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しおりを挟む「どんな感じにしたいか、ご希望ありますか」「ん-、特にないので、おまかせしてもいいですか」「もちろんです。じゃあ、今襟足結構長めですけど、バッサリいっちゃってもいいですか」などなど。人にされるシャンプーも気持ちがいいが、ドライヤーもまた気持ちがいい。あまりの心地よさに猫のように目を細めながら、伊織は星川の提案にうんうんと頷くだけだ。
そんなやり取りを経て、ドライヤーをハサミに持ち替えた星川は、繊細な動きでそれを操っている。雑誌など読めるようにタブレットを持ってきてくれたが、伊織は星川の手の動きに見入っていた。
星川の誘いに反応が遅れたのはきっとそのせいだ。
「遠田さん、よかったらこのあと飯行きませんか」
あるいは、理解の範囲を超える内容であったせいか。
「……え?」
「お腹、空いてません? 飯まだですよね」
「え、ああ、まだです……」
「俺、もっと遠田さんといろいろ話してみたいです」
それは願ったり叶ったりだが、あまりの急展開に頭がついていかない。
すぐに言葉を返さない伊織をどう思ったか、星川が悲しげな顔をする。
「あ、もしかして何か予定ありました?」
「い、いえっ! 何もないです!」
「じゃ、行きましょ。ご迷惑じゃなければ、ですけど」
――迷惑なわけがない!
食い気味に答えそうになるのを堪え、伊織はあくまで穏やかに微笑んで見せた。
「いいですね! 何食べにいきましょうか」
人気のマッシュベースに、サイドと後ろはスッキリさせて……、バングは長めで……、すこしおでこが見えるように束感を作りながらスタイリングすると……云々。最後に軽くスタイリング剤を付けながら、いろいろと星川が説明をしてくれるが、あまり頭に入ってこなかった。
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