子持ちの同僚の弁当に口出ししたらなぜか俺がママに任命されました

よる

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本編

世界一美味しい

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「おつかいに行きたい?」
「うん!きのうのてれびのやつりょーちゃんもする!」
涼介がリュックを背負って張り切っているのは、昨日の夜3人で夜更かしして見たテレビ番組が理由だ。
「ああ、おつかい、はじめての。 ってやつね。まあいいんじゃない?やらせてみよう」
心配性な洸希とは違って、なんでもやらせてみよう精神の京がソファから立ち上がり、財布を開いた。
「え、ちょっとまってよ京。いくら涼介くんがしっかりしてるとはいえまだ4歳半だよ?横断歩道渡らないとスーパーにも行けないし」
どうやら本当に行かせるつもりらしい京と、行くつもりらしい涼介に置いていかれる洸希。
この肝が座った性格は、西條家の血筋なのだろうか。
「何言ってるの、1人で行かせるわけないじゃん。俺が変装してついていくから、洸希は買うもののメモとお金渡して引き伸ばしといて」
京はこそっと洸希に耳打ちし、寝室へ着替えに行った。
そういうことか、と洸希は納得すると、小さめのポシェットに500円玉とメモを入れる。
「いい?いつものコロッケ屋さんで、コロッケ3個だよ。おつりはちゃんとこの中に入れること。それから、食べながら帰ってきちゃだめだからね」
スーパーに行く方が近いのだが、たまに散歩で行く商店街の方が顔見知りが多いので安心だろうと思ったのだ。
それと、わざわざ店内を回ることなく店先で買うことが出来るので迷惑をかける可能性が低い。
洸希は横断歩道の渡り方や困った時にどうするのかを3回繰り返すと、変装が終わったらしい京の合図とともに涼介を送り出した。
エレベーターへ乗るところまでを見届けると、なぜだか寂しい気持ちになった。
小さな背中を見ていると、いつか巣立っていく時のことを想像してしまうからだろうか。
京は近くにいるとバレる可能性があるので、ダッシュで階段を駆け下りていく。
エレベーターから出てきた涼介は、軽い足取りで商店街の方向を目指して歩き出す。
「にゃんにゃ~」
10mほど歩いたところで、いつも近寄ってきてくれる地域猫に出会い、涼介が立ち止まる。
京はバレないように陰に隠れ、様子を伺う。
ある程度予想はしていたが、この街には涼介の興味を引くものが多すぎる。
猫とバイバイしたかと思えば、今度は
「ありんこ~」
と言ってアリが食べ物を運ぶ行列を追い始めるし、それに飽きたかと思えば
「ひこうきだ~!」
と言って立ち止まって空を見上げる。
京は後ろからこっこり無音のカメラで撮影し、逐一洸希に送った。
そのころ、不安で落ち着けずにソファで京からの連絡を待っている洸希は、涼介が立ち止まっている写真を見てあることに気がつく。
それは、洸希といつも商店街に行く時のお決まりのコースなのだ。
洸希と京はお互いに1人の時間を作りあうのだが、洸希は涼介と2人でお散歩をする時は必ず商店街の方へ歩いていく。
猫と触れ合って、アリの行列を眺めて、飛行機を見つけて。
「涼介くん、にゃんにゃんいるよ」
「アリさんがごはん運んでるね」
「見て、飛行機だよ。かっこいいね」
意識しているのかはわからないが、送られてくる写真全てに思い出があることに、洸希は胸がきゅ、となった。
「あら、涼介くんいらっしゃい。ママ置いてきちゃったの?」
涼介はなんとかコロッケ屋さんにつくと、いつも店先から挨拶をしてくれる奥さんに
「おつかい!」
と言ってコロッケを3個頼んだ。
「おつかい?えらいね~、じゃあおまけ入れてあげようね」
奥さんはコロッケ3個と涼介の大好きなかぼちゃコロッケを1個袋に入れ、わざわざ下に降りて涼介のリュックに詰めてくれた。
「おかねあるよ」
涼介はポシェットからメモと500円を取り出すと、どちらも奥さんに渡して満足そうに頷いた。
「はい、じゃあこれおつりね。ありがとう~、またくるんだよ」
涼介は奥さんとハイタッチしてお店をあとにする。
京は急いでお礼を言いに行ってから、涼介の後を追った。
しかし、涼介は商店街を出てからというもの、行きよりも力が抜けた様子でとぼとぼと歩き出した。
いつもの涼介はこれくらいの距離で疲れるとは思えないが、目標を達成してやる気が途切れてしまったのだろうか。
やがて立ち止まると、木陰に座ってリュックを下ろし、中を探り始めた。
京は最初、お腹がすいてコロッケを食べてしまうのかと思ったが、涼介は匂いだけかぐと、洸希が入れてくれた水筒からお茶を飲んだ。
そして泣いているのか目元を腕で拭うと、再び歩き出す。
京は洸希にもうすぐ着くと連絡し、肩を震わせながら一生懸命帰り道を歩く涼介を見守った。

「ママ!」
エレベーターの乗り方がわからなくなってしまった涼介は、なんと10階まで階段を登って帰ってきた。
京からの連絡を受けて玄関の前で待っていた洸希は、涼介の顔を見ると安心して涙が出そうになった。
「おかえり、よく頑張ったね」
ひく、ひく、としゃくり上げる涼介を、玄関の前でぎゅう、と抱きしめる。
頭を撫でると少し汗ばんでいて、頑張って歩いたのがわかった。
後ろから、ついてきていたのがバレないように京がそっと家の中に入り、涼介のために冷たい麦茶をコップに注いだ。
「美味しいね~、涼介くんが買ってきてくれたからだね」
少し冷めたコロッケは、今まで食べたどんなコロッケよりも美味しくて、洸希は何度も涼介の頭を撫でた。
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