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高校3年の思い出
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「お前さっきのアリウープ完璧だったな」
「ンジャニム凄いンジャニム凄い」
「エチオピアの人って走るの専門だと思ってたけど、バスケも凄いんだな」
「ンジャニム凄いンジャニム凄い」
「俺ロボットと喋ってないよな?」
「ンジャニム人間ンジャニム人間」
「はいはい、でさ今日地域の祭りみたいなもんで『数学オリンピック』ってのがあんだけど行ってみる?」
「ンジャニム行くンジャニム行く」
てことで2人はカバンを置いて着替えために一度家に帰ることとなった。
俺は楽妄高校3年の伊丹 吾郎(いたみ ごろう)、特定の彼女なし。彼女募集中。なぜしつこく彼女って書くか、それはウチに変なホームステイの留学生がいて誰も寄り付かないからだ。言わずもがなンジャニムである。ウチはトラック運転手の父と男三兄弟でただでさえ女っ気が無いのだ。中坊の弟 嘉人(よしと)と小学生 健(たける)は塾で毎日忙しいから会うのは朝か夜の少しの時間だけだ。母は2年前に家族で見たテレビドラマ"ピータン&フォンダ"と同じ方法で家出をしたきり未だ帰ってこない。そんな家になんでホームステイ、と思ったが世間に公表してないから仕方がない。そうこうしてる間に家に着き、俺はンジャニムに自分も使う香水を少し振りかけてやった。ちょっと臭う気がしたから。
「さぁ行こう」
「ンジャニムどこ行くンジャニムどこ行く」
「だから"数学オリンピック"に行くんだって」
「え?」
「今『え?』って言ったろ!」
「ンジャニム言ってないンジャニム言ってない」
「はい分かりました。じゃ行くよ」
スポーツの日の県立楽妄競技場は"数学オリンピック"のため満員である。
「数学オリンピックって言ったら世界大会もあるみたいだけど日本ではこんな感じなんだ、凄いだろ」
「ンジャニム初めてンジャニム初めて」
「じゃまず売店行こうか?」
「ンジャニム売店好きンジャニム売店好き」
すさまじい人混みの売店で2人はお土産に数学せんべいを買った。表面に割るとか掛けるとかの焼き印がしてある瓦せんべいである。正直のところ高校生にはエクスペンシブだったが地元ではコレを食べると頭が良くなるという迷信があるため、弟たちに持って帰って食べさせるつもりだった。ンジャニムは自分で食べる気だろう。
「そろそろトラックの方に行こうか、オリンピックやってるから」
「ンジャニムやりたいンジャニムやりたい」
「無理いうな、こういうやつは事前のエントリーが必要なんだ」
「ンジャニム負けないンジャニム負けない」
「分かったよ、聞いてやるから」
オリンピックの審査員をやっている男と掛け合ってなんとか許可を得た。
「いいか、ここに並べ。あの白い線がスタート、向こう側のラインかゴールだ。まだだ、まだ!」
「ンジャニムまだンジャニムまだ」
「いま前の人が走るからよく見てろ、挟む板に算数問題のプリントが挟んだ状態で渡されるからゴールまでの間に全て答えを書くんだ」
「ンジャニム挟む板バインダーと思うンジャニム挟む板バインダーと思う」
「あ、そうですか。次だぞ、準備はいいのか?」
「ンジャニム勝つンジャニム勝つ」
邪魔になるため少し離れて見守ろうとその場を離れたとき、係の人がンジャニムにペンとバインダーを手渡すのが見えた。紙が裏返しになっている、スタートでテストみたく裏返しにして始めるようだ。教えなかったが大丈夫だろうか?
位置について、用意⋯ドン!
「速ぇ~」
用意ドンって口で言うのか、といった感慨深い思いを打ち消すかの如く凄い勢いで飛び出したンジャニムは計算してるかどうか不明だがとにかく下を向いて走っている。そしてあっと言う間にゴールした。
「どうだった?」
「ンジャニムちょろいンジャニムちょろい」
「そうか⋯」
計算の結果は後日ウチに送られて来るそうだ。もちろんゴールまでのスピードも加味されるようなので、計算さえしっかり出来てれば上位も狙えるだろう。できればンジャニムが国に帰る卒業の日までに結果を出して貰いたいものだ。
「来たぞ!来た来た」
「ンジャニムなにンジャニムなに」
「この前のオリンピックの結果だよ」
高校から帰る途中、携帯に数学オリンピックの結果通知があったのだ。結果は⋯1位!オリンピックだから金メダルだ。そしてそこにはこうも書かれていた。
『1位のンジャニムさんにはぜひ東京で行われる表彰式に出席していただきたく往復のペアチケットをお送りしました』
東京なんて行ったことないぞど思い少しムッとしたがンジャニムはいい奴だ、一人では心許ないから一緒に行こうと言ってくれた。もちろん「ンジャニム一緒にンジャニム一緒に」と言った。それが聞き間違いでも俺は行くつもりだった。
「東京はやっぱり凄いな」
「ンジャニム5回目ンジャニム5回目」
「なんでだよ?」
「ンジャニム成田ンジャニム成田」
「そうかエチオピアから成田に着いたんだな、俺迎えに行かなかったから知らないんだ。ん、5回目?」
「ンジャニムこっちンジャニムこっち」
ンジャニムは東京の地理に詳しかった。あちこち回ってから表彰式に向かったのだが、会場にはすでに沢山の人が集まっていた。俺たちは場違いな格好をしていた。みんな表彰式ということもあってか正装していたが、俺たちはというと俺がユニクロのTシャツにオーバーシャツを羽織ってジーンズ、ンジャニムはプーマのジャージ上下だった。
「服装ミスったな、ん、ンジャニム?」
「あなた優勝した方よね?」
「ンジャニムしたンジャニムした」
「あちらに行って式の準備しましょうね」
黄色のスカーフをした女性に連れて行かれるンジャニムが見えた。うまいことやりやがって!
そしてなんだかんだで表彰式が始まった。盛り上がりから考えてがんばりま賞からの発表かと思えばいきなり優勝者の発表らしい。そういえばアイツちゃんと帰って来たかな?
√このほど全国で行われました"数学オリンピックランニング部門"の優勝者が決定しました。ランニング部門の優勝者は⋯エチオピアから来日中のンジャニムさんです!
パチパチパチパチパチパチ⋯
ンジャニムがさっきの女性に連れられてステージ上座から出てきた。親ではないがンジャニムのことが逐一気にかかる。上手く表彰状を受け取っているようだ。横にいたスカーフの女性も心配そうに見ている。⋯ん?あの女性よく見ると母さんだ。何やってんだよ!
ンジャニムは壇上に座っている。
「母さん!」
「⋯吾郎、なんでこんな所にいんのよ?」
「居て悪いかよ?」
「悪くないけど、お前学校は?」
「そんなことより今どうしてんだよ、帰る気はないのか?」
「母さんどうしても色んなドラマの聖地が見たくて東京に来たんだけど⋯」
「馬鹿だな、なんで黙って行くんだよ!それに聖地見たらすぐ帰って来いよ」
「それがドラマと同じになったのよ、あの家出した主婦がジュエリーデザイナーになる話」
「もういい、そんな嘘ついてまで帰りたくなかったら帰らなくてもいいよ!」
「いや、⋯」
じゃあな。そう言い残して立ち去ると、ステージから退出したンジャニムと合流した。不機嫌そうな俺を見て何か察したのか明るく声を掛けてきた。
「ンジャニム嬉しいンジャニム嬉しい」
ンジャニムは両手に表彰状と副賞の数学せんべいを持ってご満悦だ。
「あっそ、⋯ん、なんだよそのパンフレット?」
「ンジャニム次も出るンジャニム次も出る」
なるほど数学オリンピックのパンフレットか。ンジャニムのやつ来年も来るつもりか?
「そろそろ帰ろう」
「ンジャニム真面目ンジャニム真面目」
「真面目で悪かったな」
ンジャニムはなぜか東京に知り合いが多かった。帰る前にどうしても行きたい所があると言うので着いて行くと、なんと高級料亭だった。また場違いな所だ、金もないし勘弁して欲しい。
「いらっしゃいませ、これはこれはンジャニム様、今日はお連れ様とご一緒ですか?」
おかしな事になっている。
「ンジャニムおまかせでンジャニムおまかせで」
「かしこまりました」
ちょっとまて、いろいろ心配でこのままでは何も喉を通らない。
「すいません」
「なんでしょう?」
「お金無いんですけど⋯」
「大丈夫ですよ、払っていただかなくて」
「え?」
その後、沢山料理が並んだがやっぱり食が進まなかった。なんかやりきれない気分で東京を後にした。
「東京はどうだった?」
「ん、うん」
「ンジャニム優勝ンジャニム優勝」
今日は珍しく父さんが非番で家にいる。俺は父さんに東京で母さんに会った事を言っていない。なぜなら綺麗な服にバッチリ化粧なんかして、ろくな生活をしてそうになかったからだ。弟たちは冬休みでも塾に勤しんでいる。
「ンジャニム、ご両親には連絡してるか?」
「ンジャニムしてないンジャニムしてない」
「駄目じゃないか心配してるぞ」
ンジャニムがリュックから物々しい機械を出してきて何やらしているが特に誰かと話している様子はない。無造作に置かれたリュックの中に先日の東京で貰ったパンフレットが入っていた。見ると入賞者の名前がズラリと書いてある。当然中にはンジャニムの名前も入っている。裏返してみると今回の数学オリンピックに関わった協賛企業の名前が書いてある。その中に一つ気になるものがあったので企業名を控えた。後、携帯でその"フォンダジュエリー"を調べると、社長の写真が小さく映ってあった。伊丹 優子とある。
そう、母の名前は伊丹 優子(いたみ ゆうこ)。ドラマ"ピータン&フォンダ"と同じフォンダでピンときた訳だがこうなるとまた父に話すか迷う。
そういえばずっと弟たちに会っていない。元気にしているだろうか?
卒業を前にしてンジャニムが帰国することとなった。
「ンジャニム悲しいンジャニム悲しい」
「バカだな、来年も来るんだろ?」
「ンジャニム来年無理ンジャニム来年無理」
「え、なんで?」
「ンジャニム故障ンジャニム故障」
「何言ってんだ、人間が故障なんかするかよ」
「ンジャニム人造人間ンジャニム人造人間」
「なんだよそれ!」
少し悲しくなって涙が出た。
父の話によるとどうやらエチオピアの天才科学者夫婦がンジャニムを作ったようだ。さては高級料亭のお代はこの夫婦が立て替えてたんだな。ンジャニム⋯俺の大事な1年返せ!って言うか数学オリンピックの優勝も副賞も返せ!
そして父はもう一つ大事な話をした。弟たちが母の元に行ったんだそうだ。⋯俺だけ蚊帳の外か、いい加減にしろ!
―終わり―
「ンジャニム凄いンジャニム凄い」
「エチオピアの人って走るの専門だと思ってたけど、バスケも凄いんだな」
「ンジャニム凄いンジャニム凄い」
「俺ロボットと喋ってないよな?」
「ンジャニム人間ンジャニム人間」
「はいはい、でさ今日地域の祭りみたいなもんで『数学オリンピック』ってのがあんだけど行ってみる?」
「ンジャニム行くンジャニム行く」
てことで2人はカバンを置いて着替えために一度家に帰ることとなった。
俺は楽妄高校3年の伊丹 吾郎(いたみ ごろう)、特定の彼女なし。彼女募集中。なぜしつこく彼女って書くか、それはウチに変なホームステイの留学生がいて誰も寄り付かないからだ。言わずもがなンジャニムである。ウチはトラック運転手の父と男三兄弟でただでさえ女っ気が無いのだ。中坊の弟 嘉人(よしと)と小学生 健(たける)は塾で毎日忙しいから会うのは朝か夜の少しの時間だけだ。母は2年前に家族で見たテレビドラマ"ピータン&フォンダ"と同じ方法で家出をしたきり未だ帰ってこない。そんな家になんでホームステイ、と思ったが世間に公表してないから仕方がない。そうこうしてる間に家に着き、俺はンジャニムに自分も使う香水を少し振りかけてやった。ちょっと臭う気がしたから。
「さぁ行こう」
「ンジャニムどこ行くンジャニムどこ行く」
「だから"数学オリンピック"に行くんだって」
「え?」
「今『え?』って言ったろ!」
「ンジャニム言ってないンジャニム言ってない」
「はい分かりました。じゃ行くよ」
スポーツの日の県立楽妄競技場は"数学オリンピック"のため満員である。
「数学オリンピックって言ったら世界大会もあるみたいだけど日本ではこんな感じなんだ、凄いだろ」
「ンジャニム初めてンジャニム初めて」
「じゃまず売店行こうか?」
「ンジャニム売店好きンジャニム売店好き」
すさまじい人混みの売店で2人はお土産に数学せんべいを買った。表面に割るとか掛けるとかの焼き印がしてある瓦せんべいである。正直のところ高校生にはエクスペンシブだったが地元ではコレを食べると頭が良くなるという迷信があるため、弟たちに持って帰って食べさせるつもりだった。ンジャニムは自分で食べる気だろう。
「そろそろトラックの方に行こうか、オリンピックやってるから」
「ンジャニムやりたいンジャニムやりたい」
「無理いうな、こういうやつは事前のエントリーが必要なんだ」
「ンジャニム負けないンジャニム負けない」
「分かったよ、聞いてやるから」
オリンピックの審査員をやっている男と掛け合ってなんとか許可を得た。
「いいか、ここに並べ。あの白い線がスタート、向こう側のラインかゴールだ。まだだ、まだ!」
「ンジャニムまだンジャニムまだ」
「いま前の人が走るからよく見てろ、挟む板に算数問題のプリントが挟んだ状態で渡されるからゴールまでの間に全て答えを書くんだ」
「ンジャニム挟む板バインダーと思うンジャニム挟む板バインダーと思う」
「あ、そうですか。次だぞ、準備はいいのか?」
「ンジャニム勝つンジャニム勝つ」
邪魔になるため少し離れて見守ろうとその場を離れたとき、係の人がンジャニムにペンとバインダーを手渡すのが見えた。紙が裏返しになっている、スタートでテストみたく裏返しにして始めるようだ。教えなかったが大丈夫だろうか?
位置について、用意⋯ドン!
「速ぇ~」
用意ドンって口で言うのか、といった感慨深い思いを打ち消すかの如く凄い勢いで飛び出したンジャニムは計算してるかどうか不明だがとにかく下を向いて走っている。そしてあっと言う間にゴールした。
「どうだった?」
「ンジャニムちょろいンジャニムちょろい」
「そうか⋯」
計算の結果は後日ウチに送られて来るそうだ。もちろんゴールまでのスピードも加味されるようなので、計算さえしっかり出来てれば上位も狙えるだろう。できればンジャニムが国に帰る卒業の日までに結果を出して貰いたいものだ。
「来たぞ!来た来た」
「ンジャニムなにンジャニムなに」
「この前のオリンピックの結果だよ」
高校から帰る途中、携帯に数学オリンピックの結果通知があったのだ。結果は⋯1位!オリンピックだから金メダルだ。そしてそこにはこうも書かれていた。
『1位のンジャニムさんにはぜひ東京で行われる表彰式に出席していただきたく往復のペアチケットをお送りしました』
東京なんて行ったことないぞど思い少しムッとしたがンジャニムはいい奴だ、一人では心許ないから一緒に行こうと言ってくれた。もちろん「ンジャニム一緒にンジャニム一緒に」と言った。それが聞き間違いでも俺は行くつもりだった。
「東京はやっぱり凄いな」
「ンジャニム5回目ンジャニム5回目」
「なんでだよ?」
「ンジャニム成田ンジャニム成田」
「そうかエチオピアから成田に着いたんだな、俺迎えに行かなかったから知らないんだ。ん、5回目?」
「ンジャニムこっちンジャニムこっち」
ンジャニムは東京の地理に詳しかった。あちこち回ってから表彰式に向かったのだが、会場にはすでに沢山の人が集まっていた。俺たちは場違いな格好をしていた。みんな表彰式ということもあってか正装していたが、俺たちはというと俺がユニクロのTシャツにオーバーシャツを羽織ってジーンズ、ンジャニムはプーマのジャージ上下だった。
「服装ミスったな、ん、ンジャニム?」
「あなた優勝した方よね?」
「ンジャニムしたンジャニムした」
「あちらに行って式の準備しましょうね」
黄色のスカーフをした女性に連れて行かれるンジャニムが見えた。うまいことやりやがって!
そしてなんだかんだで表彰式が始まった。盛り上がりから考えてがんばりま賞からの発表かと思えばいきなり優勝者の発表らしい。そういえばアイツちゃんと帰って来たかな?
√このほど全国で行われました"数学オリンピックランニング部門"の優勝者が決定しました。ランニング部門の優勝者は⋯エチオピアから来日中のンジャニムさんです!
パチパチパチパチパチパチ⋯
ンジャニムがさっきの女性に連れられてステージ上座から出てきた。親ではないがンジャニムのことが逐一気にかかる。上手く表彰状を受け取っているようだ。横にいたスカーフの女性も心配そうに見ている。⋯ん?あの女性よく見ると母さんだ。何やってんだよ!
ンジャニムは壇上に座っている。
「母さん!」
「⋯吾郎、なんでこんな所にいんのよ?」
「居て悪いかよ?」
「悪くないけど、お前学校は?」
「そんなことより今どうしてんだよ、帰る気はないのか?」
「母さんどうしても色んなドラマの聖地が見たくて東京に来たんだけど⋯」
「馬鹿だな、なんで黙って行くんだよ!それに聖地見たらすぐ帰って来いよ」
「それがドラマと同じになったのよ、あの家出した主婦がジュエリーデザイナーになる話」
「もういい、そんな嘘ついてまで帰りたくなかったら帰らなくてもいいよ!」
「いや、⋯」
じゃあな。そう言い残して立ち去ると、ステージから退出したンジャニムと合流した。不機嫌そうな俺を見て何か察したのか明るく声を掛けてきた。
「ンジャニム嬉しいンジャニム嬉しい」
ンジャニムは両手に表彰状と副賞の数学せんべいを持ってご満悦だ。
「あっそ、⋯ん、なんだよそのパンフレット?」
「ンジャニム次も出るンジャニム次も出る」
なるほど数学オリンピックのパンフレットか。ンジャニムのやつ来年も来るつもりか?
「そろそろ帰ろう」
「ンジャニム真面目ンジャニム真面目」
「真面目で悪かったな」
ンジャニムはなぜか東京に知り合いが多かった。帰る前にどうしても行きたい所があると言うので着いて行くと、なんと高級料亭だった。また場違いな所だ、金もないし勘弁して欲しい。
「いらっしゃいませ、これはこれはンジャニム様、今日はお連れ様とご一緒ですか?」
おかしな事になっている。
「ンジャニムおまかせでンジャニムおまかせで」
「かしこまりました」
ちょっとまて、いろいろ心配でこのままでは何も喉を通らない。
「すいません」
「なんでしょう?」
「お金無いんですけど⋯」
「大丈夫ですよ、払っていただかなくて」
「え?」
その後、沢山料理が並んだがやっぱり食が進まなかった。なんかやりきれない気分で東京を後にした。
「東京はどうだった?」
「ん、うん」
「ンジャニム優勝ンジャニム優勝」
今日は珍しく父さんが非番で家にいる。俺は父さんに東京で母さんに会った事を言っていない。なぜなら綺麗な服にバッチリ化粧なんかして、ろくな生活をしてそうになかったからだ。弟たちは冬休みでも塾に勤しんでいる。
「ンジャニム、ご両親には連絡してるか?」
「ンジャニムしてないンジャニムしてない」
「駄目じゃないか心配してるぞ」
ンジャニムがリュックから物々しい機械を出してきて何やらしているが特に誰かと話している様子はない。無造作に置かれたリュックの中に先日の東京で貰ったパンフレットが入っていた。見ると入賞者の名前がズラリと書いてある。当然中にはンジャニムの名前も入っている。裏返してみると今回の数学オリンピックに関わった協賛企業の名前が書いてある。その中に一つ気になるものがあったので企業名を控えた。後、携帯でその"フォンダジュエリー"を調べると、社長の写真が小さく映ってあった。伊丹 優子とある。
そう、母の名前は伊丹 優子(いたみ ゆうこ)。ドラマ"ピータン&フォンダ"と同じフォンダでピンときた訳だがこうなるとまた父に話すか迷う。
そういえばずっと弟たちに会っていない。元気にしているだろうか?
卒業を前にしてンジャニムが帰国することとなった。
「ンジャニム悲しいンジャニム悲しい」
「バカだな、来年も来るんだろ?」
「ンジャニム来年無理ンジャニム来年無理」
「え、なんで?」
「ンジャニム故障ンジャニム故障」
「何言ってんだ、人間が故障なんかするかよ」
「ンジャニム人造人間ンジャニム人造人間」
「なんだよそれ!」
少し悲しくなって涙が出た。
父の話によるとどうやらエチオピアの天才科学者夫婦がンジャニムを作ったようだ。さては高級料亭のお代はこの夫婦が立て替えてたんだな。ンジャニム⋯俺の大事な1年返せ!って言うか数学オリンピックの優勝も副賞も返せ!
そして父はもう一つ大事な話をした。弟たちが母の元に行ったんだそうだ。⋯俺だけ蚊帳の外か、いい加減にしろ!
―終わり―
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