どこでもいっしょ

吉田美野

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 庭中薔薇だらけだよ、と育巳が笑って、それから「寒いから早く教室入りなよ」と手を差し出した。花也も釣られて微笑み返すと育巳の手を取った。
 窓越しに花也を引っ張り上げて立たせた育巳は、その手の冷たさに驚いた顔をした。

「わあ、手、すごい冷えてるじゃないか!」

 肌も白いを通り越して青白いことに気付き、育巳は思わずといった様子で花也の手を握って擦る。擦ったところがほんのすこし血色を取り戻したが、それ以上に花也の頬も赤くなった。
 そんな花也に気付いた育巳は「あっ……ごめん」と、慌ててその手を離す。
「あ、ううん、ありがとう」
 育巳の頬もほんのりと赤く染まっていた。

「そういえば笠原くん、委員会があったんじゃないの」
「あ、そうだ。忘れ物取りに来たんだった」
 やべ、と育巳は慌てて机の中を漁ると、目当てのプリントを見つける。
「じゃあ! また明日!」
「うん、行ってらっしゃい、頑張ってね」

 頬を染めたまま、慌ただしく教室を出て行く育巳の背中を見送って、花也も教室の中に戻った。ベランダは風も強くて冷たかったはずなのに、今は頬が熱いせいであまり寒さを感じない。

「ごめん、ハルお待たせー!」

 そのうちに光也が顔を出して、花也はいそいそとマフラーを巻いて赤い頬を隠した。
「先生に捕まっちゃってさー」
「ああ、怒られてたんだ?」
 違うとわかっていてもからかうようにたずねれば、光也は「違うよ!」と慌てた。思わず喉の奥でくくっと笑うと、光也もからかわれていることに気付いたらしい。光也に脇をくすぐられて、花也はあまり外で出すことのないはしゃいだ声をあげて笑った。

 ひとしきり花也を笑わせて満足したらしい光也が「帰ろうぜ」と促した。

 ふたりで昇降口に向かいながら「今日はどうだった?」なんて保護者のようなことを光也がたずねる。花也はやや考えてから「ん……今日も、結構楽しかった」と答えた。

 亜依や育巳と、昨日よりずっと打ち解けたことを花也は嬉しそうに話した。しかし自分からたずねたわりに光也からの返事はそっけなく「ふーん」とか「へえ、よかったじゃん」という、いいかげんな相槌ばかりだ。もっとも話すことに夢中になっていた花也は気にならなかった。

 しかし次に光也の口から出た「そういえば、花也は部活どうする?」の言葉には、花也も表情を曇らせた。

「部活か……僕はあんまり。入らなくてもいいなら、入らないつもり」
 学校によっては、部活動への参加が必須のところもあるが、花也はあまり気乗りしない。どうせ途中で辞めなきゃいけないだろうし。

「ミツは?」
「俺も入らないよ。花と帰れなくなるの嫌だし」
「ほんと? それは……嬉しいけど、でもいいの?」

 その光也の返答に花也は一瞬喜びそうになって、躊躇する。
 これといった特技がない花也と違って、活動的な光也は運動神経も抜群だ。特にサッカーが好きで、前の学校でもサッカー部に入っていた。

「あっ、おーい光也!」

 バタバタと賑やかに廊下を走ってくるのは、光也のクラスメイトの大庭だった。

「光也ーなあ、サッカー部入ろうぜー!」
「だから言っただろ? 部活はやんないって」
「もったいないぜ! なあ、ハルちゃんも何とか言ってやってくれよ!」

 大庭が光也の袖を引っ張り、大袈裟に嘆いてみせる。
 なんというタイムリーな話題なのだろう。というより、クラスでそういう話題が出たから、光也も花也に確認をしたのかもしれない。

「何とかって、何を?」
「サッカー部に入るようにだよ! こいつマジ上手いの! 是非とも我が校のサッカー部に入って欲しいんだけどさ――」
「だーかーら! 部活は入らねえつってんじゃん!」
「……の一点張りだよ。ハルちゃんも、もったいないと思うだろ?」

 光也がサッカーを好きなことは、当然知っている。周りが持て囃すレベルで上手いことだって、もちろん知っている。
 前の学校で光也がサッカー部に入ったのは、花也に麻衣子という友達がいたからだ。
 その前の学校では、友達らしい友達がいない花也のために部活には入らず、いつも花也のそばにいてくれた。
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