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本編

19 兄貴の婚約者

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 今日は私の人生の中でも重要なイベント・・・兄貴と悪役令嬢が婚約してからの初顔合わせの日なのだ。

 悪役令嬢であるユーディットの家、ローゼンミュラー家は外交に関して多大な貢献をしている上に古くからある由緒正しい公爵家だ。

 私の兄貴の後ろ盾もとい臣籍降下先とする為のいわゆる政略結婚というやつだ。

 何故第一王子である兄貴が立場が弱い上に臣籍降下先が考えられているのかというと、うちの国は加護が女性にしか発現しないせいか、女系王室であるというのが主な理由だ。

 それに加え、今の王妃は元は側妃であり、その息子である私の兄貴は正確には王族の血を引いてはいない。

 実は私達、異母兄弟というやつなのだ。

 私の母は身体が弱かった為、公務というものがほぼ出来ず、代わりに公務をしてくれる者が必要であった。

 そこで、母と仲の良かった今の王妃がそれを請け負ったのだ。

 初めは今の王妃は子をもうけるつもりはなかったそうだったのだが、母が『私は恐らく一人産むので限界がくる、一人ぼっちは可哀想だし、それに私達の子供同士がきょうだいだなんて素敵じゃない?』なんて事を言っていたらしくて、私の兄貴を産んだのだ。

 そして私の母は、その言葉の通り私を産んだ際に亡くなったのだ。

 ちなみに今の王妃には本当の母親のように接して貰えており、側から見れば仲良し親子である。


 そんなわけで兄貴とユーディットの婚約が決まったという事なのだが・・・

 「お前の父親は確かに我が国に多大な貢献をしている。だからといってお前のようなと婚約になるなど・・・大方お前が我儘を言い婚約者となる為金を積んだのだろう?お前は俺の将来の妃に相応しくない!」

 何を言っているんだこいつは。

 子供の頃は仲が良かった~とかなら関係がうまくいくようにフォローしようかなと思って顔合わせ場所に来てみたら・・・

 「わたくしはそのような事・・・」

 「言い訳など聞きたくない!俺はもう帰る。二度と俺の前に姿をあらわすなよ欠陥品」

 そういうと兄貴は周囲の護衛騎士や執事やメイドを引き連れスタスタと立ち去って行った。

 庭園に1人ユーディットを残して。

 あのクソ兄貴自分の立場は全然分かっていないわ女の子に向かってお前呼ばわりするわ欠陥品扱いするわ挙げ句の果てに1人放置させていくとか頭沸いてんじゃねえの!?

 ああ、いけない!おもわず汚い言葉を使ってしまいましたわ!

 「私は・・・」

 ここからでは声はよくは聞こえないが何かを呟きながら俯きながら唇を噛み必死に涙を堪えているようだ。

 「あのクソ兄貴が・・・しばきまわしてやろうか・・・(ボソッ)」

 「見目麗しい可憐な王女様がそんな言葉遣いをしては周囲が卒倒しますよ~ いやでもそういう路線もいいですねえ、ギャップ萌えというか何というか」

 「ウワーッ!!!!」

 びっくりしたびっくりした!心臓止まるかと思った!
 急に背後に出現して耳元で囁くもんだから思わず声が出

 「そこにどなたかいらっしゃるのですか!?出てきなさい!」

 バレてしまった。

 「申し訳ありません、まさかあんなに驚くとは思わず」

 そう言って背後には笑いを抑えきれない表情を見せない為にだろうか、顔を掌で覆い、反省の色を全くと言ってもいいほど見せずに謝罪を述べるカリーン先生がいた。

 この野郎・・・

 出不精王女が出て行く羽目になったじゃない、それも推しの目の前に!

 「盗み聞きをするような真似をしてしまい申し訳ありません。お初にお目にかかりますユーディット様。私はあのクソ兄貴・・・コホン、この国の王子であるイグナーツ・ハイル・フェーブスの妹のゲルトルーデ・ハイル・フェーブスと申します。以後お見知り置きを」

 それを聞いたユーディットは驚いたように目を見開いた後ハッとした表情を浮かべ口を開いた。

 「失礼致しました王女殿下。私はローゼンミュラー公爵家の娘のユーディット・ローゼンミュラーと申します」

 そう言って彼女は優雅なカーテシーをした。

 太陽の光と混ざり合いキラキラとなびく、やや癖っ毛のある白金色の髪に、深い海のような紺碧の瞳。
 ツリ目がちだが、持っている色と雰囲気により儚げな印象を持たせる。

 「王女殿下はその・・・ご病気だとお聞きしていたので、このような場所にいるとは思わず・・・ご無礼をお許しください」

 「いえ、先程申しました通り、盗み聞きのような真似をしてしまったこちらに非がありますので。それにここでお会いしたのも何かの縁ですし・・・そうだ!あの、1つお願いしたいことがあるのですが・・・」


 「は、はい!私で良ければ何なりと」

 これは好機!仲良くなるチャンス到来だ!
 これを逃す手はないぞトルーデ!

 「実は私、同年代の方々と話したり、交流を行なったりという事を殆どしたことがないのです。なので、お友達になってくださいませんか?」

 暮らしのほとんどをステータスアップに全振りしたため悲しいかな、同年代の知り合いが居ないのだ。

 あ、カリーン先生とヒルデは別枠で。


 「私からも是非お願いいたしますわ、ユーディット様」

 「えぇと・・・貴女は・・・?」

 「失礼致しました。私、ゲルトルーデ王女殿下の教育係兼護衛であり、スメラギ伯爵家の娘のカリーン・スメラギと申します。差し出がましい事を申し上げますが、ゲルトルーデ王女殿下はぼっち(ボソッ)いえ、ご友人があまりおられず、世間について少々疎いのです」

 いきなり現れて人の事をぼっち扱いしてきやがったぞこいつ。

 私がぼっちになる原因はカリーン先生にもあると思うんだけど。

 「王子のあの調子ですと、今後お会いすることは少々難しいと考えられます。しかし王城に来ないことには周囲から変に思われてしまうのではないでしょうか?それならば王城に来られた時の本来なら王子に会う時間帯はこちらの王女にお会いに来られてはいかがでしょうか?」

 カリーン先生は完全なる猫かぶりモードでユーディットに提案する。

 ごめんさっきの無しで。超ナイスだよカリーン先生。

 「よろしいのですか・・・私はなのですよ?」


 欠陥品とはなんぞや。

 流行にも疎い世間にも疎い私には全く知らない単語ですわよ。

 そういやさっきあのクソ兄貴も欠陥品とかなんとか言ってたな。

 うーん、何だろ、気になるなあ。
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