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その29
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イズールという地について、その印象は非常に特殊だった。
緑優しき故郷とは違って、少しばかり都会だった。都会ということは、それだけ殺伐とした空間である。人は人の顔を知らずに成長する。治安が悪いことで有名だった。金持ちは皆裸になり、乞食は内臓を失った。
お父様がかつて、イズールの総督をしていたのは貴族の間で少しばかり有名だった。お父様は、例えるならば、警察の指揮官であり、裏社会の蜘蛛でもあった。
そんな風土を好むのは、お父様以外にもう一人いた。他ならぬ先代皇帝である。彼も休暇はイズールで過ごした。人々が生きて死んでいく様を黙って見るのが面白かったらしい。なんとも悪趣味だ、と言いたくなるが、私も似たようなものである。
先代皇帝の別荘の隣に、お父様の別荘があった。お父様は皇帝の警護という名目の元、私腹を肥やしていた。おかげで、私もいい生活が出来た。皇帝に気に入られて、お父様は異例のスピードで出世した。
表と裏の両方を知り尽くしたお父様は、先代皇帝を遊びに誘った。彼は中々欲の多い人だった。酒を好み、女を好み、賭博を好んだ。全て、お父様がこしらえて差し上げた。
先代皇帝を太陽とするならば、現皇帝は月だった。今にも消えそうな灯火を、なんとか保っている状態。しかしながら、人一倍正義感の強い男になった。悪を許さず……だとすると、お父様も処刑されることになるのだが、先代皇帝のお口添えで、命だけはつなぐことができた。
財産と名誉は全て没収され、今は田舎者になった、というのがお父様の人生である。
私は確かにお父様のことが大好きだ。でも、皇帝に対して復讐しようだなんて、これっぽっちも思わない。それどころか、婚約を受け入れるくらいなのだ。
どうして?
本当のところは分からない。皇帝は私を不正義だとして処刑した。
でもね。
彼の心の中に、ひょっとしたらかもしれないけれど。
私のことを愛している……そんな気がどこかにあったの。
「クリス?どこか痛いのか?」
ここは……そうだ、移動中なんだ。私はさっきから一人でイズールとお父様、それに皇帝のことを考えていた。泣きそうな顔をしていたのだろうか?お父様が心配そうに私のことを見つめていた。
「いいえ、私は大丈夫です」
「そうか……それならいいんだが……」
帝都であるエルギーを超えて、あと3日の道のりだった。エルギーに近づくと、次第に人々の数が増えていき、町として活気付いていることが分かった。しかしながら、エルギーからイズールをつなぐ道、通称帝道に差し掛かると、今度は人の数が減っていき、寂しくなった。
緑優しき故郷とは違って、少しばかり都会だった。都会ということは、それだけ殺伐とした空間である。人は人の顔を知らずに成長する。治安が悪いことで有名だった。金持ちは皆裸になり、乞食は内臓を失った。
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そんな風土を好むのは、お父様以外にもう一人いた。他ならぬ先代皇帝である。彼も休暇はイズールで過ごした。人々が生きて死んでいく様を黙って見るのが面白かったらしい。なんとも悪趣味だ、と言いたくなるが、私も似たようなものである。
先代皇帝の別荘の隣に、お父様の別荘があった。お父様は皇帝の警護という名目の元、私腹を肥やしていた。おかげで、私もいい生活が出来た。皇帝に気に入られて、お父様は異例のスピードで出世した。
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財産と名誉は全て没収され、今は田舎者になった、というのがお父様の人生である。
私は確かにお父様のことが大好きだ。でも、皇帝に対して復讐しようだなんて、これっぽっちも思わない。それどころか、婚約を受け入れるくらいなのだ。
どうして?
本当のところは分からない。皇帝は私を不正義だとして処刑した。
でもね。
彼の心の中に、ひょっとしたらかもしれないけれど。
私のことを愛している……そんな気がどこかにあったの。
「クリス?どこか痛いのか?」
ここは……そうだ、移動中なんだ。私はさっきから一人でイズールとお父様、それに皇帝のことを考えていた。泣きそうな顔をしていたのだろうか?お父様が心配そうに私のことを見つめていた。
「いいえ、私は大丈夫です」
「そうか……それならいいんだが……」
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