31 / 47
本編
対立
しおりを挟む
西條は林田からの連絡を受けると、すぐに用事をキャンセルして家に急いだ。
「ただいま」
息を切らしながらリビングに入ると、そこには楽しそうに会話しながら涼介と遊ぶ父親と林田の姿がある。
「パパ!じいじきた!」
涼介が真っ先に立ち上がり、西條に駆け寄った。
「京?遅いんじゃなかった?」
林田は不思議そうに西條の顔を見る。
西條の焦りとは裏腹に、3人の顔は穏やかなものだった。
「お父さん、急に来られても困ります。せめて僕が不在の時は引き返してください」
父親はその場で立ち上がると、
「すまない。久しぶりに涼介と会えたもので舞い上がってしまった」
と頭を下げた。
西條は素直に謝ってもらえるとは思っておらず、動揺する。
「ごめんなさい、俺がいいって言ったの。涼介くんも喜んでるみたいだったから…」
林田は2人の間に流れる不穏な空気に息を飲んだ。
「洸希は悪くないよ、むしろ迷惑かけてごめん。驚いただけだから気にしないで。少しだけお父さんと2人きりにしてもらえるかな」
西條はそう言うと、上着を脱いで手を洗いに洗面所へ行った。
「じゃあせっかくだし、駅の水族館行く人~」
林田はこの空気を少しでも和ませようと、涼介にそう聞いて、
「は~い!」
という大きな返事を貰い、急いで出かける準備をした。
「さっきは取り乱してすみません」
西條はダイニングテーブルで父親と向き合うと、そう言って頭を少しだけ下げる。
「こちらこそ、何も知らなかったとはいえすまなかった。ただ涼介の顔を見たかっただけなんだ」
1人は愛人の子とはいえ、父親は3人の息子たちを平等に愛していた。
それを表に出すことはなかったが、今西條の目の前にいる父親の姿は、今までに西條が見たこともないほど窶れ、心做しか弱っているように思えた。
「涼介が元気で安心したよ。それも全部、お前のおかげだ」
父親は西條の顔を見ると、少し微笑んだ。
「涼介は、本当に優しい子なんですよ。兄さんにそっくりで。でもお父さん、あなたは兄さんのこと、何も知らないでしょう。子育ては全部お母さんに任せていたんだから」
愛人の子である誠司は、12歳から高校に入るまでの3年間を西條家で過ごした。
その3年の間に、西條の母親によって一生治らない心の傷を負わされている。
父親が不在の間に母親はこれでもかと誠司を罵り、時には暴力を振るうこともあった。
西條はそんな母親を憎んでいるが、同時に同情もする。
仕事に忙しいと思っていた夫が、愛人を作ってその間に子供まで作ってしまうなんて。
それだけに留まらず、自分が育てなきゃならないとなれば、誰だってこうなってしまうだろう。
「兄さんはずっと苦しんでいたんですよ。実の母親は薬物中毒で死んで、父親の正妻には虐待されて。それでもその子供である僕のことをかわいがってくれました。ずっと弟が欲しかったんだと、自分は大丈夫だからお母さんを慰めてあげろって」
西條は話しながら、その真っ直ぐな目に涙を浮かべた。
誠司は西條の母親に何を言われても、何をされても、一度も刃向かったことはなかった。
それどころか、物を投げつけられながらもごめんなさい、ごめんなさいと謝っていた。
「本当に申し訳ないことをした。母さんに対しても、お前たちに対しても。今更遅いことはわかっている」
父親が正妻による誠司への虐待を知ったのは、西條が高校生の頃に手が付けられないほど暴れた時だった。
気づいた時には、もう何もかもが遅かったのだ。
「会いに来るなとは言いません。ただ、やっとできた僕の家族にあまり関わって欲しくない。洸希とのことも、気づいているでしょう。僕には、あの子たちが全てなんです」
実家に帰りたくないと嘆いて、
「そういうこともあるよね~」
と返してくれたのは林田一人だけだった。
西條にとって、心を許せるのは誠司と林田のたった二人だけだった。
「わかった。本当にすまなかった。涼介を頼む。林田さんにもよろしく伝えてくれ」
父親は少し早口にそれだけ言うと、立ち上がって玄関へ向かう。
「涼介に会いたければ、連絡してください。僕が何を思おうと、あの子にはたった二人しかいない大事な祖父の一人なので」
誠司の亡くなった妻の両親とは、誠司が亡くなったあとも連絡をとってたまに会っている。
林田と暮らすようになってからは3人で。
家を後にする父親の背中は、心做しか小さく見えた。
「ただいま」
息を切らしながらリビングに入ると、そこには楽しそうに会話しながら涼介と遊ぶ父親と林田の姿がある。
「パパ!じいじきた!」
涼介が真っ先に立ち上がり、西條に駆け寄った。
「京?遅いんじゃなかった?」
林田は不思議そうに西條の顔を見る。
西條の焦りとは裏腹に、3人の顔は穏やかなものだった。
「お父さん、急に来られても困ります。せめて僕が不在の時は引き返してください」
父親はその場で立ち上がると、
「すまない。久しぶりに涼介と会えたもので舞い上がってしまった」
と頭を下げた。
西條は素直に謝ってもらえるとは思っておらず、動揺する。
「ごめんなさい、俺がいいって言ったの。涼介くんも喜んでるみたいだったから…」
林田は2人の間に流れる不穏な空気に息を飲んだ。
「洸希は悪くないよ、むしろ迷惑かけてごめん。驚いただけだから気にしないで。少しだけお父さんと2人きりにしてもらえるかな」
西條はそう言うと、上着を脱いで手を洗いに洗面所へ行った。
「じゃあせっかくだし、駅の水族館行く人~」
林田はこの空気を少しでも和ませようと、涼介にそう聞いて、
「は~い!」
という大きな返事を貰い、急いで出かける準備をした。
「さっきは取り乱してすみません」
西條はダイニングテーブルで父親と向き合うと、そう言って頭を少しだけ下げる。
「こちらこそ、何も知らなかったとはいえすまなかった。ただ涼介の顔を見たかっただけなんだ」
1人は愛人の子とはいえ、父親は3人の息子たちを平等に愛していた。
それを表に出すことはなかったが、今西條の目の前にいる父親の姿は、今までに西條が見たこともないほど窶れ、心做しか弱っているように思えた。
「涼介が元気で安心したよ。それも全部、お前のおかげだ」
父親は西條の顔を見ると、少し微笑んだ。
「涼介は、本当に優しい子なんですよ。兄さんにそっくりで。でもお父さん、あなたは兄さんのこと、何も知らないでしょう。子育ては全部お母さんに任せていたんだから」
愛人の子である誠司は、12歳から高校に入るまでの3年間を西條家で過ごした。
その3年の間に、西條の母親によって一生治らない心の傷を負わされている。
父親が不在の間に母親はこれでもかと誠司を罵り、時には暴力を振るうこともあった。
西條はそんな母親を憎んでいるが、同時に同情もする。
仕事に忙しいと思っていた夫が、愛人を作ってその間に子供まで作ってしまうなんて。
それだけに留まらず、自分が育てなきゃならないとなれば、誰だってこうなってしまうだろう。
「兄さんはずっと苦しんでいたんですよ。実の母親は薬物中毒で死んで、父親の正妻には虐待されて。それでもその子供である僕のことをかわいがってくれました。ずっと弟が欲しかったんだと、自分は大丈夫だからお母さんを慰めてあげろって」
西條は話しながら、その真っ直ぐな目に涙を浮かべた。
誠司は西條の母親に何を言われても、何をされても、一度も刃向かったことはなかった。
それどころか、物を投げつけられながらもごめんなさい、ごめんなさいと謝っていた。
「本当に申し訳ないことをした。母さんに対しても、お前たちに対しても。今更遅いことはわかっている」
父親が正妻による誠司への虐待を知ったのは、西條が高校生の頃に手が付けられないほど暴れた時だった。
気づいた時には、もう何もかもが遅かったのだ。
「会いに来るなとは言いません。ただ、やっとできた僕の家族にあまり関わって欲しくない。洸希とのことも、気づいているでしょう。僕には、あの子たちが全てなんです」
実家に帰りたくないと嘆いて、
「そういうこともあるよね~」
と返してくれたのは林田一人だけだった。
西條にとって、心を許せるのは誠司と林田のたった二人だけだった。
「わかった。本当にすまなかった。涼介を頼む。林田さんにもよろしく伝えてくれ」
父親は少し早口にそれだけ言うと、立ち上がって玄関へ向かう。
「涼介に会いたければ、連絡してください。僕が何を思おうと、あの子にはたった二人しかいない大事な祖父の一人なので」
誠司の亡くなった妻の両親とは、誠司が亡くなったあとも連絡をとってたまに会っている。
林田と暮らすようになってからは3人で。
家を後にする父親の背中は、心做しか小さく見えた。
51
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる