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【第44話】『崩壊の境界──第二形態の悪夢』
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焦げつく鉄臭と焼けた油のにおいが、廃墟の空気を濁していた。
ネメシス最終拠点〈黒鋼の咽喉〉は、すでに半壊状態。壁の奥からは蒸気の悲鳴、天井の亀裂からは血のような赤い警報光が漏れている。
「……変化を感じる」
ラミアが息を詰めて声を洩らす。目の前の二体──デモナスとカマリナの身体から、異質な“気配”が膨れ上がっていく。
「第二形態……だと……?」
イツキが眉をひそめる。その言葉が終わる前に、カマリナの指先が空を切った。
──空間がねじれる。
「脳内侵食を開始する」
カマリナの声音が、直接イツキの“思考”へと叩き込まれる。鼓膜を通さず、脳髄に突き刺さるような衝撃だった。
視界が白く染まり、周囲の音が消えた。
『お前に未来はない。戦う意味も、存在の価値も……もう、何もない。楽になれ』
声がイツキの意識の底を這いまわる。
脳内に微細な“バグ”が流れ込み、思考の回路を狂わせていく。全身の筋力が抜け、膝が崩れ落ちた。
「死ね……俺が……死ねばいい……全部……」
その瞳から、光が消えていく。
その隙を逃さず、デモナスがラミアに肉薄した。
「“拷問モード”起動。愉しませてもらおうか」
金属音を立て、デモナスの右腕が変形した。先端が針状に開き、神経刺激素子が露出する。
「っ……!」
ラミアが防御を展開するよりも早く、その針が彼女の脇腹に突き刺さった。
「──ッ、が、ッ……!!」
電磁的な衝撃が、快楽と苦痛を強制的に混線させて神経へ流れ込む。ラミアは口から血を吐き、足をもつれさせながらよろめく。体の自由が奪われ、拘束も解除されない。
「ラミアッ!!」
イツキの絶叫が響くが、それすらも脳内のバグが掻き消していく。
──カマリナの第二形態は、対象の脳に寄生する念波を送り、自死衝動を誘発する。
一方のデモナスは、拷問特化型怪人として進化。神経接続による肉体・精神両面からの責めを可能とした、残虐極まる“人型兵器”だった。
血に濡れた床に倒れたまま、イツキは震える指をこめかみにあてる。
「……楽に、なれるんだよな……」
耳の奥で、誰かの声が甘くささやく。
──そのとき。
「イツキ!! 私は、まだ……生きてる……! あなたは、誰よりも強かった……っ!!」
ラミアの声が、破砕された空間に残響を刻んだ。
その一瞬、イツキの指が止まる。
心の奥に、微かな“ノイズ”が走った。
『誰よりも──強かった』
その言葉が、脳内に響く悪意の波紋にひびを入れた。
だが現実は残酷なままだ。ラミアは痙攣し、イツキの精神は崩壊寸前。
地に伏した二人の前で、デモナスとカマリナは無言のまま、獲物を嬲るための間合いを詰めていた。
──そして、最終決着の時が迫っていた。
鉄骨が崩れ、赤く染まった床がゆっくりと震えていた。
ネメシス最終防衛拠点――〈黒鋼の咽喉〉は、死にかけた巨獣のように呻いていた。警報音はすでに壊れ、代わりに漏電の音と焼けた金属臭が充満している。
その瓦礫の中心に、血まみれの二人の姿があった。
イツキは左足を失い、ラミアは血に染まった腕で壁に寄りかかっていた。呼吸は荒く、身体は限界を超えていた。
その前で、奇妙な笑い声が跳ねる。
「ひゃっは~♡ も~、すごいすごいすご~い! ここまで粘るとか、カマリナちゃん感動しちゃうってば~!」
声の主――カマリナは、鮮やかな色彩の装甲をまとい、まるでステージに立つようにスピンしながら地面を蹴った。
「でもねぇ? アイドルってさ、基本“センター”じゃん? だからぁ……あなたたちはそろそろ、引っ込んでくれるかなあ?」
彼女の指先がぴくりと動いた瞬間、空気が軋み、イツキの頭の奥にざらついた“声”が流れ込む。
「──脳内インストール☆ カマリナちゃんの、じ・さ・つ・し・よ♡プログラム~♪」
「……っ!? またか……!」
イツキは歯を食いしばったが、遅かった。
“思考”が反転する。死を選ぶことが“救い”だと錯覚する幻覚が、静かに、しかし確実に意識を包んでいく。
「生きてる意味……あんのかよ……」
イツキの目がうつろになり、壁に額を打ちつけ始める。血が滲み、足元の床に滴る。
「やだやだやだ~♡ そんな半端なとこでやめないでよ? 足も切ってたよね、もっと、もっとしてよ~!」
カマリナはまるでライブ会場でファンを煽るように、両手を挙げて飛び跳ねていた。
一方その頃――ラミアもまた、地獄の只中にいた。
「……拷問再開といこうか。さあ、今度はどんな反応を見せてくれる?」
デモナスが静かに歩を進める。
手に持った鉤爪の先には、ラミアの眼球から垂れる血糊が絡みついていた。
「この舌……いい音を立てるかな?」
「……やめろ……!」
イツキが叫ぶも、カマリナの思考攻撃で声にならない。
「やだやだ~! 邪魔しないでって言ってるでしょ! これはぁ~、カマリナちゃんの大・事・な・ラストステージなんだからっ♡」
そのときだった。
時空が、ぶわりと泡立つようにねじれた。
「……ん? え、なにこれ……エフェクト演出?」
カマリナが笑いながらステップを止めた。
空間がひび割れ、黒い稲妻のような裂け目が現れる。
そこから、重厚な仮面の男が姿を現す。
──ネメシス総帥。
「まだ、死なせるわけにはいかない」
彼の声は、すべてを凍らせるような冷たさを帯びていた。
カマリナの表情が一瞬止まり、眉がぴくりと動く。
「えっ……なに? マネージャーさん登場? え、ちょっと想定外じゃん~」
だが、総帥は何も答えず、イツキとラミアを見下ろしていた。
その仮面の奥の瞳は、まるで“未来”を見通すかのように静かに光っていた――。
──それは、支配と崩壊のはざまで起きた静かな“神の介入”だった。
蒸気の吹き出す最終防衛拠点の地下ホールに、ゆっくりと黒い靄が降り立つ。
その中心に現れたのは、一切の威圧を超えた存在――ネメシス総帥。
仮面越しの視線が、目の前の二体の怪人に向けられる。
「……あっは~! なんか出たよ! え、ラスボスって感じ? 超アガる~♡」
カマリナはスキップするように笑い、デモナスは機械的に武器の接続音を鳴らした。
「この距離……接敵まで2秒。拷問開始領域に誘導可能」
だが、そのとき総帥は――ただ、両手を広げた。
「攻撃してみろ。存分に」
その無防備な姿に、デモナスが躊躇なく動いた。
腕部の拷問器具が変形し、無数の神経穿孔針が突き出る。
「対象・貫通……開始」
ブシュッ──という金属の突き刺さる音が、直後に“鈍い歪曲音”に変わった。
「……ッ!?」
針は、総帥の身体に当たった瞬間、あり得ぬ方向にぐにゃりと曲がった。まるで、総帥の肉体が“この世の物理法則に従わない存在”であるかのように。
「貫通不能……防壁か? いや……素材異常……」
カマリナが一歩退いた。
「ちょっとちょっと~、やめてよ~! イベント潰し? じゃあこっちが“乗っ取って”あげる!」
彼女の瞳が妖しく輝き、空間に思念波が放たれる。
脳内共鳴操作、思考乗っ取りの発動。
だが──数秒後、カマリナの表情が凍りついた。
「……あ、れ……なに……これ……」
その瞳から光が消え、顔の筋肉が引きつった。
逆に“操られている”のは彼女自身だった。
──バシィンッ!
唐突に、カマリナの蹴りがデモナスの顔面を吹き飛ばす。
「ッ……何を──裏切ったのか……!?」
デモナスが咆哮を上げるが、カマリナは笑いながら答える。
「ふへ……あはは……アイドルは、センターに立たなきゃ……!」
総帥は一歩も動かず、仮面越しに見下ろしたまま、静かに言い放った。
「意思とは、“弱者”の幻想だ。……君たちはよく戦った。だが、もう終わりだ」
その瞬間、空間が“真空破裂”したように歪んだ。
二体の怪人が、まるで空中で引き裂かれるかのように弾け飛び、壁に激突する。
機械音も悲鳴も、沈黙に飲まれていった――。
──激突から数十秒。
カマリナの蹴りを何度も受けたデモナスは、体勢を崩しながらも反射的に距離を取った。口元から黒い液体を垂らし、冷たい電子音声で呻く。
「……裏切り行為。信頼……失墜……粛清、対象──」
「……っはは……! やだ、やだやだ……わたし、なんで今……キックしたの~!? 足が勝手に動いちゃったぁ♡」
カマリナは頭を抱えてふらつきながらも、瞳は焦点が合っていない。だが、そのどちらも、もう“戦士”ではなかった。
総帥は微動だにせず、仮面の下から無言で二体を見下ろす。
その一歩。
――空気が“千切れた”。
気づいた時には、デモナスの拷問器具が全て“ねじ切れて”宙を舞っていた。
「──演算不可能……? 何が……起き……」
次の瞬間、総帥の掌が閃いた。
見えた者はいなかった。
ただ“結果”だけがあった。
ドゥガァンッ!!!
デモナスの巨体が壁ごと押し潰され、首が吹き飛びコンクリートごと粉砕された。
粉塵の中、カマリナが笑いながら後退する。
「ひぇぇっ……! 何それ、チートじゃん!? もうゲームバランス崩壊ってレベルぢゃないよ……?」
必死に空間をねじ曲げ、精神波を放つ彼女。
だが、総帥の足元に空間異常が届く前に、彼女の背後に“もうひとりの彼”がいた。
「え、うそ……さっきまで、あそこにいたのに……」
背後から伸びる掌が、カマリナの頭に軽く触れる。
「もう、歌う必要はない」
その一言で、カマリナの思念波が自壊し、身体が膝から崩れ落ちた。
「バ……カな……わたし、まだセンター張ってないのに……!」
――そのまま、彼女の心臓が静かに停止した。
無音。
廃墟に再び、静寂が戻る。
──そして、総帥はゆっくりと振り返った。
血まみれの地面、そこに横たわる二人。
イツキは左足の切断面を抑え、薄れゆく意識の中で総帥の姿を見上げた。
「……あんた……誰だ……」
「君を導いた者。そして、見届ける者だ」
ラミアもまた、吐血しながら呻く。
「助ける……のか……それとも、処分か……」
総帥は二人に歩み寄り、イツキを右腕に、ラミアを左腕に、優しく抱きかかえた。
その動作はまるで、“壊れた戦士を慈しむ父親”のようだった。
「……君たちは、まだ戦場の何たるかを知らない。力とは、正義とは、支配とは……」
光を背に、静かに言い放つ。
「だから君たちは──弱い」
だがその声に、責める響きはなかった。
それは“次の時代に託す者”の言葉だった。
背後で、デモナスとカマリナの骸が炎に飲まれる。
総帥の身体が、光の歪みに包まれ始めた。
「……連れて行こう。まだ……役割は終わっていない」
音もなく、光の中に三人の姿が消えていく。
ただ残されたのは、破壊された戦場と、沈黙する夜だった。
翌日――。
「……信号が、途絶えた……?」
セイガン新戦隊の捜索部隊が、廃墟と化した最終防衛拠点へと足を踏み入れた。
「ここが……戦場だったとは思えないな」
「熱源ゼロ、活動反応もゼロ……おい、あれを見ろ」
隊員のひとりが崩れた瓦礫の下から引き出したのは、黒く焦げた異形の残骸。
──それは、デモナスの頭部だった。
隣には、カマリナの砕けたマスクと、壊れた脚部が転がっていた。
「……完全に死んでる……ってレベルじゃねぇ……。これ、誰が……?」
誰も答えられなかった。
ただ、“存在ごと削ぎ落とされた”ような、異様な静けさが、現場を支配していた。
その時、背後で誰かが呟いた。
「……神、か。あるいは……それ以上の存在、かもしれないな」
風が吹き、血の香りとともに、何かが終わったことだけが分かった。
ネメシス最終拠点〈黒鋼の咽喉〉は、すでに半壊状態。壁の奥からは蒸気の悲鳴、天井の亀裂からは血のような赤い警報光が漏れている。
「……変化を感じる」
ラミアが息を詰めて声を洩らす。目の前の二体──デモナスとカマリナの身体から、異質な“気配”が膨れ上がっていく。
「第二形態……だと……?」
イツキが眉をひそめる。その言葉が終わる前に、カマリナの指先が空を切った。
──空間がねじれる。
「脳内侵食を開始する」
カマリナの声音が、直接イツキの“思考”へと叩き込まれる。鼓膜を通さず、脳髄に突き刺さるような衝撃だった。
視界が白く染まり、周囲の音が消えた。
『お前に未来はない。戦う意味も、存在の価値も……もう、何もない。楽になれ』
声がイツキの意識の底を這いまわる。
脳内に微細な“バグ”が流れ込み、思考の回路を狂わせていく。全身の筋力が抜け、膝が崩れ落ちた。
「死ね……俺が……死ねばいい……全部……」
その瞳から、光が消えていく。
その隙を逃さず、デモナスがラミアに肉薄した。
「“拷問モード”起動。愉しませてもらおうか」
金属音を立て、デモナスの右腕が変形した。先端が針状に開き、神経刺激素子が露出する。
「っ……!」
ラミアが防御を展開するよりも早く、その針が彼女の脇腹に突き刺さった。
「──ッ、が、ッ……!!」
電磁的な衝撃が、快楽と苦痛を強制的に混線させて神経へ流れ込む。ラミアは口から血を吐き、足をもつれさせながらよろめく。体の自由が奪われ、拘束も解除されない。
「ラミアッ!!」
イツキの絶叫が響くが、それすらも脳内のバグが掻き消していく。
──カマリナの第二形態は、対象の脳に寄生する念波を送り、自死衝動を誘発する。
一方のデモナスは、拷問特化型怪人として進化。神経接続による肉体・精神両面からの責めを可能とした、残虐極まる“人型兵器”だった。
血に濡れた床に倒れたまま、イツキは震える指をこめかみにあてる。
「……楽に、なれるんだよな……」
耳の奥で、誰かの声が甘くささやく。
──そのとき。
「イツキ!! 私は、まだ……生きてる……! あなたは、誰よりも強かった……っ!!」
ラミアの声が、破砕された空間に残響を刻んだ。
その一瞬、イツキの指が止まる。
心の奥に、微かな“ノイズ”が走った。
『誰よりも──強かった』
その言葉が、脳内に響く悪意の波紋にひびを入れた。
だが現実は残酷なままだ。ラミアは痙攣し、イツキの精神は崩壊寸前。
地に伏した二人の前で、デモナスとカマリナは無言のまま、獲物を嬲るための間合いを詰めていた。
──そして、最終決着の時が迫っていた。
鉄骨が崩れ、赤く染まった床がゆっくりと震えていた。
ネメシス最終防衛拠点――〈黒鋼の咽喉〉は、死にかけた巨獣のように呻いていた。警報音はすでに壊れ、代わりに漏電の音と焼けた金属臭が充満している。
その瓦礫の中心に、血まみれの二人の姿があった。
イツキは左足を失い、ラミアは血に染まった腕で壁に寄りかかっていた。呼吸は荒く、身体は限界を超えていた。
その前で、奇妙な笑い声が跳ねる。
「ひゃっは~♡ も~、すごいすごいすご~い! ここまで粘るとか、カマリナちゃん感動しちゃうってば~!」
声の主――カマリナは、鮮やかな色彩の装甲をまとい、まるでステージに立つようにスピンしながら地面を蹴った。
「でもねぇ? アイドルってさ、基本“センター”じゃん? だからぁ……あなたたちはそろそろ、引っ込んでくれるかなあ?」
彼女の指先がぴくりと動いた瞬間、空気が軋み、イツキの頭の奥にざらついた“声”が流れ込む。
「──脳内インストール☆ カマリナちゃんの、じ・さ・つ・し・よ♡プログラム~♪」
「……っ!? またか……!」
イツキは歯を食いしばったが、遅かった。
“思考”が反転する。死を選ぶことが“救い”だと錯覚する幻覚が、静かに、しかし確実に意識を包んでいく。
「生きてる意味……あんのかよ……」
イツキの目がうつろになり、壁に額を打ちつけ始める。血が滲み、足元の床に滴る。
「やだやだやだ~♡ そんな半端なとこでやめないでよ? 足も切ってたよね、もっと、もっとしてよ~!」
カマリナはまるでライブ会場でファンを煽るように、両手を挙げて飛び跳ねていた。
一方その頃――ラミアもまた、地獄の只中にいた。
「……拷問再開といこうか。さあ、今度はどんな反応を見せてくれる?」
デモナスが静かに歩を進める。
手に持った鉤爪の先には、ラミアの眼球から垂れる血糊が絡みついていた。
「この舌……いい音を立てるかな?」
「……やめろ……!」
イツキが叫ぶも、カマリナの思考攻撃で声にならない。
「やだやだ~! 邪魔しないでって言ってるでしょ! これはぁ~、カマリナちゃんの大・事・な・ラストステージなんだからっ♡」
そのときだった。
時空が、ぶわりと泡立つようにねじれた。
「……ん? え、なにこれ……エフェクト演出?」
カマリナが笑いながらステップを止めた。
空間がひび割れ、黒い稲妻のような裂け目が現れる。
そこから、重厚な仮面の男が姿を現す。
──ネメシス総帥。
「まだ、死なせるわけにはいかない」
彼の声は、すべてを凍らせるような冷たさを帯びていた。
カマリナの表情が一瞬止まり、眉がぴくりと動く。
「えっ……なに? マネージャーさん登場? え、ちょっと想定外じゃん~」
だが、総帥は何も答えず、イツキとラミアを見下ろしていた。
その仮面の奥の瞳は、まるで“未来”を見通すかのように静かに光っていた――。
──それは、支配と崩壊のはざまで起きた静かな“神の介入”だった。
蒸気の吹き出す最終防衛拠点の地下ホールに、ゆっくりと黒い靄が降り立つ。
その中心に現れたのは、一切の威圧を超えた存在――ネメシス総帥。
仮面越しの視線が、目の前の二体の怪人に向けられる。
「……あっは~! なんか出たよ! え、ラスボスって感じ? 超アガる~♡」
カマリナはスキップするように笑い、デモナスは機械的に武器の接続音を鳴らした。
「この距離……接敵まで2秒。拷問開始領域に誘導可能」
だが、そのとき総帥は――ただ、両手を広げた。
「攻撃してみろ。存分に」
その無防備な姿に、デモナスが躊躇なく動いた。
腕部の拷問器具が変形し、無数の神経穿孔針が突き出る。
「対象・貫通……開始」
ブシュッ──という金属の突き刺さる音が、直後に“鈍い歪曲音”に変わった。
「……ッ!?」
針は、総帥の身体に当たった瞬間、あり得ぬ方向にぐにゃりと曲がった。まるで、総帥の肉体が“この世の物理法則に従わない存在”であるかのように。
「貫通不能……防壁か? いや……素材異常……」
カマリナが一歩退いた。
「ちょっとちょっと~、やめてよ~! イベント潰し? じゃあこっちが“乗っ取って”あげる!」
彼女の瞳が妖しく輝き、空間に思念波が放たれる。
脳内共鳴操作、思考乗っ取りの発動。
だが──数秒後、カマリナの表情が凍りついた。
「……あ、れ……なに……これ……」
その瞳から光が消え、顔の筋肉が引きつった。
逆に“操られている”のは彼女自身だった。
──バシィンッ!
唐突に、カマリナの蹴りがデモナスの顔面を吹き飛ばす。
「ッ……何を──裏切ったのか……!?」
デモナスが咆哮を上げるが、カマリナは笑いながら答える。
「ふへ……あはは……アイドルは、センターに立たなきゃ……!」
総帥は一歩も動かず、仮面越しに見下ろしたまま、静かに言い放った。
「意思とは、“弱者”の幻想だ。……君たちはよく戦った。だが、もう終わりだ」
その瞬間、空間が“真空破裂”したように歪んだ。
二体の怪人が、まるで空中で引き裂かれるかのように弾け飛び、壁に激突する。
機械音も悲鳴も、沈黙に飲まれていった――。
──激突から数十秒。
カマリナの蹴りを何度も受けたデモナスは、体勢を崩しながらも反射的に距離を取った。口元から黒い液体を垂らし、冷たい電子音声で呻く。
「……裏切り行為。信頼……失墜……粛清、対象──」
「……っはは……! やだ、やだやだ……わたし、なんで今……キックしたの~!? 足が勝手に動いちゃったぁ♡」
カマリナは頭を抱えてふらつきながらも、瞳は焦点が合っていない。だが、そのどちらも、もう“戦士”ではなかった。
総帥は微動だにせず、仮面の下から無言で二体を見下ろす。
その一歩。
――空気が“千切れた”。
気づいた時には、デモナスの拷問器具が全て“ねじ切れて”宙を舞っていた。
「──演算不可能……? 何が……起き……」
次の瞬間、総帥の掌が閃いた。
見えた者はいなかった。
ただ“結果”だけがあった。
ドゥガァンッ!!!
デモナスの巨体が壁ごと押し潰され、首が吹き飛びコンクリートごと粉砕された。
粉塵の中、カマリナが笑いながら後退する。
「ひぇぇっ……! 何それ、チートじゃん!? もうゲームバランス崩壊ってレベルぢゃないよ……?」
必死に空間をねじ曲げ、精神波を放つ彼女。
だが、総帥の足元に空間異常が届く前に、彼女の背後に“もうひとりの彼”がいた。
「え、うそ……さっきまで、あそこにいたのに……」
背後から伸びる掌が、カマリナの頭に軽く触れる。
「もう、歌う必要はない」
その一言で、カマリナの思念波が自壊し、身体が膝から崩れ落ちた。
「バ……カな……わたし、まだセンター張ってないのに……!」
――そのまま、彼女の心臓が静かに停止した。
無音。
廃墟に再び、静寂が戻る。
──そして、総帥はゆっくりと振り返った。
血まみれの地面、そこに横たわる二人。
イツキは左足の切断面を抑え、薄れゆく意識の中で総帥の姿を見上げた。
「……あんた……誰だ……」
「君を導いた者。そして、見届ける者だ」
ラミアもまた、吐血しながら呻く。
「助ける……のか……それとも、処分か……」
総帥は二人に歩み寄り、イツキを右腕に、ラミアを左腕に、優しく抱きかかえた。
その動作はまるで、“壊れた戦士を慈しむ父親”のようだった。
「……君たちは、まだ戦場の何たるかを知らない。力とは、正義とは、支配とは……」
光を背に、静かに言い放つ。
「だから君たちは──弱い」
だがその声に、責める響きはなかった。
それは“次の時代に託す者”の言葉だった。
背後で、デモナスとカマリナの骸が炎に飲まれる。
総帥の身体が、光の歪みに包まれ始めた。
「……連れて行こう。まだ……役割は終わっていない」
音もなく、光の中に三人の姿が消えていく。
ただ残されたのは、破壊された戦場と、沈黙する夜だった。
翌日――。
「……信号が、途絶えた……?」
セイガン新戦隊の捜索部隊が、廃墟と化した最終防衛拠点へと足を踏み入れた。
「ここが……戦場だったとは思えないな」
「熱源ゼロ、活動反応もゼロ……おい、あれを見ろ」
隊員のひとりが崩れた瓦礫の下から引き出したのは、黒く焦げた異形の残骸。
──それは、デモナスの頭部だった。
隣には、カマリナの砕けたマスクと、壊れた脚部が転がっていた。
「……完全に死んでる……ってレベルじゃねぇ……。これ、誰が……?」
誰も答えられなかった。
ただ、“存在ごと削ぎ落とされた”ような、異様な静けさが、現場を支配していた。
その時、背後で誰かが呟いた。
「……神、か。あるいは……それ以上の存在、かもしれないな」
風が吹き、血の香りとともに、何かが終わったことだけが分かった。
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「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
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