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その78
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フランツが目を覚ましたのは、夜になってからであった。フランツの膝下ではなく、旅人の膝下で眠っているクリスが愛らしかった。
「お目覚めのようだね」
旅人は言った。
「君の剣さばきは、なかなか見事なものだったよ。私の予想に反して素晴らしい騎士になる素質があると思う」
「あなたは一体、何者ですか?」
「私はクリスの父だ」
「クリスのお父様……そんな方がどうしてここに?」
「ここは私の家だぞ。帰ってくるのは当たり前だろう?」
「ああっ、そうか」
フランツは納得した。ここでは自分がアウェーであるということを。
「失礼ですが、あなたは帝都からお越しで?」
「どうしてそう思うんだ?」
「私の勘です」
「なるほど……お父上から伺ってはいたが、君は随分と面白い男だなあっ」
「すると、あなたは父の0番目の侍従にして、この世界の運命を司る方なのですね?」
「彼はそういう呼び方をしていたのか……まあっ、いい」
クリスの父は、目覚めを迎えそうなクリスの肩をそっとさすった。
「君は何も知らないだろうから、一応説明しておく。クリスはこの世界の調節因子なんだ」
「調節因子……何ですか、それは?」
「私が世界の運命を操作することができるのは知っているね。おそらく、私は人でなければ神でもない、非常に中途半端な存在だ。そもそも存在する意義が分からない。恐らく、世界が滅びそうになった時、神の審判を仰いで、滅んでも問題ないとおっしゃれば、そのまま滅びるように仕向けるし、滅ばない方がいいとおっしゃれば、全力で運命の改変を行わなければならないんだ。さて、私を除き、この世界の運命を握っているのが誰かという問いを、私は敢えて君に投げかけることにするよ」
クリスの父はフランツを指差した。フランツは困惑した。
「しかしながら、私はもうそんな大それたことをするための人間ではないのです。私はただ、クリスという一人の少女を愛した男なのです」
「なるほど、随分とロマンチックな話だね。君は世界の調節因子を好きになったというわけか……」
「調節因子であろうと、なかろうと、私には関係のない話です」
「そうか、そうか。ああっ、私にもそんなことがあったっけかなあっ」
クリスの父はしみじみと過去を振り返った。
「この世界の運命を司るのは、君でもあるわけだよ。フランツ」
「私はもう辞めてしまったのです」
「頑なだねえっ。それなら、ますますクリスと一緒にいるのを認めるわけにはいかないなあ」
「あなたの狙いは何ですか?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「場合によっては、あなたからクリスを奪います」
「そういう無茶なことは考えない方がいい」
「人間っていうのはですね、何度失敗しても這い上がってこれるのです!」
「素晴らしい。まるで、雑草だな。でも今ここで戦っても君が負けることは明白だよ。どうだね、もう少し私の話に耳を傾けてみないかね?」
フランツは首を縦に振るしか手立てがなかった。
「クリスが調節因子であるということ、つまり、クリスが皇帝を好きになり、婚約し、婚約破棄され、離縁され、そして最後に処刑される運命を数回繰り返し、最後は皇帝を殺す……これが調節の方法だ」
フランツは、クリスの父があまりにも適当なことを言うものだと思ったので、呆れて言葉が出なかった。
「信じられないだろうが、これが真実だ。つまり、この世界を滅ぼす大きな原因となっているのが、相思の恋愛なのだ」
「すると何ですか?クリスは過酷な運命を辿った挙句の果てに殺されるってわけですか?この私に?」
「なるほど、皇帝に戻る気があるんだね?」
「そんなもの、ありませんよ!」
「皇帝が一人の女を愛するとだね、世界の均衡が崩れてしまうんだ。国家間のバランスを貴族同士の婚約で保つとするならば、君の仕事は、機械のように無数の愛を無数の令嬢に注ぐ必要があるんだ。皇帝がハーレムを好み、その他の非合法な娯楽を好んだのは、このためなんだよ」
「……と言うことは、父の不正義は、全てあなたの差し金だったのですか……?」
「君は飲み込みが早いな。私も好きでこんなことをしているんじゃない。世界の均衡を保つためには仕方のないことなんだ。噂に聞いたことがないかね?帝国の権威が落ち始めていることを」
「それは父が…………!」
「君のお父さんだけが悪いのではない。これもまた、仕方のないことなんだ。君だって、周囲に大人がいなければ、こうしてクリスを愛する男にはなれなかったわけだからね」
「あなたは、自分の娘を利用しているんですか?」
「私はダメな父親だと思うかね?恨むなら、自分を恨んでみろ!」
クリスの父は声を荒げた。
「貴様たちの醜い争いのおかげで、この世界は終わろうとしているのだ!貴様が死んだくらいで解決するなら、私は今ここで貴様の運命を終わらせてやるさ!ああっ、それほど簡単なのであれば、私は喜んで貴様の首をへし折ってやる!」
フランツはクリスの父の剣幕に負けてしまった。
運命……これが真実なのだとしたら、とても敵うはずがない。フランツはそう思った。
「お目覚めのようだね」
旅人は言った。
「君の剣さばきは、なかなか見事なものだったよ。私の予想に反して素晴らしい騎士になる素質があると思う」
「あなたは一体、何者ですか?」
「私はクリスの父だ」
「クリスのお父様……そんな方がどうしてここに?」
「ここは私の家だぞ。帰ってくるのは当たり前だろう?」
「ああっ、そうか」
フランツは納得した。ここでは自分がアウェーであるということを。
「失礼ですが、あなたは帝都からお越しで?」
「どうしてそう思うんだ?」
「私の勘です」
「なるほど……お父上から伺ってはいたが、君は随分と面白い男だなあっ」
「すると、あなたは父の0番目の侍従にして、この世界の運命を司る方なのですね?」
「彼はそういう呼び方をしていたのか……まあっ、いい」
クリスの父は、目覚めを迎えそうなクリスの肩をそっとさすった。
「君は何も知らないだろうから、一応説明しておく。クリスはこの世界の調節因子なんだ」
「調節因子……何ですか、それは?」
「私が世界の運命を操作することができるのは知っているね。おそらく、私は人でなければ神でもない、非常に中途半端な存在だ。そもそも存在する意義が分からない。恐らく、世界が滅びそうになった時、神の審判を仰いで、滅んでも問題ないとおっしゃれば、そのまま滅びるように仕向けるし、滅ばない方がいいとおっしゃれば、全力で運命の改変を行わなければならないんだ。さて、私を除き、この世界の運命を握っているのが誰かという問いを、私は敢えて君に投げかけることにするよ」
クリスの父はフランツを指差した。フランツは困惑した。
「しかしながら、私はもうそんな大それたことをするための人間ではないのです。私はただ、クリスという一人の少女を愛した男なのです」
「なるほど、随分とロマンチックな話だね。君は世界の調節因子を好きになったというわけか……」
「調節因子であろうと、なかろうと、私には関係のない話です」
「そうか、そうか。ああっ、私にもそんなことがあったっけかなあっ」
クリスの父はしみじみと過去を振り返った。
「この世界の運命を司るのは、君でもあるわけだよ。フランツ」
「私はもう辞めてしまったのです」
「頑なだねえっ。それなら、ますますクリスと一緒にいるのを認めるわけにはいかないなあ」
「あなたの狙いは何ですか?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「場合によっては、あなたからクリスを奪います」
「そういう無茶なことは考えない方がいい」
「人間っていうのはですね、何度失敗しても這い上がってこれるのです!」
「素晴らしい。まるで、雑草だな。でも今ここで戦っても君が負けることは明白だよ。どうだね、もう少し私の話に耳を傾けてみないかね?」
フランツは首を縦に振るしか手立てがなかった。
「クリスが調節因子であるということ、つまり、クリスが皇帝を好きになり、婚約し、婚約破棄され、離縁され、そして最後に処刑される運命を数回繰り返し、最後は皇帝を殺す……これが調節の方法だ」
フランツは、クリスの父があまりにも適当なことを言うものだと思ったので、呆れて言葉が出なかった。
「信じられないだろうが、これが真実だ。つまり、この世界を滅ぼす大きな原因となっているのが、相思の恋愛なのだ」
「すると何ですか?クリスは過酷な運命を辿った挙句の果てに殺されるってわけですか?この私に?」
「なるほど、皇帝に戻る気があるんだね?」
「そんなもの、ありませんよ!」
「皇帝が一人の女を愛するとだね、世界の均衡が崩れてしまうんだ。国家間のバランスを貴族同士の婚約で保つとするならば、君の仕事は、機械のように無数の愛を無数の令嬢に注ぐ必要があるんだ。皇帝がハーレムを好み、その他の非合法な娯楽を好んだのは、このためなんだよ」
「……と言うことは、父の不正義は、全てあなたの差し金だったのですか……?」
「君は飲み込みが早いな。私も好きでこんなことをしているんじゃない。世界の均衡を保つためには仕方のないことなんだ。噂に聞いたことがないかね?帝国の権威が落ち始めていることを」
「それは父が…………!」
「君のお父さんだけが悪いのではない。これもまた、仕方のないことなんだ。君だって、周囲に大人がいなければ、こうしてクリスを愛する男にはなれなかったわけだからね」
「あなたは、自分の娘を利用しているんですか?」
「私はダメな父親だと思うかね?恨むなら、自分を恨んでみろ!」
クリスの父は声を荒げた。
「貴様たちの醜い争いのおかげで、この世界は終わろうとしているのだ!貴様が死んだくらいで解決するなら、私は今ここで貴様の運命を終わらせてやるさ!ああっ、それほど簡単なのであれば、私は喜んで貴様の首をへし折ってやる!」
フランツはクリスの父の剣幕に負けてしまった。
運命……これが真実なのだとしたら、とても敵うはずがない。フランツはそう思った。
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