盲目の呪い

みあき

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中編

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 教会の待合室にて、人々の浮き足たつ声を遠くに聞いていますと、白いローブを被った女性が部屋に入って来られました。
 式の始まりにはまだ時間が早く、打ち合わせか何かかもしれないと思い、女性に声をかけようとしました。
「呪いが解けて、また憎たらしい女になったわね。私があんたの幸せを壊してあげる」
 私が声をかけるよりも早く、その女性は確かに憎しみの籠った声で私に宣言をしました。
 殺気立った侍女と護衛を制しますと、女性は続けて話をされます。
「王子様に愛されるのはどんな気分?幸せそうにしちゃって腹立つわ」
「貴女には私が幸せそうに見えるのですか?」
「何?マリッジブルーにでもなってるって言うの?贅沢な女ね」
「贅沢ですか。貴女ご自身は王子との結婚を望まれているのでしょうか?」
「何、その質問?王子様と結婚したいなんて当たり前でしょ?持ってる人間の余裕って奴?けど、残念。今から私が全部ぶち壊してあげる」
 不穏な言葉を発する女性に、護衛と侍女が警戒を強めます。
「今度はあんなちゃちな魔法なんかじゃなくて、もっとすごいのかけてあげるから、好きなだけ絶望してよね」
「貴女が私に呪いをかけた方だったのですね」
「そうよ!どう?恐くなってきた?私はね、大魔女なの。禁忌の魔法も見返りなしで使えちゃうんだから」
 魔女と名乗る女性の言葉を聞き、きっとこれが私に与えられた最初で最後のチャンスなのだと思いました。
 全てをかける覚悟を今、この瞬間に決めるしかありません。
「大魔女様、貴女に叶えていただきたい願いがあるのです」
「はぁ?話聞いてた?私があんたの願いなんて聞くはず」
「もちろん、対価はお渡しします。私が差し上げる対価をお気に召すならば、私の願いを叶えていただけませんか?」
「・・・いいわよ。あんたみたいな恵まれた人間が魔女に頼ってまで叶えたい願いってのも興味あるし、気が向けば魔法を使ってあげる。あんたも解っての通り、タダじゃないけどね」
 侍女や護衛が戸惑いながらも心配そうにこちらを伺っています。見守っていてくださることがとてもありがたく思います。
「私が呪いを受けていた間、ずっと私をお世話してくださった殿方の元へ私を導いていただきたいのです」
「お嬢、様・・・?」
「私の元を訪れてくださった方が王子でないことは始めから解っておりました。しかし皆、あの方が王子と私に伝えるのです。私は公爵令嬢として、ただ世に向けて描かれていたストーリーに従いました」
「けど、クライマックスを迎える直前に、大魔女である私が現れ、欲が出たと」
「その通りです」
「で、あんたが差し出す対価は何?」
「公爵令嬢シャルロット・ヴィンヤードの人生を差し上げます」
「どういう意味?あんたが一生私の奴隷になるってこと?」
「いいえ、この身体とシャルロット・ヴィンヤードが生きていく未来を差し上げます。私には別の身体を授けて、あの方の元へ導いていただきたいのです」
 侍女が驚きで声を失っていることが分かります。魔女は愉快そうな笑みを浮かべました。
「いいわね、いいわよ!あんたの願いを聞いてあげる。喜びなさい。あんたの願いは大魔女である私だから叶えてあげることが出来るの。何なら、あんたがその想い人結ばれるようにすることだってしてやれるけど?」
「導いてくださるだけでかまいません。あの方に出逢えたその後は、私自身の力で努力をいたします。私の呪いが本当はあの方の口付けにより解けたことも知っております。たとえ、別の姿であの方と一から出会い直し愛し合うことが叶わなくとも、苦しさは誤魔化せます」
 お慕いしている方に会いに行くために、全てを捨てようとしているなど、薄情な人間と思われる方もいらっしゃるでしょう。
 ならば、私が呪いを受けていた数年間、一度も私の元を訪れなかった家族や友人、婚約者も薄情な方々であるはずです。
 公爵令嬢として、あの方の存在を知ることさえ諦めて、与えられるものを享受するしかないと思っていました。
 今日のこの出会いは、私にとっては奇跡と言う他ありません。魔女も、私の願いを聞き受けてくださるようです。
 私はこれから、私自身の心に従って生き抜いてみせます。
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