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出口はどこ?

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あの時の美しさは一体どこに行ったのかしら?これだけ布団を汚して、髪の毛を婆さんのようにクシャクシャにして……でも、王子様はここにいらっしゃらない。

私が王子様に一番近い令嬢として育てられ、めでたく婚約まで行ったというのに……王子様と私の間に入った小娘……私よりも遥かに卑しい小娘が新しい王子様の婚約者になるなんて……私にどうしろと言うの?

「君のことが好きだ。婚約しよう」

と言われてから、わずか数か月。私は人生の中で王子様しか愛さなかった。両親は私に最初王子様を押し付けるばかりで、私の幸せなんて考えていなかった。つまり、私の家の名誉しか考えていなかった。

でも、私は王子様と親しくして10年くらいになるが、私は王子様のことが段々好きになっていった。王子様も最初は私のことに興味が無かったようだったが、次第に打ち解けていった。

私の将来を王子様に捧げてもいいと思った。

しかしながら、あの小娘が現れてから、王子様は変わった。猫を被っていたのだ。王子様は私よりも小さくて人形のように可愛い小娘を好きになった。私はその場を絶えしのぐ道具だったのだ。王子様の侍従たちが躍起になって、王子様の好みの女を探していたことが後になって分かった。

「ひょっとして……振られたのか?」

酒場の店主が、いきなり尋ねてきた。無礼だと一瞬思ったが、今の私は何でも赦せた。そうでなかったら、今頃王子様を殺しているはずだ。

「女の顔をたくさん見て来たから分かる。しかし……君は良いところのお嬢さんだね?」

「よく分かるわね」

「ああっ、君は上品だ」

店主は行き場を失った私に酒をごちそうしてくれた。

「私は君の涙を乾かすことができない。しかしながら、これは些細な気持ちだ……」

恋なんてものはよく分からない。しかしながら、世の中の男がみんな悪者であるわけではない。心に仕舞いこんだナイフは……もう少し封印できそうだった。

「大変だ!王子様が死んだってよ!」

客人の会話に、私はグラスを揺らした。それを見ていた店主は、にやりと笑った。

「なるほど、これで君の願いは叶ったってわけだ……」

「ええっ?」

私は驚いた。店主はひょっとして知っていたのか?

「今日は遅いからもう帰りなさい。出口はこちらだ。また来たくなったらいつでも立ち寄ってくれ。金はいいよ」

店を出ると、冷たい冬の風が吹いていた。

「王子様は死んだの?へえっ……そうなんだ……」

私はあてのない旅を始めることにした。でもひょっとしたら、この店にいずれお世話になるかもしれない。

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