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30 スミレさん
とりあえずの家事を大急ぎでこなして家を出た。家が見えなくなったところまで来てからメールを入れた。車はすぐにすーっとレナのそばに寄って来た。
車に乗り込むや、電話をした。
「あ、トオル? ・・・」
うっかり自分の名前を言うところだった。
「今から行く。行っても、いい?」
電話を切った。
考えてみると、今日ユーヤを乗せたのもアブなかった。彼は「ササキ先輩」とは言わなかった。今後は本名の世界の人間はなるべく乗せないようにしよう。
「次で終わりです。今日は、ありがとうございました」
運転中のスズキさんにレナは礼を言った。
「明日はいかがいたしましょうか。お降りになった場所までお迎えにあがりますか」
「それは、いいです。自分でホテルに帰りますから」
「かしこまりました」
彼は孫のような歳の娘が複数の男と遊んでいるのをどのような思いで見ているのだろうか。
スズキさんの車を見送って、アパートの階段を上った。
よっぽど今日は止めておこうかとも考えた。まだ完全に縄目が消えていなかった。電気を消してすればいい。やり方を工夫すれば、何とかなる。それに、もうすぐ、お別れかも知れない。そう思うとちょっぴり、切ない。
もう日付が変わっていたが、トオルは起きていた。
ほぼ、四日ぶりだ。テスト期間を除けば、つき合い始めてから、電話もせず会いもせずにこれほど離れていたことはなかった。
玄関のドアを開けてくれたトオルは複雑な表情をしていた。サッカー中継を見ていたのだろう。部屋の中から歓声とアナウンサーの絶叫が聞こえていた。
「とにかく、入れよ」と、トオルは言った。
部屋の片隅に正座したレナをよそに、トオルはサッカーを観続けた。
怒っている。そうだよなあ。ふつう、怒るよ。
しかし、それよりも悲劇なのは、レナに、哀願してまでトオルの怒りを鎮める、許しを請う気持ちが、もう、ない事だった。ただ、悪いから、気の毒だから、控えている。悲劇とは、トオルに対する同情の気持ちしか持ち合わせていなかったことなのだ。
トオルの無言の叱責が続いた。でも、そろそろ、痺れもきれる。
「ごめんね。連絡もしないで」とレナは言った。
「・・・飯、食ったか」
そう言われれば、昼から何も食べていなかった。
「よけりゃあ、なんか作る。その間に、風呂、入って来いよ。お湯抜いちゃったから、シャワーだけだけど」
熱い湯を浴びながら、ちょっとだけ、泣けた。
「Tシャツ、借りるね」
風呂から上がると、座卓代わりのコタツ台の上に、湯気の上がる牛丼とポテトサラダ、それに味噌汁が並んでいた。
「なんか知らんけど、お前、疲れてるだろ。食ったら、寝ろ」
年下の男の子を十発ほど抜いてあげてただけです、なんて、口が裂けても言えない。
どこまで優しいんだろう、この人は。
たぶん、レナのまっとうな人間としての幸せは、このコタツ台の上に、ある。
だが自分は、それに満足できない。いつか刺激を求めて彼を裏切り、自ら不幸を招くだろう。だったら、最初からまともな人間としての幸せなど、無い方がいい。
あまりにも美味し過ぎ、ゆえに悲し過ぎる牛丼を、ヤケになって掻きこみ箸を置いて立ち上がった。
「そうだ。トオル。トオルに見せたいものあるんだよね。見たい?」
真っ暗な床の中で、レナは股間にトオルの巨根を受け入れていた。
「ああっ、いい。・・・おっきい、おっきいよ、トオル・・・ああっ」
驚きはされたが、疑いはもたれなかった。意外にも。
「・・・おお。・・・初めて見た。そうか。いよいよ砂浜ハイレグデビューか」
それが彼の感想だった。
そして、それで興奮したというよりは、半分癒しのように、レナを抱いてくれた。
一度目は、正常位で。シャワーなんか浴びさせるんじゃなかったとブツブツ文句を言いながら、丁寧なクンニリングスをしてくれた後に。残念ながら、ユーヤのそれよりゾクゾクしなかったし、サキさんの肉棒の刺激もなかった。でも、包まれる感じが、レナに安心をくれた。
二回目に続き、三回目も同じ体位でしようとしたトオルに、
「今度は、後ろからして」と言っていた。
あえてトオルを立たせ、正座してフェラチオした。
あたしの口を使って。道具みたいに使って。そう念じながら、舌を使い、口に含んだ。
トオルとのセックスに足りないもの。
それは、この、「使われてる感」だったのだ。先刻の二回目のペニスを受け入れてすぐに射精したゴムの始末をしていて、それに気付いた。
「ごめんな。しばらくぶりで、お前のが・・・気持ち良すぎてさ・・・」
トオルが申し訳なさそうにそう言った時、謝らないで! と思った。謝罪なんかよりも、バックで思い切り、犯して欲しかった。
「ん、ああっ!」
トオルがレナの尻を掴んで這入ってくると、レナは腕を後ろに伸ばした。
「腕、掴んで。思い切り引っ張って。ズンズン突き上げて」
「ああ、たまんね・・・。ぎゅうぎゅうに来るな。・・・レナ、お前、エロすぎだわ」
「ああっ。胸も、むちゃくちゃにして。壊れるぐらいに揉んで・・・。ああ」
「ああ、イクぞ。出すぞ」
「キスして、トオル! 今すぐっ」
胸を鷲掴みにされ、レナは大汗をかいて、痙攣した。最後に背面騎乗位で達し、トオルの手が乳首とクリトリスを同時に刺激して果てた。
そのまま眠ってしまったトオルの布団から抜け出し、スマートフォンを持ってトイレに籠った。今日一日の報告をLINEし、サキさんにお願いをするためだった。
すぐに既読がつき、無視もされなかった。でも、
(あのな。あれはスレイヴ見習いを育てるためのプレイだ。お前はもう正式なスレイヴになったんだから、いちいち毎日の報告なんかいらん)
なんか、冷たすぎませんか・・・。
(わかりました。LINEは用がある時だけにします。それと、お願いがあります。例のお手伝いの話、お受けしたいと思います)
(うん。でも、それはお前がお願いする筋じゃない。お手伝いをして、どうしたいんだ)
(家を出て、アパートに住みたいんです。でも、保証人が・・・)
(だったら、最初からそう言え。無駄に気を遣うな。しかも、そんな下らんことで連絡してくるな! スミレに手配してもらえ)
困ったな。怒らせてしまった・・・。
いつものように内容をすべて削除してからトイレを出てトオルの隣に戻った。
眠れない。
サキさんを怒らせてしまったせいで動揺しているのもある。でも、それ以上に、気になるのは・・・。
あれだけじゃ、満足できなくなってる、ってことだ。
眠れないのは、ムラムラしているせいだ。あの二十四時間の影響なのか。あれで脳内の何かのスイッチが入ってしまったのか。
まるで性欲の餓鬼だ。
中学校の修学旅行で行った、古都の博物館。そこで見た、ガラスのショーケースの中にあった、国宝の平安時代の絵巻が今だに焼き付いていた。
生前の行いによって餓鬼道という地獄に堕ちた亡者は、不潔な地で永遠に飢えと渇きに苦しむ。頻りに食べ物や水を欲しがるが、それらは全て炎となって餓鬼の喉を焼き、そこを通らない。腹ばかりふくれて終わらない飢餓にのたうち回り続ける・・・。
もう、始発が出る。
再びそっと布団を出て、制服を着た。トオルには手紙を書いた。
「トオル。いろいろ心配してくれて、ありがとう。トオルだけです。こんなあたしをここまで思ってくれるのは。
今回相談に乗ってくれた友達から連絡が来たので帰ります。それから、またしばらく遠出します。今度戻ったら、その時、ぜひトオルに見てもらいたいものがあります。また、連絡します。愛してます。レナ」
冷たすぎると思われるだろう。でもいずれ、残酷な目に会わせねばならないのだ。これぐらいがちょうどいい。
ガラガラの電車に揺られ、餓鬼になった自分を妄想しながらホテルに戻った。冷蔵庫のビールを一気飲みし、ベッドに潜り込み、その夜は、というか朝は、ふて寝した。
翌朝、といっても昼近くになって、ユーヤのLINEとホテルの電話で起こされた。
(先輩のせいㇲすよ。どうしてくれるんㇲか)
どうせ、ヘロヘロになって試合で役に立たなかったとかいう話だろう。
(絶対許さないㇲからね)
ああ、そうですか。
そう思いながら、鳴り続けるベッド脇の電話を取った。
「いつまで寝てるの! 早く服着て降りて来なさい。制服で来ないでね」
相手は名前も名乗らず、一方的にそう言って、切れた。名乗らなくても、その言葉で、電話の相手が誰か、わかってしまった。
「あなたがレナ? ふーん。一番ジミなの選んだんだね」
ブルーのノースリーブのワンピースに光沢のある白いショートジャケットを合わせた。それが、ジミ、とは。
長い黒髪を無造作に後で束ね、濃いサングラスをかけたスミレさんは、腕組みをしてエントランスフロアの太い柱にもたれていた。
トップスはグレーのサテンのノースリーブに大きな緑色の石のペンダント。ブラックなタイトジーンズに黒革の華奢なサンダル。それがスレンダーな彼女に似合っていた。
スミレさんは顎をプイとゲートの方に向け、ついてこいとでも言うようにさっさと歩きだした。彼女の後を付いて歩き出し、ふと、小さな違和感が疑問に変わった。
この人、なぜ本名を知っているの。
なぜ、一番ジミとわかるの。
エントランスを出てベルボーイに会釈し、玄関前すぐに横付けされている真っ赤なぶっといタイヤを履いたオープンのスポーツカーの運転席に納まる彼女を見て、
ああ。秘書というのはそういうことも仕事になるんだ。と、悟った。ボンネットの先っちょに跳ね馬のエンブレムを見ながら、助手席に回った。
「早く乗って」
レナはその低いシートに、座る、というよりも、寝そべった。
車はゆるやかに短いスロープを降り、公道に出るや、バカでかい排気音を吐き出してレナをシートに押し付け、殺人的なスピードで飛び出した。
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