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その1

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 面倒くさい上司というのは、どこにでもいる。でも、好きなだけ虐げられて殺意を憶えるほどではない。普通は。

 私の場合は少し違う。30歳を過ぎた女上司なのだが、見かけによらず性格が破綻している。結婚できないと傍から言われても頷ける。別にマゾヒストなわけではないが、時折男の嗅覚を刺激する強い香水に触発されて、彼女をちらっと見る。性格だけ取り除けば、つまり、別の意味で死にかけた私にとって救いの女神になる。

「それじゃ、残りの仕事は全部やっといて!」

 彼女は部下の私を一人残し、退社する。私が毎回、意図的にとんでもないミスを犯していることになど気付きはしない。明日の朝、どれほどの被害が出るのだろうか……。そんなことを考えれば、少しは気休めになる。

「ああっ……お前を抱きたい……」

 上司の苗字は太田と言う。

「太田……太田っ……!」

 太田の椅子に腰かけていろいろと物色する。私に出来ることって言ったらこれしかない。

「太田っ…………!」

 幸い誰もいない。太田に限らず、ここの社員は全て私に残業を任せる。窓辺から差し込む月明かりとビル群に立ち込める絶望の光が、私を優しく照らしている。

「お前がいけないんだ……存分に犯してやるさ!」

 机の上に並んだ書類どもを破き捨てる。何も知らない。私がいなくたって、こんな会社が潰れたって……。

 私はこっそりと笑う。月が味方してくれる。絶望に打ちひしがれた若人たちが私に肩を貸してくれる。

「太田っ……殺したいほど憎いお前を存分に犯してやる……!」

 
 太田の机を漁っていると色々、面白いものが出てくる。トイレ用の遊び道具とか、男の連絡先の書かれた手帳だとか、挙句の果てには、隠し撮りだとか……前途多難である。

「太田っ……ああっ、その穢れた唇で男の名前を叫ぶのか?穢れた乳房を弄っているのか?そうやって子犬みたいに飼い主を探しているのか?ええっ?」

 私がいつもときは、ミニスカートを履き、しわくちゃになった白シャツの太田を想像する。少しずつミニスカートを脱ぐのでは、私がもたないから、すぐに脱いでもらう。シャツは少し乱暴でもいいから早く脱いでもらって。ショーツとブラは……その時の気分で違うけど……淫乱には黒が似合うかな?

 それでそれで……男の方に足を開いて……見てくださいとでも言っているかのように……。アソコから溢れてくる女特有の粘液で机の上には水たまりが出来ていて……。



「何しているの?」

 太田が帰ってくることはさすがに想定していなかった。  


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