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洗濯屋ケンちゃん
しおりを挟むこの、洗濯屋ケンちゃんを機に、日本のエロ文化は、エロ本という写真からビデオという動画映像に移り変わる転換期に入っていくことになる。それは、大袈裟ではあるが、日本が文明開化をむかえたような、エロ文化にとっては画期的な変革だったことは、中学生だった私はまだ知らないことである。
そして、この洗濯屋ケンちゃんなる裏ビデオは、後に伝説のビデオとなるのだった。
昼休みが終わってからの僕は慌しかった。
一重に雅博の家に行って、洗濯屋ケンちゃんなる無修正ビデオを鑑賞する口実を作るために奔走したといっていいだろう。
まずは、部活の顧問に休むことを報告しないといけない。
五時間目の授業の終わりを告げるチャイムとともに、職員室に猛ダッシュをして、部活の顧問をつかまえると「知り合いの人に不幸がありまして」と嘘をつく。
「知り合いって近所の人か?」
顧問はどうでもいいことを聞いてくる。
「はい、小さい時からお世話になったおじさんでして……」
近所には、無愛想で小うるさいおっさんしか住んでいないのだが、この際仕方がない。
いかにも憔悴してるように装ったら、顧問は休むことを許してくれた。
「ご焼香をちゃんとするんだぞ!」
「はい、しっかり、洗濯屋ケンちゃんを拝ましてもらいます」と心で思いながら職員室をあとにした。
顧問は難なく片付けることが出来たが、問題は詩織である。
詩織と付き合うようになってから分かったことなのだが、詩織は実に感が鋭い。
少々の嘘なら見抜いてしまうぐらい厄介な相手なのだ。
知り合いが亡くなったと言っても、どこの誰ってくらいは聞いてくると予想される。もしかしたら、「詩織も一緒について行くって」ことも言い出しかねない。
慎重にやらないと、手痛い目にあいそうな予感がじんじんと股間に感じてやまなかった。
そんなことを六時間目の英語の授業中にずっと考えていた。
妙に発音だけがアメリカかぶれした先生の「ここは、試験に出ます」と黒板に書いているのを無視してまで、詩織に何て言おうかばかり悩んでいたのだった。
結局、授業が終わっても明確な解答は出なくて、顧問に言ったのを少しアレンジして、詩織に挑むことにした。
詩織のいる隣のクラスに向かうと、窓ガラス越しに詩織を探した。
すぐに、詩織の方から私を発見して、満面の笑顔で手をふってきた。
教室内にいた詩織の同級生達も私を見つけて、なにやら、仲のいい友人にコソコソ言ってるのが見てとれた。少々、目立つことしちゃったかなと反省したところで始まらないので、私は手招きして、詩織を教室から出した。
「めずらしいね、祐一君。教室まで来てくれて、詩織ちょっぴり嬉しいよ」
詩織は私と噂になるのが嬉しいみたいだ。
「うん。ちょっと部活休もうと思って、だから今日は一緒に帰れないんだ」
「部活休むんだ。祐一君、また体調でも、どこか悪いの?」
詩織は疑うことなく聞いてきた。
またってのが、少し癇に障るいい方ではあるが……
「うん、母さんの叔母さんの親戚で友達のおじさんが亡くなったので、葬式に――てことなんだ」
詩織は少し首をかしげて、「祐一君って複雑な人間関係なのね」と言った。
「まぁ、ややこしいんだけど、とにかく葬式に出席しないと母さんがうるさいんだよ」
我ながら、いとも易々と嘘がつけるのは、ある意味能力だとも思った。
「うん、わかった。気をつけて行ってくるんだよ」
詩織は私の制服についた埃を払いながら、優しい言葉をかけてくれた。
「ほんと、ごめんな。明日からはまた一緒に帰ろう」
詩織にそう言ってから別れると、後ろ髪をひかれるような思いで、雅博の待つ教室に戻った。
雅博は、私が教室を出て行ったわけを察してくれたみたいで、文句も言わずに私の席で待っていてくれた。
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