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その3
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さて、私が王宮から帰って来るのを、ある人物に見られた。
それは、私の古い友人であるカーチャだった。両親が元々古い付き合いだった、と言うこともあり、私とカーチャはいわゆるお隣さんの顔なじみであった。
「あら、マリアじゃないの?そんなに急いで、どうかしたの?」
私は王子様の婚約話で頭がいっぱいだった。だから、正直言って、カーチャと無駄話をする余裕なんてなかったのだ。
「ええと、カーチャ。いま急いでいるから、今日のところはごめんください」
私は足早にカーチャの元を去った。そう言えば、カーチャはどこに行こうとしていたのだろうか?そんなことは、この時考えていなかった。
一度立ち止まって、カーチャに王子様との婚約について、きちんと話をしておけば、あるいは、この問題が生じることはなかったのかもしれない。
「そうなんだ。また今度、お話しましょうね。待ってるから!」
ああ、確かにカーチャは可憐な女の子だった。女の私がそう思うのだから、他の殿方にしてみれば、もうメロメロだったに違いない……と一瞬考えて家に帰った。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
執事のロンダ―が、出迎えた。
「お父様はいらっしゃる?」
「生憎ですが、公爵様はお出かけなさっています。恐らく……カーチャ様のお家に行かれているのではないでしょうか?」
お父様は今でも、カーチャのお父様と仕事の話をすることがある。時には野暮用もあるとのことだ。
「いつになったら帰ってらっしゃるかしら?」
「そうですね……夜頃にはお帰りになると思います。それより、お嬢様。なにかあったのでございますか?」
ロンダ―は、中々気の利く男である。主人が何か問題を抱えこむと、その顔色が変わるらしい。彼には、その微妙な変化が分かるそうだ。だから、彼の前で嘘をついても無駄なのだ。元より、隠すつもりなんてなかったのだが。
「驚かないで聞いてちょうだい。実は今日、第一王子であられるミズーリ様から婚約を申し入れられたのよ……」
私がこう言うと、ロンダ―は最初、
「それはようございましたね!」
と言った。しかし、その言葉の意味を聞き届けると、とんでもない事態であることを理解して、
「なんですって!それは本当でございますか!!」
と驚いた。
「それが本当なのよ。ああ、どうしたらいいのかしら?とりあえず、お父様に相談するしかないわよね……って、ロンダ―?どうしちゃったの?」
ロンダ―は、知らないうちに涙をそっと流していた。
「いいえ、この家にお仕えしてきた中で、これほど驚き、また、これほど喜ばしいことはないと思い、感動しきっているのです!!!」
なるほど、思い返してみると、私が幼い頃から世話をしてくれたロンダ―がこれほど喜ぶことなのであれば、王子様の婚約を受け入れるのも、やぶさかではないと思った。
それは、私の古い友人であるカーチャだった。両親が元々古い付き合いだった、と言うこともあり、私とカーチャはいわゆるお隣さんの顔なじみであった。
「あら、マリアじゃないの?そんなに急いで、どうかしたの?」
私は王子様の婚約話で頭がいっぱいだった。だから、正直言って、カーチャと無駄話をする余裕なんてなかったのだ。
「ええと、カーチャ。いま急いでいるから、今日のところはごめんください」
私は足早にカーチャの元を去った。そう言えば、カーチャはどこに行こうとしていたのだろうか?そんなことは、この時考えていなかった。
一度立ち止まって、カーチャに王子様との婚約について、きちんと話をしておけば、あるいは、この問題が生じることはなかったのかもしれない。
「そうなんだ。また今度、お話しましょうね。待ってるから!」
ああ、確かにカーチャは可憐な女の子だった。女の私がそう思うのだから、他の殿方にしてみれば、もうメロメロだったに違いない……と一瞬考えて家に帰った。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
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「生憎ですが、公爵様はお出かけなさっています。恐らく……カーチャ様のお家に行かれているのではないでしょうか?」
お父様は今でも、カーチャのお父様と仕事の話をすることがある。時には野暮用もあるとのことだ。
「いつになったら帰ってらっしゃるかしら?」
「そうですね……夜頃にはお帰りになると思います。それより、お嬢様。なにかあったのでございますか?」
ロンダ―は、中々気の利く男である。主人が何か問題を抱えこむと、その顔色が変わるらしい。彼には、その微妙な変化が分かるそうだ。だから、彼の前で嘘をついても無駄なのだ。元より、隠すつもりなんてなかったのだが。
「驚かないで聞いてちょうだい。実は今日、第一王子であられるミズーリ様から婚約を申し入れられたのよ……」
私がこう言うと、ロンダ―は最初、
「それはようございましたね!」
と言った。しかし、その言葉の意味を聞き届けると、とんでもない事態であることを理解して、
「なんですって!それは本当でございますか!!」
と驚いた。
「それが本当なのよ。ああ、どうしたらいいのかしら?とりあえず、お父様に相談するしかないわよね……って、ロンダ―?どうしちゃったの?」
ロンダ―は、知らないうちに涙をそっと流していた。
「いいえ、この家にお仕えしてきた中で、これほど驚き、また、これほど喜ばしいことはないと思い、感動しきっているのです!!!」
なるほど、思い返してみると、私が幼い頃から世話をしてくれたロンダ―がこれほど喜ぶことなのであれば、王子様の婚約を受け入れるのも、やぶさかではないと思った。
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******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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