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本編

41 王城にて

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 「ユディ!無事で良かった!怪我は無かったか?何か変な事はされなかったか?大丈夫か?ユディ、本当にすまなかった・・・」

 「お父様、そんなにお気をお病みにならないでくださいませ。それにそんなに抱きしめられたら少し苦しいですわ。私、どこにも怪我などしませんでしたのよ。早い段階で、トルーデ様が駆けつけて来てくださって逃げ出すことができましたわ」


 王城に到着し父上の元へと向かうと、そこには父上と、憔悴しきって以前よりも数歳老け込んだ様子のローゼンミュラー公爵が居た。
 ユディを視界に入れるや否や、周囲の事を気にすることなく大号泣し、ユディに抱きつく。
 本当にユディのことを大切に思っているようだ。
 前回の親バカ論争と言い、これだけ仲が良いならゲームのようにユディが罪に問われる事になんてなったら叛逆してでも阻止しそうなもんだけど。
 そういやユディが断罪されてから、ローゼンミュラー家って確か取り潰しにされたんだっけ。家ぐるみで魔族と繋がっていたとか何とかで。
 でも父上が前に、『アイツの所は家族も使用人の一部も国で有数の魔法師だから、アイツに本気で反抗されたらこの国は終わるな!』とかなんとか言って笑ってた気がするし、ゲームのようにはいきそうにもないんだよな。


 「ゲルトルーデ王女殿下、私達の大事な娘を探しだしてくださって本当にありがとうございます。このご恩決して忘れはしません」

 「私からも改めてありがとうございました。トルーデ・・・ゲルトルーデ王女殿下、私の命をお救い頂きありがとうございました」

 「お二方ともお顔をあげて下さい。今回の事は私1人ではなし得なかった事ですので!ユディも、ユディが行方不明になってからずっと休んで居なかったローゼンミュラー公爵もまずはゆっくり体を休めて下さい。ね、父上?事情聴取やら何やらは明日にでもできますよね?」


 私はいたずらっ子が浮かべるような笑顔で父上に問う。
 父上はやれやれと言った表情でため息をつく。


 「そうだな、グスタフもユーディット嬢も今日はゆっくり休んだ方が良いな。グスタフなんてただのくたびれたおっさんみたいになってるしな。代わりに事情や報告はうちの娘に聞いておくから」


 他の臣下が周囲に居ないせいか、威厳も何も無い口調でそう告げる。

 ローゼンミュラー公爵がおっさんという言葉に反論しようとしていたが、今の状態だと言い返せないのだろう。
 公爵が父上に突っかかる事はなかった。

 ユディ達へと別れを告げ、私は父上に向き直る。


 「トルーデ、よくやったと言いたい所だがな・・・いや、先に報告を聞こうか」


 なんか父上少し怒ってる?
 とりあえず近未来的建物以外の今回の件について報告をする。

 私の能力で犬が生まれてその犬にユディの匂いを嗅がせて案内させるとユディのリボンを拾っていたウェルテクスさんに出会った事。
 そしてそのまま匂いを辿ると精霊過激派の根城に辿り着き、集会している広間に突入。戦闘になり、私は効きはしなかったがなんらかの攻撃を受け、カリーン先生は首謀者であるラウラという女性を追うが取り逃がしてしまった。
 信者達を任せ一人でユディを捜索・発見・救出を行い、信者を拘束してその場を後にした。
 その後、騎士団と運良く出会い信者達を任せてここに帰ってきた。
 という事を父上に話す。


 「なるほど、そうだったのか。カリーン殿、ウェルテクス殿、ご苦労であった。しかしトルーデ、話を聞いていると集団に突っ込んで行ったり攻撃を受けたり一人で行動したりと、随分と無茶な事をやったんじゃないのか?」

 「う・・・で、でも何も無かったですし、ほら、怪我も負ってないですよ!それにもし怪我をしても私には回復魔法が使えるので平気ですよ!」


 これは怒られるのではと思い必死で弁明する。父上は私の言葉を聞き、先程までの怒ったような表情から憂わしげな表情へと変える。


 「私は心配なんだ。元気になったお前がまた幼い頃のように動くことが困難になってしまう事が、お前の実の母親の様に簡単に居なくなってしまう事が・・・それにまだお前は幼い。だから余り無茶な事をしないでおくれトルーデ・・・」

 「父上・・・ごめんなさい・・・」


 私の実の母を病気で失ってしまい、唯一の忘れ形見である私まで失ってしまったらと父上は思っているのだろう。
 しょんぼりと項垂れると父上は元の柔らかい表情へと戻る。


 「まあなんにせよ怪我も何もなくて良かったのは事実だ!それにまさか精霊殿を連れてくるなんて。それになんだその犬は、トルーデにそっくりで可愛いじゃないか!」

 「あの、その事なのですがこの子の戻し方が分からなくて、その、飼ってもよろしいですか?」

 「許可しよう。しかし生き物を飼うからには大切に育てるのだぞ」


 許可が出た。それにしてもなんかわかばとよく似てるって結構言われるけどそんなに似てるのかな。


 「水を差す様で悪いんじゃがのう、お礼とやらは貰えたりするのかのう?わし的にはこの国のお金とか貰いたいんじゃが」


 わおこの精霊メチャクチャ俗世的。
 あぁ、でもお店やってるしやっぱり資金が欲しいのかな。


 「わしは結構多くの国をフラッと旅したりするんじゃがのう、ほら国ごとにお金の種類とか見た目とか違うじゃろう?うちの子がそういうの集めるの好きなのじゃよ。だからこの国のお金を各3種類ずつぐらい貰えないかと思うてのう」


 違うただのお土産だった。
 国ごとでお金の種類って違ったりするもんね。なかなかいい趣味をお持ちで。


 「そうか、好きなだけ持って行かせるとしよう。カリーン殿は少しばかり給料を上乗せしておくとしよう。そして先程から気になっていたのだが、その後ろの小さなお嬢さんはどうしたんだい?」


 ヤバイ、なんか流れでそのまま連れてきてしまってた。なんて言い訳すればいいんだろー考えてないよー。


 「えっと、そのお・・・私の固有魔法と無属性魔法が作用して、えっと、エーテルで動く魔導人形が出来てしまって、その、想定外だったというか、自我の様なものが目覚めてしまって・・・精霊様も近くにいたせいかも!まあそんなわけで、この子私の事を主人だと思っているらしくて、一緒にお世話しても良いかなって、その、思って・・・」


 我ながらとても苦しい言い訳だ。だ、大丈夫かなあ。大丈夫だと良いなあ。
 嘘をつくのが下手すぎるせいか父上は疑わしいものを見るような目つきで私を見つめる。
 そんな中、突然カリーン先生が声を上げる。


 「発言を許可していただいてもよろしいでしょうか」

 「許可しよう」

 「ゲルトルーデ王女殿下は自我まで芽生えてしまったこの人形の事を処分など出来ないと先程仰っていました。そのお優しいお心を汲んで今一度お考え頂けないでしょうか」

 「はあ・・・」

 「それに王女殿下は2年後に学院への入学をご友人とお約束されています。私はもう卒業した身でありますので、学院内を常にお側に控えお守りするのは難しいでしょう。だから代わりにこの人形に王女殿下の護りを任せるのです。幸い王女殿下が創り出したものである為、忠義は私と同様とても強固なものかと」


 カリーン先生そういやもう卒業したって言ってたな。飛び級で。飛び級で・・・
 まさか飛び級が許される様になったのってカリーン先生のせいなの!?
 カリーン先生が飛び級してなかったら私が巻き込まれることも無かったのでは。いやしかし飛び級しなければ私の隣には今カリーン先生はいないはずで・・・
 どちらにせよ私はもう受ける運命なんだろうな。
 私ははあとため息をつく。


 「(トルーデが沈んでいる。そんなにこの人形の事を思っているのか)」

 「それに先程陛下は『お嬢さん』とお呼びになられましたよね?人形とは思わなかったのではないでしょうか。それにこの人形、トルーデ様と共に成長するようなのです。それならば学院に通わせたとしても違和感はありません」

 「・・・分かった。してカリーン殿、そこまで言うのはトルーデと一緒に教育し、学院へ2人共合格できるという事で間違いないか?」

 「ええ、それに加えて戸籍と家名も用意しておきたいのですが」

 「どうせお前の事だ。許可せずとも用意するのだろう?好きにすると良い」

 「ですってトルーデ様!良かったですね!」

 「ふぇっ!?」


 やばい完全に聞いていなかった。とりあえずエルムの事はカリーン先生がどうにかしてくれた様だ。よかったよかった。
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