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プロローグ

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「俺は未来永劫不幸なのだ!!!!」

そんなことを言っていたはずだ。屋上で酒を飲みながら、あと数時間でクリスマスがやって来るとか、そんなことを考えていた。俺の名は中野流星。流星と書いて、シエルと読む。まあ、俗に言うキラキラネームだ。俺の両親は、自慢できるほどの人間ではない。そして、俺もまた、自慢できる人間ではない。

ものすごく巡りあわせがよかったので、地元の会社になんとか就職することができた……と、ここまではよかった。だが、入社してそうそう、俺は事件を起こしてしまった。いや、正直言って覚えてないのだが、俺は酒が回ると、記憶をなくし暴れ回っているそうなので、まあ、仕方がないといえば仕方がない。なんでも酒のせいにするなんて、本当にろくでもない人間だろう???そう思うだろう???

当時、俺の直属の上司だった、蓮見さんという、ものすごい美人に酒の席で思わず手を出してしまったのだ。俺以外の男社員みんなが憧れていた蓮見さんのおっぱいに手をかけたり、スカートを触ったり、しまいには、

「なぎさちゃーん……これから、ホテルでも行かないか???」

なんて、声をかけたようだった。もちろん、覚えていない。ちなみに、なぎさというのは、蓮見さんの名前である。蓮見渚。名前だけでも上品だ。そして、俺はそんな上品な女を手名付けて、自分のものにしてしまおう……なんて、どうせ都合のいいことを考えていたはずなのだ。

もちろん、蓮見さんは、

「キャ―――――――――――――――――!!!!!!!!」

って叫んで、蓮見さん親衛隊(自称)に呼び出されて、何度も殴られた。そして、頭にきた俺は、返り討ちにあわしてやった。その後は警察に呼ばれて事情聴取……と、お決まりの流れだった。こんな俺じゃ、到底、蓮見さんをゲットすることなんてできない……そう思っていた。

いい年して、女を抱いたこともない。俺と同年代の人間は、仮に結婚していなくても、風俗か何かで、女の心地というものを、肌で感じているのだろう。俺も、そういうことをしてみたいとは思う。だが、金がない。そして……意気地がない……。だから、黄昏のクリスマスも、こうして一人ぼっち……。




そっと目を閉じて。




なんて思っていたのに、どういうわけだか、世界が大きく変わってしまった。辺りを見回すと、都心にうごめいている喧騒とはうって変わり、一面が物静かな草原に覆われた世界になっていた。



そして、俺は……腰に刀をぶら下げていた??????


「これは……人を殺すときに使う……あの刀か???」

俺は、どうしてこんな物をぶら下げているのか、分からなかった。


ああ、そうだ。これはきっと夢の中の話なんだ。俺はそう思った。


「だから……雰囲気は俺の大好きなエロゲにそっくりだな……???」

俺の大好きなエロゲ……主人公は中世の騎士になって、お姫様たちを救い出し、成功すれば婚約してハーレムを作る。そしたら、あとは盛り放題というわけだ。その世界に非常によく似ていたのだ。

「そうか……夢の世界に入り込んで、俺はこの世界で活躍するんだな!!!俺はこの世界の主人公になったんだ!!!!」

俺はそう思って、刀を振りかざしてみた。

「エロゲだと……この刀は世界最強の剣で、どんな敵でも倒すことができるって……ああ、ちょうどいいや!!!噂をすれば、向こうから兵士たちがやって来た!!!!!」

俺の視線の先には、数人の兵士がいた。遠くに見える城の護衛なのだろう。俺はたぶん、異国の城を攻めている設定なのだ。そして……このまま戦いが始まるわけだ!!!!なんだか興奮してきた!!!普段のストレス解消にもなるぞ!!!!

「そこの哀れなる騎士よ!!!この地をナギサ皇女領内と知っての狼藉か!!!!」

ナギサ皇女……ナギサ????

俺はこの時、ものすごくお買い得な考えが浮かんで、腹いっぱいになりそうだった。そう、最初の攻略相手が、ひょっとすると……?????



(続く)



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