子持ちの同僚の弁当に口出ししたらなぜか俺がママに任命されました

よる

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本編

シャンプーの匂い

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まだしんどいようで林田の腕から降りようとしないので、そのままゆっくりとスーパーまで歩く。
外では苦しいだろうと思いつけていなかったが、スーパーに入る前に小さな子供用マスクをつけた。
あまり時間をかけると可哀想なので、アイスやうどんやら、風邪の時に必要なものを迷わずカートに入れていく。
今日は特別に、おもちゃ付きお菓子もカートに入れた。
涼介を抱っこしながらレジ待ちの列に並んでいると、
「あれ、涼介くん?」
と後ろから声をかけられる。
驚いて振り向くと、同年代くらいの女性が不思議そうな顔をして林田の顔を見ていた。
化粧っ気のないすっきりとした顔立ちで、長い前髪を後ろ髪と共に後ろでまとめている。
林田は面識のない女性だが、涼介に気づくということは恐らく保育園のママさんなのだろう。
「えっと、こんにちは。西條の同居人の林田です」
西條、と聞いて、やっぱり!と笑顔になったその女性は、涼介が園で仲良くしている子の母親で、相田あいださんというらしい。
「涼介くん、お熱ですか?」
林田の肩に顎を乗せてすやすやと寝息を立てる涼介を見て、心配そうな顔をする。
「はい、昨夜から熱があって。さっき病院に行ってきたところなんです」
列に並びながら、たわいもない会話をする。
途中で目を覚ました涼介が、
「りっくんまま?」
と気づき、照れて林田の首筋に顔を隠してしまう。
「ふふ、はやくお風邪よくなるといいね。よくなったらまた、りくと遊んであげてね」
順番が来たので、軽く挨拶をして別れ、スーパーを後にした。
スーパーを出ると、林田は
「ふぅ…」
と息をつく。
保育園関係の人に会うのはこれが初めてで、それも西條がいないので変に思われるのは当然のことだった。
誘拐を疑われるかもしれないし、西條に同性のパートナー疑惑が浮上するかもしれない。
涼介が林田をいつものように"ママ"と呼ばなかったことは幸いだが、明日にはこのことが園で広まっているかもしれないのだ。
想像すると心臓が冷えるような感覚を覚え、心持ち早歩きで家路を急いだ。

「ママ、ちゅるちゅるたべる」
お昼寝から目が覚めた涼介は、静かにソファーで本を読んでいた林田にうどんが食べたいと言った。
その様子から、林田は熱が下がったことを悟る。
「おはよう涼介くん。今作ってあげるね。その前にお熱測ろっか」
おでこに手を当て、膝に乗せて脇に体温計を挟む。
ピピピ、と音がし、見ると26.8°まで下がっていた。
子供の体温は平常でも高いので、これくらいが平熱だろう。
「わ、すごい!よく頑張ったね」
よしよし、と頭を撫で、むぎゅう、とハグをする。
涼介は、大好きなママからのハグに
「えへへ」
と嬉しそうな声を漏らした。
林田が作ったうどんを半玉分食べ、食後にさっき買ってきたアイスを食べる。
もうすっかり元気なようで、薬を飲んだあとは遊びたいと言って聞かなかった。
「今遊んだらまたお熱出ちゃうよ。ママとゆっくり絵本読もう?」
ブロックで遊ぼうとする涼介をなんとか絵本に誘導し、何冊か読んだところで再び眠ってしまった。
林田も昨日全然眠れなかったので、涼介の隣で2回目のお昼寝をする。
気がつくと夕方になっていて、はやめに仕事を切り上げて帰ってきた西條が2人の寝顔を撮った音で目が覚めた。
「ん……あれ、西條帰ってたの」
何時?とスマホを確認する。
「今日は本当にありがとね。涼介大丈夫だった?」
西條はスーツを脱ぎながら、寝起きで目を擦る林田にお礼を言う。
「ただの風邪だって。さっき寝る前測ったら平熱まで下がってたから、明日と明後日様子見て大丈夫だったら月曜日から保育園行けると思う」
話し声で起きた涼介が、ん~と伸びをして林田のお腹にダイブする。
西條に気がつくと、
「パパ!」
と喜んでにっこりと笑った。
着替えた西條が涼介を抱き上げ、ぎゅう、とハグをした。
林田はその上から、2人を抱きしめる。
「家族っていいなあ」
こんなにも愛おしい存在を、家族以外の言葉で表すことは不可能だと思った。
「うん、いいね。本当に」
西條は片手で涼介を抱えながら、もう片方の手で林田の頭を撫でた。
3人の髪から、同じシャンプーの匂いがする。
仕事終わりでワックスがついた硬い西條の髪も、汗でしっとりとした涼介の髪も、猫のようなしなやかな林田の髪も。
この幸せを、ずっと瓶に閉じ込めておけたらいいのに。
西條と林田は、きっと同じことを願っていた。
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