偽善王子と令嬢

tartan321

文字の大きさ
1 / 1

偽善者

しおりを挟む
 大好き……。
 
 王子様は様々な令嬢に、こう囁きます。

 私はちょうど100番目みたいです。100番目の奉公人で、気に入ってもらったら子供を孕むことができるとかできないとか……そんなこと、私にはどうでもいいんですけどね。

 私は純粋に王子様が好きです。

 小さい頃、宮殿で迷子になった私に優しく手を差し出して下さった王子様……。

 王子様にとって私は小指のようなものなのでしょう。それでもいい。

 胸につかえた恋を伝えて逃げればいい。

 私に残された方法はそれだけでした。

「王子様……スピーラと申します……」

 私にとって王子様は、神様でもあり、悪魔でもありました。

 今ははっきり言って悪魔です。

 あの時の面影がありません。

 大人になるっていうのはそういうことなんでしょうか?

 政略に基づいた戦いと同盟、婚約。

 私にはそんな大層なこと、分かりません。あの時の温もりしか分かりません……。

「ベッドルームへ行こう……」

「はい…………」

 王子様……。

 私のことなんて覚えていませんよね……?

 中途半端な寵愛はいらないんです。

 私が子供を授かったら……いいえ、何でもないです……。

「スピーラ!あなた……」

 お母さまは大層喜びました。王子様の寵愛を受けられるのは一族にとって非常に名誉なことなのです。私の家はそれほど上流ではないので、大きく株を上げることになるでしょう。

「あなたの願いもやっと叶ったわね!」

「はい……お母さま……」

「もうっ!そんなお化けみたいな顔しちゃって!ほら、もっともっと王子様に愛される顔をしなきゃ!ああっ……早くお孫様の顔を拝みたいわ!」

 お母さまは子供みたいにはしゃいでいました。

 これでいいんだ、と何度胸に言い聞かせたことでしょう。

 帝国という大きな社会の枠組みの中で、私は一つの星に過ぎません。淡く輝くお月様に少しでも近づくため……王子様と本当の恋にたどり着く時を夢見て……。

「王子様……私は幸せ者ですね……」

 女の涙は必ずしも幸福を意味するわけではありません。

 でもそんなこと、王子様には関係ないですものね?

「今日はいつになく魅力的だ……」

 いつもいつも同じ顔で同じ体つきなんです……。

 抱かれるほど暗闇に堕ちていきます。もうじき来た道を失ってしまいそう。

 後悔なんてとっくに忘れました。

 みんなが喜んでいるのですから、きっと私も幸せなんです。


 王子様……。

 恋という贅沢を与えて頂きありがとうございます……。

 私に最小限の愛を与え続けてください。

 私は貴方に最大限の愛を与え続けますから……。



 
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...