上 下
77 / 90

その76 ジルベール

しおりを挟む
フランツは暫くの間、クリスの田舎で過ごした。帝都よりジルベールという使者がやってくると、フランツは皇帝が死去したことを知った。

「皇帝は……死んだのですか?」

フランツの第一声だった。感情のこもっていない、死に損ないの虎が発しそうな声色だった。

「ほんとうはこわいんだね?」

クリスはフランツに問いただした。

「そんなことはない。ただ少し不安なだけだ」

ジルベールは、フランツに帰還を促した。

「私は皇帝になるつもりなどないのです」

フランツは皇帝という冠に一切の興味を持たなかった。自身の興味というのはもちろんのことだが、気がかりだったのはクリスだった。

「わたしはフランツについていくよ?」

クリスを守ることは絶対にできないと思った。だからこそ、フランツは帝都に戻ることを拒んだ。

「そうですか?それなら、あなた様はこの世界が消えていくのを眺めているだけなのですね?」

ジルベールは言った。

「それは違います!」

「でも、違わないんですよ。あなたが皇帝を受け継がない限り、この世界は終わります」

「それ以外の方法はないのですか?」

ジルベールは何も考えずに、

「ありません」

と即答した。

「それならば、私はこの少女と共に、世界が終わるのを見届けます」

「その子は誰ですか?」

「クリスです」

「クリス…………ああっ、そういうことですか」

ジルベールは何かを思い出したようだった。

「なるほど……皇帝の背負った因果をあなたが受け継ぐわけですか?それはそれでよろしいかと」

「因果……因果とはなんですか?」

「私の口から説明するわけにはまいりません。そのうち分かると思いますよ」

そう言い残して、ジルベールは帰っていった。クリスの父親と名乗る男が現れたのは、それから一週間くらい経った日のことだった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

今度こそ穏やかに暮らしたいのに!どうして執着してくるのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:33,151pt お気に入り:3,444

野垂れ死ねと言われ家を追い出されましたが幸せです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,742pt お気に入り:8,709

悪役令嬢のざまぁはもう古い

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:22

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,331pt お気に入り:3,917

【完結】捨てられた私が幸せになるまで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:2,900

処理中です...