加奈子の受難 堕ちてゆく人妻がなぜかすべてを手に入れ全部丸く納まっちゃうまで

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05 真実

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 達彦の強姦未遂のせいで妙にドキドキして目が冴えてしまった。

 娘の部屋を見に行く途中で達彦の部屋の前で佇んだ。


 

 夫とは共通の友達の紹介で知り合った。

 見合い以上恋愛未満でデキた夫婦かもしれないが、最初は思いやりも愛もあった。それがどこでどう間違ってここまで拗れてしまったのだろうか。加奈子には少しも夫をクサする気持ちなどないのに・・・。

 たぶん彼は会社でのこれから地位のことで葛藤があるのだと思う。何年も一緒に居るのだから、それぐらいは言われなくともわかる。思えば里香が生まれてからかも知れない。夫の会社の合併に伴って、社内の機構の変革があったのは加奈子も知っていた。それに、社内の立ち位置で苦しんでいるのなら、なまじプライドが高いだけに余計に言い辛いだろう、と。

 どんなことをしてもいいし、何をしてもいいじゃないかと思う。いっそのこと一度会社をリタイアして彼の好きな勉強をし直して新しい道を探したっていい。そのためなら、その間自分が養ってあげてもいいと思っている。

 一度ちゃんと話をするべきだ。今、穏やかに眠る娘が大きくなるまで、夫婦二人で助け合わなくては・・・。

 娘の熟睡を確認してベッドに戻った。

 それでもまだ、頭が覚醒したままだった。

 ふと、疼きを感じる。

 不幸なことに、それは夫の不埒のせいではなかった。きっかけとしてはそうかもしれないが、夕方の、あのひどい雨の中の出来事のせいだ。

 加奈子はそっと胸に指を這わせた。

 結婚当初はちゃんと営みもあった。むしろ多すぎたくらいだ。誘うのはもっぱら加奈子で夫からのよりも頻繁だった。出産すると女から拒むことが多いと聞くけれど、加奈子は里香を産んでもあまり変わらなかった。出産後の数十日が過ぎると早くも夫を求めた。

 ところが、最初はおもしろがっていた達彦も次第に煩くなったのか、

「女から求めるなんて。いつの間にそんな色情狂みたいな女になったんだ。はしたなすぎると思わないのか!」

 その一言があってから、加奈子は一切自分から求めなくなった。口にしたことはないが、加奈子の欲は達彦のそれよりも大きいのではないかと思う。

 夫が最後まで加奈子を愛し切らなくなることが増えた。そのころから彼の願いで寝室を分けた。それからも幾たびかは交わりもあった。正確には、交わろうとした。でもなかなか最後までは愛し切ってくれず、たまに彼が愛し切ったときも、加奈子はひとり取り残された。

 そんな夜は幾たびもあり、その都度自分で慰めていた。

 自分で慰めるとき、加奈子は夫のことは思わない。

 そんな時は、夫も知らない、加奈子の古い疵を思い浮かべた。


 

 そのイメージの中で、加奈子は抑えつけられていた。一人や二人ではない、数人がかりで。むしられた青い水着が泥にまみれ、その向こうに、顔のない加奈子の友達と思しき女の子がやはり伏せに抑えつけられて、悶えていた。

 すると誰かが加奈子の両足を抱えて広げ、股間を弄り、舐めまわす。恐怖と羞恥に固まる加奈子に下卑た笑いを投げかける顔のない男たち。そんな情況で次第に昂じ、感じてくる自分。

 そのうちの一人が、股間の分身を曝け出して加奈子に迫り、犯す。恐怖と苦痛に顔を歪めると次々に口や胸を弄び分身を突っ込まれて凌辱の限りを尽くされる。

 そのうちに隣で尻を犯されていた女の子も次第に悦びの声を上げ始め、それに呼応するように加奈子の身体は弾け、異様なシチュエーションに萌え、溺れて行く。

 入れ替わり立ち代わり加奈子を犯す男たちの吐き出した精が身体を穢す。その夥しい穢れの中で加奈子も何度も絶頂し、そしてついに・・・。


 

 見上げるといつもの暗い天井がある。

 声だけはきつく忍んで、加奈子は深く絶頂した。

 これだけは、この忌まわしい記憶だけは絶対に誰にも言えない。

 不完全かもしれないが、このささやかな幸せを守るために、少しでもそれを壊そうとする要因は全て取り除かねば・・・。

 加奈子はパジャマを戻し、乱れた髪を整え、ようやく訪れた睡魔に身をゆだねた。


 

 朝食はいつもきっちり摂る。そうしないと身体が持たないからだ。

 達彦は目の前に配膳された椀に目もくれず、新聞に逃げている。

「今日午後に、ちょっと遠い所に行く用事があるの。ひょっとすると間に合わなくなるかもしれないから里香のお迎えお願いできる? お夕飯には間に合うと思うけど、念のために昨日のシチューの残りでチーズグラタン作っておいたから、遅くなったらチンしてバゲットで食べさせてて。いい? 覚えられる? それからお風呂も洗ってね。洗濯物もできたら取り込んでおいてね」

 里香にご飯を勧めながら言って聞かせた。今日こそはしっかりやってもらわねば困る。

 達彦が途中で断念した翌朝は何故か強気になれた。彼が低姿勢になるからかもしれない。それにゆうべは無理やりだった。酒の勢いを借りて無理を通そうとしたことが「後ろめたい」のかもしれない。

 その朝の加奈子の強気はいつも以上に効いた。

 遠い所への訪問はもちろん、ウソだ。アポなしで乗り込むために時間の余裕が必要だった。もしかすると不在かもしれないが、不在なら待ち伏せしてでも捕まえて問い詰める。

 加奈子は不退転の決意で臨んでいた。早めに起き、洗濯の終わった衣類を干して万全の準備を整えていた。今日も朝から暑かったがパンツスーツでキメた。

 朝出社すると上司に午前の予定が終わってからの私用での早退を届け出た。たまたま午後は何も予定がなかったからそれはすぐに通った。

 そして、寸分の隙も見せない態度で、あの忌まわしい街へ乗り込んだ。

 彼の、渋谷の言葉通り、彼の事務所は先日の訪問先とは駅を挟んで反対側になる。場所はすぐわかった。

 エレベーターで六階に上がり「株式会社スピリット・オブ・ワンダー」のネームの入ったドアをノックした。応答を待たずドアを開けた。カウンターの向こうに数人ほどの男女がデスクに向かっている。手前の女性にあらためて挨拶し来意を告げた。

「内田と申します。社長の渋谷さんにお目にかかりたいのですが」

「お約束ですか」

「約束はしておりませんが、昨日お世話になった者とお伝えいただければお判りになると思います」

「渋谷はあいにく外出しております。お待ちいただいてもすぐに戻るかどうか・・・」

 応対してくれた女性は四十代後半ほどの落ち着いた賢そうなひとだった。加奈子の素性を推し量ろうとしているのがよくわかる。もしかするとこのようなケースは前にも何度もあったのかもしれない。そんな推測も出来るような風を彼女は見せていた。

「では、出直します。昨日の女が訪ねてきたとだけお伝えください」

 余計なことは言わない。そのまま事務所を出た。

 ビルを出て駅の方に少し戻ると先ほど通り過ぎたファストフードの店がある。そこでしばらく時間を潰そうと歩き出したとき、車道に昨日のシルバーの車が止まった。助手席の窓がスルスルと降りる。

「やあ。またお会いできると思っていましたよ。乗ってください」

 昨日と全く同じいで立ちで運転席の渋谷が言った。

「昨日はどうも。あの写真を消していただきたくてお願いに来たんです」

「こんな暑い所で立ち話もなんです。涼しい所で落ち着いてお話しませんか」

 また昨日のように騙されるのではと当然のように警戒した。彼の会社で社員たちの前で問い詰めるはずが妙なことになった。考えてみれば彼の言う通り、スマートフォンの画像を消すという作業を確認するにはここはいささか人目がありすぎ、すなわち、場が悪すぎるかもしれない。

「警戒しておられますね。無理もありません。あのレストランが見えますか。行く先はそこです。お茶でも飲みながら落ち着いてお話ししようじゃありませんか」

 加奈子は今度は助手席に乗った。膝の上に、持ってきた菓子折りの手提げ袋を置いた。中に封筒に入った一万円札が入れてある。

 渋谷が何も言わなかったので、そのレストランの駐車場に着くまで加奈子も無言を貫いた。彼は憎たらしいほど涼し気にハンドルをさばいている。

「さあ、着きました。どうぞ、おいでください」

 そこはレンガ造りの瀟洒なドイツ料理のレストランだった。壁にはアイビーが這い、入り口にレプリカなのだろうがジャガイモを山盛りにした木桶がディスプレイしてある。

 同じ食事をするにしてもやはりファミレスよりはこうした個人の経営するレストランの方がいい。加奈子好みの雰囲気の店に思わず頬が緩みそうになるが、いまはそういう時と場ではない。あらためて気を引き締め彼に続いて店に入った。

 清潔な臙脂色のテーブルクロスに麻のマットが敷かれているのはランチタイムが終わったからだろう。三分ほどの入りの店内は丸太小屋の内部を模して南ドイツの田舎風に飾られていた。

 彼に勧められて席に着く。持ってきた菓子折りをテーブルに置いた。

「粗末なものですが」

 と言い添えた。

「先に注文してしまいましょう」

「じゃあ、アイスコーヒーで」

「わかりました」

 店員たちはどうやら賄い飯の最中なのだろう。ここのマスターと思しき男が直接注文を取りに来た。彼が去ると加奈子は紙袋を押し出した。

「せっかくですからいだだきましょう。お煎餅ですね。事務所の女性陣が喜びます」

「中にお金も入っています」

「そうですか・・・」

 彼は袋の中身を改め、封筒だけは返して寄越した。

「申し上げた通り、あれはあなたに進呈したものです。お金は結構です」

「それでは困ります。それに、あの写真も。消してください。今すぐ。ここで」

「いいですよ」

 彼がスマートフォンを操作していると注文したアイスコーヒーが運ばれてきた。渋谷はワザとなのか、マスターに画面を見られるかも知れないというのに彼に見えるように画面をテーブルの上に置くような風で操作している。それも、ゆっくりと。

 気が気ではなかった。

「渋谷さん!」

「どうしました」

 渋谷は加奈子の焦りなど素知らぬ風で涼しげに首をかしげている。

 なんて憎たらしい・・・。

 マスターは怪訝な顔をして立ち去った。

 眩暈がしそうだった。

「はい。出ましたよ、ほら」

 ホラじゃないだろう、と思いながら手渡されたスマートフォンを見た。自らのあられもない姿がハッキリと映っていた。

「ご自由に。消すなりしてください」

 加奈子のものとは機種は違うが大体は同じだ。それを消去して、さらにごみ箱のものも消して彼に戻した。

「安心しましたか」

 加奈子はそれには答えず、アイスコーヒーのストローを破ってグラスに差した。

「コピーされていなければいいですがねえ・・・」

 なんてこと! 

 何気ない彼の一言に血の気が引いた。唖然として二の句が継げず、ワナワナと唇が歪みそうになる。

 しかし、考えてみれば当たり前だ。スマートフォンの中のデータを消すならば昨日その場で消さなければ意味がなかった。それに完全にデータを消去するならもう一度全てのOSを入れなおすつもりで、さらに言うなら物理的に端末を壊してしまわねば完璧とは言えない。しかもコピーするなら何にでもできる。メールやラインで自宅や会社のパソコンに送ってしまうぐらいはしていてもおかしくない。コンピュータシステムの会社に勤めていながら、そんな初歩的な事実に今頃気付くなんて・・・。

「全部消してください!」

 加奈子は拳を握り締めて焦れた。その要求の虚しさを全身で感じながら。

「ご心配なら、私の家や会社のパソコンや机、何から何まで全部ひっくり返して調べて下さって結構ですよ。遠慮は無用です。お気の済むまで徹底的に探してください。自宅の住所もお教えしましょう」

 全身から、力が抜けた。加奈子は顔を覆った。

「あなたは、何がしたいんですか。わたしをどうしたいんですか・・・」

 渋谷はアイスコーヒーのグラスを取り上げ一口飲んで、こう言った。

「まだわかりませんか。昨日も申し上げたでしょう。私はあなたに口実を差し上げているだけなんですよ」

「仰る意味が解りません。何を言いたいんですかっ」

「あなたは欲してらっしゃるでしょう」

 初めてまともに彼の眼を見た。小動物がふいに出会った捕食者の前でその鋭い目で射すくめられて硬直してしまうように。加奈子はまるで呪文にでも掛けられたように彼の眼から視線を外せなくなってしまった。

「私はそのお手伝いをして差し上げてるだけなんですよ。

 わかったんです。あなたは感じていた。強烈に求めていたんです。何かを。

 私にはそれがわかったんです。だから写真を撮った。絶対あなたは欲しがるはずだと思いました。

 女の人には、特に家庭を持っている女(ひと)には口実が必要です。これなら仕方がないと。こんな情況では仕方ない、とね。私はあなたの肩をそっと押して差し上げただけなんですよ。

 これでわかったでしょう。

 あなたは私に写真を撮られた。だからそれを悪用させないようにするためにもう一度私を訪ねて来られた。そして再び脅された。脅迫された。だから仕方なく・・・。けっして自分は悪くない。何も間違っていない。悪いのは自分を追い込んだこの男だ・・・」

「・・・何を、何を言っているんです!」

「あなたは、そういう口実を手にすることが出来たんですよ。

 加奈子さん。あなたは求めていらっしゃる。私なら、あなたを解放してあげられます。目に見えない鎖に縛られているあなたを、自由にしてあげられます。あとは加奈子さん、あなた次第なんですよ」
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