愛のテクニシャン カレン

MIKAN🍊

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26.ハンマー・シャーク

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ドアの内側で甘いKissを交わした。
「本当にシャワーしなくて良いの?」
カレンは蜜子の可愛い瞳を覗き込んだ。
出来ればまだ離したくなかった。
ベッドの上で、ソファーの上で話しをしたり何かを食べたり、そうやって飽きるまで繰り返しKissをしたりなんかしていたいと思った。

「いいの。今日は一日このままで。カレンさんの匂いに包まれていたいから」
蜜子は尖がったピンクの舌をチラリと出した。
ギュッと抱きしめたくなった。
「わかったわ。またいつでもいらっしゃい」
精一杯大人のフリをしてカレンは蜜子を見送った。

トイレを済ませ冷たい水を浴びた。
立ったままそっと股間に手を伸ばし穏やかなオナニーをした。
すぐに膝が震え脚の付け根がわずかに吊った。
食事を片付けサマードレスに着替えた。
紅い小さなTバックを履いて。

陽はすっかり昇り、ジリジリと気温が上がってゆく。
海沿いの、灼熱の外気の中を凄まじい勢いで蝉達が鳴く。
沖合い遥か海上では強い上昇気流が巻き上がり、高さ数十キロメートルにもなる積乱雲がムクムクとその壮大な姿を現し始めた。


カレンは人気のない廊下を歩いた。
完璧に制御されたエアコンディショナーの程よい除湿が火照った身体を鎮めてくれた。

誰もいない広いエントランスロビーのソファーに腰掛けて水槽を見ていた。
いつか観たアメリカのスパイ映画に出てきた様な巨大な水槽だった。
近くに寄るとまるで水族館にでも居るような気がした。

珍しい一匹のサメを目で追う。
何ていったかしら、コレ…
まだ子どものようで体長は50センチ位だろうか。水槽の中にサメはこの一匹しかいない。
色とりどりの熱帯魚たちがこの子を避けるように群れをコントロールしながら過ぎてゆく。
仲間が居なくて淋しくはないのだろうか。むしろ仲間など必要ないのか。

両サイドに張り出した大きな目の片方が、カレンを睨みながら通り過ぎる。
カレンはコツコツと強化ガラスの表面を突ついた。
サメはまた悠々と泳ぎ去る。青白い身体が妙にセクシーだった。
水槽の中を回遊しながら時々、蛇のように身をくねらせ、カレンに懐くようにガラスを上に這い登る。
真っ白な腹をしきりに押し付けてくるあたりは、よく躾けられたペットのようだった。

「おはよう!カレンさん!」
朗らかな声がロビーに響いた。院長の五徳洋介だった。
「おはようございます。院長」
「院長はよして下さいよ」
洋介はブルーのショートパンツに縞模様のエスパドリーユを履いていた。底はジュート麻、アッパーはキャンバス地のサンダル型のスリッポンだ。
白いシャツは胸元まで開いていた。これから釣りにでも行く様な格好だ。
カレンはプッと吹き出した。たしかに院長というスタイルではない。

「ひどいなあ。笑うなんて。そんな可笑しな風態かな?」
「いいえ、キマッていますわ」カレンは耳にかかった髪をそっと後ろへ流した。
「それはありがとう。カレンさんも素敵ですよ。美人は何を着ても似合いますね」
お世辞に対するお返しもソツがない。

「こいつ変わっているでしょう」
洋介は水槽に近づき泳ぐサメを覗き込んだ。
「まだ赤ちゃんなんですね」
「ですね。最大で8メートル位になるんじゃないかな。サメの仲間には珍しく群れで行動する事もあるんですよ。数百匹位のね」
「壮観でしょうね」
「こいつらの主食はエイだそうです。砂の下のエイを捜すんですよ。この変な頭の中にロレンチーニ器官という電波をキャッチする機能があって。それで生き物が発する微弱な電流を察知するんです」
「見た目よりハイテクなんですね」
「あはは。そうですね。英語ではハンマーヘッドシャーク。日本ではシュモクザメ。シュモクはご存知ですか?」
「いいえ。何処かで名前だけは聞いた事がある、そんな程度です」
撞木シュモクと書きます。手偏テヘンにわらべ。和楽器の一種ですよ。小さなT字形のね、鐘やタタキガネを打ち鳴らす棒です。ほら、昔の医者がよくやったでしょう。膝小僧の下の所をポンッと叩いて」
「ああ、脚気の検査ですね」
「そうそう。あははは。懐かしいなあ。飛び上がる膝が面白かった。あんな器具のもうちょっと神がかり的なやつですよ」
洋介の例えが愉快でカレンは微笑んだ。

サメが何かに驚いたように激しく泳ぎだす。
「おや、ヤキモチを妬いてるぞこいつ」
「本当に?オスなんですか?」
「どうでしょう。まだ調べてないんですよ。友人が八丈島で捕獲したのを譲ってもらったんです。と言っても向こうが勝手に持ち込んだんですけどね」
「一匹だけでは寂しそう」
「そうでもないんですよ。カレンさん。ハンマーシャークは単性生殖するんですよ」

「え?」
「そういう報告がありましてね。何年もオスと接触のないメスが出産したと。サメの仲間にはそういうのが居るらしいです」
「何かの間違いじゃないんですか?」
「いえ、生まれた子どものDNA検査も行ったみたいですよ。父親の形跡はなく母親の遺伝子だけ引き継いでいたと」
「驚きました」カレンは目を丸くした。
「サメのメスにはオスの精子を数ヶ月間保存できる機能もある、そんな報告もあります。まったく驚くべき魚です」
「貴重な生き物なのですね」
「まだまだ生態は謎に包まれています」

カレンはフフと笑った。
「あれ、何か面白かったですか?」
「いいえ。何故先生は朝からそんな格好をして私にサメの講義をしてらっしゃるのかと…」
「ああそうか。それはそうですね。私の生態も謎だらけ、というわけですね。あははは!」

ハンマーシャークが二人の間にヌッと現れて大きな目をギョロリとさせた。
「やっぱりオスなのかしら?」
カレンと洋介は視線を絡めてまた笑い合った。

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