小説家お兄さんの家で養われることになった話

出会い〜恋人になるまで

出会い

「おい、おいお前…生きてんのか？」
怠い身体を揺すられ、目が覚める。
「ん…」
声のする方に顔を上げると、そこには怖い顔をした体格の良い男が立っていた。
気温はどのくらいだろうか、凍えるほどの寒さに身震いし、男の顔をじっと見る。
「なんだ、死んでんのかと」
男はゆっくりと腰を下ろし、なかなか口を開かない俺と目線を合わせた。
「こんな寒いところでなにをしてる」
頭がガンガンして痛い。
なんだか吐き気もするし、意識も朦朧としている。
一生懸命声を出そうとするが、唸り声のようなものしか出ない。
目の前の男はそんな俺に痺れを切らしたのか、はあ、とため息をついてどこかへ去っていく。
朦朧とする意識はついに途絶え、そのままもう一度眠りに落ちてしまった。

「ん…」
再び目を覚ますと、ふかふかのベットの上で、眠る前の寒さはなくなっていた。
まだ少し頭が痛いが、吐き気は治まっている。
辺りを見渡すと、そこには大量の本棚があって、あとは机くらいしかない。
一体ここがどこなのか、誰の家なのか、確かめるためにドアを開けた。
音のする方へ向かい、そのドアを開けると。
「え…」
顔は曖昧だが、昨日の男のような体格のいい人が料理をしている。
驚いて立ち竦む俺に気がついた男は、
「起きたか。食べられそうなら朝飯あるけど、とりあえずそこに座れ」
男の指す方にはソファーがあるが、今は座っている場合じゃない。
「あの…どうしてここに…」
記憶が正しければ、男は昨日俺の前を立ち去った。
ため息をついて。
「見た感じ成人してるし、あのまま死なれたら後味悪いからな、連れて来た」
相変わらず怖い顔でオムレツを作っている。
「それは…どうも…」
ごにょごにょお礼を言うと、男は皿を持ってこちらへ向かってきた。
少し身構えると、ふ、と笑う。
「そんなに怖がるな。ほら、そこに座れ」
男はソファーの前にあるローテーブルに作ったものを置き、そして箸を並べると自分もソファーに座った。
俺は促されるままソファーに座り、いただきます、と言って二日ぶりの食事をする。
「うま…」
オムレツにはとろとろのチーズが入っているし、ウインナーはパリパリだ。
こんがりと焼けたトーストには、男がバターを塗ってくれる。
漸く腹が満たされ、少しリラックスしていると。
「それでお前、あんなところでなにしてたんだ」
突然男が口を開く。
まあ、それを聞かれることは想定内だ。
箸を置き、口の周りをティッシュで拭く。
「バイト先が潰れて、家賃払えなくて家を追い出されて、住所ないから新しいバイトも探せなくて、なんか気づいたらあそこにいた」
スラスラとそう答えると、男は難しそうな顔をした。
「それは災難だったな。親には頼れないのか？」
この質問も、想定内だ。
「携帯も止められちゃってるし、実家には飛行機に乗らなきゃ帰れない。
こっちで仲良くしてる人だっていないし、第一親に迷惑はかけられない」
本当は、少し違う。
大学に入って一人で上京して来て、仕送りも貰いながらバイトをして生活してた。
でもこんな性格だから、友達もいなけりゃ話せる人すらいない。
周りのきらきらしたオーラに囲まれながら大学に通うのが辛くて、いつの間にか家とバイト先の往復になっていた。
それが親にバレて、実家に帰ってこいという母親の声も無視して、仕送りも止められた。
当たり前だから、それにはなんの文句もない。
大学を辞めて、バイト代だけで安いボロアパート暮らし。
それも一昨日で終わったが。
「まあ、なんだ。お前さえよければこの家にいてもいい」
俯く俺を心配したのか、男は背中をさすってくれた。
でも、なんで名前も知らない俺なんかを家に上げて、こんなことを言ってくれるんだろう。
警戒心が無さすぎる。
「…そんなこと言って、騙されたらどうすんの？」
揶揄うようにそう言うと、男は優しく笑った。
先程までの怖い顔とは違って、包まれるような優しい笑顔。
見つめると、男はまた口を開く。
「誰にでもこうってわけじゃない。
それに、騙されたところで失って困るものなどこの家にはないからな」
そこまで言うと、立ち上がって食べ終わった食器を運んでいく。
俺もすぐに立ち上がって、自分の分の食器を受け取った。
どうやら、これからこの男との生活が始まるようだ。