完結『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』

カトラス

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【第44話】『崩壊の境界──第二形態の悪夢』

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 焦げつく鉄臭と焼けた油のにおいが、廃墟の空気を濁していた。
 ネメシス最終拠点〈黒鋼の咽喉〉は、すでに半壊状態。壁の奥からは蒸気の悲鳴、天井の亀裂からは血のような赤い警報光が漏れている。

「……変化を感じる」
 ラミアが息を詰めて声を洩らす。目の前の二体──デモナスとカマリナの身体から、異質な“気配”が膨れ上がっていく。

「第二形態……だと……?」
 イツキが眉をひそめる。その言葉が終わる前に、カマリナの指先が空を切った。

 ──空間がねじれる。

「脳内侵食を開始する」
 カマリナの声音が、直接イツキの“思考”へと叩き込まれる。鼓膜を通さず、脳髄に突き刺さるような衝撃だった。

 視界が白く染まり、周囲の音が消えた。

『お前に未来はない。戦う意味も、存在の価値も……もう、何もない。楽になれ』

 声がイツキの意識の底を這いまわる。
 脳内に微細な“バグ”が流れ込み、思考の回路を狂わせていく。全身の筋力が抜け、膝が崩れ落ちた。

「死ね……俺が……死ねばいい……全部……」
 その瞳から、光が消えていく。

 その隙を逃さず、デモナスがラミアに肉薄した。

「“拷問モード”起動。愉しませてもらおうか」

 金属音を立て、デモナスの右腕が変形した。先端が針状に開き、神経刺激素子が露出する。

「っ……!」

 ラミアが防御を展開するよりも早く、その針が彼女の脇腹に突き刺さった。

「──ッ、が、ッ……!!」

 電磁的な衝撃が、快楽と苦痛を強制的に混線させて神経へ流れ込む。ラミアは口から血を吐き、足をもつれさせながらよろめく。体の自由が奪われ、拘束も解除されない。

「ラミアッ!!」

 イツキの絶叫が響くが、それすらも脳内のバグが掻き消していく。

 ──カマリナの第二形態は、対象の脳に寄生する念波を送り、自死衝動を誘発する。
 一方のデモナスは、拷問特化型怪人として進化。神経接続による肉体・精神両面からの責めを可能とした、残虐極まる“人型兵器”だった。

 血に濡れた床に倒れたまま、イツキは震える指をこめかみにあてる。

「……楽に、なれるんだよな……」

 耳の奥で、誰かの声が甘くささやく。

 ──そのとき。

「イツキ!! 私は、まだ……生きてる……! あなたは、誰よりも強かった……っ!!」

 ラミアの声が、破砕された空間に残響を刻んだ。

 その一瞬、イツキの指が止まる。

 心の奥に、微かな“ノイズ”が走った。

『誰よりも──強かった』

 その言葉が、脳内に響く悪意の波紋にひびを入れた。

 だが現実は残酷なままだ。ラミアは痙攣し、イツキの精神は崩壊寸前。

 地に伏した二人の前で、デモナスとカマリナは無言のまま、獲物を嬲るための間合いを詰めていた。

 ──そして、最終決着の時が迫っていた。

 鉄骨が崩れ、赤く染まった床がゆっくりと震えていた。

 ネメシス最終防衛拠点――〈黒鋼の咽喉〉は、死にかけた巨獣のように呻いていた。警報音はすでに壊れ、代わりに漏電の音と焼けた金属臭が充満している。

 その瓦礫の中心に、血まみれの二人の姿があった。

 イツキは左足を失い、ラミアは血に染まった腕で壁に寄りかかっていた。呼吸は荒く、身体は限界を超えていた。

 その前で、奇妙な笑い声が跳ねる。

「ひゃっは~♡ も~、すごいすごいすご~い! ここまで粘るとか、カマリナちゃん感動しちゃうってば~!」

 声の主――カマリナは、鮮やかな色彩の装甲をまとい、まるでステージに立つようにスピンしながら地面を蹴った。

「でもねぇ? アイドルってさ、基本“センター”じゃん? だからぁ……あなたたちはそろそろ、引っ込んでくれるかなあ?」

 彼女の指先がぴくりと動いた瞬間、空気が軋み、イツキの頭の奥にざらついた“声”が流れ込む。

「──脳内インストール☆ カマリナちゃんの、じ・さ・つ・し・よ♡プログラム~♪」

「……っ!? またか……!」

 イツキは歯を食いしばったが、遅かった。

 “思考”が反転する。死を選ぶことが“救い”だと錯覚する幻覚が、静かに、しかし確実に意識を包んでいく。

「生きてる意味……あんのかよ……」
 イツキの目がうつろになり、壁に額を打ちつけ始める。血が滲み、足元の床に滴る。

「やだやだやだ~♡ そんな半端なとこでやめないでよ? 足も切ってたよね、もっと、もっとしてよ~!」

 カマリナはまるでライブ会場でファンを煽るように、両手を挙げて飛び跳ねていた。

 一方その頃――ラミアもまた、地獄の只中にいた。

「……拷問再開といこうか。さあ、今度はどんな反応を見せてくれる?」

 デモナスが静かに歩を進める。
 手に持った鉤爪の先には、ラミアの眼球から垂れる血糊が絡みついていた。

「この舌……いい音を立てるかな?」

「……やめろ……!」

 イツキが叫ぶも、カマリナの思考攻撃で声にならない。

「やだやだ~! 邪魔しないでって言ってるでしょ! これはぁ~、カマリナちゃんの大・事・な・ラストステージなんだからっ♡」

 そのときだった。

 時空が、ぶわりと泡立つようにねじれた。

「……ん? え、なにこれ……エフェクト演出?」

 カマリナが笑いながらステップを止めた。

 空間がひび割れ、黒い稲妻のような裂け目が現れる。
 そこから、重厚な仮面の男が姿を現す。

 ──ネメシス総帥。

「まだ、死なせるわけにはいかない」

 彼の声は、すべてを凍らせるような冷たさを帯びていた。
 カマリナの表情が一瞬止まり、眉がぴくりと動く。

「えっ……なに? マネージャーさん登場? え、ちょっと想定外じゃん~」

 だが、総帥は何も答えず、イツキとラミアを見下ろしていた。
 その仮面の奥の瞳は、まるで“未来”を見通すかのように静かに光っていた――。

──それは、支配と崩壊のはざまで起きた静かな“神の介入”だった。

 蒸気の吹き出す最終防衛拠点の地下ホールに、ゆっくりと黒い靄が降り立つ。
 その中心に現れたのは、一切の威圧を超えた存在――ネメシス総帥。

 仮面越しの視線が、目の前の二体の怪人に向けられる。

「……あっは~! なんか出たよ! え、ラスボスって感じ? 超アガる~♡」

 カマリナはスキップするように笑い、デモナスは機械的に武器の接続音を鳴らした。

「この距離……接敵まで2秒。拷問開始領域に誘導可能」

 だが、そのとき総帥は――ただ、両手を広げた。

「攻撃してみろ。存分に」

 その無防備な姿に、デモナスが躊躇なく動いた。
 腕部の拷問器具が変形し、無数の神経穿孔針が突き出る。

「対象・貫通……開始」

 ブシュッ──という金属の突き刺さる音が、直後に“鈍い歪曲音”に変わった。

「……ッ!?」

 針は、総帥の身体に当たった瞬間、あり得ぬ方向にぐにゃりと曲がった。まるで、総帥の肉体が“この世の物理法則に従わない存在”であるかのように。

「貫通不能……防壁か? いや……素材異常……」

 カマリナが一歩退いた。

「ちょっとちょっと~、やめてよ~! イベント潰し? じゃあこっちが“乗っ取って”あげる!」

 彼女の瞳が妖しく輝き、空間に思念波が放たれる。
 脳内共鳴操作、思考乗っ取りの発動。

 だが──数秒後、カマリナの表情が凍りついた。

「……あ、れ……なに……これ……」

 その瞳から光が消え、顔の筋肉が引きつった。
 逆に“操られている”のは彼女自身だった。

 ──バシィンッ!

 唐突に、カマリナの蹴りがデモナスの顔面を吹き飛ばす。

「ッ……何を──裏切ったのか……!?」
 デモナスが咆哮を上げるが、カマリナは笑いながら答える。

「ふへ……あはは……アイドルは、センターに立たなきゃ……!」

 総帥は一歩も動かず、仮面越しに見下ろしたまま、静かに言い放った。

「意思とは、“弱者”の幻想だ。……君たちはよく戦った。だが、もう終わりだ」

 その瞬間、空間が“真空破裂”したように歪んだ。

 二体の怪人が、まるで空中で引き裂かれるかのように弾け飛び、壁に激突する。
 機械音も悲鳴も、沈黙に飲まれていった――。

 ──激突から数十秒。

 カマリナの蹴りを何度も受けたデモナスは、体勢を崩しながらも反射的に距離を取った。口元から黒い液体を垂らし、冷たい電子音声で呻く。

「……裏切り行為。信頼……失墜……粛清、対象──」

「……っはは……! やだ、やだやだ……わたし、なんで今……キックしたの~!? 足が勝手に動いちゃったぁ♡」

 カマリナは頭を抱えてふらつきながらも、瞳は焦点が合っていない。だが、そのどちらも、もう“戦士”ではなかった。

 総帥は微動だにせず、仮面の下から無言で二体を見下ろす。
 その一歩。

 ――空気が“千切れた”。

 気づいた時には、デモナスの拷問器具が全て“ねじ切れて”宙を舞っていた。

「──演算不可能……? 何が……起き……」

 次の瞬間、総帥の掌が閃いた。

 見えた者はいなかった。
 ただ“結果”だけがあった。

 ドゥガァンッ!!!

 デモナスの巨体が壁ごと押し潰され、首が吹き飛びコンクリートごと粉砕された。

 粉塵の中、カマリナが笑いながら後退する。

「ひぇぇっ……! 何それ、チートじゃん!? もうゲームバランス崩壊ってレベルぢゃないよ……?」

 必死に空間をねじ曲げ、精神波を放つ彼女。
 だが、総帥の足元に空間異常が届く前に、彼女の背後に“もうひとりの彼”がいた。

「え、うそ……さっきまで、あそこにいたのに……」

 背後から伸びる掌が、カマリナの頭に軽く触れる。

「もう、歌う必要はない」

 その一言で、カマリナの思念波が自壊し、身体が膝から崩れ落ちた。

「バ……カな……わたし、まだセンター張ってないのに……!」

 ――そのまま、彼女の心臓が静かに停止した。

 無音。

 廃墟に再び、静寂が戻る。

 ──そして、総帥はゆっくりと振り返った。

 血まみれの地面、そこに横たわる二人。

 イツキは左足の切断面を抑え、薄れゆく意識の中で総帥の姿を見上げた。

「……あんた……誰だ……」

「君を導いた者。そして、見届ける者だ」

 ラミアもまた、吐血しながら呻く。

「助ける……のか……それとも、処分か……」

 総帥は二人に歩み寄り、イツキを右腕に、ラミアを左腕に、優しく抱きかかえた。
 その動作はまるで、“壊れた戦士を慈しむ父親”のようだった。

「……君たちは、まだ戦場の何たるかを知らない。力とは、正義とは、支配とは……」

 光を背に、静かに言い放つ。

「だから君たちは──弱い」

 だがその声に、責める響きはなかった。
 それは“次の時代に託す者”の言葉だった。

 背後で、デモナスとカマリナの骸が炎に飲まれる。

 総帥の身体が、光の歪みに包まれ始めた。

「……連れて行こう。まだ……役割は終わっていない」

 音もなく、光の中に三人の姿が消えていく。

 ただ残されたのは、破壊された戦場と、沈黙する夜だった。


 翌日――。

「……信号が、途絶えた……?」
 セイガン新戦隊の捜索部隊が、廃墟と化した最終防衛拠点へと足を踏み入れた。

「ここが……戦場だったとは思えないな」
「熱源ゼロ、活動反応もゼロ……おい、あれを見ろ」

 隊員のひとりが崩れた瓦礫の下から引き出したのは、黒く焦げた異形の残骸。

 ──それは、デモナスの頭部だった。

 隣には、カマリナの砕けたマスクと、壊れた脚部が転がっていた。

「……完全に死んでる……ってレベルじゃねぇ……。これ、誰が……?」

 誰も答えられなかった。

 ただ、“存在ごと削ぎ落とされた”ような、異様な静けさが、現場を支配していた。

 その時、背後で誰かが呟いた。

「……神、か。あるいは……それ以上の存在、かもしれないな」

 風が吹き、血の香りとともに、何かが終わったことだけが分かった。

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