加奈子の受難 堕ちてゆく人妻がなぜかすべてを手に入れ全部丸く納まっちゃうまで

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 マンションの前に植えられたアジサイが枯れ、冬の寒さに耐えた枝が新しい葉をつけて再び紫やピンクの花が咲き、梅雨の雨にうたれて悦んでいる。

 このマンションに来るのも久しぶりだ。

 フロントグラスは忙しく振れるワイパーにキュ、キュ、と規則正しく鳴り続けている。

 加奈子はマンションのエントランス前に軽自動車を止めた。ハザードランプを点けてスマートフォンに指を滑らせた。と、エントランスのドアが開き、傘を差してスーツケースを押してくる人影が近づいてきた。スマートフォンを仕舞い、ドアを開けて出ようとすると、

「あ、いいからいいから。無理すんな」

 達彦はウヒャーと悲鳴を上げながら後ろのドアを跳ね上げてスーツケースを放り込み、助手席に飛び込んできた。

「出がけに土砂降りなんて。ツイてねえなあ・・・」

「飛ぶの? こんな雨で」

「飛ぶだろう。雲の上に出りゃ関係ねえもん」

「じゃ、出すよ」

「お願いします」

 加奈子は雨に煙るバックミラーを確認して車を発進させた。

「いやあ、悪いね。こんな雨の中・・・」

「いいわよ。どうせ今日水曜日だもん。ちょうど午前中休み取ってたし。検診で」

「ああ。五か月か。もうそんななるんだなあ。・・・順調?」

「おかげさまで。母子ともに健康だって」

「里香の生まれたころ思い出すなあ・・・。里香は元気?」

「もうランドセル買ってもらったの、ケイコさんに。幼稚園から帰ってくるとすぐそれ背負ってお庭で遊んでるって。入学する前にボロボロになっちゃいそうだって」

「そうかあ・・・。幼稚園には慣れた? あ、そこ右入るか」

 目の前の渋滞を避けようというのだろう。加奈子は素直にその抜け道を入る。

「慣れたみたいよ。新しい友達とかセンセーの名前が次々出てくるもん。二時に終わってケイコさんに迎えに来てもらうスタイルが気に入ったらしいの。たっぷりお昼寝しておやつ食べてそのあともタップリ遊んでもらえて・・・」

「あれ、でもあと一か月で産休入るんだよな。そうしたらお迎え代わるのか」

「ううん。ケイコさんが行ってくれるって。大きなお腹して行くもんじゃないって」

「そうか・・・。でもあれだな、会社もよく昇進させたな」

「笑っちゃうよね。昇進の辞令貰ったその席で産休申請してるんだから。いい会社よ。でも達彦こそ大丈夫? 先週帰って来たばかりじゃないの。疲れちゃうんじゃない」

「ちょっと向こうでトラブルがあったらしくてね。でも、気に入ってるんだ、この仕事。工場作るのって物を作る土台を作る仕事じゃないか。俺、渋谷さんにはホント感謝してるんだよ。

 あ、あのマンション、近々売っぱらうからな。年に三か月もいないんじゃもったいねえから。売れたらその金で向こうに家建てようと思ってる。あんなチンケなマンションの四分の一で大豪邸が建つんだぞ。スゴイだろ。円パワー絶大だな」

「もしかして、向こうでカワイイ彼女見つけた? でもムスリムは軽々しく扱うとアブナイからね。気を付けなよ。

 マンションはさ、達彦のだから。好きにすればいいと思うよ。でもさ、マジであんまアブないとこ行かないでよ。ジャワ本島ならいいけどスマトラはまだまだらしいからね」

「なんだ、心配してくれるんだ」

「そりゃあね」

「今ね、インドネシア語メッチャ勉強してるんだ。知ってるかい、インドネシア語ってね、マレー語とオランダ語の合成語なんだよ。文法もカンタンだしさ。むしろジャワ語とかスンダ語とか、方言覚える方がタイヘンなんだ」

 信号待ちで、改めて「夫」の横顔を見つめる。

「・・・なんか達彦、明るくなったね。それに、前よりずっと強くなったみたい」

「・・・惚れなおしたか?」

「さあ・・・。そこまでは、どうかな・・・」

「なんだ・・・。じゃ、代わりにご褒美くれよ」

「いいよ。最近彼、してくれなくてタマってるの」

「そりゃあ、初めての自分の子供なんだから。しかも歳取ってからのだし。大事にしたいんじゃないの」

「言っとくけど、法律上はあなたの子だからね。そこ、忘れないでよ。でも、ちょっと大袈裟すぎるのよね。そこがちょっとフマンなの」

「ゼイタクだなあ、お前は・・・。なあ?」

「うん?」

「俺達って、へんな関係だな」

 車を空港の駐車場に入れると二人で傘をさしてターミナルビルに向かった。たまたま運よく多目的トイレが空いていたのでもちろんそこを使うことにした。

 加奈子はドアをロックするとスカートをずり上げてショーツを下ろした。青いTバックのショーツを抜き去ると、達彦のスーツのポケットに捻じ込んだ。

「ハイ、お守り。大事に使ってね。飛行機の中で広げちゃダメよ」

「いつもありがと。ウオッ、ガーターベルトかよ。エロいなあ、相変わらず」

「こんなに挑発してるのにね。無事産まれるまでは絶対ダメだって」

 そういって加奈子は便器に腰かけて脚を開いた。

「どうぞ。ご褒美、堪能して」

「じゃ、遠慮なく」

 達彦はそこに顔を寄せると、叢に鼻を突っ込んで久々の加奈子の匂いをいっぱいに吸い込み、クリトリスに舌を這わせた。フードをめくりレロレロ転がしてちゅううっと吸い上げると、たちまち加奈子は嬉しい吐息を漏らす。

「(ああっ、やっぱイイッ!、達彦、上手くなったじゃん。ああ、ソコあああっ・・・来るぅっ!・・・んんんんんっ)」

「(しィーっ! 声デカい!)」

 たしかに、変な関係ではある。

 達彦は里香の法律上生物学上の父親であり、生まれて来る子の法律上の父親ではあるが、実際に養育しているのは加奈子と渋谷とその妻の景子だ。新しい仕事を得て時々加奈子の下着を貰い股間をクンニリングス出来るだけで満足している。それ以外の彼の性生活に関しては加奈子は関知していない。いずれ子供たちが大きくなれば籍を抜くつもりだが、それからも関係は続けていくつもりだ。

 渋谷は思う存分愛人の身体を満喫でき、かつ自分の本当の子供を加奈子に産んでもらってお得。景子は里香に加え愛する夫の種になる子供まで世話ができることでお得。二人とも、表向きは子供の祖父と祖母ということになっている。

 そして加奈子は・・・

「(さ、今度は俺ね)」

 ズボンのジッパーを下ろしてそれを取り出す。股間の始末の終わった加奈子がそれを握って擦る。達彦は早いから助かる。

「ふぅ・・・あんがと。きもちかった」

「もうっ。出すなら出すって言わなきゃ・・・」

 手を洗いながら、加奈子はグチる。

「あ、もう始まってるよ、行かなきゃ」

「お、そうだな」

 カチャカチャベルトを慌ただしく治して鏡を見ながら頭を撫で、最初に達彦が外に出て周りを確かめ、ノックの合図で加奈子が外に出る。

「じゃな。ケイコさんと里香によろしく」

「渋谷さんには?」

「も少し給料上げてくださいって」

「あはは。わかった。言っとくよ。気を付けてね」

「おう。行ってくる。お前もハラ、気を付けろよ。大事な身体だ」

 お腹の前でこんもりのジェスチャーをして笑いながらゲートをくぐる達彦を見送った。

 ターミナルを出ると雨は上がっていた。でもまだ梅雨明けは先みたいだ。だからジメジメは仕方ない。

 車に乗り込みエンジンをかけると飛行機が一機、轟音と共にジェットを吹かして曇り空に舞い上がり、やがて雲の上に消えた。

 加奈子は、何を得しただろう。

 なんかいっぱい得しすぎて怖いぐらいだ。

 まあいい。

 里香の弟か妹かまだわからないが、これから生まれてくる子供のためにゆっくり過ごす時間をタップリ取ってある。その間の暇つぶしで数えてみるとしようか。

 ワイパーで水滴を払い、バックミラーで少し口紅を直してから、加奈子は車を発進させ空港を後にした。


 


 

              了


 
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