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【第44話】『崩壊の境界──第二形態の悪夢』
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焦げつく鉄臭と焼けた油のにおいが、廃墟の空気を濁していた。
ネメシス最終拠点〈黒鋼の咽喉〉は、すでに半壊状態。壁の奥からは蒸気の悲鳴、天井の亀裂からは血のような赤い警報光が漏れている。
「……変化を感じる」
ラミアが息を詰めて声を洩らす。目の前の二体──デモナスとカマリナの身体から、異質な“気配”が膨れ上がっていく。
「第二形態……だと……?」
イツキが眉をひそめる。その言葉が終わる前に、カマリナの指先が空を切った。
──空間がねじれる。
「脳内侵食を開始する」
カマリナの声音が、直接イツキの“思考”へと叩き込まれる。鼓膜を通さず、脳髄に突き刺さるような衝撃だった。
視界が白く染まり、周囲の音が消えた。
『お前に未来はない。戦う意味も、存在の価値も……もう、何もない。楽になれ』
声がイツキの意識の底を這いまわる。
脳内に微細な“バグ”が流れ込み、思考の回路を狂わせていく。全身の筋力が抜け、膝が崩れ落ちた。
「死ね……俺が……死ねばいい……全部……」
その瞳から、光が消えていく。
その隙を逃さず、デモナスがラミアに肉薄した。
「“拷問モード”起動。愉しませてもらおうか」
金属音を立て、デモナスの右腕が変形した。先端が針状に開き、神経刺激素子が露出する。
「っ……!」
ラミアが防御を展開するよりも早く、その針が彼女の脇腹に突き刺さった。
「──ッ、が、ッ……!!」
電磁的な衝撃が、快楽と苦痛を強制的に混線させて神経へ流れ込む。ラミアは口から血を吐き、足をもつれさせながらよろめく。体の自由が奪われ、拘束も解除されない。
「ラミアッ!!」
イツキの絶叫が響くが、それすらも脳内のバグが掻き消していく。
──カマリナの第二形態は、対象の脳に寄生する念波を送り、自死衝動を誘発する。
一方のデモナスは、拷問特化型怪人として進化。神経接続による肉体・精神両面からの責めを可能とした、残虐極まる“人型兵器”だった。
血に濡れた床に倒れたまま、イツキは震える指をこめかみにあてる。
「……楽に、なれるんだよな……」
耳の奥で、誰かの声が甘くささやく。
──そのとき。
「イツキ!! 私は、まだ……生きてる……! あなたは、誰よりも強かった……っ!!」
ラミアの声が、破砕された空間に残響を刻んだ。
その一瞬、イツキの指が止まる。
心の奥に、微かな“ノイズ”が走った。
『誰よりも──強かった』
その言葉が、脳内に響く悪意の波紋にひびを入れた。
だが現実は残酷なままだ。ラミアは痙攣し、イツキの精神は崩壊寸前。
地に伏した二人の前で、デモナスとカマリナは無言のまま、獲物を嬲るための間合いを詰めていた。
──そして、最終決着の時が迫っていた。
鉄骨が崩れ、赤く染まった床がゆっくりと震えていた。
ネメシス最終防衛拠点――〈黒鋼の咽喉〉は、死にかけた巨獣のように呻いていた。警報音はすでに壊れ、代わりに漏電の音と焼けた金属臭が充満している。
その瓦礫の中心に、血まみれの二人の姿があった。
イツキは左足を失い、ラミアは血に染まった腕で壁に寄りかかっていた。呼吸は荒く、身体は限界を超えていた。
その前で、奇妙な笑い声が跳ねる。
「ひゃっは~♡ も~、すごいすごいすご~い! ここまで粘るとか、カマリナちゃん感動しちゃうってば~!」
声の主――カマリナは、鮮やかな色彩の装甲をまとい、まるでステージに立つようにスピンしながら地面を蹴った。
「でもねぇ? アイドルってさ、基本“センター”じゃん? だからぁ……あなたたちはそろそろ、引っ込んでくれるかなあ?」
彼女の指先がぴくりと動いた瞬間、空気が軋み、イツキの頭の奥にざらついた“声”が流れ込む。
「──脳内インストール☆ カマリナちゃんの、じ・さ・つ・し・よ♡プログラム~♪」
「……っ!? またか……!」
イツキは歯を食いしばったが、遅かった。
“思考”が反転する。死を選ぶことが“救い”だと錯覚する幻覚が、静かに、しかし確実に意識を包んでいく。
「生きてる意味……あんのかよ……」
イツキの目がうつろになり、壁に額を打ちつけ始める。血が滲み、足元の床に滴る。
「やだやだやだ~♡ そんな半端なとこでやめないでよ? 足も切ってたよね、もっと、もっとしてよ~!」
カマリナはまるでライブ会場でファンを煽るように、両手を挙げて飛び跳ねていた。
一方その頃――ラミアもまた、地獄の只中にいた。
「……拷問再開といこうか。さあ、今度はどんな反応を見せてくれる?」
デモナスが静かに歩を進める。
手に持った鉤爪の先には、ラミアの眼球から垂れる血糊が絡みついていた。
「この舌……いい音を立てるかな?」
「……やめろ……!」
イツキが叫ぶも、カマリナの思考攻撃で声にならない。
「やだやだ~! 邪魔しないでって言ってるでしょ! これはぁ~、カマリナちゃんの大・事・な・ラストステージなんだからっ♡」
そのときだった。
時空が、ぶわりと泡立つようにねじれた。
「……ん? え、なにこれ……エフェクト演出?」
カマリナが笑いながらステップを止めた。
空間がひび割れ、黒い稲妻のような裂け目が現れる。
そこから、重厚な仮面の男が姿を現す。
──ネメシス総帥。
「まだ、死なせるわけにはいかない」
彼の声は、すべてを凍らせるような冷たさを帯びていた。
カマリナの表情が一瞬止まり、眉がぴくりと動く。
「えっ……なに? マネージャーさん登場? え、ちょっと想定外じゃん~」
だが、総帥は何も答えず、イツキとラミアを見下ろしていた。
その仮面の奥の瞳は、まるで“未来”を見通すかのように静かに光っていた――。
──それは、支配と崩壊のはざまで起きた静かな“神の介入”だった。
蒸気の吹き出す最終防衛拠点の地下ホールに、ゆっくりと黒い靄が降り立つ。
その中心に現れたのは、一切の威圧を超えた存在――ネメシス総帥。
仮面越しの視線が、目の前の二体の怪人に向けられる。
「……あっは~! なんか出たよ! え、ラスボスって感じ? 超アガる~♡」
カマリナはスキップするように笑い、デモナスは機械的に武器の接続音を鳴らした。
「この距離……接敵まで2秒。拷問開始領域に誘導可能」
だが、そのとき総帥は――ただ、両手を広げた。
「攻撃してみろ。存分に」
その無防備な姿に、デモナスが躊躇なく動いた。
腕部の拷問器具が変形し、無数の神経穿孔針が突き出る。
「対象・貫通……開始」
ブシュッ──という金属の突き刺さる音が、直後に“鈍い歪曲音”に変わった。
「……ッ!?」
針は、総帥の身体に当たった瞬間、あり得ぬ方向にぐにゃりと曲がった。まるで、総帥の肉体が“この世の物理法則に従わない存在”であるかのように。
「貫通不能……防壁か? いや……素材異常……」
カマリナが一歩退いた。
「ちょっとちょっと~、やめてよ~! イベント潰し? じゃあこっちが“乗っ取って”あげる!」
彼女の瞳が妖しく輝き、空間に思念波が放たれる。
脳内共鳴操作、思考乗っ取りの発動。
だが──数秒後、カマリナの表情が凍りついた。
「……あ、れ……なに……これ……」
その瞳から光が消え、顔の筋肉が引きつった。
逆に“操られている”のは彼女自身だった。
──バシィンッ!
唐突に、カマリナの蹴りがデモナスの顔面を吹き飛ばす。
「ッ……何を──裏切ったのか……!?」
デモナスが咆哮を上げるが、カマリナは笑いながら答える。
「ふへ……あはは……アイドルは、センターに立たなきゃ……!」
総帥は一歩も動かず、仮面越しに見下ろしたまま、静かに言い放った。
「意思とは、“弱者”の幻想だ。……君たちはよく戦った。だが、もう終わりだ」
その瞬間、空間が“真空破裂”したように歪んだ。
二体の怪人が、まるで空中で引き裂かれるかのように弾け飛び、壁に激突する。
機械音も悲鳴も、沈黙に飲まれていった――。
──激突から数十秒。
カマリナの蹴りを何度も受けたデモナスは、体勢を崩しながらも反射的に距離を取った。口元から黒い液体を垂らし、冷たい電子音声で呻く。
「……裏切り行為。信頼……失墜……粛清、対象──」
「……っはは……! やだ、やだやだ……わたし、なんで今……キックしたの~!? 足が勝手に動いちゃったぁ♡」
カマリナは頭を抱えてふらつきながらも、瞳は焦点が合っていない。だが、そのどちらも、もう“戦士”ではなかった。
総帥は微動だにせず、仮面の下から無言で二体を見下ろす。
その一歩。
――空気が“千切れた”。
気づいた時には、デモナスの拷問器具が全て“ねじ切れて”宙を舞っていた。
「──演算不可能……? 何が……起き……」
次の瞬間、総帥の掌が閃いた。
見えた者はいなかった。
ただ“結果”だけがあった。
ドゥガァンッ!!!
デモナスの巨体が壁ごと押し潰され、首が吹き飛びコンクリートごと粉砕された。
粉塵の中、カマリナが笑いながら後退する。
「ひぇぇっ……! 何それ、チートじゃん!? もうゲームバランス崩壊ってレベルぢゃないよ……?」
必死に空間をねじ曲げ、精神波を放つ彼女。
だが、総帥の足元に空間異常が届く前に、彼女の背後に“もうひとりの彼”がいた。
「え、うそ……さっきまで、あそこにいたのに……」
背後から伸びる掌が、カマリナの頭に軽く触れる。
「もう、歌う必要はない」
その一言で、カマリナの思念波が自壊し、身体が膝から崩れ落ちた。
「バ……カな……わたし、まだセンター張ってないのに……!」
――そのまま、彼女の心臓が静かに停止した。
無音。
廃墟に再び、静寂が戻る。
──そして、総帥はゆっくりと振り返った。
血まみれの地面、そこに横たわる二人。
イツキは左足の切断面を抑え、薄れゆく意識の中で総帥の姿を見上げた。
「……あんた……誰だ……」
「君を導いた者。そして、見届ける者だ」
ラミアもまた、吐血しながら呻く。
「助ける……のか……それとも、処分か……」
総帥は二人に歩み寄り、イツキを右腕に、ラミアを左腕に、優しく抱きかかえた。
その動作はまるで、“壊れた戦士を慈しむ父親”のようだった。
「……君たちは、まだ戦場の何たるかを知らない。力とは、正義とは、支配とは……」
光を背に、静かに言い放つ。
「だから君たちは──弱い」
だがその声に、責める響きはなかった。
それは“次の時代に託す者”の言葉だった。
背後で、デモナスとカマリナの骸が炎に飲まれる。
総帥の身体が、光の歪みに包まれ始めた。
「……連れて行こう。まだ……役割は終わっていない」
音もなく、光の中に三人の姿が消えていく。
ただ残されたのは、破壊された戦場と、沈黙する夜だった。
翌日――。
「……信号が、途絶えた……?」
セイガン新戦隊の捜索部隊が、廃墟と化した最終防衛拠点へと足を踏み入れた。
「ここが……戦場だったとは思えないな」
「熱源ゼロ、活動反応もゼロ……おい、あれを見ろ」
隊員のひとりが崩れた瓦礫の下から引き出したのは、黒く焦げた異形の残骸。
──それは、デモナスの頭部だった。
隣には、カマリナの砕けたマスクと、壊れた脚部が転がっていた。
「……完全に死んでる……ってレベルじゃねぇ……。これ、誰が……?」
誰も答えられなかった。
ただ、“存在ごと削ぎ落とされた”ような、異様な静けさが、現場を支配していた。
その時、背後で誰かが呟いた。
「……神、か。あるいは……それ以上の存在、かもしれないな」
風が吹き、血の香りとともに、何かが終わったことだけが分かった。
ネメシス最終拠点〈黒鋼の咽喉〉は、すでに半壊状態。壁の奥からは蒸気の悲鳴、天井の亀裂からは血のような赤い警報光が漏れている。
「……変化を感じる」
ラミアが息を詰めて声を洩らす。目の前の二体──デモナスとカマリナの身体から、異質な“気配”が膨れ上がっていく。
「第二形態……だと……?」
イツキが眉をひそめる。その言葉が終わる前に、カマリナの指先が空を切った。
──空間がねじれる。
「脳内侵食を開始する」
カマリナの声音が、直接イツキの“思考”へと叩き込まれる。鼓膜を通さず、脳髄に突き刺さるような衝撃だった。
視界が白く染まり、周囲の音が消えた。
『お前に未来はない。戦う意味も、存在の価値も……もう、何もない。楽になれ』
声がイツキの意識の底を這いまわる。
脳内に微細な“バグ”が流れ込み、思考の回路を狂わせていく。全身の筋力が抜け、膝が崩れ落ちた。
「死ね……俺が……死ねばいい……全部……」
その瞳から、光が消えていく。
その隙を逃さず、デモナスがラミアに肉薄した。
「“拷問モード”起動。愉しませてもらおうか」
金属音を立て、デモナスの右腕が変形した。先端が針状に開き、神経刺激素子が露出する。
「っ……!」
ラミアが防御を展開するよりも早く、その針が彼女の脇腹に突き刺さった。
「──ッ、が、ッ……!!」
電磁的な衝撃が、快楽と苦痛を強制的に混線させて神経へ流れ込む。ラミアは口から血を吐き、足をもつれさせながらよろめく。体の自由が奪われ、拘束も解除されない。
「ラミアッ!!」
イツキの絶叫が響くが、それすらも脳内のバグが掻き消していく。
──カマリナの第二形態は、対象の脳に寄生する念波を送り、自死衝動を誘発する。
一方のデモナスは、拷問特化型怪人として進化。神経接続による肉体・精神両面からの責めを可能とした、残虐極まる“人型兵器”だった。
血に濡れた床に倒れたまま、イツキは震える指をこめかみにあてる。
「……楽に、なれるんだよな……」
耳の奥で、誰かの声が甘くささやく。
──そのとき。
「イツキ!! 私は、まだ……生きてる……! あなたは、誰よりも強かった……っ!!」
ラミアの声が、破砕された空間に残響を刻んだ。
その一瞬、イツキの指が止まる。
心の奥に、微かな“ノイズ”が走った。
『誰よりも──強かった』
その言葉が、脳内に響く悪意の波紋にひびを入れた。
だが現実は残酷なままだ。ラミアは痙攣し、イツキの精神は崩壊寸前。
地に伏した二人の前で、デモナスとカマリナは無言のまま、獲物を嬲るための間合いを詰めていた。
──そして、最終決着の時が迫っていた。
鉄骨が崩れ、赤く染まった床がゆっくりと震えていた。
ネメシス最終防衛拠点――〈黒鋼の咽喉〉は、死にかけた巨獣のように呻いていた。警報音はすでに壊れ、代わりに漏電の音と焼けた金属臭が充満している。
その瓦礫の中心に、血まみれの二人の姿があった。
イツキは左足を失い、ラミアは血に染まった腕で壁に寄りかかっていた。呼吸は荒く、身体は限界を超えていた。
その前で、奇妙な笑い声が跳ねる。
「ひゃっは~♡ も~、すごいすごいすご~い! ここまで粘るとか、カマリナちゃん感動しちゃうってば~!」
声の主――カマリナは、鮮やかな色彩の装甲をまとい、まるでステージに立つようにスピンしながら地面を蹴った。
「でもねぇ? アイドルってさ、基本“センター”じゃん? だからぁ……あなたたちはそろそろ、引っ込んでくれるかなあ?」
彼女の指先がぴくりと動いた瞬間、空気が軋み、イツキの頭の奥にざらついた“声”が流れ込む。
「──脳内インストール☆ カマリナちゃんの、じ・さ・つ・し・よ♡プログラム~♪」
「……っ!? またか……!」
イツキは歯を食いしばったが、遅かった。
“思考”が反転する。死を選ぶことが“救い”だと錯覚する幻覚が、静かに、しかし確実に意識を包んでいく。
「生きてる意味……あんのかよ……」
イツキの目がうつろになり、壁に額を打ちつけ始める。血が滲み、足元の床に滴る。
「やだやだやだ~♡ そんな半端なとこでやめないでよ? 足も切ってたよね、もっと、もっとしてよ~!」
カマリナはまるでライブ会場でファンを煽るように、両手を挙げて飛び跳ねていた。
一方その頃――ラミアもまた、地獄の只中にいた。
「……拷問再開といこうか。さあ、今度はどんな反応を見せてくれる?」
デモナスが静かに歩を進める。
手に持った鉤爪の先には、ラミアの眼球から垂れる血糊が絡みついていた。
「この舌……いい音を立てるかな?」
「……やめろ……!」
イツキが叫ぶも、カマリナの思考攻撃で声にならない。
「やだやだ~! 邪魔しないでって言ってるでしょ! これはぁ~、カマリナちゃんの大・事・な・ラストステージなんだからっ♡」
そのときだった。
時空が、ぶわりと泡立つようにねじれた。
「……ん? え、なにこれ……エフェクト演出?」
カマリナが笑いながらステップを止めた。
空間がひび割れ、黒い稲妻のような裂け目が現れる。
そこから、重厚な仮面の男が姿を現す。
──ネメシス総帥。
「まだ、死なせるわけにはいかない」
彼の声は、すべてを凍らせるような冷たさを帯びていた。
カマリナの表情が一瞬止まり、眉がぴくりと動く。
「えっ……なに? マネージャーさん登場? え、ちょっと想定外じゃん~」
だが、総帥は何も答えず、イツキとラミアを見下ろしていた。
その仮面の奥の瞳は、まるで“未来”を見通すかのように静かに光っていた――。
──それは、支配と崩壊のはざまで起きた静かな“神の介入”だった。
蒸気の吹き出す最終防衛拠点の地下ホールに、ゆっくりと黒い靄が降り立つ。
その中心に現れたのは、一切の威圧を超えた存在――ネメシス総帥。
仮面越しの視線が、目の前の二体の怪人に向けられる。
「……あっは~! なんか出たよ! え、ラスボスって感じ? 超アガる~♡」
カマリナはスキップするように笑い、デモナスは機械的に武器の接続音を鳴らした。
「この距離……接敵まで2秒。拷問開始領域に誘導可能」
だが、そのとき総帥は――ただ、両手を広げた。
「攻撃してみろ。存分に」
その無防備な姿に、デモナスが躊躇なく動いた。
腕部の拷問器具が変形し、無数の神経穿孔針が突き出る。
「対象・貫通……開始」
ブシュッ──という金属の突き刺さる音が、直後に“鈍い歪曲音”に変わった。
「……ッ!?」
針は、総帥の身体に当たった瞬間、あり得ぬ方向にぐにゃりと曲がった。まるで、総帥の肉体が“この世の物理法則に従わない存在”であるかのように。
「貫通不能……防壁か? いや……素材異常……」
カマリナが一歩退いた。
「ちょっとちょっと~、やめてよ~! イベント潰し? じゃあこっちが“乗っ取って”あげる!」
彼女の瞳が妖しく輝き、空間に思念波が放たれる。
脳内共鳴操作、思考乗っ取りの発動。
だが──数秒後、カマリナの表情が凍りついた。
「……あ、れ……なに……これ……」
その瞳から光が消え、顔の筋肉が引きつった。
逆に“操られている”のは彼女自身だった。
──バシィンッ!
唐突に、カマリナの蹴りがデモナスの顔面を吹き飛ばす。
「ッ……何を──裏切ったのか……!?」
デモナスが咆哮を上げるが、カマリナは笑いながら答える。
「ふへ……あはは……アイドルは、センターに立たなきゃ……!」
総帥は一歩も動かず、仮面越しに見下ろしたまま、静かに言い放った。
「意思とは、“弱者”の幻想だ。……君たちはよく戦った。だが、もう終わりだ」
その瞬間、空間が“真空破裂”したように歪んだ。
二体の怪人が、まるで空中で引き裂かれるかのように弾け飛び、壁に激突する。
機械音も悲鳴も、沈黙に飲まれていった――。
──激突から数十秒。
カマリナの蹴りを何度も受けたデモナスは、体勢を崩しながらも反射的に距離を取った。口元から黒い液体を垂らし、冷たい電子音声で呻く。
「……裏切り行為。信頼……失墜……粛清、対象──」
「……っはは……! やだ、やだやだ……わたし、なんで今……キックしたの~!? 足が勝手に動いちゃったぁ♡」
カマリナは頭を抱えてふらつきながらも、瞳は焦点が合っていない。だが、そのどちらも、もう“戦士”ではなかった。
総帥は微動だにせず、仮面の下から無言で二体を見下ろす。
その一歩。
――空気が“千切れた”。
気づいた時には、デモナスの拷問器具が全て“ねじ切れて”宙を舞っていた。
「──演算不可能……? 何が……起き……」
次の瞬間、総帥の掌が閃いた。
見えた者はいなかった。
ただ“結果”だけがあった。
ドゥガァンッ!!!
デモナスの巨体が壁ごと押し潰され、首が吹き飛びコンクリートごと粉砕された。
粉塵の中、カマリナが笑いながら後退する。
「ひぇぇっ……! 何それ、チートじゃん!? もうゲームバランス崩壊ってレベルぢゃないよ……?」
必死に空間をねじ曲げ、精神波を放つ彼女。
だが、総帥の足元に空間異常が届く前に、彼女の背後に“もうひとりの彼”がいた。
「え、うそ……さっきまで、あそこにいたのに……」
背後から伸びる掌が、カマリナの頭に軽く触れる。
「もう、歌う必要はない」
その一言で、カマリナの思念波が自壊し、身体が膝から崩れ落ちた。
「バ……カな……わたし、まだセンター張ってないのに……!」
――そのまま、彼女の心臓が静かに停止した。
無音。
廃墟に再び、静寂が戻る。
──そして、総帥はゆっくりと振り返った。
血まみれの地面、そこに横たわる二人。
イツキは左足の切断面を抑え、薄れゆく意識の中で総帥の姿を見上げた。
「……あんた……誰だ……」
「君を導いた者。そして、見届ける者だ」
ラミアもまた、吐血しながら呻く。
「助ける……のか……それとも、処分か……」
総帥は二人に歩み寄り、イツキを右腕に、ラミアを左腕に、優しく抱きかかえた。
その動作はまるで、“壊れた戦士を慈しむ父親”のようだった。
「……君たちは、まだ戦場の何たるかを知らない。力とは、正義とは、支配とは……」
光を背に、静かに言い放つ。
「だから君たちは──弱い」
だがその声に、責める響きはなかった。
それは“次の時代に託す者”の言葉だった。
背後で、デモナスとカマリナの骸が炎に飲まれる。
総帥の身体が、光の歪みに包まれ始めた。
「……連れて行こう。まだ……役割は終わっていない」
音もなく、光の中に三人の姿が消えていく。
ただ残されたのは、破壊された戦場と、沈黙する夜だった。
翌日――。
「……信号が、途絶えた……?」
セイガン新戦隊の捜索部隊が、廃墟と化した最終防衛拠点へと足を踏み入れた。
「ここが……戦場だったとは思えないな」
「熱源ゼロ、活動反応もゼロ……おい、あれを見ろ」
隊員のひとりが崩れた瓦礫の下から引き出したのは、黒く焦げた異形の残骸。
──それは、デモナスの頭部だった。
隣には、カマリナの砕けたマスクと、壊れた脚部が転がっていた。
「……完全に死んでる……ってレベルじゃねぇ……。これ、誰が……?」
誰も答えられなかった。
ただ、“存在ごと削ぎ落とされた”ような、異様な静けさが、現場を支配していた。
その時、背後で誰かが呟いた。
「……神、か。あるいは……それ以上の存在、かもしれないな」
風が吹き、血の香りとともに、何かが終わったことだけが分かった。
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テツみン
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『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
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主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
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「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
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