいいと、何故かわからないが心の底で思っていた。
〈生憎だが人間の肉は好みではない〉
その言葉がソフィの闇を振り払うと同時に、現実へと急速に連れ戻した!
そこは陰鬱な木々が雁首揃えて立ち並ぶ森でもなければ転落した崖下でもなかった。汚い腐葉土に泥んこもなにもない、見たこともない開けた草原の柔らかい干し草の上でソフィは寝っ転がっていた。
雲が月を覆い隠していた夜も完全に明け、優しい朝日が挨拶をしていた。
そしてその目の前にはあの一頭のドラゴンが座っていた。
ソフィが目を覚ますのを待っていたのか、こちらをじっと見つめながら尻尾をゆらりゆらりと振るように揺らしつつ、鋭い目でこちらを見据えているところであった。
低く唸るかのような、けれども透き通っているような、とても耳障りの良い声がソフィの耳へと届いてくる。
「……猿がしゃべった――」
目の前にいる化け物モンキーがしゃべったことにソフィは驚きを隠せなかった。
〈死にかけている今状況がわからないのも無理はないか〉
しかしその声は目の前の猿ではないことをすぐに理解した、大きな足がゆっくりと自分を跨いだ。猿たちはその大きな生き物に怯えているのか、唸り声を発しながら背を低くして臨戦態勢を取る。
その大きな足の持ち主は苛立たしげに目の前の猿へと不満を漏らした。
〈やかましいぞバカザルども〉
大きな影、赤くてふさふさの体に長くて太い尻尾、それは自分を跨いで超えた大きな背中側でしか確認できなかったが、ソフィは昔図書館で見た事がある存在だった。
『真っ赤な――ドラゴン………?』
薄れゆく意識の中、ソフィは大きく咳き込み大量の血を吐き出したのを最後に事切れたかのように頭を泥の中に沈めるように意識を失った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「今日は僕、街へ行くんだ!」
村でソフィの友だちである少年ドゥラが声高らかに言う、ははぁ、さてはこの野郎自慢しに来やがったな?ソフィは内心そう思いつつもお土産を期待した。
「都会だとどういう物があるんだろうね」
「お父さんから聞いた話だけど、あっちじゃ子どもたちは学校に行ったりたくさんの子どもと一緒に遊んだり、そんでもってお金もいっぱい稼げるらしいよ!」
「私たちが売ってるパン一個が100ルソルだけど、もっと稼げるのかな?」
「100ルソルなんてとんでもない!街によっては一日で一千万ルソルぐらい稼げたりするんだって!」
「うそだー!畑とか田んぼ買えるよそれ!世界中畑まみれ田んぼまみれで虫大量発生だよ!」
「……ソフィってさ、前から思ってたけどアレだよね」
街へ行くと喜んでいたドゥラとソフィはその数日後、会うことはなかった。都会へ両親と出向いてそちらに暮らすことになったんだろうか、ソフィはそう考えた。
これが走馬灯だという事はドゥラが出てきた時点でソフィにはわかっていた、わかった瞬間、村で一緒に話していたドゥラや小汚い小屋の様な家、畑や周りの牛がすべて遠くへと吸い込まれるように消え去り、その場には自分とどこまでも続く闇だけが取り残された。
――都会へ行ったドゥラ君は今どうしてるんだろう――
その一寸先は闇の中でもソフィは一人でしゃがみ込みながらそうつぶやく。
今自分は生きているのか死んでいるのか、そのことを考えるのが怖い、怖くて怖くて仕方がない!だってもし死んだって事を理解したらこの走馬灯すらなくなってしまうかもしれない、だからしゃがみ込んでひたすら呟いた、年端も行かない子どもがアリの行列をひたすら見入るかのように、真っ暗闇にしゃがむ自分のボロボロの靴を見ながらつぶやく内容を頭で無駄に考えた。
『私はあの後どうなったんだろう、猿にやられちゃったのかな、それとも後から来たあのドラゴンに食べられたのかな?』
意識こそ失ったものの、最後に見たあのドラゴンの姿は覚えている。落ち着いた言葉と、まるでこちらをなだめて安心させるかのような優しい口調。
猿は嫌だがソフィは自然とあのドラゴンになら食べられてもいいと、何故かわからないが心の底で思っていた。
〈生憎だが人間の肉は好みではない〉
その言葉がソフィの闇を振り払うと同時に、現実へと急速に連れ戻した!
そこは陰鬱な木々が雁首揃えて立ち並ぶ森でもなければ転落した崖下でもなかった。汚い腐葉土に泥んこもなにもない、見たこともない開けた草原の柔らかい干し草の上でソフィは寝っ転がっていた。
雲が月を覆い隠していた夜も完全に明け、優しい朝日が挨拶をしていた。
そしてその目の前にはあの一頭のドラゴンが座っていた。
ソフィが目を覚ますのを待っていたのか、こちらをじっと見つめながら尻尾をゆらりゆらりと振るように揺らしつつ、鋭い目でこちらを見据えているところであった。
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