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エピローグ コマリはブドウ園の真ん中で幸せに浸った。そして、ほんのり頬を染めた。全裸で。

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 収穫されたブドウが醸され、搾られ、オークの樽に仕込まれ、眠りにつく。山が雪を被り、樽は深々と降る雪の下でただ静かに眠り続ける。

 そしてまた春が来て、また夏が来た。

 新しいブドウが収穫され、醸され、秋が来て、樽に仕込まれ、昨年眠りについた樽のある隣の蔵に収められ、その樽もまた、深い眠りについた。

 そのようにして七年の月日眠り続けた逸品の、円熟したボディーと素晴らしい爽やかな酸味を思うさま堪能した女は、頬も唇も、その極上のワインの余韻を残してか、ほんのりと紅かった。

「いい式だったねえ・・・。ルナちゃん、めっちゃキレイだったあ・・・」

 女の美しく結い上げた髪のほつれ毛が、夏の残照でまだ生暖かい風に吹かれてそよいでいた。

「ああ・・・。あんなにトントン拍子にコトが運ぶなんてなあ。あんだけ手こずらせておいてさ、なんか拍子抜けしちゃったよな」

「コージさん、めっちゃアガりまくってたね。いい人オーラ、全開だったあ・・・」

「亭主より、よかった?」

「うふふっ。ヤキモチ妬いてんのぉ・・・」

 地方都市の市街を走る一台の軽トラック。

 が、運転席の大洋くんも助手席の小鞠もバリバリの正装。それが妙に、目立っていた。荷台には二人分のお引きものの包みが乗っていて、軽トラの揺れに合わせてバンプしまくっていた。家に帰りつくころには中のお料理がぐちゃぐちゃになってしまっているかもしれないが、この二人は元からそんなささいなことはあまり気にしない質だった。

「でもめっちゃ、健気じゃん。あたしたちの時よりもゴーカにならないようにって、スッゴイ、気ィ遣ってたもんね」

「ホントな。そんなの気にしなくていいよって、やりたいようにやればって、言ったのになあ・・・」

 大洋くんはシルバーのネクタイを緩めると、まだ真新しいリングを嵌めた左手を小鞠のぴちぴちの太股の上に置いた。黒のシースルーのサテン地フレアスカート。その下に超ミニな黒のアンダーを履いていた。33でコレはないかなと思ったのに、大洋くんが「それがいい」とかいうもんだから・・・。

 彼の手がすべすべの太股の内側に潜り込もうとする。その手を、お揃いの真新しいリングを嵌めた小鞠の手が抑えた。

「ちょ、やあだあんっ! 事故るよっ」

「いいじゃん。もよおしちゃったんだもん。亭主ガマンしてんのにあんなグビグビ飲みやがったバツだ。しかも親族なのに。・・・あ、やっぱり湿ってるう。無理すんなよ、コ・マ・リ・ちゃん。シタいんじゃないのォ?」

「ああん、ダメだって、ん・・・ばあああんっ!・・・ちょっ、」

 高いビルがなくなり、商店や民家の並ぶ幹線道路の先に住宅展示場が見えてきた。

「あ、あそこの左から二軒目。この間建て替えたばっかだよ。行ってみようよ」

「あそこ半月前に行ったばっかじゃん! しかも、バレちゃったし。あの時の係の人に見られたらどおすんのっ! もうウワサも回ってるかもよ。しかもこんな、礼服で。メッチャ目立っちゃうじゃん!」

「ハウスメーカー変えれば大丈夫だって。・・・シタいんだろ? コマリ。素直になれよ」

「ん、もうっ!・・・」

 そう言いながら、図星を指され、小鞠は身悶えた。

「いいから。ダンナに任せなって。ハイ、これ」

 夫から手渡されたそれは白くてつるつるした小さなタマゴ型の物体だった。

「ちょ、も、やあだあん! 妹の結婚式にこんなの持ってきたのォ・・・」

 それを手に取り、小鞠は拒否の言葉とは裏腹にボディーを捩じってスイッチを入れた。掌の中で、それはぷるぷる、びりびりと震えた。

「ホントは式の間ヤリたかったんだけど、ガマンしたんだぜ。さすがに神様の前で誓い合ってるときに新婦の兄夫婦がそんなイケナイことしてちゃマズいだろって思ってさ。いいだろ? 」

「いいだろって・・・、も、やあだあんん・・・。えっちなんだからああん!」

 そう言いつつ、小鞠はその白いタマゴを自ら股間に差し入れ、下着の中に埋め込んだ。もう、あのひらがな四文字の量販店で3枚セット450円の木綿のぱんつではなかった。一着三千円の、クロッチ部分以外はサテンで透けてる、めっちゃエロイ黒のショーツ。夫の指に気付かれたように、その下で早くも濡れ始めているそこの、これから起こることへの期待でむくむく疼き始めているおまめさんに当てた。結婚してからストッキングは太股の付け根までのやつしか履いていない。だからクロッチさえズラせばいつでもどこでもおイタできる。

「あんっ・・・。仕込んだよ。・・・んん」

「いい子いい子。やっぱりコマリは、可愛いなあ・・・」

 そう言って年下の夫、大洋くんは小鞠の手を取り、その指を舐めた。


 

 あれからいろいろあった。ありすぎてんこ盛りた。


 

 大洋くんに誘拐されるようにして一時彼の実家に避難した。一週間ほど避難生活を送り、ついでに彼の実家のお手伝いもした。ほとぼりが冷めたころに部屋に舞い戻り、彼はクリニックに退職届を。小鞠は編集部に行ってアハンな仕事から足を洗う旨、編集長に頭を下げた。

「そうか・・・。もう、あのセミのモノマネ、見れなくなるのか。寂しいな・・・」

 そっちかよ! 

 と言いたくなったが、言える立場でもないのでさらに深く頭を下げた。すると背後からあの年増の佳代、もとい、豊島佳代が近づいてきたのが気配でわかった。クソ臭い香水の匂いがプンプンしたからだ。その絶妙なタイミングで、編集長は余計な一言を口走った。

「で、式はいつなんだ?」

 あ、編集長。いま、それはダメ。言っちゃダメ! そうじゃないと・・・。

 恐る恐る振り向いた背後の女の顔は、やっぱり般若を通り越して、悪鬼になっていた。

「・・・あんたは、・・・あんたは。・・・こんのクッソ、ヒキコモリがあああああっ! 

 あたし差し置いてなに抜け駆けして幸せになろうとしやがるんだこのクソがああああっ!」

 佳代の部下のフケだらけのハゲマン、もとい、陰間が佳代を羽交い絞めにして止めてくれなかったら、小鞠は確実に絞め殺されていた。

 ハゲマン、ありがとう。二次元センズリもほどほどにな。

 そんな面々も結婚式には来てくれた。

 佳代も、「お幸せにな、このクソがっ!」とかいって食えないクリームパイでも投げつけられるかと思いきや、急に抱き着いてきて泣かれたので、ちと、困った。

「ああ~ん、コモリ、めっちゃキレイ~ん。寂しいよおおおん。あだぢもしわわせになりたいよ~ん。ああああああ~ん!」

「今にイイヒト現れるって。いろいろありがとね。ちなみにコモリじゃなくてコマリな。しわわせじゃなくて、あんたもシワ寄せてくる前にしあわせになるんだよ。知ってた?」

「ええっ、なに?」

 化粧が崩れて妖怪マスカラババアと化している佳代にいい加減困ってしまったので、マスカラババアの耳元に囁いてやった。

「あのさ、佳代。ハゲマン、お前のことずっと見てるよ、今も。てか、もう、ずっと前から・・・」

「ええっ!」

 両家顔合わせの時もそうだったが、それから慌ただしく挙げた式でも、母はやっぱり泣きどおしで、これにも困った。

「ごめんね、コマリ。ホントにごめんね・・・。うううっ・・・」

 そんなに母に謝られたのは、ずいぶん久しぶりのような気がした。大洋くんが礼服の母の背中をずっと抱いて撫でてくれていたのが有難くて、有難くて。鼻水が出てきそうでこれにも困ったけれど。

 式の後、ベロベロに酔っぱらった佳代を優しく抱きかかえてタクシーに乗り込むハゲマンに声をかけてやった。

「ハゲマン。彼女、大事にしてやってね、そんな女だけど、一応、友達だからさ」

「はい。コモリさんも、素敵なダンナさんとお幸せに」

「だから、コモリじゃねえっての!」

 お引きものはもちろん、ゼンダブドウ園が生産し厳選したピノ・ノワールで醸した7年物、それに昨年のいっちゃん出来の良かったソービニヨン・ブランの、そして始めてまだ三年だがコンクールで逸品と折り紙のついた貴腐ワインの三点セットを、重たいから全ての出席者にクールな宅配便したげた。


 

 大洋くんの言葉通り、ブドウ園の仕事はハンパなく、朝から晩まで忙しかった。でも、全然苦にはならなかった。

 だって、優しいお義父さんお義母さん。それに農繁期のバイトさんたちもみんないいひとたちばかりだから。

「今年のブドウもおかげさんで出来が良かったが、モモもいい感じに熟れたなあ、なあ、タイヨウ」

 お義父さんは相変わらず台所に立つ裸エプロンのお義母さんと小鞠の後姿を酒の肴にしていい気分になって、やはりムスコをおったててる息子といっしょに、自分もムスコさんをおっきさせて喜んでる。

「もう、やあねえお父さんたら。ねえ、コマリちゃん」

 お義母さんも、まんざらでもない顔をしてる。

「あ、はあ・・・。まあ・・・」

 その度に、真っ赤になるのだが、これだけはまだ、慣れない。でもただそれだけで幸せを感じてくれるなら、モモケツのひとつやふたつは安いもんだと思う。

 そして幸せと喜びがもう一つ増えた。

 ルナちゃんがやっと彼と結ばれ、あれよあれよと話が進み、電撃的ともいえるスピードでゴールインしたのが、今日、さっきなのだった。

 さすがにご両家顔合わせの時はスーツだったが、ルナちゃんがダンナさんになるパティシエのコージさんを全田家に連れて来た時は全員全裸でワインでカンパイ、記念写真を撮った。

 あの時もそうだったが、今日の結婚式のコージさんも、真っ赤だったなあ・・・。


 

 軽トラは住宅展示場の駐車場に滑り込んだ。

 目当ての新築モデルルームの受付では、さすがに他人の目を惹いた。

「ご夫婦で、結婚式の帰りですか?」

 モデルルームの玄関の前に張られた天幕に机を出していたハウスメーカーの女性が、カラフルな風船をバックに微笑んだ。もらった風船の紐を持った小さい子供連れの一組の家族が玄関の構えを見上げていた。

「いやあ、そうなんです。友達のの帰りで。コイツが寄ってみようってウルサイもんですから・・・」

 よく言うわ・・・。

 小鞠はずっと俯いたままだった。車の中までは良かったが、降りて歩き始め、他人の中に入ると、何故か急に股間の疼きが意識され始めた。

「ああ、わかりますう。わたしたちも早くマイホームを、って感じになっちゃったんですねっ!」

「いや、そうなんですよー。おねえさんよくわかってらっしゃる・・・」

 前に訪れたモデルハウスのように、係の人が付きっ切りでないのが良かった。

 先に入った子供連れの家族が二階に上がっていったのを見計らい、広いリビングの奥にある小さな書斎のような、ライティングデスクのある小部屋に入った。

 大洋君はドアを閉めると小鞠のスカートのお尻をまさぐり、後ろから股間に手を伸ばして、ローターを仕込んだ部分をぐりぐりしてきた。

「ああん、ダメええんんん!」

「声出すなって。前みたいにバレちゃうだろっ!」

「だあってええんん・・・。んんんっ、あはあんっ!」

 あそこだけじゃなくて服の上からちくびもコリコリされると、たまらずに小鞠は軽く、イッた。

「・・・・・・・・・っ。・・・うふんっ!」

 急にドアが開いて、心臓が口から飛び出すかと思った。

「おい、これ、いい机だなあ。こんなのぼくの部屋にも、置きたいなあ・・・」

 ワザとらしい大洋君のヘタな演技でごまかせたとも思えない。あの受付のおねえさんの、胡散臭げな視線を後にして、早々に退散したのは言うまでもなかった。

 あの「サダコ事件」以来。

 野外とかトイレとか、こんな住宅展示場のモデルルームで、人目に付くかもしれないというスリルを味わうプレイに病みつきになってしまった。どうしてくれるんだ、と思う。

 が、こればかりはやめられない。


 

 あの後、サダコの家にもお年賀でワインと共に結婚式の写真を送った。しばらくすると、ダンナさんからお礼のお手紙と結構なお返しをいただいた。

 手紙には、おかげさまでサダコが子供を授かりました、とあった。いろいろご迷惑おかけしましたが、やっと本物の夫婦に、家族を作れそうです、とも。サダコも大洋君のウェディングフォトを見て思うところがあったのだろう。どうか優しいダンナ様と可愛いお子様と幾久しくお幸せに暮らしやがれと祈らずにはいられなかった。

 二人で安堵に胸を撫で下ろしてもう、半年になる。


 

「でも、そろそろこういうの、やめないとな」

 涼し気にハンドルを握る夫を恨めし気に見やる。あのね、あんたがそれを言うわけ? と。

 だが、夫の言う通りなのだ。

 サダコのダンナさんからの手紙が来てしばらくしたある日、小鞠もまた、子宝を授かったのを知ったのだった。

「生まれてくる子がさ、お父ちゃんとお母ちゃんが公然ワイセツで捕まったヘンタイって知ったら、傷つくだろ。ん?」

 たしかに。酔って電信柱にしがみつき、セミのモノマネをする母親よりもそっちのほうがマズい気がする。

 そうだな。そろそろ、落ち着くか。ね? ベイビーちゃん。

 そして、多くの優しい人たちに囲まれた中、一番優しいのはやっぱりこの愛する夫、大洋くんだ。

 家に帰りつくと、先に帰ったお義父さんお義母さんはすでに作業着に着替えて畑やハウスに出ていた。

「コマリ。先風呂入って来いよ。ぼくはちょっとこれ目を通してからにする」

 彼はいつもこんな風に小鞠を気遣ってくれる。

 夫はここのところ設計事務所から来た図面のチェックに余念がない。あの「ワインアンドリゾートスパ」の青写真が、やっと出来てきたのだ。

 建物と施設の設計を固め、概算額をはじき出し、経営計画と年間売り上げ予測を立て、借入金額とその返済計画を立て、銀行に交渉に行く。その第一歩が、始まっていた。


 

 農園は忙しい。いつも何かと忙しい。

 といっても、寸暇もないほど四六時中てんてこまいというほどでもない。

 長期でどこかへ旅行するのはさすがにムリになっちゃったけど、昼間のちょっとした空き時間や夕方のちょっとしたひと時。小鞠は夫と連れ立っていろんなところへ行く。雰囲気の良いバー。ラブホ。ショッピング。映画。ボウリング。今日のような住宅展示場のような割に他人がいるとこ。そしてまた、ラブホ。

 サーフィンだって週一回は必ず行く。真夜中に軽トラックに板を載せて富士山の脇を南下し日の出前に浜に着いて波に乗る。そこは日本有数のライドスポットで、時折はチューブの中をくぐれたりすることもある。冬でも、防寒用のウェットで波に乗る。

 ライディングの腕が上がるほどに、小鞠の体形にもさらに磨きがかかった。ボインやプリンはそのままに、畑仕事とも相まって、太股やおなかの肉がさらにたちまちにこそげ落ちて行った。

 波乗り疲れて浜でウェットをはだけて休んでいると、他のライダーたちからの視線を浴びて困ってしまうことも増えた。

「なあ、みんなコマリを見てくよ」

 夫は、視線を浴びてますますキレイになってゆく妻がうれしいみたいだ。

 で、帰り道に気の利いたところに車を止め、やっぱり野外のセックスを愉しんでくる。ズコズコ。

 なんだ。全然苦労じゃないじゃんか。

 つまるところ、小鞠の日常はそんなふうなのだ。

 あの大きなお風呂に入り、汗を流し、しばしお湯に浸かり、のぼせそうになって湯船の中に立ったまま、窓の外の景色を楽しむ。

 広い庭の向こうには、今お義母さんが行っているハウスがある。今年ひと棟増やし、来年はもう二棟増やす。観光客を呼び込んでシャインマスカットと巨峰のブドウ狩り園を拡充するのだ。その向こうにはお義父さんが行っているワイン用の畑が広がる。

 夫の計画はこれらの畑を生かしつつ、さらにその外側に施設を作る、結構な壮大なものなのだ。

 小鞠はその風景を眺めながら、長湯で上気した肌を冷やしていた。

「ん!?」

 小鞠の下半身に異変が起きた。

 いつの間にか湯殿に忍び込んでいた夫が、小鞠の下半身にイタズラをしていた。

「ちょ、ちょっとっ!」

「いいからいいから。ああ、コマリのここ、美味しいなあ・・・」

 ぴちゃぴちゃ。

 くちゅくちゅ。

 ヘンな水音が鳴るほどに、せっかく冷ました肌が再び上気し、さっきモデルルームで中断されたエロい感覚が再び頭をもたげてくる。

「あ、ん、いやあっ・・・。あ、はあんんん」

「おい。だから、声出すなって」

「だあって、あ、やあん・・・あ、はん」

 おまめさんを舐められながら指を入れられぐりぐりされると、膝ががくがくしてくる。

「あ、コマリちゃん」

 急にお義母さんが庭に現れた。なんて心臓に悪い日なんだろう。

「タイヨウ知らない?」

「え、母屋じゃないんですか、・・・んん」

 この、おバカ! ちっともクンニ止めてくれないんだもん!

「それがね、いないのよ。建築事務所のセンセが来てるのよ。困ったわね」

 小鞠も困っていた。だが、ハマってもいた。

「とりあえずセンセご案内しとくから。見かけたら伝えておいてね。あ、それから、」

「はい?」

「お風呂からあがったら温かくするのよ。特にお腹と腰。冷やすのよくないからね。ハラ巻き、ちゃんとするのよ」

 そう言ってこまめに気を遣って下さるお義母さん。ごめんなさい。あなたの息子さんは今、あたしのあそこをナメるのに忙しそうなんです。

「はあ、・・・い・・・。んんっ」

 いい加減にしてよもおっ!

 口ではそういうものの、逆に大洋くんの頭を抑えて股間を擦りつけてしまう。

 なんて、気持ちいい、人生・・・。

 小鞠は無言で、絶頂した。


 

 夕ご飯はいつものようにみんな全裸で、小鞠だけは腹から尻まで隠れる腹巻して、ルナちゃんご夫婦の新婚旅行第一日目のご感想を聞くべく、パソコンのスカイプを肴に盛り上がった。もちろん、画面の向こうの新婚さんも、二人とも全裸。幸せそうなルナちゃん。画質は荒かったけどお肌がピチピチのキラキラだ。やっぱキレイだなあ・・・。

「じゃ、そろそろ終わるね」

 バイバイするルナちゃん。

「お義父さん、お義母さん、御兄さん姉さん。こんなボクですがルナをしっかり守って幸せにしますのでっ!」キリッ!

「そのセリフもう何十回も聞いたよお。せっかくのハネムーンだ。あとはお二人でごゆっくり」

「そうよお。もう切るわね」

「あ、御兄さん、帰ったら計画の話、聞かせてくださいね」

「おう。とりま、ゆっくり楽しんでな」

 じゃ、母さんオレもう寝るから。タイヨウ、コマリちゃん、おやすみ。

 コマリちゃん、夜更かしは毒よ。早めに寝るのよ。

 そう言ってお二人は寝室に下がった。

「じゃ、ぼくらも寝るか」

「え、でも、・・・いいの?」

 小鞠は愛する夫、大洋くんの股間に目を落とした。彼は今日、まだ一回も射精してない。

「ガマン、できるの?」

 夫のその大きなムスコさんに触れ、握った。それは小鞠の掌の中でムクムクと大きくなって「イカリくん」になっていた。


 

 寝静まりを見計らい、二人で手を取り合ってハウスに向かった。

 夜になると外は冷える。だがハウスの中はビミョーに暖かかった。

 一角に木々の根元を養生するための干し藁が積んである。その貯蔵室、といっても柵で囲ってベニヤ板を張ってあるだけのスペースだが、藁のうえに持ってきたシーツを敷きジャージを脱いでふわんと身を委ねた。ふわふわのベッド。枯れた藁の香りがとてもいい。

「おまたせ。食べていいよ、ダンナさま♡」

 小鞠は愛しい夫の顔を見上げた。

「じゃ、遠慮なく。いただきまーす」

 あろ、えろ、れろ、るろ。ちゅっぱちゅっぱ・・・。

「ああん、そんなにがっつかないでええんん・・・」

「食べていいよって言われたら、食べるでしょ、フツー」

「ん、もう。落ち着いて、ゆっくり召し上がれ」

「・・・幸せか、コマリ」

 夫は言った。

「もちろん」

 小鞠は答えた。

「タイヨウくんの奥さんでよかった。今日は特に、そう思った」

「ぼくもだよ。てか、いつも思ってるよ。ぼくの奥さんになってくれて、ありがと、コマリ」

 前戯なんかいらなかった。モデルルームで、お風呂で。もう何度もイッて少し充血してるぐらいだった。そして今も、優しいキスだけでもう、十分に潤っている。

 その待ちに待った大きなムスコさんが這入ってくると、それだけで軽くイッた。

「もうイッちゃったの?」

「だあってェ・・・」


 

 喪女で腐女子。32年間彼氏なしで鬱してた女は、33年目、全裸のイケメンと同じ道を歩んでいた。その新しい道を歩いてみれば、かつてモテるモテないで悩んでいたことがウソみたいに思える。したことと言えば盗撮して、デカチンを受け入れて、サーフィンして、全裸になったことぐらい。過ぎてみれば、どれもこれも取るに足りないことだったように思える。

 そして今、膨らみ始めたお腹の中にはこの幸せに導いてくれた愛しい夫の分身が、本物のムスコだかムスメだかが宿っている。

「あんまハゲしくしちゃダメだよ。ゆっくり、スローでね」

「そうだな。そろそろエッチも控えないとな。だから今夜は存分にコマリを味わって、堪能したいんだ。いいだろ?」

「も、やああん・・・。タイヨウくんの、エッチィん、ああん、そこダメェンんんん・・・」

 夫のリズミカルな動きを感じているうちに小鞠も余裕がなくなった。スローだけど確実に小鞠は昂まっていった。そして最後にほんわかしたイメージに包まれた。

 来年の春、若い房を付け始めたブドウの木の下で、生まれた子を抱いて家族みんながニコニコ笑っている。全裸で。そんなイメージが次第に白い霧に包まれ、小鞠は大きく絶頂して、果てた。


 

 あれ?

「コマリちゃん! あんたまたこんなとこで寝て。ん、もう! 気を付けなきゃダメよって言ったじゃないの。タイヨウも、身重の奥さんほっぽりだしてナニ考えてんのかしらねえ、まったく・・・」

 野鳥のさえずりがうるさいほどだった。気が付くと、朝になっていた。ハウスのビニールを透かして差し込んだ朝日が眩しすぎるう・・・。

 あったかい干し藁に包まれて、小鞠は目覚めた。寝ぼけ眼を擦ってみれば、作業着姿に長靴のお義母さんがすでにセカセカ立ち働いているではないか。


 

「ああ・・・。また、やっちまった・・・」


 

 小鞠は一人、深い溜息とともに呟いた。

 全裸で。


 


 


 


 


 

                    了
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